91 / 135
第八章
8-7 森の奥の遺跡
しおりを挟む
アリアちゃんの「頑張ろう」の言葉に力強く返事をしたはずの僕は、このダンジョンに足を踏み入れても殆ど出る幕が無かった。
何せ、今はジャウマさん、ヴィーさんだけでなくセリオンさんまで揃っている。さらに僕との訓練で経験を積んだ、月牙狼のクーも、今ではとても頼もしい。
「ラウル、アリアを頼んだぞ」
「は、はい!!」
ダンジョンに入る前にヴィーさんがああして声を掛けてくれたのは、今にして思えば役に立たない僕に対するせめてものフォローだったのかもしれない。
前後をジャウマさんとセリオンさんに守られ、横にはクーが付いている。僕がしている事と言えば、アリアちゃんに手を握られているだけだ。
そのアリアちゃんも不安そうな様子はない。あの3人の強さを信頼しているからだろう。それは僕も同じだ。
でもだからこそ、今こうして手を繋いでいる理由が、アリアちゃんの為なのか僕の為なのか、自分でもわからなくなってくる。
そんな僕の気持ちを知らずに、アリアちゃんは僕を見上げて笑顔で繋いだ手を揺らした。
「このダンジョンは、まるで『城』だな……」
少し前を行くセリオンさんが辺りを観察しながら、誰に言うでもなく小さな声で言った。
「城、ですか?」
この世界のダンジョンは、元々は魔族の世界の一部だったと聞いた。もちろん、遺跡の様相をしたこのダンジョンもそうなのだろう。
「このダンジョンの元は、魔族の城だったってことですか?」
そう考えるのが自然だ。
「いや、違う。俺たちと一緒にこの世界にきた『城』は2つしかない。そのうちひとつは俺たちの滞在しているアリアの城、もう一つは――」
ジャウマさんの言葉の続きは、さすがの僕にも予想がつく。魔族の中で城に住まうべき存在。全ての魔族を統べる者……
「『魔王』の城だ」
「……でも、ここは『魔王』の城ではないんですね」
「そうだ。だが、セリオンが言うように、やけに『城』に似すぎている」
先頭を歩くヴィーさんも、訝し気な様子で言った。
そこからしばらく歩き、何度目かの魔獣との戦闘を経て、何度目かの分かれ道に差し掛かったところで、ヴィーさんが立ち止まった。
「……なんか、道が違えな」
「ああ、そうだな。おそらくここはさっきも通った道だ」
ヴィーさんの言葉に、セリオンさんが応える。
「ってことは、僕らは迷ってるんですか?」
「ああ、そうだ。これもみんなヴィジェスの所為だな」
「クゥ!」
まるでセリオンさんに賛同するように、クーが鳴いた。それを聞いて、ヴィーさんは面白くなさそうな顔で僕らを睨みつけた。
いや、僕はヴィーさんの所為だとか一言も言ってないんだけどな……
「何者かが道を歪めているんだ。おそらく、この奥にいる『黒い魔獣』だろう。アリア、何かわかるか?」
ジャウマさんに名前を呼ばれたアリアちゃんは、腕を組んでうーーんと首を捻った。
「なんとなく、だけど、こっちの方が魔力が濃いんじゃないかと思うの」
アリアちゃんは、とことこと今来た道を少し戻ると、柱の陰を覗き込む。そこには路地裏のような細い通路があった。
「ヴィー」
「よっしゃ、行ってみるか」
まるで命令をするように、ジャウマさんがヴィーさんを呼ぶ。それが当たり前のように返事をすると、ヴィーさんはその通路に足を踏み入れた。
この通路はここまで来た道と違い、人ひとりがやっと通れるくらいの幅しかない。体の大きいジャウマさんには少し通りにくいようで、体を斜めにしながら僕らの後を付いてくる。
その通路を抜けると、少しだけ広い部屋になっていた。
正面に大きな石造りの扉があり、その扉の上に翼をもった生き物のような彫像が飾られている。
「この扉か。いかにもって感じだな」
そう言って、ヴィーさんがその扉に掛けようと手を伸ばした。
「ヴィーパパ、違うよ」
「へ?」
「こっち。この先みたい」
アリアちゃんが指さしたのは、扉とは別の方向の何の飾り気もない、ひびだけが入っている石壁だった。
拍子の抜けたような顔をしていたヴィーさんは、普段の顔に戻ってその壁に歩み寄る。
「ひびが入っている。おそらく脆くなっているだろう。ヴィー、気を付けろよ」
セリオンさんの言葉に、そちらを見ながらヴィーさんはへへっと鼻で笑う。
「わーってるって、まあ俺に任せ…… うわっ!!」
余所見をしていた所為で、転がっていた石につまづいたヴィーさんが驚いた声をあげる。
そのまま前につんのめると、ひびの入っていた壁に体ごとぶつかった。その壁がヴィーさんが当たったところから、不自然に大きく崩れる。
「うわっ!」
さらに崩れた石壁が大小の無数の石礫と砂埃となって、ヴィーさんの上に降り注いだ。
「ヴィーパパ!」
「待て、アリア。前に出てはだめだ!」
駆け寄ろうとしたアリアちゃんに、ジャウマさんが声をあげる。その声を聞いて、慌ててアリアちゃんの手を取って引き戻した。
「グウゥウウウ!」
何かに気付いたらしいクーが、警戒の声を上げる。
次の瞬間、崩れた石壁から小さい何かが飛び出してきた。ネズミのようなウサギのような、小さなもふもふは一匹ではない、次から次へと飛び出してくる。
「うわあああ!」
わらわらと出てきたそいつは、瓦礫に埋もれかけているヴィーさんに次々と襲い掛かった。
何せ、今はジャウマさん、ヴィーさんだけでなくセリオンさんまで揃っている。さらに僕との訓練で経験を積んだ、月牙狼のクーも、今ではとても頼もしい。
「ラウル、アリアを頼んだぞ」
「は、はい!!」
ダンジョンに入る前にヴィーさんがああして声を掛けてくれたのは、今にして思えば役に立たない僕に対するせめてものフォローだったのかもしれない。
前後をジャウマさんとセリオンさんに守られ、横にはクーが付いている。僕がしている事と言えば、アリアちゃんに手を握られているだけだ。
そのアリアちゃんも不安そうな様子はない。あの3人の強さを信頼しているからだろう。それは僕も同じだ。
でもだからこそ、今こうして手を繋いでいる理由が、アリアちゃんの為なのか僕の為なのか、自分でもわからなくなってくる。
そんな僕の気持ちを知らずに、アリアちゃんは僕を見上げて笑顔で繋いだ手を揺らした。
「このダンジョンは、まるで『城』だな……」
少し前を行くセリオンさんが辺りを観察しながら、誰に言うでもなく小さな声で言った。
「城、ですか?」
この世界のダンジョンは、元々は魔族の世界の一部だったと聞いた。もちろん、遺跡の様相をしたこのダンジョンもそうなのだろう。
「このダンジョンの元は、魔族の城だったってことですか?」
そう考えるのが自然だ。
「いや、違う。俺たちと一緒にこの世界にきた『城』は2つしかない。そのうちひとつは俺たちの滞在しているアリアの城、もう一つは――」
ジャウマさんの言葉の続きは、さすがの僕にも予想がつく。魔族の中で城に住まうべき存在。全ての魔族を統べる者……
「『魔王』の城だ」
「……でも、ここは『魔王』の城ではないんですね」
「そうだ。だが、セリオンが言うように、やけに『城』に似すぎている」
先頭を歩くヴィーさんも、訝し気な様子で言った。
そこからしばらく歩き、何度目かの魔獣との戦闘を経て、何度目かの分かれ道に差し掛かったところで、ヴィーさんが立ち止まった。
「……なんか、道が違えな」
「ああ、そうだな。おそらくここはさっきも通った道だ」
ヴィーさんの言葉に、セリオンさんが応える。
「ってことは、僕らは迷ってるんですか?」
「ああ、そうだ。これもみんなヴィジェスの所為だな」
「クゥ!」
まるでセリオンさんに賛同するように、クーが鳴いた。それを聞いて、ヴィーさんは面白くなさそうな顔で僕らを睨みつけた。
いや、僕はヴィーさんの所為だとか一言も言ってないんだけどな……
「何者かが道を歪めているんだ。おそらく、この奥にいる『黒い魔獣』だろう。アリア、何かわかるか?」
ジャウマさんに名前を呼ばれたアリアちゃんは、腕を組んでうーーんと首を捻った。
「なんとなく、だけど、こっちの方が魔力が濃いんじゃないかと思うの」
アリアちゃんは、とことこと今来た道を少し戻ると、柱の陰を覗き込む。そこには路地裏のような細い通路があった。
「ヴィー」
「よっしゃ、行ってみるか」
まるで命令をするように、ジャウマさんがヴィーさんを呼ぶ。それが当たり前のように返事をすると、ヴィーさんはその通路に足を踏み入れた。
この通路はここまで来た道と違い、人ひとりがやっと通れるくらいの幅しかない。体の大きいジャウマさんには少し通りにくいようで、体を斜めにしながら僕らの後を付いてくる。
その通路を抜けると、少しだけ広い部屋になっていた。
正面に大きな石造りの扉があり、その扉の上に翼をもった生き物のような彫像が飾られている。
「この扉か。いかにもって感じだな」
そう言って、ヴィーさんがその扉に掛けようと手を伸ばした。
「ヴィーパパ、違うよ」
「へ?」
「こっち。この先みたい」
アリアちゃんが指さしたのは、扉とは別の方向の何の飾り気もない、ひびだけが入っている石壁だった。
拍子の抜けたような顔をしていたヴィーさんは、普段の顔に戻ってその壁に歩み寄る。
「ひびが入っている。おそらく脆くなっているだろう。ヴィー、気を付けろよ」
セリオンさんの言葉に、そちらを見ながらヴィーさんはへへっと鼻で笑う。
「わーってるって、まあ俺に任せ…… うわっ!!」
余所見をしていた所為で、転がっていた石につまづいたヴィーさんが驚いた声をあげる。
そのまま前につんのめると、ひびの入っていた壁に体ごとぶつかった。その壁がヴィーさんが当たったところから、不自然に大きく崩れる。
「うわっ!」
さらに崩れた石壁が大小の無数の石礫と砂埃となって、ヴィーさんの上に降り注いだ。
「ヴィーパパ!」
「待て、アリア。前に出てはだめだ!」
駆け寄ろうとしたアリアちゃんに、ジャウマさんが声をあげる。その声を聞いて、慌ててアリアちゃんの手を取って引き戻した。
「グウゥウウウ!」
何かに気付いたらしいクーが、警戒の声を上げる。
次の瞬間、崩れた石壁から小さい何かが飛び出してきた。ネズミのようなウサギのような、小さなもふもふは一匹ではない、次から次へと飛び出してくる。
「うわあああ!」
わらわらと出てきたそいつは、瓦礫に埋もれかけているヴィーさんに次々と襲い掛かった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる