113 / 146
再会
111話:悲しき再会
しおりを挟む
仮面の男は一切抵抗しなかった。
その下から現れた素顔は、血に塗れていても美しく高貴で、伏せられた長い睫の細部に至ってまでも、見るものを魅了する存在感があった。
美園は剥ぎ取った仮面を持ったまま、小さく喉を鳴らす。
もしかして、という思いが確信に変わった瞬間だった。
マツムラもその顔を見てうめき声を漏らす。
「ああ…なんてことだ。アンドレ……」
アンドレ……?
違う。彼はアンドレ国王ではない。
瞳に絶望の色を浮かべた美園は、真っすぐに男を見た。
つかさも勇治も言葉を失っていた。
毎朝校門で目にする爽やかな笑顔のあの男が、なぜ今こんなところで血だらけになっているのだろう。
美園は絶望的な思いで、慣れ親しんだ男の名を呼んだ。
「城島先輩……」
事態をよく飲み込めていない元樹に栄子が耳打ちをする。
そしてトワは震え上がりそうになる自分の体を理性で押しとどめながら、仮面の下の顔を見た。
薄れていく記憶の中に残っているそれは、まだもっと幼い少年のものだが、けれどどうしてだか分かる。
間違いなく彼は自分の大切な人だったんだと。
「お兄様?」
トワの声に反応してほんの少し瞳に力を戻した男は、伏せていた顔を上げてトワを見た。
もう間違いはなかった。目の前にいる男は、美園のよく知る城島九音であると同時に、トワの兄、クオン王子でもあるのだと。
「信じられん。まさか本当に貴様だったとは」
マツムラは声に喜色を滲ませて高笑いをする。
トワは目に涙を浮かべて兄に縋りよる。
「お兄様、クオンお兄様、どうしてこんな……。今までどこにいたんだよ、何してたんだよ。僕はお兄様がもう死んだと思っていたんだよ」
「目を覚ませトワ」
トワの思いを切り捨てるように、マツムラが言う。
「国を捨て反逆者になり、祖国を、弟を苦しめる。そんな人間が兄のはずはなかろう」
「反逆者はお前だ!」
どこにそんな力が残っていたのだろう。
腕から血を流し両腕をユグドリア兵に押さえつけられながらも、必死にマツムラに飛びかかろうとする城島。
鬼気迫るその姿を見て、美園は小さく息をのむ。
「国王を殺し、王妃を殺し、トワを奪い、あげくには国民までをもお前の欲望の犠牲にするつもりか!!」
「何をとち狂った事を。妄想もここまでくると病気だな」
「なんだと!」
城島は掠れ始めた目を必死に見開き、憎き相手を睨みつけた。
マツムラは城島のその視線を嘲笑とともに受け止め、冷徹な声でトワに問いかける。
「トワ王子。この男はこんな事を言っておる。それは真実なのか? あの日、王子も同じ船に乗っていたろう。思い出すんだ。本当に私がアンドレとサチに手をかけたのか」
「僕は……」
トワの呼吸は荒くなる。
兄を信じたい。信じたいけれど、空白の時間がそれを許さない。
長い間姿を消し、やっと現れたと思ったら、テロリストに身を転じていた。誰よりもユグドリアを脅かす存在は兄自身ではないのだろうか。
どちらを信じればいいのか分からない。
トワの心臓は早鐘のように脈を打ち始めた。
その下から現れた素顔は、血に塗れていても美しく高貴で、伏せられた長い睫の細部に至ってまでも、見るものを魅了する存在感があった。
美園は剥ぎ取った仮面を持ったまま、小さく喉を鳴らす。
もしかして、という思いが確信に変わった瞬間だった。
マツムラもその顔を見てうめき声を漏らす。
「ああ…なんてことだ。アンドレ……」
アンドレ……?
違う。彼はアンドレ国王ではない。
瞳に絶望の色を浮かべた美園は、真っすぐに男を見た。
つかさも勇治も言葉を失っていた。
毎朝校門で目にする爽やかな笑顔のあの男が、なぜ今こんなところで血だらけになっているのだろう。
美園は絶望的な思いで、慣れ親しんだ男の名を呼んだ。
「城島先輩……」
事態をよく飲み込めていない元樹に栄子が耳打ちをする。
そしてトワは震え上がりそうになる自分の体を理性で押しとどめながら、仮面の下の顔を見た。
薄れていく記憶の中に残っているそれは、まだもっと幼い少年のものだが、けれどどうしてだか分かる。
間違いなく彼は自分の大切な人だったんだと。
「お兄様?」
トワの声に反応してほんの少し瞳に力を戻した男は、伏せていた顔を上げてトワを見た。
もう間違いはなかった。目の前にいる男は、美園のよく知る城島九音であると同時に、トワの兄、クオン王子でもあるのだと。
「信じられん。まさか本当に貴様だったとは」
マツムラは声に喜色を滲ませて高笑いをする。
トワは目に涙を浮かべて兄に縋りよる。
「お兄様、クオンお兄様、どうしてこんな……。今までどこにいたんだよ、何してたんだよ。僕はお兄様がもう死んだと思っていたんだよ」
「目を覚ませトワ」
トワの思いを切り捨てるように、マツムラが言う。
「国を捨て反逆者になり、祖国を、弟を苦しめる。そんな人間が兄のはずはなかろう」
「反逆者はお前だ!」
どこにそんな力が残っていたのだろう。
腕から血を流し両腕をユグドリア兵に押さえつけられながらも、必死にマツムラに飛びかかろうとする城島。
鬼気迫るその姿を見て、美園は小さく息をのむ。
「国王を殺し、王妃を殺し、トワを奪い、あげくには国民までをもお前の欲望の犠牲にするつもりか!!」
「何をとち狂った事を。妄想もここまでくると病気だな」
「なんだと!」
城島は掠れ始めた目を必死に見開き、憎き相手を睨みつけた。
マツムラは城島のその視線を嘲笑とともに受け止め、冷徹な声でトワに問いかける。
「トワ王子。この男はこんな事を言っておる。それは真実なのか? あの日、王子も同じ船に乗っていたろう。思い出すんだ。本当に私がアンドレとサチに手をかけたのか」
「僕は……」
トワの呼吸は荒くなる。
兄を信じたい。信じたいけれど、空白の時間がそれを許さない。
長い間姿を消し、やっと現れたと思ったら、テロリストに身を転じていた。誰よりもユグドリアを脅かす存在は兄自身ではないのだろうか。
どちらを信じればいいのか分からない。
トワの心臓は早鐘のように脈を打ち始めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる