それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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10.夏祭り

夏祭り③

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 風に乗って笛や太鼓の音が聞こえてくる。雨が降ってなくてよかったとぼんやりと考えていると、参道の方から足音が近づいてきた。

「百合子っ、大丈夫?」

 私たちを見つけて駆け寄ってくる。白石さんに「マリちゃん」と呼ばれていた人だ。友達に白石さんの不調を聞いて駆けつけたらしい。
 仲良しの友達が来てくれたことでホッとしたのか、白石さんがふっと顔を上げた。

「マリちゃん……」

 口元を手で覆って、ふらふらと立ち上がる。マリちゃんはさっと身を寄せて白石さんを支え、私をふり返った。

「悪いけど、ここで待ってて。社務所で休めるよう頼んでくるから、あの子たちが戻ったら荷物渡してくれる? 百合子、もう少し我慢して」

 すごくテキパキしていて、しっかりした人だ。そう思いながら預かったままだったバッグをぎゅっと抱え直し、私はこくりと頷いた。
 ふたりがいなくなってひとりになると少し気が抜けてため息が漏れる。
 人通りはほとんどないけれど、まわりはまだ明るいし、社務所が近いから怖くはない。少し離れた場所から届く、楽しげなざわめきやお囃子が返って心地よく感じた。

 白石さん、大丈夫なのかな……。

 しばらく心配しながら待っていたけれど、いつまで経っても白石さんたちも友達も戻って来ない。あれからずいぶんと時間が経っている。
 さらに具合が悪くなっているのかもしれない。
 ますます心配になって、私は白石さんたちが消えた方を見ながら立ち上がったり座ったりを繰り返した。
 でも、このまま待っていても仕方がない。黒崎くんとの待ち合わせの時間が迫っているし、白石さんも病院に行くなら早い方がいいだろう。
 決意して歩き出す下駄の下で、敷かれた玉砂利がシャリシャリと音を鳴らす。着崩れしないように気をつけて、私はなるべく小さな歩幅で先を急いだ。

「どこに行っちゃったんだろ」

 キョロキョロまわりを見まして、思わずひとり言がこぼれ落ちる。
 社務所や休憩所テント、その他あちこち探したけれど、白石さんたちは見つからなかった。
 もうすぐ待ち合わせの18時になる。遅刻するよりは、先に鳥居に戻って黒崎くんに事情を話してきた方がいい。
 そう考えて鳥居の方に歩き出そうとしたとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「もう、マリちゃんは甘いのよ」

 え、この声……。

 声の方をふり向いて、お札やお守りの授与所脇の通路から出てくる白石さんたちが見えた。お人形みたいにかわいい笑顔は、すっかり元気そうだ。
 よかった、と胸を撫で下ろしていると、まわりの友達が弾けるように笑い出した。
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