公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都

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269.

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 私の名前はマリアン!
 都会育ちの普通の女の子!

 ある日、お母さまの命令で伯爵家のお屋敷に嫁ぐことになったの。

 でも、そのお屋敷って暗くって、明かりさえもつけてないのよ。
 伯爵は周りを信用しない、人間不信の塊のような人だったし。伯爵のお母さまもご病気だからって、ずっと部屋に閉じこもってるの。これじゃあ、病気が悪くなるばかりだわ。

 これじゃあダメよ。屋敷が明るくなれば、伯爵の性格も変わるはずし、お母さまのご病気だってよくなるはずだわ。
 さあ、まずは窓を開けて、屋敷に明かりを灯しましょう!

 ……屋敷に滞在して三日目。
 なんて妄想を、私は目覚めたばかりのベッドの上で、鬱々とした心情で繰り広げていた。

 短編一つぐらいは書けそうなこの設定。私が思うのは、こういうタイプのヒロインのメンタル、鉄でできてるのではないかということだった。
 私には無理だ。この屋敷の窓一つ、開けられない……。外はまた雨が降ってるし……

「○ップルペンシルさん、○ップルペンシルさん、ガールズトークしませんか」

 私は、天輝さんと同じく、私と魂を共通する存在に話しかけた。
 この異世界にきたころから、私と一緒にいてくれて、最近は話せるようになったのだ。しかも、精神系の魔法まで使える。すごい子なのである。そして何より、悩みを相談できる同性の女の子。いつでも話せる女友達がいるって幸せだよね。

『エトワちゃん、またなの? 昨日も一昨日も、そういって私と長話していたよね。一応、私とエトワちゃんは別個の存在だけど、自分の中の存在との会話で寂しさを紛らわせたり、その会話に依存するのは、エトワちゃんの精神に良い影響を与えるとは思えないの』

 ○ップルペンシルさんにガチで心配してるような声音で、遠回しに説教された。

『その通りだ。我らに依存するな。しばらく、精神内会話を禁止する』
「ああ、天輝さん、待って! 今日だけ! 今日だけ!」

 ブチっという音が精神内から聞こえてきて、着信拒否された。
 私はバタンとベッドに倒れ込む。

「ひどい、ひどいよ天輝さん……。うわーーーん、さみしいよぉ」

***

 私は今日もぱくぱくと朝ごはんを食べる。
 暗い雰囲気に負けるものか、今日も完食。それに最近は慣れて料理の少しおいしく感じてきた。

 スリゼルくんは朝食の席にはいない。
 まだ小学生なのに、「朝ごはんはいらない」と中学生ボーイみたいなことを言って、部屋にこもっている。

 スリゼルくんのお父さん、ラザラスさんは悪い人ではない。
 私に気を遣ってくれているのはわかる。欠かさず食事の席には同席してくれる。屋敷で不便なことがないか、毎回訪ねてくれる。

 ただいかんせん、コミュニケーションがうまいとは言えず、さらに何か事情があるのか雰囲気が暗く沈んでしまっている。
 常に暗いオーラを纏わせていて、私も冗談なんて投げられるような感じではない。

 私がこの人の友人なら、そっこうスイーツ店に連れて行って「何か悩みがないか」尋ねるくらいの状態だった。もしくは関係性が薄くとも、この人より大人だったら、それとなく相談事はないかと話を促せたかもしれない。
 でも残念ながら、今の私はこの人と出会ったばかりの、しかもただのお子様である。

 そんな子供が「何か悩んでますよね」なんて距離を詰めていっても、プライドを傷つけ、不信感を募らせるだけだろう。
 悩みを聞き出すには、遊びに来ている子供というのはあまりにも不向きすぎるジョブだった。

「この屋敷の中庭にはバラ園があります。屋根が続いているので、雨の日でも見学ができます」

 ラザラスさんの言葉を解釈すると、この屋敷にいても暇でしょうから、見てきたら楽しめますよ、ということだと思う。

「わあ、素敵ですね。食事が終わったら、さっそく見に行ってみようと思います」

 私はラザラスさんの悩みに気づかない子供のふりをしながら、こうして上っ面のやりとりを繰り返すしかない。

 思えば、スリゼルくんとのこれまでの付き合いも似たような感じだったかもしれない。
 スリゼルくんが本心では私のことを鬱陶しく思っていることに気づきながらも、気づいてないふりをして接してきた。

 スリゼルくんも人前では仮面を被る人だけど私もたいがい猫をかぶりである。
 にゃーーー。

 いつかスリゼルくんに心を開いてもらえるようなきっかけがあれば、それを待ち続けて、何もないまま七年近くの月日が経ってしまった。
 こっちもあっちも本心を明かさずに、そんなに長く一緒の家でくらしてきたんだから、お互いたいしたもんである。

 食事が終わると、ラザラスさんのおすすめ通りに、バラ園へと向かった。

「う~~~ん、黒薔薇かぁ」

 私は中庭に咲き誇る黒い花畑を見て、渋い表情で口をむにょむにょさせた。

 嫌いではない。でも、今の気分だともう少し明るい花の色を見たかったかもしれない。
 そんな気持ちで薔薇を眺めていると、薔薇たちが体を揺らして、雨粒の重さを振り払った。その動きは、期待したのとは違った花の色にがっかりした私に抗議しているようだった。
 私は薔薇たちの抗議に頷く。

「うん、そうだね。確かに失礼な感想だったかも。大丈夫、君たちもちゃんと綺麗に育ってるよ~」

 私は薔薇の葉っぱを軽くつんつんとして、謝罪の意思を伝えた。
 すると薔薇たちは、雨粒が落ちて軽くなった茎を、シャンと立たせて私にその綺麗な姿を見せてくれた。

 その美しい姿に私が口を綻ばせたとき、ふと誰かの視線を感じた。

 とっさにその方向に顔を向けると、さっとカーテンが閉じる音が聞こえた。
 私が完全にそちらに向いた時には、その窓は黒い幕に覆われて、人の姿は見えなかった。

 私は気づく。あそこはスリゼルくんのお母さんがいる部屋のはずだ。
 何も気づかないふりをして、また薔薇たちの会話に戻る。

「君たち以外の家の人たちと仲良くなるにはどうしたらいんだろうね、黒薔薇さん」

 どんなことでも、自分の心と、相手の心、それから外的な要因があって、物事というのは思い通りにいかない。
 スリゼルくんとの関係もそうだ。うまくはいってない。

 私はそれがうまくいくきっかけをずっと待っている。

 この屋敷にいる間に、そのきっかけはきてくれるのだろうか。

***

 そうして、スリゼルくんのご実家での滞在の七日間が終わった。

 結局、きっかけは今回もこなかった。スリゼルくんは相変わらず私の前では慇懃な態度を崩さず、それ以外の時間は私を無視している。しかし、そんな状況でも私は朝昼晩、残さずご飯を食べることができた。これはスリゼルくんに勝利したといっても過言ではないだろう。
 私は見送りにきてくれたラザラスさんに丁寧にお礼を言って、船に乗り込む。

 ソフィアちゃん、リンクスくん、ミントくん、クリュートくん、そしてスリゼルくん。それぞれ五人の実家を訪問したわけだけど、私の予定はもう1週間、残っていた。私はこの旅行にいく前に、お母さんことダリアさまから渡された手紙を広げてみた。

『エトワさまへ
 今年の長期休暇は、ぜひ我が家に遊びにお越しください。暖かな家族と静かな場所があなたをお待ちしています。
                    忘れられた地の領主 エリデ男爵より』

 エリデ男爵、どなただろう……
 私が通う学校、ルーヴ・ロゼの知り合いにそんな名前の人はいなかった。そもそも学校では知り合い自体が少ないのだけれど。

 卒業前のパイシェン先輩のアドリブによって友達になれた3人のおかげで、前より話せる人は増えたけど、それでも友達は少ない。そんな私の少ない人脈の中で、エリデ男爵と呼ばれる人物はまったく見つからなかった。

「会ってみればわかるかな」

 私は特に悩まずに飛行船に乗り込んだ。
 スリゼルくんのお家の飛行船で、そのままエリデ男爵のもとまで送り届けてくれるらしい。感謝。


※あとがき
年末ちょろっと更新しただけになってしまいましたが(しかもツイッターに投稿していた書き溜め)、読んでくださってありがとうございます。
読者さんのおかげで作品から入るお金だったりアルバイトだったりでなんとかご飯を食べられてます。年初もちょっと更新できると思うのでよろしくお願いします。
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