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月夜を歩いたマリュートカ
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目を覚ますと白い砂漠はそこには無かった。
ただ眼前で代わりに揺れている幌の白い布のせいで
そうでないと気がつくのに時間がかかった。
なら、ここはどこなんだ?
正体を探る為に顔を動かさずに目玉だけを動かして
周囲の様子を探ろうとすると
よく知った顔が俺の顔を覗き込んできた。
「おぉ起きたか、気がついたみたいだぜ先生」
そう言うとバンギリーは俺を挟んで反対側にいる先生と呼んでいる誰かに声をかけた。
「アンリー君、具合はどうかね?」
痩せ型の男がバンギリーの代わりに俺の顔を覗き込んできた。
「あ、あぁ、まだちょっと痛みますけど…大丈夫そうです……」
「それはよかった、とはいえ急に起き上がったりせん方がいい、
傷口が開いてしまうかもしれんからね」
「わかりま、テテッ…ツゥ…」
「ほらほら、ゆっくりと落ち着いて起き上がりなされ…」
「わっかりました……それにしたって…ここは?」
「真教派の軍隊が転がしてる車ん中だ」
バンギリーは落ち着いた調子でそう教えてくれたが、
まだ状況がハッキリと掴めない俺は
瞬間的にまさかと思いバンギリーに問いかけた。
「真教派の軍隊って……
そんじゃあ俺達、敵に捕まったのかよ?」
正規軍人として戦闘をした訳ではないが、
正教の名の下に真教派の部隊を襲撃した以上、
殺されるか、虜囚として惨めに生かされ
続けるかもしれないと言う考えが
俺の声色に深刻さを込めさせた。
だというのに、バンギリーの方はかなり呑気な返答をしてきた。
「いいんや、雇われてもらったってとこかな?」
「何だよそのビミョーな答えは」
「まぁ、簡単言えば金やら食い扶持の面倒見るのが
アサークとかから真教派に移りましたよぉってことだな」
「それってアグは知ってんのかよ?
そうだ!アグッ…っててて………」
思い出した勢いのまま上体を起こそうとしたが
不意に背中から激痛が走って身を丸めた。
「おぉ、そう無理しなくたって皆無事だ。
多少怪我はあるけどな」
「それなら……よかった…」
微かに揺れる幌を見つつ、
ゆっくりと息を吐きながらそう呟いた。
それからしばらくの間、
俺は先生から定期的に回復魔術をかけられながら
ゴーンホーンの引く車に揺られていた。
気が付いてすぐの頃は自分が一体どうなってしまうのかという不安と緊張感に
身を強張らせていたが、傍にバンギリーが居る事と自分を含めて彼に粗暴な扱いをする者がいなかった事、
加えて空腹を満たす事で次第に身体が解れていくのを感じた。
傷の痛みが和らぎ幌に照りつける光が明るさを失い始めた頃、
荷車は速度を緩め車内に伝わってきていた振動も小さくなり始めた。
「野営するのか?」
バンギリーに聞いた。
「そうだなぁ…………お!どうやら野っ原じゃなさそうだぞ」
幌を捲り上げて外の様子を伺うとどうやら彼の予想に反して
どこかの集落か何かが目に入ったらしくそう返した。
そして、まもなく荷車は動きを停めたので
俺はバンギリーの手を借りてゆっくりと荷台から降りると、
小さな集落の周囲に恐ろしい程の人、荷車、物資、ゴーンホーン、
騎乗できるように飼い慣らされたドラゴン(騎竜というらしい)
が集結している光景が広がっていた。
1つの村が大都市に生まれ変わったようで
そうなるまでほんの一日二日程度だと言う事を
聞かされた後でも信じられなかった。
各方面から集結していたそれらは整然と並べられる事で
一見把握しきれないと思われる程の物量であったとしても
次なる進軍や補給に支障が生じないように工夫されていた。
「おぉ‼︎アンちぁぁゃん‼︎おぉぉい‼︎」
どこからか俺を呼ぶ声が聞こえきたので、
そちらの方に笑顔を振りまくと
アグがこちらに向かって駆け寄って来ているのが見えた。
「アグ!アグゥ‼︎」
そう叫んだが早いか
俺は痛みも忘れて両手を広げ、
彼女をしっかりと受け止めた。
「ッ‼︎テテテッッッッ………」
「ア、ごめんごめん…」
「いいや、いいんだ……」
「ニィちゃんも無茶すんなぁ、
俺も傷が治ってる訳じゃねぇのにヨォ…」
アグの背後から別の聞き馴染みある声が聞こえてきた。
「‼︎、ザテット!お前も生きてたか‼︎」
「ニィちゃんが庇ってくれたんだから
死ぬ訳ねぇだろぉ」
「よかった…マテューもいるし……
ほんとぉによかったぁぁ………」
ほんの少し残っていた胸のつかえが全て取れ、
嬉し涙が止めどなく溢れてきた。
するとバンギリーはその気持ちに寄り添うように
掌を俺の背中にポンッと置いてくれたのはいいが、
ズキンッとした痛みが走り、
思わず咳き込んでしまった。
「あんな事になったのに皆生きてて……
こんな豪勢なメシにありつけるなんて…
アグも上手くやったなぁ…」
皿いっぱいに盛られた
肉やら野菜やらを頬張りながら
俺がそう話すと
アグは食う手を止めて話し始めた。
「伊達に盗賊を長くやってる
ワケじゃぁないからねぇ…
とはいえこのメシは報酬の
前払いってところだしなぁ」
「報酬って……
真教派として戦う事と…
引き換えってことか……」
「そういう事…
そもそも連中が偽装した隊商を
あの街道でノロノロと歩かせてたのも
私らみたいな盗賊やらを
兵隊にするつもりだったらしいしねぇ」
「あんだけ撃ったり斬ったりして来たくせに……
兵隊なんか集められんのかよ…」
いまいち筋の通らない話に本当かよといった態度で
聞き返すとアグに変わってバンギリーがこう返した。
「今日、明日はたらふく食えるメシがここにはあるからなぁ、
ノコノコと元の所に帰っていったって
良くてケチな払いで悪けりゃ裏切り者って事で
………ビシュン‼︎…」
右手の中指と人差し指で
首を刎ねる仕草をして見せられると
背骨に沿って何かぬるりと降るような感覚がした。
「ま、そういう事だから
せめて今の内は飽きるまで食っとかないとな」
「……うん…」
さっきよりもほんの少し味気ない飯を
口に運びながら返事をした。
首の皮がほんの少し繋がっただけか…
メシを食った後、1人でそんな事を
ぼんやりと考えながら星空を眺めていると
深い溜め息が漏れ出ていた。
魔法で簡単に生き返れる世界で抱えるのは
おかしい考えかもしれないが、
俺は死にたくも無かったし、
誰にも死んでほしく無かった。
今まで散々力尽きた人間の可哀想な姿、
目の前で今まさに息絶えようとしている人間、
治りかかっている背中の傷、
忘れたくても心に深く根を張り
離れようともしないそういったモノが
俺を酷く臆病にさせていた。
せっかく落ち着いた気持ちで
満天の星空を見上げられると思ったのに
モヤモヤとした感覚と滲んだ目のせいで
綺麗だと思うことすらできなかった。
「おーい!アンちゃーん!」
足元からアグの声が聞こえた。
「うーん⁈」
またズキンッとした痛みが来ないように
ゆっくりと上体を起こしながら返事した。
「なんだって、こんなとこにいるんだよ?
風邪引くぞ、風邪」
「いいじゃんか別に、星ぐらい見たって」
「ふーん…じゃ、私も付き合ってあげようじゃないのさ」
「別に良いけど、ただ眺めてるだけで別に面白い事なんてないぞ」
「それではお隣失礼しまぁす…」
俺はフゥゥン…と鼻から大きくゆっくりと息を吐いた。
「……なぁ…アグ…」
「なに?」
「怖い、死にたくないって思うことって変だろうか?」
「…うーん……どうだろう…」
いきなり変な事を聞いただろうかと不安になり、
何か言おうとした時、
「でも、そう思ったからザテットを守ってくれたんでしょ?」
という答えが返ってきた。
「……そう…なのかな?」
「自分が怖いから誰かにそんな思いさせたくない
助けてあげたいと思うから動けたんじゃない?」
「まぁ……そう…だな…」
口ではそう答えたけど本当はわからなかった、
だから自信を持ってそうだと言えなかった。
でも、それをアグに気づいてほしく無かったから、
空散りばめられた星を眺めながらそう答えるしか無かった。
「…………ありがとう」
「へ?」
「ありがとう、あの子を守ってくれて……」
そういう時と彼女は体を起こし、
膝を抱えて座った。
「私も…あの子も戦災孤児だったの…」
「えっ……」
初めて聞かされた事実にゆっくりとではあったが
自分も上体を起こし彼女の横顔を見つめた。
「私を拾った人は傭兵で私が15になるかならないかの時に死んじゃった。」
「それは……辛い…」
どうにも軽々しく返事できない、
辛いなぁでも辛いよでも
彼女の心には寄り添えないし
寧ろ傷つけてしまいそうで怖かった。
「でも、その時からバンギリーが居てくれたし、
マテューも私の大切な人になってくれたから
路頭に迷わずに済んだ………」
憂いを帯びた彼女の横顔は
普段のはつらつとした表情からは
想像ができないほどに穏やかで美しかった。
「でもね…なんでかわからないけど寂しかったの
2人とも大切な人のはずなのになんだか遠くに感じられて…」
「それでザテットを引き取ったのか…」
「……そう…なのかな…」
「…それは悪い事じゃないよ、
それに俺にお礼を言ったのもザテットがいなくなったら
また独りになるんじゃないかって怖かったんだろ?」
「……そう……かも…」
歯切れの悪い返事を聞いて
今までキュウと締め上げられたように苦しかった胸が
徐々に解れていくのを感じた。
アグも苦しいし辛いんだ、
そう思うとまた涙が止めどなく溢れ落ちてきて、
それを落ち着けるためなのか
俺は彼女の体をギュッと抱き寄せた。
彼女も俺の背中に腕を回し、
肩や胸に大きな雫をこぼして泣いていた。
切なくて柔らかな美しさに触れたその日の夜は
胸が張り裂けんばかり痛みを2人で感じながら
とても穏やかに過ぎていった。
ただ眼前で代わりに揺れている幌の白い布のせいで
そうでないと気がつくのに時間がかかった。
なら、ここはどこなんだ?
正体を探る為に顔を動かさずに目玉だけを動かして
周囲の様子を探ろうとすると
よく知った顔が俺の顔を覗き込んできた。
「おぉ起きたか、気がついたみたいだぜ先生」
そう言うとバンギリーは俺を挟んで反対側にいる先生と呼んでいる誰かに声をかけた。
「アンリー君、具合はどうかね?」
痩せ型の男がバンギリーの代わりに俺の顔を覗き込んできた。
「あ、あぁ、まだちょっと痛みますけど…大丈夫そうです……」
「それはよかった、とはいえ急に起き上がったりせん方がいい、
傷口が開いてしまうかもしれんからね」
「わかりま、テテッ…ツゥ…」
「ほらほら、ゆっくりと落ち着いて起き上がりなされ…」
「わっかりました……それにしたって…ここは?」
「真教派の軍隊が転がしてる車ん中だ」
バンギリーは落ち着いた調子でそう教えてくれたが、
まだ状況がハッキリと掴めない俺は
瞬間的にまさかと思いバンギリーに問いかけた。
「真教派の軍隊って……
そんじゃあ俺達、敵に捕まったのかよ?」
正規軍人として戦闘をした訳ではないが、
正教の名の下に真教派の部隊を襲撃した以上、
殺されるか、虜囚として惨めに生かされ
続けるかもしれないと言う考えが
俺の声色に深刻さを込めさせた。
だというのに、バンギリーの方はかなり呑気な返答をしてきた。
「いいんや、雇われてもらったってとこかな?」
「何だよそのビミョーな答えは」
「まぁ、簡単言えば金やら食い扶持の面倒見るのが
アサークとかから真教派に移りましたよぉってことだな」
「それってアグは知ってんのかよ?
そうだ!アグッ…っててて………」
思い出した勢いのまま上体を起こそうとしたが
不意に背中から激痛が走って身を丸めた。
「おぉ、そう無理しなくたって皆無事だ。
多少怪我はあるけどな」
「それなら……よかった…」
微かに揺れる幌を見つつ、
ゆっくりと息を吐きながらそう呟いた。
それからしばらくの間、
俺は先生から定期的に回復魔術をかけられながら
ゴーンホーンの引く車に揺られていた。
気が付いてすぐの頃は自分が一体どうなってしまうのかという不安と緊張感に
身を強張らせていたが、傍にバンギリーが居る事と自分を含めて彼に粗暴な扱いをする者がいなかった事、
加えて空腹を満たす事で次第に身体が解れていくのを感じた。
傷の痛みが和らぎ幌に照りつける光が明るさを失い始めた頃、
荷車は速度を緩め車内に伝わってきていた振動も小さくなり始めた。
「野営するのか?」
バンギリーに聞いた。
「そうだなぁ…………お!どうやら野っ原じゃなさそうだぞ」
幌を捲り上げて外の様子を伺うとどうやら彼の予想に反して
どこかの集落か何かが目に入ったらしくそう返した。
そして、まもなく荷車は動きを停めたので
俺はバンギリーの手を借りてゆっくりと荷台から降りると、
小さな集落の周囲に恐ろしい程の人、荷車、物資、ゴーンホーン、
騎乗できるように飼い慣らされたドラゴン(騎竜というらしい)
が集結している光景が広がっていた。
1つの村が大都市に生まれ変わったようで
そうなるまでほんの一日二日程度だと言う事を
聞かされた後でも信じられなかった。
各方面から集結していたそれらは整然と並べられる事で
一見把握しきれないと思われる程の物量であったとしても
次なる進軍や補給に支障が生じないように工夫されていた。
「おぉ‼︎アンちぁぁゃん‼︎おぉぉい‼︎」
どこからか俺を呼ぶ声が聞こえきたので、
そちらの方に笑顔を振りまくと
アグがこちらに向かって駆け寄って来ているのが見えた。
「アグ!アグゥ‼︎」
そう叫んだが早いか
俺は痛みも忘れて両手を広げ、
彼女をしっかりと受け止めた。
「ッ‼︎テテテッッッッ………」
「ア、ごめんごめん…」
「いいや、いいんだ……」
「ニィちゃんも無茶すんなぁ、
俺も傷が治ってる訳じゃねぇのにヨォ…」
アグの背後から別の聞き馴染みある声が聞こえてきた。
「‼︎、ザテット!お前も生きてたか‼︎」
「ニィちゃんが庇ってくれたんだから
死ぬ訳ねぇだろぉ」
「よかった…マテューもいるし……
ほんとぉによかったぁぁ………」
ほんの少し残っていた胸のつかえが全て取れ、
嬉し涙が止めどなく溢れてきた。
するとバンギリーはその気持ちに寄り添うように
掌を俺の背中にポンッと置いてくれたのはいいが、
ズキンッとした痛みが走り、
思わず咳き込んでしまった。
「あんな事になったのに皆生きてて……
こんな豪勢なメシにありつけるなんて…
アグも上手くやったなぁ…」
皿いっぱいに盛られた
肉やら野菜やらを頬張りながら
俺がそう話すと
アグは食う手を止めて話し始めた。
「伊達に盗賊を長くやってる
ワケじゃぁないからねぇ…
とはいえこのメシは報酬の
前払いってところだしなぁ」
「報酬って……
真教派として戦う事と…
引き換えってことか……」
「そういう事…
そもそも連中が偽装した隊商を
あの街道でノロノロと歩かせてたのも
私らみたいな盗賊やらを
兵隊にするつもりだったらしいしねぇ」
「あんだけ撃ったり斬ったりして来たくせに……
兵隊なんか集められんのかよ…」
いまいち筋の通らない話に本当かよといった態度で
聞き返すとアグに変わってバンギリーがこう返した。
「今日、明日はたらふく食えるメシがここにはあるからなぁ、
ノコノコと元の所に帰っていったって
良くてケチな払いで悪けりゃ裏切り者って事で
………ビシュン‼︎…」
右手の中指と人差し指で
首を刎ねる仕草をして見せられると
背骨に沿って何かぬるりと降るような感覚がした。
「ま、そういう事だから
せめて今の内は飽きるまで食っとかないとな」
「……うん…」
さっきよりもほんの少し味気ない飯を
口に運びながら返事をした。
首の皮がほんの少し繋がっただけか…
メシを食った後、1人でそんな事を
ぼんやりと考えながら星空を眺めていると
深い溜め息が漏れ出ていた。
魔法で簡単に生き返れる世界で抱えるのは
おかしい考えかもしれないが、
俺は死にたくも無かったし、
誰にも死んでほしく無かった。
今まで散々力尽きた人間の可哀想な姿、
目の前で今まさに息絶えようとしている人間、
治りかかっている背中の傷、
忘れたくても心に深く根を張り
離れようともしないそういったモノが
俺を酷く臆病にさせていた。
せっかく落ち着いた気持ちで
満天の星空を見上げられると思ったのに
モヤモヤとした感覚と滲んだ目のせいで
綺麗だと思うことすらできなかった。
「おーい!アンちゃーん!」
足元からアグの声が聞こえた。
「うーん⁈」
またズキンッとした痛みが来ないように
ゆっくりと上体を起こしながら返事した。
「なんだって、こんなとこにいるんだよ?
風邪引くぞ、風邪」
「いいじゃんか別に、星ぐらい見たって」
「ふーん…じゃ、私も付き合ってあげようじゃないのさ」
「別に良いけど、ただ眺めてるだけで別に面白い事なんてないぞ」
「それではお隣失礼しまぁす…」
俺はフゥゥン…と鼻から大きくゆっくりと息を吐いた。
「……なぁ…アグ…」
「なに?」
「怖い、死にたくないって思うことって変だろうか?」
「…うーん……どうだろう…」
いきなり変な事を聞いただろうかと不安になり、
何か言おうとした時、
「でも、そう思ったからザテットを守ってくれたんでしょ?」
という答えが返ってきた。
「……そう…なのかな?」
「自分が怖いから誰かにそんな思いさせたくない
助けてあげたいと思うから動けたんじゃない?」
「まぁ……そう…だな…」
口ではそう答えたけど本当はわからなかった、
だから自信を持ってそうだと言えなかった。
でも、それをアグに気づいてほしく無かったから、
空散りばめられた星を眺めながらそう答えるしか無かった。
「…………ありがとう」
「へ?」
「ありがとう、あの子を守ってくれて……」
そういう時と彼女は体を起こし、
膝を抱えて座った。
「私も…あの子も戦災孤児だったの…」
「えっ……」
初めて聞かされた事実にゆっくりとではあったが
自分も上体を起こし彼女の横顔を見つめた。
「私を拾った人は傭兵で私が15になるかならないかの時に死んじゃった。」
「それは……辛い…」
どうにも軽々しく返事できない、
辛いなぁでも辛いよでも
彼女の心には寄り添えないし
寧ろ傷つけてしまいそうで怖かった。
「でも、その時からバンギリーが居てくれたし、
マテューも私の大切な人になってくれたから
路頭に迷わずに済んだ………」
憂いを帯びた彼女の横顔は
普段のはつらつとした表情からは
想像ができないほどに穏やかで美しかった。
「でもね…なんでかわからないけど寂しかったの
2人とも大切な人のはずなのになんだか遠くに感じられて…」
「それでザテットを引き取ったのか…」
「……そう…なのかな…」
「…それは悪い事じゃないよ、
それに俺にお礼を言ったのもザテットがいなくなったら
また独りになるんじゃないかって怖かったんだろ?」
「……そう……かも…」
歯切れの悪い返事を聞いて
今までキュウと締め上げられたように苦しかった胸が
徐々に解れていくのを感じた。
アグも苦しいし辛いんだ、
そう思うとまた涙が止めどなく溢れ落ちてきて、
それを落ち着けるためなのか
俺は彼女の体をギュッと抱き寄せた。
彼女も俺の背中に腕を回し、
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