それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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10.夏祭り

夏祭り⑤

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 白石さんたちを探しに参道に出ると、西の空はいつの間にかうっすらと茜色に染まっていた。
 時計を見ると、時刻はあと数分で18時。

 黒崎くん、もう来てるかな……。

 ミーティングがあって少し遅れるって言っていたから、まだ大丈夫だろうか。
 すぐにでも待ち合わせ場所に行きたい気持ちをぐっと抑えて、早足で夜店の立ちならぶ方へと急いだ。
 日暮れが近づくにつれて、急に人通りが増えてきている。これ以上混雑したらきっと探し出すのは難しい。
 早く見つけなきゃ。
 けれど、浴衣では思うように動けなくて焦りが募る。ジリジリとしながらまわりを見回していると、かき氷の屋台の前にできた人だかりの中から怒りを含んだ声が聞こえてきた。

「興味ないの。消えて」

 ハッとしてふり返る。よく通るこの声は、白石さんのものだ。
 慌てて人の波をかき分けて覗いた先で、二人組の男の人が白石さんに言い寄っていた。その声が大きいせいか、まわりの視線を集めている。
 でも、白石さんは人目を全く気にしない様子で店員さんからかき氷を受け取り、二人組を無視して歩きはじめた。

 ……白石さん、すごい。

 私ならきっと、話しかけられただけで足が竦んで動けなくなるだろう。
 マリちゃんと喧嘩したからなのか、遠目でもわかるくらい不機嫌オーラを出すその背中に、友達の女の子たちがついていく。
 私もあわてて、そのあとを追った。
 白石さんたちが神社に隣接している庭園の方へ小道を曲がる。人混みをかき分けながら、それだけは確認できた。けれど、浴衣ではなかなか追いつけなくて、背中が離れて行く。
 ダメだ。このままじゃ、きっと見失ってしまう。
 焦って呼び止めようとした瞬間、また白石さんの声が聞こえた。

「さっきからしつこいのよ! 興味ないって言ってるでしょ!」

 見ると、いつの間に追いついたのか、さっきの二人組が白石さんの腕を掴んでいた。

 わわわ、大変だ……!

 まわりを見まわしても人通りは少なくて、その人たちでさえ面倒を避けるように遠巻きに見て離れていく。
 それどころか、友達の女の子たちも怖がって距離を取りはじめていた。

「百合ちゃん、私たち誰か呼んでくるね!」

「大人の人連れてくるからっ」

「ちょっと待ちなさいよ!」

 白石さんの叫びを無視して、助けを呼びにいくというより逃げるように、女の子たちは参道の方に走って行ってしまった。 
 あとに残されたのは、人気のない場所で二人組にからまれた白石さんと、離れたところでそれを見つめる私だけだ。
 けれど、役立たずな私は、恐怖で足がすくんで一歩も動けなかった。 
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