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第二章 春夏
第三話 海②
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ガシャン、と鋭い衝撃音が走った。はっと目をやれば、かき氷を載せた盆を、七瀬が引っくり返していた。先にテーブルに運ばれてきていた焼きそばやカレーライスが、七色の氷に埋もれている。
「おいおいおい、兄ちゃんよォ。どうしてくれんだよ、コレ。ええ? 弁償だよなァ?」
ガラの悪い男が肩を怒らせて七瀬に絡む。見れば、趣味の悪い柄物の水着に、シロップが飛び散っていた。
「おいコラ、何とか言えや。生意気な面しやがって」
男が七瀬の腕を掴む。左腕。瞬介の腕にも、チリリとした疼きが走った。
気づけば、カウンターを飛び越えていた。七瀬の腕を掴む男の腕を掴んでねじ上げ、背後に七瀬を庇うようにして立ちはだかる。
男は額に血管を浮き上がらせた。このまま殴り合いの喧嘩になるのだろうか。そうなっても構わない。と瞬介が覚悟した時だ。七瀬が瞬介の肩を押し退けた。
「おれの粗相です。申し訳ありません」
七瀬は深々と頭を下げる。
「そんな謝り方じゃあよォ、誠意ってもんが全然伝わってこねぇなァ? 謝ンなら土下座が基本だろうが!」
ガシャン、と椅子が蹴り倒される。瞬介は男に掴みかかった。てめぇふざけんじゃねぇぞ、と喉から出かかった時だった。
オーナーが来て事なきを得た。しがないバイトに過ぎない瞬介と七瀬は奥へ引っ込められ、始末は全てオーナーがつけてくれた。女将さんは、ああいった手合いが湧いてくるのはよくあることだから気に病む必要はないと言ってくれたが、あんな騒ぎを起こしておいて気にせずにいられるほど、瞬介も七瀬も厚い面の皮をしていない。
冷えたラムネを駄賃にもらい、早めにバイトを上がった。遊泳可能時間は過ぎていたが、太陽の青はまだ色濃く残っていた。
夕暮れを待つ浜辺を歩きながら、一口ずつラムネを飲んだ。炭酸が喉を潤し、甘い刺激を与える。波打ち際には、二人の足跡が点々と続いていたが、波が寄せると、海へと攫われて消えてしまう。
西の浅瀬が青く澄んで、まるでこのラムネのようだった。瓶に隠されたビー玉が擦れて、涼しく切ない音を奏でる。
「……あいつら、他にもなんかしてきたの」
あいつら。七瀬に因縁をつけてきた男。一人、女の連れがいた。にやにやと底意地の悪い笑みを浮かべて、携帯のカメラを七瀬に向けていた。
「……呼び込みしてたら絡まれた」
七瀬は淡々と言う。
「ぼさっと突っ立ってたおれも悪いんだが、なんか、女の胸見てただろとか、美人局みたいなことされた」
「あ~。確かに巨乳ではあったな、うん。露出もエグかったし」
顔はどうとしても、スタイルは悪くなかった。水着の女を思い浮かべて瞬介が頷いていると、七瀬は呆れたように笑った。
「猿かよ」
「悪りぃかよ。どうしたって見ちまうだろ、おっぱいは」
「誓っておれは見てなかった。まぁ、見るとはなしに見てた可能性はあるけどな。で、なんか色々脅かすようなことを言われたんだが、おれが謝りもしないもんだから、ムカついたんだろ」
「ああ、目に浮かぶな、その光景」
唾を飛ばしてがなり散らす男。非を認めようとしない七瀬。実際、七瀬に非はないのだ。たとえ脅されたって、やってもいない罪を認める男ではない。
「けど、だからって足引っ掛けてくるなんざ、陰湿だよな」
瞬介が言うと、七瀬は僅かばかり目を見開いた。
「気づいてたのか」
「まぁな。あいつがさっと足引っ込めんの見えたんだ。自分で仕組んどいて被害者面なんて、面の皮が厚いったらねぇよ。どうせなら、頭の上からかき氷ぶっかけてやりゃよかったのに。想像しただけで笑えるぜ」
「確かに」
七瀬はくすっと頬を緩めた。
「けど、んな器用な真似できねぇよ」
「やろうと思えばできるって。次来たら、俺、ソフトクリームで目潰ししてやる」
「はっ、そりゃいいや。目ン玉真っ赤にして泣くだろうな」
「んなダセェ面晒したら、女も愛想尽かすだろ? いい気味だ」
自然と足が速くなる。気づけば、砂浜を駆けていた。まるで野うさぎのように、砂を蹴飛ばし、波を蹴散らして走る。
「灯台まで競走しようぜ」
七瀬が言った。
「灯台ぃ? お前が有利じゃねぇかよっ」
「いいだろ、久しぶりに。ほら、よーいどんだ」
「全然よーいどんじゃねぇから!」
二人とも、既にスタートを切っている。ラムネの空き瓶を振り回して、瞬介は前を走る七瀬を追いかける。
だんだんと息が上がる。胸が逸る。それでも、体は軽い。足がどんどん前に出る。考えるよりも速く、体は勝手に前へ進む。
もう一歩で、七瀬の背に手が触れそうだった。その瞬間、波に足を取られて、七瀬が大きくつんのめった。突然のことにブレーキをかけられなかった瞬介も盛大に転び、七瀬の上へ折り重なるように倒れ込んだ。
「っ、てぇ」
温かい砂の上、二人重なって倒れ伏す。目を開ければ、顔が近い。今にも唇が届きそうな距離に、七瀬の顔があった。
何も言わずに瞬介を見上げる七瀬の瞳に、海の青と夕日の赤が溶け込んでいた。汗ばんだ額に髪が張り付く。隙間に覗く肌は白い。濡れた首筋が、夕日を浴びて艶めいていた。
いつの間にそうしていたのか、バイト中決して脱がないパーカーのファスナーが、半ばほどまで下げられていた。白いパーカーの下に覗く、日に焼けていない白い肌。それは、夏の苛烈な日差しには似つかわしくないほど、生々しく白い。
なぜ日焼けしたくないのかと、以前尋ねたことがある。褐色や小麦色に焼けるのではなく、火傷したみたいに赤くなるだけで、ヒリヒリして痛いから嫌なのだと言っていた。
七瀬が身を捩り、息を呑んだ。瞬介の手は、持ち主の意思を越えて、生々しく白い肌に触れていた。汗に濡れ、火照っている。しっとりと吸い付いてくる。無機質な見た目とは裏腹に、確かに生きている人肌だった。
思わず、唇を寄せた。今、この唇に触れたなら、きっとラムネの味がするだろう。爽やかな甘さが香って、それから、海の匂いがするのだろう。
けれども、唇が重なる寸前だった。七瀬の手が、瞬介の頬に添えられる。やんわりと押し返しながら、七瀬は言った。
「こんなとこではしねぇよ」
味も、匂いも、感触までも、現実感を伴って瞬介の胸に迫っていたのに。たった一言で遠のいてしまった。まるで、屋根まで飛んだシャボン玉が、一瞬にして弾けるみたいに。
瞬介が体を起こすと、七瀬も起き上がって砂を払う。いつの間にか、夕暮れが近づいていた。真っ赤に溶けた太陽が、水平線の向こうへ沈みかけては踏みとどまっている。
「俺ン家? お前ン家でもいいけど」
「どっちでもいいけど……お前ン家のが、気楽だな」
燃える夕日に照らされて、七瀬の輪郭が鮮やかに色づいていく。それがあまりに美しくて、泣きたいくらい美しくて、瞬介は何も言えなかった。
自転車を飛ばして家に帰る。シャワーを浴び、暇潰しに部屋の片付けをしていると、七瀬が訪ねてきた。嗅ぎ慣れたシャンプーの香りを堪能する余裕もなく、乱暴にベッドへねじ伏せる。
「あっ…、ア……っ」
七瀬は枕を抱きしめて、挿入の衝撃に耐える。尻の支度を七瀬がしてきてくれるから、瞬介はただ己の欲をぶつけるのみでいい。瞬介がしていた時期もあったが、七瀬基準では色々と雑らしく、痛いだの下手くそだのと罵られた結果、今の形に落ち着いた。
瞬介にとっては楽でいいが、七瀬の負担はどうなのだろう。シャワーひとつ取ってみても、七瀬は瞬介の倍以上時間をかけている。
「っ、あ……おい、ばか」
七瀬が身を捩じらせて振り返る。瞬介は息を荒げながら、腰の動きは止めない。ゆっくりと円を描くようにしてナカを掻き回す。
「なに。どっか痛ぇの」
「じゃ、なくて、っ……痕、つけんな」
「……」
言われたそばから、瞬介は七瀬の首筋に噛み付いた。押さえ込んだ体がびくりと震える。ナカが甘く引き攣れている。
「やっ、んん……やめろ、って」
「なんで。痛いわけじゃねぇんだろ? むしろ、気持ちいいって感じ?」
「ちがっ、ン……やめっ、やっ」
七瀬が身を捩じらせる度、羽ばたく翼のように陰影を描く肩甲骨。かぶりと噛み付き、歯を立てる。唇を密着させ、薄い肌を強く吸う。七瀬が短く喘ぎながら、抗議の声を上げている。
たっぷり吸って唇を離せば、唾液が細く糸を引いた。真っ白な肩甲骨に、赤い歯型。それから、内出血の赤い痕。まるで己の証を刻み込むようなこの行為には、きっと何の意味もない。
「ばかっ、やめろって言ったのに……服脱げなくなんだろ。あんなバイトしてんのに……」
「脱がなきゃいいじゃん」
瞬介は七瀬の体を引っくり返す。一度抜いた自身を再び沈み込ませると、七瀬はビクビクと腰を浮かせた。
「っ、あぁ……っ」
「つか、今だって別に脱がねぇじゃん。一生このままでいろよ」
「やっ、んぅ……やめろって、もうっ……」
嫌がって体を隠そうとする七瀬の両手首を掴んで布団へ縫い付ける。瞬介は、見せつけるように口を開けて、露わになった鎖骨に噛み付く。乳首に吸い付く。歯を立て、舌を這わせ、皮下の毛細血管に出血を引き起こす。こうすることでしか、繋がった証を残せない。いずれ消える、仮初めの印を残すことでしか、大切なことを伝えられない。
「しゅ、ン…っ、瞬介……っ」
いつの間にか、押さえ付けた両手を握りしめていた。七瀬が手を握り返す。薄い爪が、瞬介の手の甲を引っ掻いた。カリカリと爪を立てられて、きっと跡が残るだろう。
「おいおいおい、兄ちゃんよォ。どうしてくれんだよ、コレ。ええ? 弁償だよなァ?」
ガラの悪い男が肩を怒らせて七瀬に絡む。見れば、趣味の悪い柄物の水着に、シロップが飛び散っていた。
「おいコラ、何とか言えや。生意気な面しやがって」
男が七瀬の腕を掴む。左腕。瞬介の腕にも、チリリとした疼きが走った。
気づけば、カウンターを飛び越えていた。七瀬の腕を掴む男の腕を掴んでねじ上げ、背後に七瀬を庇うようにして立ちはだかる。
男は額に血管を浮き上がらせた。このまま殴り合いの喧嘩になるのだろうか。そうなっても構わない。と瞬介が覚悟した時だ。七瀬が瞬介の肩を押し退けた。
「おれの粗相です。申し訳ありません」
七瀬は深々と頭を下げる。
「そんな謝り方じゃあよォ、誠意ってもんが全然伝わってこねぇなァ? 謝ンなら土下座が基本だろうが!」
ガシャン、と椅子が蹴り倒される。瞬介は男に掴みかかった。てめぇふざけんじゃねぇぞ、と喉から出かかった時だった。
オーナーが来て事なきを得た。しがないバイトに過ぎない瞬介と七瀬は奥へ引っ込められ、始末は全てオーナーがつけてくれた。女将さんは、ああいった手合いが湧いてくるのはよくあることだから気に病む必要はないと言ってくれたが、あんな騒ぎを起こしておいて気にせずにいられるほど、瞬介も七瀬も厚い面の皮をしていない。
冷えたラムネを駄賃にもらい、早めにバイトを上がった。遊泳可能時間は過ぎていたが、太陽の青はまだ色濃く残っていた。
夕暮れを待つ浜辺を歩きながら、一口ずつラムネを飲んだ。炭酸が喉を潤し、甘い刺激を与える。波打ち際には、二人の足跡が点々と続いていたが、波が寄せると、海へと攫われて消えてしまう。
西の浅瀬が青く澄んで、まるでこのラムネのようだった。瓶に隠されたビー玉が擦れて、涼しく切ない音を奏でる。
「……あいつら、他にもなんかしてきたの」
あいつら。七瀬に因縁をつけてきた男。一人、女の連れがいた。にやにやと底意地の悪い笑みを浮かべて、携帯のカメラを七瀬に向けていた。
「……呼び込みしてたら絡まれた」
七瀬は淡々と言う。
「ぼさっと突っ立ってたおれも悪いんだが、なんか、女の胸見てただろとか、美人局みたいなことされた」
「あ~。確かに巨乳ではあったな、うん。露出もエグかったし」
顔はどうとしても、スタイルは悪くなかった。水着の女を思い浮かべて瞬介が頷いていると、七瀬は呆れたように笑った。
「猿かよ」
「悪りぃかよ。どうしたって見ちまうだろ、おっぱいは」
「誓っておれは見てなかった。まぁ、見るとはなしに見てた可能性はあるけどな。で、なんか色々脅かすようなことを言われたんだが、おれが謝りもしないもんだから、ムカついたんだろ」
「ああ、目に浮かぶな、その光景」
唾を飛ばしてがなり散らす男。非を認めようとしない七瀬。実際、七瀬に非はないのだ。たとえ脅されたって、やってもいない罪を認める男ではない。
「けど、だからって足引っ掛けてくるなんざ、陰湿だよな」
瞬介が言うと、七瀬は僅かばかり目を見開いた。
「気づいてたのか」
「まぁな。あいつがさっと足引っ込めんの見えたんだ。自分で仕組んどいて被害者面なんて、面の皮が厚いったらねぇよ。どうせなら、頭の上からかき氷ぶっかけてやりゃよかったのに。想像しただけで笑えるぜ」
「確かに」
七瀬はくすっと頬を緩めた。
「けど、んな器用な真似できねぇよ」
「やろうと思えばできるって。次来たら、俺、ソフトクリームで目潰ししてやる」
「はっ、そりゃいいや。目ン玉真っ赤にして泣くだろうな」
「んなダセェ面晒したら、女も愛想尽かすだろ? いい気味だ」
自然と足が速くなる。気づけば、砂浜を駆けていた。まるで野うさぎのように、砂を蹴飛ばし、波を蹴散らして走る。
「灯台まで競走しようぜ」
七瀬が言った。
「灯台ぃ? お前が有利じゃねぇかよっ」
「いいだろ、久しぶりに。ほら、よーいどんだ」
「全然よーいどんじゃねぇから!」
二人とも、既にスタートを切っている。ラムネの空き瓶を振り回して、瞬介は前を走る七瀬を追いかける。
だんだんと息が上がる。胸が逸る。それでも、体は軽い。足がどんどん前に出る。考えるよりも速く、体は勝手に前へ進む。
もう一歩で、七瀬の背に手が触れそうだった。その瞬間、波に足を取られて、七瀬が大きくつんのめった。突然のことにブレーキをかけられなかった瞬介も盛大に転び、七瀬の上へ折り重なるように倒れ込んだ。
「っ、てぇ」
温かい砂の上、二人重なって倒れ伏す。目を開ければ、顔が近い。今にも唇が届きそうな距離に、七瀬の顔があった。
何も言わずに瞬介を見上げる七瀬の瞳に、海の青と夕日の赤が溶け込んでいた。汗ばんだ額に髪が張り付く。隙間に覗く肌は白い。濡れた首筋が、夕日を浴びて艶めいていた。
いつの間にそうしていたのか、バイト中決して脱がないパーカーのファスナーが、半ばほどまで下げられていた。白いパーカーの下に覗く、日に焼けていない白い肌。それは、夏の苛烈な日差しには似つかわしくないほど、生々しく白い。
なぜ日焼けしたくないのかと、以前尋ねたことがある。褐色や小麦色に焼けるのではなく、火傷したみたいに赤くなるだけで、ヒリヒリして痛いから嫌なのだと言っていた。
七瀬が身を捩り、息を呑んだ。瞬介の手は、持ち主の意思を越えて、生々しく白い肌に触れていた。汗に濡れ、火照っている。しっとりと吸い付いてくる。無機質な見た目とは裏腹に、確かに生きている人肌だった。
思わず、唇を寄せた。今、この唇に触れたなら、きっとラムネの味がするだろう。爽やかな甘さが香って、それから、海の匂いがするのだろう。
けれども、唇が重なる寸前だった。七瀬の手が、瞬介の頬に添えられる。やんわりと押し返しながら、七瀬は言った。
「こんなとこではしねぇよ」
味も、匂いも、感触までも、現実感を伴って瞬介の胸に迫っていたのに。たった一言で遠のいてしまった。まるで、屋根まで飛んだシャボン玉が、一瞬にして弾けるみたいに。
瞬介が体を起こすと、七瀬も起き上がって砂を払う。いつの間にか、夕暮れが近づいていた。真っ赤に溶けた太陽が、水平線の向こうへ沈みかけては踏みとどまっている。
「俺ン家? お前ン家でもいいけど」
「どっちでもいいけど……お前ン家のが、気楽だな」
燃える夕日に照らされて、七瀬の輪郭が鮮やかに色づいていく。それがあまりに美しくて、泣きたいくらい美しくて、瞬介は何も言えなかった。
自転車を飛ばして家に帰る。シャワーを浴び、暇潰しに部屋の片付けをしていると、七瀬が訪ねてきた。嗅ぎ慣れたシャンプーの香りを堪能する余裕もなく、乱暴にベッドへねじ伏せる。
「あっ…、ア……っ」
七瀬は枕を抱きしめて、挿入の衝撃に耐える。尻の支度を七瀬がしてきてくれるから、瞬介はただ己の欲をぶつけるのみでいい。瞬介がしていた時期もあったが、七瀬基準では色々と雑らしく、痛いだの下手くそだのと罵られた結果、今の形に落ち着いた。
瞬介にとっては楽でいいが、七瀬の負担はどうなのだろう。シャワーひとつ取ってみても、七瀬は瞬介の倍以上時間をかけている。
「っ、あ……おい、ばか」
七瀬が身を捩じらせて振り返る。瞬介は息を荒げながら、腰の動きは止めない。ゆっくりと円を描くようにしてナカを掻き回す。
「なに。どっか痛ぇの」
「じゃ、なくて、っ……痕、つけんな」
「……」
言われたそばから、瞬介は七瀬の首筋に噛み付いた。押さえ込んだ体がびくりと震える。ナカが甘く引き攣れている。
「やっ、んん……やめろ、って」
「なんで。痛いわけじゃねぇんだろ? むしろ、気持ちいいって感じ?」
「ちがっ、ン……やめっ、やっ」
七瀬が身を捩じらせる度、羽ばたく翼のように陰影を描く肩甲骨。かぶりと噛み付き、歯を立てる。唇を密着させ、薄い肌を強く吸う。七瀬が短く喘ぎながら、抗議の声を上げている。
たっぷり吸って唇を離せば、唾液が細く糸を引いた。真っ白な肩甲骨に、赤い歯型。それから、内出血の赤い痕。まるで己の証を刻み込むようなこの行為には、きっと何の意味もない。
「ばかっ、やめろって言ったのに……服脱げなくなんだろ。あんなバイトしてんのに……」
「脱がなきゃいいじゃん」
瞬介は七瀬の体を引っくり返す。一度抜いた自身を再び沈み込ませると、七瀬はビクビクと腰を浮かせた。
「っ、あぁ……っ」
「つか、今だって別に脱がねぇじゃん。一生このままでいろよ」
「やっ、んぅ……やめろって、もうっ……」
嫌がって体を隠そうとする七瀬の両手首を掴んで布団へ縫い付ける。瞬介は、見せつけるように口を開けて、露わになった鎖骨に噛み付く。乳首に吸い付く。歯を立て、舌を這わせ、皮下の毛細血管に出血を引き起こす。こうすることでしか、繋がった証を残せない。いずれ消える、仮初めの印を残すことでしか、大切なことを伝えられない。
「しゅ、ン…っ、瞬介……っ」
いつの間にか、押さえ付けた両手を握りしめていた。七瀬が手を握り返す。薄い爪が、瞬介の手の甲を引っ掻いた。カリカリと爪を立てられて、きっと跡が残るだろう。
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