招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第八章

8-1 目覚め

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「……え? これがアリアちゃん……?」
 自分の目を疑った。

 ヴィーさんと王都に出掛ける前、ここを訪れて見たアリアちゃんは、前のままの5歳くらいの少女の姿だったはずだ。

 でも今僕の目の前で、卵のような不思議なベッドに横たわっている少女は、10歳くらいの姿に見える。

 その面差しも、金の髪と頭から出ている黒兎の耳も、確かに見覚えのあるアリアちゃんのものに違いない。
 でも成長した所為せいなのか、彼女を包み込む雰囲気が以前とは違う気がした。そして、そのことに何故だか緊張している自分が居る。

「今回はだいぶ育ったな」
「ああ」
 ジャウマさんとヴィーさんが話している。
 『今回は』ということは、今までもこんな風にアリアちゃんは眠って、彼ら3人はそれを見守って、そしてアリアちゃんはこうして成長していたのだろう。

「クゥ!」
 僕の隣で一緒にアリアちゃんを見ていたクーが、部屋の入口に向かって嬉しそうな声を上げた。
 揃えたように皆がそちらを見る。遅れたセリオンさんが部屋に入ってきたところだった。

 うん、なんだろう? いつものセリオンさんと雰囲気が違う。
 セリオンさんが着ているのは、いつもの魔法使い用のローブではない。まるで騎士のように見える服を着ている。
 でも以前に僕が見せてもらった騎士団の頃の服装は、これではなかった筈だ。

「おい、どういうつもりだ?」
 ヴィーさんは明らかに不機嫌そうに、セリオンさんに言葉をぶつけた。
「アリアを悲しませるつもりか? すぐに着替えろ」
 ……それは、どういう意味だろう? 着ている服の所為で、アリアちゃんが嫌がるようなことがあるんだろうか?

 気になって自分の服を見る。今着ているのは、先日王都で買ってきたばかりの新しい服だ。
 皆と旅をしている間に僕も背が伸びた。故郷から持ってきた服は、すっかり丈が短くなっていた。
 これは特に奇抜な服ではないし、ヴィーさんもいいなと褒めてくれた。今も特に言われていないし、大丈夫、だよな。

 僕が一人でそんな心配をしている間にも、まだヴィーさんとセリオンさんは話している。
 ヴィーさんに着替えろと言われても、セリオンさんは部屋を出ていく様子はない。納得していないんだろう。
 僕にも、何故セリオンさんが着替えないといけないかはわからない。

「セリオン、アリアを正装で迎えたいという気持ちはわかる。でも今のアリアが俺たちをどう呼んで、どう慕っているのか、それはわかっているだろう? ヴィーの言う通り、今はまだそれを着る時じゃない。せめて上着を脱いで、タイを外すんだ」

 ジャウマさんは『正装』と言った。あれは何の『正装』なんだろうか?

 セリオンさんは、少しだけ迷っているように見えたが、すぐに観念したように上着を脱いだ。次いでタイを外すと、部屋の隅に控えていたゴーレムを呼びつけて託す。ゴーレムはセリオンさんの服を抱えると、小走りで部屋を飛び出していった。

「チッ」
 それでもまだ気に入らないのだろう。ヴィーさんは皆に聞こえるような声で舌打ちをした。
 そのままドカドカと乱暴な足音をさせながら、セリオンさんに歩み寄る。セリオンさんの白いシャツに手を掛けて、首元まで止めてあったボタンを三つほど外し、さらにズボンに入れてあったシャツの裾を外に引っ張り出した。

「これなら正装にゃ見えねえよ」
 やっぱり面白くは無さそうにそう言ってセリオンさんから手を離すと、ヴィーさんは元居た位置に戻った。そして再び、部屋の中央にあるベッドをじっと見つめる。

 僕らが見つめる先で、ベッドの上のアリアちゃんのまぶたがぴくりと震えた。

 * * *

 ゆったりとしたワンピースを着た兎耳の少女は、ベッドの上で身を起こすとゆっくりと僕らの方を見回した。
「アリア、体調はどうだ? おかしいところはないか?」
 彼女の顔を覗き込むようにして、ジャウマさんが優しい言葉をかける。

「ジャウパパ」
 その名を呼んで、アリアちゃんは嬉しそうに微笑んだ。

「ほら、言っただろう」
「……ああ、すまない」
 その姿を見ていたヴィーさんとセリオンさんが、こそりと交わした言葉が耳に届いた。
 その声に、アリアちゃんも二人の方を見る。
「セリパパ、いつもと感じが違う……?」

「あ、いや……これは……」
「セリオンは、お前の事を心配してずっと付き添ってたんだ。お陰で服の洗濯もままならなくてな。騎士団の時の服を引っ張り出してきたんだと」

 言い訳をしようとするセリオンさんの言葉に被せるように、ヴィーさんが説明する。

「そうなんだ? セリパパ、ごめんね」
「いや、お前が無事ならいいんだ。余計な心配だったな」

 さっきはセリオンさんに向かって不満そうにしていたくせに、ヴィーさんは意外にまともな嘘をついた。
 理由はわからないけれど、そうしないとアリアちゃんが悲しむからだろう。

 次いでヴィーさんに目一杯頭を撫でられて、すっかり3人のパパを堪能したアリアちゃんは、最後に僕の方をみてにっこりと笑った。
「ラウル!」
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