招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第三章

3-3 毒草集めの依頼を受ける

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 今は朝一番。多くの冒険者が依頼を受けようと冒険者ギルドに集まる時間のはずだ。
 それなのに、思ったよりもにぎわっていない。町の大きさに比べると明らかに冒険者の数が少ない。

「高ランクの冒険者がよりつかねえって言ってたな」
 ああ、そうだ。確かにギルド長がそんなことを言っていた。

 3人の後から付いて行き、真似をして依頼掲示板をのぞき込む。
「あれ……?」
 他の町では必ず見かけるような、薬草採集の依頼が貼り出されていない。ついでに言うと、兎や鳥、鹿の狩猟などの、駆け出し冒険者が進んで受けるような依頼も一つも無かった。

「すみません、低ランク向けの依頼は全て埋まってしまって……」
 受付のおねえさんが申し訳なさそうに説明をしてくれる。
 この状況も、ギルド長が言っていた月牙狼ルナファングが原因らしい。
 高ランク冒険者たちは町には居ない。町に残っている中ランクまでの冒険者たちも、安全を求めてか町の近場の依頼にばかり手を伸ばすのだそうだ。

「今、残っている採集依頼はこのくらいしかないんです」
 受付嬢さんが指差したのは、毒草の採集依頼だった。
「ああ、じゃあ僕はこれをやってきます」
「大丈夫ですか? 毒草の採集は正しい知識がないと――」
 正しい知識もなく間違った扱いをすると、自身に危険が及ぶと、そう言いたいのだろう。
「大丈夫です。この毒草なら何度か採集依頼の経験がありますし、わかりますから」
 掲示板から依頼票を取り、受付嬢さんに言った。

 僕はアリアちゃんを連れて毒草の採集に、ジャウマさんたちは、ギルド長に頼まれた通りに高ランクの依頼を片付けにいくことになった。

「僕らの方が先に町に戻れそうですね。何かしておくこととかはありますか?」
「そうだな。町を見て回って、もしも何か気になることがあったら教えてほしい」
 町についたのは遅い時間だったので、確かにまだ町を見回っていない。でも多分それだけじゃない。先に戻った僕らが気兼ねなく町中まちなかを歩きまわれるように、そう言ってくれたんだろう。

 * * *

「はい、こちらで依頼は完了です。お疲れ様でした」
 冒険者ギルドに毒草を納品すると、まだ日は高いというのに依頼は完了してしまった。
 ついでに見つけた薬草も採集してきた。でも今日の分は足りているので買取もないそうだ。これは自分の調合用に使おうと、またバッグにしまった。

 近場の依頼ならもう一度行けるだろうと思ったけれど、掲示板に貼り出されているのは、ちょっと面倒な採集依頼か中位以上の魔獣討伐依頼ばかりだった。面倒な採集に出掛けると帰りが遅くなってしまうし、魔獣の討伐をするにはランクはもちろん実力が足りない。

「ラウルおにいちゃん、町を見てまわろうー」
 アリアちゃんが嬉しそうに僕の腕を引っ張る。そっちの方が楽しみみたいだ。
「そうだね、ちょっと町を散歩してこよう」


 それなりの広さがある町だけれど、店はそんなに多くない。先ほどまで居た冒険者ギルドのある区域が、町の中心街らしい。

 今朝のうちに宿のおかみさんに聞いておいた、町に二軒あるという食堂は、中心街のちょうど両端あたりに一軒ずつあった。
 さっきあちら側で見かけた店には酒の絵が描かれた看板がかけてあったので、酒場を兼ねているんだろう。こちらの店にはそれらしい看板はない。

「ラウルおにいちゃん、なんかいい匂いがするよぉ」
 アリアちゃんが、可愛い鼻をひくひくさせながら言う。たしかに、美味しそうな甘い匂いが漂ってくる。彼女の黒兎の耳が、ぴょこんと跳ねた。
「あ! これ、ケーキの匂いだぁ」
 ああ、そうだ。甘いカステラの匂いが漂ってくる。

「ラウルおにいちゃん、美味しそうだねぇー」
 アリアちゃんが僕の顔色をうかがうように見上げる。匂いにかれてたまらないらしい。その様子が可愛くて微笑ましくなってしまった。
 おやつの時間は少し過ぎているが、夕飯にはまだ時間がある。
「そうだね、気になるからちょっと寄って行こうか?」
 そういうと、アリアちゃんは嬉しそうにはしゃいで飛び跳ねた。

 * * *

 食堂の扉を開けると、他に客はいないようだった。客だけでなく、店員らしき人の姿も見当たらない。
「こんにちはー やっていますか?」
 声を上げると奥からばたばたと物音がして、店の人らしい優しそうなおじさんとおばさんが顔を覗かせた。
「すみません、お茶を頂きたくて」

 僕の言葉を聞いて、二人とも人の好さそうな笑みを見せた。
「ああ、大丈夫だ。好きなところに座るといい」
「ねえ、ケーキがあるのー?」
 アリアちゃんはこの甘い匂いが気になって仕方ないらしい。
 無邪気な様子に、おばさんがくすりと笑う。
「ああ、ちょうど厨房でケーキを焼いていたのよ。ごめんね、手伝いの子が急に休んだもので人手がなくて。少し待っててもらえるかい?」
 僕らを席に座るように促すと、おばさんは厨房ちゅうぼうに戻っていった。

 しばらく待っていると、果物の香りがするお茶と、クリームを添えたケーキが運ばれてきた。それを見たアリアちゃんの目が心なしかキラキラと輝いている。
 さっきの採集依頼の合間に、大きなサイドイッチをしっかり食べてきたはずなのに。運ばれたお茶とケーキの甘い香りで、ぐうとお腹が鳴った。


 お腹と心が満足した頃には、早い夕食を求めたお客さんが店に来はじめていた。
 さほど広くないホールでは、おばさんが一人で注文を集め、配膳にまわっていて、バタバタと忙しそうだ。奥からおじさんの声が聞こえるので、厨房はおじさんが一人担っているんだろう。

「そう言えば、手伝いの人が急に休んだって言ってたよな……」
 誰にでもない呟きが、口から洩れた。
「お手伝いするー?」
 アリアちゃんも僕と同じことを考えていたらしい。
「うん、おばさんに言ってみよう」
 僕の言葉に、アリアちゃんは嬉しそうに頷いた。
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