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第二章
閑話1 朝寝坊
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床が軋む音と、外の空気が入って来た気配で目が覚める。ちらと片目を薄く開けると、ジャウマさんが部屋から出ていくところで、すぐに扉は静かに閉まった。
窓の外をみると、ほんのりと明るくなりかけているくらいの時間で。このまま起きてもいいんだろうけれど、まだもう少し寝ていたくて布団をかぶり直した。
朝が一番早いのはジャウマさんだ。多分、誰よりも早く起きている。いつもは、僕が朝の雑用仕事をしているころに、朝のトレーニングから帰ってくる。
セリオンさんも起きるのは早いけれど、ジャウマさんほどではないらしい。曰く、「ジャウマが静かに起きないから目が覚めてしまう」のだそうだ。それを聞いて、ヴィーさんが「神経質だよなぁ」と笑いながら言った。
反対に、ヴィーさんは朝起きるのが遅い。放っておけばいつまでも寝ているんじゃないかと思うくらいに、よく寝ている。大抵は、アリアちゃんが朝ごはんの時間だと言ってヴィーさんの顔をぺちぺちと叩いて起こす。
多分、夜遅くまで飲み歩いている所為だと思うんだけどな。寝るのが遅けりゃ、そりゃあ朝もつらくなるよ。せめてもう少し、早く帰ってくればいいのに。
やっと顔だけ洗って朝食の席についたヴィーさんに、朝の挨拶をすると、彼はまだ眠そうに大あくびをしながら、手を挙げて応えた。
* * *
旅の間はほぼ歩き詰めだ。たった半年でも冒険者として活動していて、以前よりは体力がついたと思っていた僕はまだまだ甘かった。
ようやく次の町に着き、夕飯を食べて宿に入る。ベッドに倒れ込むと、もう指先も動かせなくなっていた。
「じゃ、俺は飲みに行ってくるわ」
上機嫌な声の後で扉の閉まる音がした。昨日の町でも飲みにいったって言うのに。ヴィーさんは今晩も飲みにいくらしい。元気だなあ。
そんなことを考えながらも、瞼の重さに勝てずに目を閉じると、意識は深いところに沈んでいった。
* * *
今朝も僕が起きる頃には、ジャウマさんとセリオンさんはすでに起きていた。いつものように朝の洗濯をしていると、アリアちゃんが水場までやってきた。
「アリアちゃんおはよう、早起きだね」
そう挨拶をするも、なんだかアリアちゃんの様子がおかしい。
「どうしたの?」
「ヴィーパパが、頭いたいんだってー」
そう言ってアリアちゃんは、濡らしたタオルを軽く絞った。
昨日までは何ともない様子だったけれど、風邪でもひいたのだろうか。そう思ってアリアちゃんと一緒に部屋に戻ると、ジャウマさんとセリオンさんも帰ってきていた。
セリオンさんが魔法で出したのだろ、氷水の入ったカップをヴィーさんに手渡している。
「まったく、酒が苦手なのに、無理をするからだ」
「えっ!?」
セリオンさんから意外な言葉が飛び出して、耳を疑った。
酒が苦手って…… ヴィーさんが?? 昨日も一昨日も飲みにいったのに、何かの冗談じゃないのか?
アリアちゃんが心配そうにヴィーさんに駆け寄って、濡らしたタオルを渡す。ヴィーさんは愛想笑いをしてタオルを受け取ると、額にあててはーっとため息を吐いた。
「まあ、基本的には私たちの体に毒は効かないからな。でもさすがに量が過ぎれば、体が毒を分解しきれずダメージを食らうんだぞ」
そう言いながら、セリオンさんはヴィーさんに向けて回復魔法を放つ。
「悪いな。セリオン」
「……お前のようなことは、私にはできないからな」
……ヴィーさんは、何をしているんだろう?
多分、僕がぽかんとしていたからだろう、隣に来たアリアちゃんが小さい声で僕に言った。
「んとね、ヴィーパパはお仕事でお酒を飲んでるんだよ」
「お仕事?」
ねーと、ジャウマさんの方を見る。
「ああ、町の連中から色々な情報を聞き出すには、酒の席が一番だからな」
つまり、ヴィーさんはお酒が苦手なのに、情報収集の為にわざわざ酒場に出かけているのか。だから、ジャウマさんもセリオンさんも、ヴィーさんの帰りが遅くても、朝寝坊しても何も言わなかったのか……
* * *
「んーっとね、ここらへん?」
アリアちゃんが、可愛い指で地図の一部を指さす。どうやらそこが次の目的地らしい。
「こりゃ国境を越えるようだなぁ」
ジャウマさんの隣で、地図を覗き込んでいたヴィーさんが、ある場所を指さしながら言った。
「この辺りは隣国の内紛の煽りを受けて、かなり混乱しているそうだ。遠回りになるがこの道を行く方がいいんじゃねえか」
「アリアもラウルもいるしな」
今なら、ヴィーさんがその話をどこで聞いてきたのを知っている。でもセリオンさんが言うには、飲みの目的の半分は趣味だそうだけど。
「遠回りするのー?」
「ああ、アリア。こっちの道の途中の町には美味しいケーキ屋があるんだってよ」
ヴィーさんの言葉に、アリアちゃんの顔がパーッと輝いた。
「アリア、ケーキが食べたい!!」
「決まりだな!」
アリアちゃんが嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。それを見て、皆で笑った。
窓の外をみると、ほんのりと明るくなりかけているくらいの時間で。このまま起きてもいいんだろうけれど、まだもう少し寝ていたくて布団をかぶり直した。
朝が一番早いのはジャウマさんだ。多分、誰よりも早く起きている。いつもは、僕が朝の雑用仕事をしているころに、朝のトレーニングから帰ってくる。
セリオンさんも起きるのは早いけれど、ジャウマさんほどではないらしい。曰く、「ジャウマが静かに起きないから目が覚めてしまう」のだそうだ。それを聞いて、ヴィーさんが「神経質だよなぁ」と笑いながら言った。
反対に、ヴィーさんは朝起きるのが遅い。放っておけばいつまでも寝ているんじゃないかと思うくらいに、よく寝ている。大抵は、アリアちゃんが朝ごはんの時間だと言ってヴィーさんの顔をぺちぺちと叩いて起こす。
多分、夜遅くまで飲み歩いている所為だと思うんだけどな。寝るのが遅けりゃ、そりゃあ朝もつらくなるよ。せめてもう少し、早く帰ってくればいいのに。
やっと顔だけ洗って朝食の席についたヴィーさんに、朝の挨拶をすると、彼はまだ眠そうに大あくびをしながら、手を挙げて応えた。
* * *
旅の間はほぼ歩き詰めだ。たった半年でも冒険者として活動していて、以前よりは体力がついたと思っていた僕はまだまだ甘かった。
ようやく次の町に着き、夕飯を食べて宿に入る。ベッドに倒れ込むと、もう指先も動かせなくなっていた。
「じゃ、俺は飲みに行ってくるわ」
上機嫌な声の後で扉の閉まる音がした。昨日の町でも飲みにいったって言うのに。ヴィーさんは今晩も飲みにいくらしい。元気だなあ。
そんなことを考えながらも、瞼の重さに勝てずに目を閉じると、意識は深いところに沈んでいった。
* * *
今朝も僕が起きる頃には、ジャウマさんとセリオンさんはすでに起きていた。いつものように朝の洗濯をしていると、アリアちゃんが水場までやってきた。
「アリアちゃんおはよう、早起きだね」
そう挨拶をするも、なんだかアリアちゃんの様子がおかしい。
「どうしたの?」
「ヴィーパパが、頭いたいんだってー」
そう言ってアリアちゃんは、濡らしたタオルを軽く絞った。
昨日までは何ともない様子だったけれど、風邪でもひいたのだろうか。そう思ってアリアちゃんと一緒に部屋に戻ると、ジャウマさんとセリオンさんも帰ってきていた。
セリオンさんが魔法で出したのだろ、氷水の入ったカップをヴィーさんに手渡している。
「まったく、酒が苦手なのに、無理をするからだ」
「えっ!?」
セリオンさんから意外な言葉が飛び出して、耳を疑った。
酒が苦手って…… ヴィーさんが?? 昨日も一昨日も飲みにいったのに、何かの冗談じゃないのか?
アリアちゃんが心配そうにヴィーさんに駆け寄って、濡らしたタオルを渡す。ヴィーさんは愛想笑いをしてタオルを受け取ると、額にあててはーっとため息を吐いた。
「まあ、基本的には私たちの体に毒は効かないからな。でもさすがに量が過ぎれば、体が毒を分解しきれずダメージを食らうんだぞ」
そう言いながら、セリオンさんはヴィーさんに向けて回復魔法を放つ。
「悪いな。セリオン」
「……お前のようなことは、私にはできないからな」
……ヴィーさんは、何をしているんだろう?
多分、僕がぽかんとしていたからだろう、隣に来たアリアちゃんが小さい声で僕に言った。
「んとね、ヴィーパパはお仕事でお酒を飲んでるんだよ」
「お仕事?」
ねーと、ジャウマさんの方を見る。
「ああ、町の連中から色々な情報を聞き出すには、酒の席が一番だからな」
つまり、ヴィーさんはお酒が苦手なのに、情報収集の為にわざわざ酒場に出かけているのか。だから、ジャウマさんもセリオンさんも、ヴィーさんの帰りが遅くても、朝寝坊しても何も言わなかったのか……
* * *
「んーっとね、ここらへん?」
アリアちゃんが、可愛い指で地図の一部を指さす。どうやらそこが次の目的地らしい。
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「この辺りは隣国の内紛の煽りを受けて、かなり混乱しているそうだ。遠回りになるがこの道を行く方がいいんじゃねえか」
「アリアもラウルもいるしな」
今なら、ヴィーさんがその話をどこで聞いてきたのを知っている。でもセリオンさんが言うには、飲みの目的の半分は趣味だそうだけど。
「遠回りするのー?」
「ああ、アリア。こっちの道の途中の町には美味しいケーキ屋があるんだってよ」
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