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再会
111話:悲しき再会
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仮面の男は一切抵抗しなかった。
その下から現れた素顔は、血に塗れていても美しく高貴で、伏せられた長い睫の細部に至ってまでも、見るものを魅了する存在感があった。
美園は剥ぎ取った仮面を持ったまま、小さく喉を鳴らす。
もしかして、という思いが確信に変わった瞬間だった。
マツムラもその顔を見てうめき声を漏らす。
「ああ…なんてことだ。アンドレ……」
アンドレ……?
違う。彼はアンドレ国王ではない。
瞳に絶望の色を浮かべた美園は、真っすぐに男を見た。
つかさも勇治も言葉を失っていた。
毎朝校門で目にする爽やかな笑顔のあの男が、なぜ今こんなところで血だらけになっているのだろう。
美園は絶望的な思いで、慣れ親しんだ男の名を呼んだ。
「城島先輩……」
事態をよく飲み込めていない元樹に栄子が耳打ちをする。
そしてトワは震え上がりそうになる自分の体を理性で押しとどめながら、仮面の下の顔を見た。
薄れていく記憶の中に残っているそれは、まだもっと幼い少年のものだが、けれどどうしてだか分かる。
間違いなく彼は自分の大切な人だったんだと。
「お兄様?」
トワの声に反応してほんの少し瞳に力を戻した男は、伏せていた顔を上げてトワを見た。
もう間違いはなかった。目の前にいる男は、美園のよく知る城島九音であると同時に、トワの兄、クオン王子でもあるのだと。
「信じられん。まさか本当に貴様だったとは」
マツムラは声に喜色を滲ませて高笑いをする。
トワは目に涙を浮かべて兄に縋りよる。
「お兄様、クオンお兄様、どうしてこんな……。今までどこにいたんだよ、何してたんだよ。僕はお兄様がもう死んだと思っていたんだよ」
「目を覚ませトワ」
トワの思いを切り捨てるように、マツムラが言う。
「国を捨て反逆者になり、祖国を、弟を苦しめる。そんな人間が兄のはずはなかろう」
「反逆者はお前だ!」
どこにそんな力が残っていたのだろう。
腕から血を流し両腕をユグドリア兵に押さえつけられながらも、必死にマツムラに飛びかかろうとする城島。
鬼気迫るその姿を見て、美園は小さく息をのむ。
「国王を殺し、王妃を殺し、トワを奪い、あげくには国民までをもお前の欲望の犠牲にするつもりか!!」
「何をとち狂った事を。妄想もここまでくると病気だな」
「なんだと!」
城島は掠れ始めた目を必死に見開き、憎き相手を睨みつけた。
マツムラは城島のその視線を嘲笑とともに受け止め、冷徹な声でトワに問いかける。
「トワ王子。この男はこんな事を言っておる。それは真実なのか? あの日、王子も同じ船に乗っていたろう。思い出すんだ。本当に私がアンドレとサチに手をかけたのか」
「僕は……」
トワの呼吸は荒くなる。
兄を信じたい。信じたいけれど、空白の時間がそれを許さない。
長い間姿を消し、やっと現れたと思ったら、テロリストに身を転じていた。誰よりもユグドリアを脅かす存在は兄自身ではないのだろうか。
どちらを信じればいいのか分からない。
トワの心臓は早鐘のように脈を打ち始めた。
その下から現れた素顔は、血に塗れていても美しく高貴で、伏せられた長い睫の細部に至ってまでも、見るものを魅了する存在感があった。
美園は剥ぎ取った仮面を持ったまま、小さく喉を鳴らす。
もしかして、という思いが確信に変わった瞬間だった。
マツムラもその顔を見てうめき声を漏らす。
「ああ…なんてことだ。アンドレ……」
アンドレ……?
違う。彼はアンドレ国王ではない。
瞳に絶望の色を浮かべた美園は、真っすぐに男を見た。
つかさも勇治も言葉を失っていた。
毎朝校門で目にする爽やかな笑顔のあの男が、なぜ今こんなところで血だらけになっているのだろう。
美園は絶望的な思いで、慣れ親しんだ男の名を呼んだ。
「城島先輩……」
事態をよく飲み込めていない元樹に栄子が耳打ちをする。
そしてトワは震え上がりそうになる自分の体を理性で押しとどめながら、仮面の下の顔を見た。
薄れていく記憶の中に残っているそれは、まだもっと幼い少年のものだが、けれどどうしてだか分かる。
間違いなく彼は自分の大切な人だったんだと。
「お兄様?」
トワの声に反応してほんの少し瞳に力を戻した男は、伏せていた顔を上げてトワを見た。
もう間違いはなかった。目の前にいる男は、美園のよく知る城島九音であると同時に、トワの兄、クオン王子でもあるのだと。
「信じられん。まさか本当に貴様だったとは」
マツムラは声に喜色を滲ませて高笑いをする。
トワは目に涙を浮かべて兄に縋りよる。
「お兄様、クオンお兄様、どうしてこんな……。今までどこにいたんだよ、何してたんだよ。僕はお兄様がもう死んだと思っていたんだよ」
「目を覚ませトワ」
トワの思いを切り捨てるように、マツムラが言う。
「国を捨て反逆者になり、祖国を、弟を苦しめる。そんな人間が兄のはずはなかろう」
「反逆者はお前だ!」
どこにそんな力が残っていたのだろう。
腕から血を流し両腕をユグドリア兵に押さえつけられながらも、必死にマツムラに飛びかかろうとする城島。
鬼気迫るその姿を見て、美園は小さく息をのむ。
「国王を殺し、王妃を殺し、トワを奪い、あげくには国民までをもお前の欲望の犠牲にするつもりか!!」
「何をとち狂った事を。妄想もここまでくると病気だな」
「なんだと!」
城島は掠れ始めた目を必死に見開き、憎き相手を睨みつけた。
マツムラは城島のその視線を嘲笑とともに受け止め、冷徹な声でトワに問いかける。
「トワ王子。この男はこんな事を言っておる。それは真実なのか? あの日、王子も同じ船に乗っていたろう。思い出すんだ。本当に私がアンドレとサチに手をかけたのか」
「僕は……」
トワの呼吸は荒くなる。
兄を信じたい。信じたいけれど、空白の時間がそれを許さない。
長い間姿を消し、やっと現れたと思ったら、テロリストに身を転じていた。誰よりもユグドリアを脅かす存在は兄自身ではないのだろうか。
どちらを信じればいいのか分からない。
トワの心臓は早鐘のように脈を打ち始めた。
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