招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第三章

3-4 食堂の手伝いをする

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「おや、可愛い給仕さんだね。おかみさん、もしかしてお孫さんかい?」
「あはは、だったら良いんだけどねえ。臨時の手伝いバイトさんだよ」
 常連のお客さんとそんな会話が交わされるのは何回目だろうか。

 僕はともかく、まだ幼いアリアちゃんが一生懸命手伝う姿はとても目をひく。そうでなくても、アリアちゃんは可愛いもんな。

「おーい、ラウル! これを運んでくれ!」
「はーい!」
 厨房ちゅうぼうからの声で出来上がった食事を配膳するのは僕の役目。アリアちゃんは食事の後の食器を下げるのが仕事だ。
 給仕の仕事をするなんて生まれて初めてだ。アリアちゃんももちろん初めてだそうだけれど、とても楽しそうだ。

「おい、知ってるか? ――」
 慌しい時間の合間にふぅと一息ついたときに、近くの席の旅人の会話が耳に入ってきた。

 旅の途中で魔獣の噂を聞いただとか、どこぞの国のお貴族様が変わった魔導具を探しているだとか、ある町で盗賊団が捕まったらしいだとか、話の内容は様々だ。その噂話の中には、件の月牙狼ルナファングの話もある。
 ちょっと耳をそばだてれば、そんな話は店内のあちらこちらから聞こえてきた。

 僕ら一行の情報集めは、主にジャウマさんたち3人がその時の状況に合わせて担っている。
 冒険者の間に回っている情報はジャウマさんが集める。ヴィーさんは夜の町での情報収集が得意なんだそうだ。貴族やお偉いさんが相手の時にはセリオンさんが行く。

 僕にはあの3人のような真似は、とてもじゃないけれど出来ない。でも、今の噂話はもしかしたら少しは皆の役に立つんじゃないだろうか。

 * * *

 この店は夜遅くなる前に営業を終えるのだそうだ。
「息子が居た時ならともかく、こんな年寄りだけじゃあ遅い時間までは厳しくてねぇ」
 おばさんがそう言った時に、ちょっと寂しそうな目をしていたように思えた。

 居た、ということは、今はその息子さんは居ないのだろう。その先は詳しく聞いてはいけないような、そんな気がした。


 土産にと持たせてくれたケーキを持って、二人で宿に戻った。ジャウマさんたち3人は、夕食はもう一つの食堂――というか、酒場で済ませてきたそうだ。
 でもジャウマさんいわく、有用な情報はほとんど聞けなかったそうだ。
「町の連中はどうでもいいような話しかしてくれなくてな」

 ヴィーさんも、好みの女性がいなかったと、ちょっと不機嫌そうだった。でもそれって、情報とは関係ないと思う。うん。
 セリオンさんは特に何も語らない。ヴィーさんによると、アリアちゃんが居なかったからか下心のある女性が次々と寄ってきて、かなりモテていたらしい。だから、セリオンさんはずっと不機嫌だったそうだ。まあ、それは想像がつく。

「あの…… 食堂に来ていた旅の人が、月牙狼ルナファングの話をしていて……」
 僕が食堂で聞いた噂話を3人に伝える。
 月牙狼ルナファングは元々は隣の町に向かう途中の森の奥に住んでいたらしい。その頃は人間の生活を脅かすようなことはなかった。それが何の理由か、この町に現れるようになり――

「最初に討伐の依頼を受けた冒険者は、その森の奥で月牙狼ルナファングを仕留めたと、うそをついて町の皆をだましたんだそうです」
「嘘、ということは、月牙狼ルナファングは倒されなかったんだな」
「はい、しかもその後も失敗続きで…… だから町の皆は冒険者をあまり信用しなくなっているらしいです……」

「なるほど、それで酒場の連中はよそよそしかったんだな」
 そう言って、ヴィーさんはうんうんとうなずいた。よかった、どうやら役に立てたらしい。

「それで、しばらくの間そのご夫婦の食堂の手伝いをすることになったんですけど……」
 反対はされないと思うんだけど…… でも、少しだけ不安を抱えながら伝える。
「まあ、このギルドだとお前が受けられる依頼も少ないしな。それにいい経験になるんじゃないか」
 ジャウマさんは笑いながらそう言って、賛成してくれた。
 よかった。アリアちゃんとニッコリと顔を見合わせた。

 * * *

 僕とアリアちゃんが食堂の手伝いを始めて三日目の今日は、昼も夜も食堂はお休みだそうだ。アリアちゃんは、食堂の美味しいごはんとケーキが食べられないことにちょっと不満そうだ。

 でも冒険者ギルドで久しぶりに薬草採集の依頼を受けることができると、アリアちゃんのご機嫌が戻ってきた。
 薬草と違って、毒草はアリアちゃんには触らせられなかったからね。薬草ならアリアちゃんも一緒に採集できる。今から大張り切りの様子だ。

 今日集める薬草は、浅い茂みの合間に生えていることが多い。草原の小道から少し離れたあたりの茂みを選んでかき分ける。
 ふと人の声が聞こえ、何の気なしにそちらに目を向けた。ちょうど狩りの帰り道らしい冒険者が獲物を抱えて町に向かっているところだった。

 その背中には2羽の大きな鳥。ずんぐりした灰色の体、頭のてっぺんにだけ黄色い長い羽根がフサフサと逆立って生えている。あれはカンムリ鳥だ。そういえば狩猟依頼がギルドに貼りだしてあったっけ。
 カンムリ鳥か…… そう言えば……

「おにいちゃん、どうしたの?」
 アリアちゃんに声をかけられてハッと気づいた。

「ああ、うん。あの人たち、カンムリ鳥を捕まえてきたみたいだ」
 そう言うと、僕が見ている先にアリアちゃんも視線を向けた。
「あの鳥はリュフタケを食べるんだよ。この近くでカンムリ鳥を捕まえたのなら、もしかしたらリュフタケもあるんじゃないかなって思って」

「キノコ? ギルドに貼ってあったやつ?」
 一緒に掲示板で採集依頼の依頼票を探していたので、アリアちゃんも覚えていたらしい。
「うん、あれなら僕でも採集できるし。でもちょっと町から離れてしまうから、どうしようかと思って」
「行ってみようよー」
 アリアちゃんが楽しそうに言って、今日の二つ目の目標が決まった。
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