ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました

たぬきち

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「どうかなアレン君、今日の食事会は。少しは楽しんでもらえたかな」

 ルシアンが食後のお茶を飲みながら声をかけてきた。
 正直、楽しくない。何をしゃべったかもほとんど覚えていないし、もう今すぐ帰りたいくらいだった。

「お友達と一緒に晩御飯っていうのは、なんだか楽しいですね!ねぇ?アレン君?」

「あ、あぁ。そうだね。…うん。楽しいな。こんな食事をずっと前から望んでいたのかもしれない」

 脳裏に一瞬、残飯をむさぼる自分の姿がよぎった。前世ではこんな温かい食事、記憶にほとんど残っていない。家が没落する前も父上たちはなんだか忙しそうだったので食事は1人のことが多かった。
 ステラの笑った顔を見て声を聞いて、15歳程度の精神年齢と言われたことはなんだかもうどうでもよくなってきた。せっかく大好きだった、憧れだったステラと夕食の場にいるんだ。今はこの時間を楽しまないと損だな。前世ではダメだったけど、今回は今のところステラたちとも仲良く出来てるし、前の自分なんかじゃなくて、今を年相応に成長できればいいんだ。

「ルシアンさん!今日は楽しかったです。お誘いいただきありがとうございました!」

「うんうん、それはよかった。それじゃあ早速で申し訳ない。本題なんだけど、この間話した何か欲しいもの、僕にできることであればできる限り協力する、って話、覚えているかな?」

「はい。覚えています。…一応、考えてきました。」

 フェリシアを助けたことに対するお礼、としてルシアンができる事であればなんでもしてくれるということだが、正直迷った。子供の目線で何を伝えたらこの先の未来にいい影響を与えられるのか?どうすれば未来は俺にとっていい方向へ変わるのか?ホームレスになる未来を回避するための最善ルートの答えを。

「アレン君は、パパに何をお願いするの?私なら新しい本をたくさん買ってもらうんだ!」

「私なら、パパに魔法を教えてもらったり、もっと強くなるために色々教えてもらうわ!そうしたらステラを守れるし、今度何かあっても自分のことは自分で守れるもの!」

 あはは…ステラにフェリシアらしい。まぁフェリシアと同じで、強くなるために魔法を教えてもらったり、なにか稽古をしてもらうのも悩んでいたのは事実だ。今の僕はあまりにも弱い。結局ミアがいないと何もできないんだから。でも、今変えるべき未来はそこじゃないと思うんだ。

「僕のお願いは…。」

 ルシアンも、ステラたちもみんなが静かに僕の言葉を待っていた。これでいいのか?と今も疑問に思ってしまうが、ここまで来たら言うしかない。

「ルシアンさん。僕のお願いは、魔導研究の一時停止、もしくは大幅な遅れと、魔道具の開発をしないことです」

「っ…な!!き、君は何を言ってるんだ!!」

 ルシアンは驚きを隠せず、椅子から急に立ち上がり声を荒げた。椅子は後ろに大きく転ぶと、その物音に気が付いたおばさんとミアが食器洗いから戻ってきた。

「あの研究は私を含め数人しか知らない極秘の研究なんだぞ!君のご両親はもちろん、国王にすらまだ話していないし、そもそもこんな田舎の子供が知っているはずがないんだ!どこでその情報を手に入れた!?」

 穏やかなルシアンの態度が一転していることに気が付いたおばさんはルシアンをなだめに入った。ミアは俺を含めステラとフェリシアの子供たちをルシアンから遠ざけるように距離を取った。

「落ち着いて下さい。ルシアンさん、順番にお話します。」

 俺はミアの手を振りほどき前に出ると、再び椅子に座った。ルシアンもおばさんに説得されながら、落ち着きを取り戻したようで、残っていたお茶を飲み干すと大きく息を吐いた。その顔からは先ほどのようなピリピリとするような感情は感じなくなっていた。

「すまない。取り乱してしまった。怖がらせてしまったことをお詫びする。ただ、あれは大事な研究でね。ようやく…ようやくなんとなく形にできそうというところまで進んでいたんだ。それをいきなりこんなところで『手を引け』と言われて、感情的になってしまった。驚かせてしまって本当に申し訳なく思っている。今更だけど、…君の知っている事を話してくれるかい?」

 俺は黙ってうなずくと、ルシアンに魔道具の開発や研究について、可能な限りごまかして話すことにした。
 人さらいの親分が転移魔法を使っていること。
 森に転移魔法の残りがあって、それを運悪くフェリシアが発動させてしまったこと。
 人さらいの親分は転移魔法を量産化することが、ルシアンならできると知っていたこと。
 転移魔法は悪事に使われそうになっていたこと。
 人さらいはステラとフェリシアのことをすでにマークしていて、今後誘拐しようとしていたこと。
 などのことを、という前提でルシアンに伝えることにした。

「あなた…魔道具だなんて、そんなすごいものを作ろうとしていたの?」

「あぁ。僕はね、魔法が使える、使えない関係なく、みんなが暮らしやすい世界を作りたかったんだ。魔道具は力がない人にとって、大きな助けになる。そう思っていたんだけど、それは光の面だった。善行に使わない、闇の側面もあるし、それは魔道具によって想像以上の損失を生み出すかもしれない。…こんなことにも気がつけなかったとは…」

 ルシアンは頭を抱えたまましばらく考え込んでいた。無理もない。自分の研究が将来大きな犯罪に使われる可能性がある、人さらいがフェリシアかステラを狙っていたのはルシアンの研究が原因だったんだ、大切な家族を危険にさらしていたのが自分自身だなんて言われたらダメージも大きいだろう。

「ミアお姉ちゃん。パパ、悪いことしちゃったの?‥アレン君に、怒られてるの?」

「いいえ、ステラ様。ルシアン様は大変すばらしい事をされていらっしゃいます。ですが、アレン様が今後もフェリシア様やステラ様がまた人さらいに狙われるのではないか?とルシアン様にお話しているんです。」

「わ、私が調子に乗って木に登って、こんなことになったからお父さんは苦しんでいるの?」

「いいえフェリシア様。むしろ逆でございます。いま、なにか大きなことが始まる前にルシアン様も、アレン様も事の大切さに気が付くことができたからこそ、未来の大きな失敗をしないで済むのです。聡明なルシアン様ですので、必ずアレン様のお言葉に耳を傾け、最善の答えを導き出してくださるでしょう。お二人は、素晴らしい御父上をお持ちですね」

 心配そうなステラとフェリシアをミアが優しくサポートする。2人とも心配そうな顔だったが、いつもの笑顔を取り戻すことができた。

「あなた…」

 おばさんがそっとルシアンの手を握ると、ルシアンは少しそのまま考えたのち、観念したかのような顔で僕らを見た。

「負けたよ。君が正しい。…あの研究は破棄しよう。犯罪に使われて多くに人が苦しむ技術など、あってはいけないんだ。まだ今の時代には早かったという事さ。それに、今可愛い2人の娘が笑顔でいるのはアレン君のおかげだ。
 君の約束を守る、と私は言った以上、守るべき義務がある。約束も、家族の平和もな。」

「あなたっ!」

「パパ!!」

「お父さん!!」

 ステラとフェリシアもミアのそばから走ってルシアンの元へ飛びついた。ルシアンは驚き、照れたようなまんざらでもない笑顔で幸せそうに笑っていた。

「や、やめないか3人とも…客人の前だぞ。…アレン君、君は不思議な子だ。…私は魔導研究所の上級職員。なんて肩書きで浮かれていたのかもしれんな。君のおかげで僕は人生で大きな過ちを犯す前に、気がつくことができた。重ね重ね、ありがとう」

「い、いえ!子供のくせに、偉そうなことを言って申し訳ございませんでした。僕の方こそ、わがままを聞いてもらってありがとうございます。今日はお招きいただいてありがとうございました。とても楽しかったです。…ミア、僕らも帰ろう」

「はい、アレン様」

「ま、待ちたまえ、見送りくらいさせてくれ」

 俺たちが部屋を出ようとすると、ルシアンの声が聞こえる。その声はまだ出会って短い期間だが、どの声よりも幸せそうな声だった。

「ルシアンさん、お気持ちだけで大丈夫です。ステラもフェリシアも、今ルシアンさんを放してくれそうにないですし、無礼を承知で、ここで失礼します。おばさん、料理ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」

「また来てねアレン君、ミアちゃんも、またお話しましょうね~」

 俺は軽くお辞儀をするとドアを開けて部屋を出ていった。ミアは深々とお辞儀をしたあと、静かにドアを閉めた。ドアの隙間から最後まで、双子は俺に手を振っていた。
 魔道具の開発を破棄する。この選択がこの先の未来にどのような影響を与えるかわからないが、ブランシュ家にはいい影響を与えるのだと、俺は確信していた。
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