招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第十章

10-3 アリアちゃんと僕と

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「ごめんなさい。貴方の事情も聞かずに、この城に住むことを決めてしまって……」
 テーブルに置かれたお茶のセットとお菓子の皿を挟んだ向かい側で、姫様が申し訳なさそうに言った。
「あ、いや。どうせ師匠と二人暮らしで、その師匠も死んで一人っきりでしたから。むしろ有難いです」
 これは本心だ。

 与えられた部屋も今まで住んでいた小屋より広いくらいだ。食事も出るし、共同だけれど広い風呂にも毎日入れる。
 別に軟禁されているわけではないので、町にも好きなように出られるし、何より皆優しくて頼もしい。この城で、新しい友人も出来た。

 それだけじゃあない。週に一度ほどだが、姫様は僕なんかをこうしてお茶に呼んでくださる。城に慣れない僕を気遣ってくれているのか、それとも姫様が言う通り町の話を聞きたいのか。
 そんな姫様はとてもお優しいと思う。あと、すごく可愛らしい。僕なんかが、そんなことを口にしたら失礼だろうけれど。

 僕の言葉を聞いて、姫様は安心したように表情を緩ませた。
「ありがとう。そう言えば、魔法薬作りは進んでいる?」
 姫様が訊いているのは、亡くなった師匠から僕が引きついだ、特殊な魔法薬の研究のことだ。
「はい、師匠の残した研究書をある程度は解読できたんですが…… どうやら材料が不足しているようで。今、調達をお願いしているところです」

「よかった。他にも足りない物があったら、遠慮なく言ってね」
 不自由なく、と僕を気遣ってくれているのだろう。でも本当に今は至れり尽くせりの環境で、僕は満足しているのだけれど。
「はい、ありがとうございます。姫様こそ、何か欲しいものはありませんか?」
 そう言うと姫様は少し目を見開いて、僕の顔をじっと見た。それから、少し恥ずかしそうに視線を逸らせる。

「あ、あの…… またお茶に誘ってもいいかしら」
 ああ、なるほど。僕が町に出て買ってくるお菓子を、どうやら気に入ってくれているようだ。
「はい、是非に。また違うお菓子を買ってきますね」
 そう返事をすると、姫様は嬉しそうに、可愛らしく微笑んだ。

 * * *

 草原や森でめいっぱい薬草を採集し、冒険者ギルドに戻った僕を出迎えたのは、眉を吊り上げたアリアちゃんだった。
 今のアリアちゃんは、僕より少し背が低いくらいだ。そのアリアちゃんの怒っていても可愛い顔が、僕の目の前に迫る。

「ラウル! なんで勝手に一人で薬草採集に行っちゃったの?!」
「い、いや……ジャウマさんたちにはちゃんと言っておいたんだけど……」
 頭の上についている黒狼の耳が、みっともなく垂れてきているのが自分でもわかる。

 というか、薬草採集の依頼を受けるのを勧めてくれたのはセリオンさんだ。その彼らは、アリアちゃんの後ろで苦笑いをしている。助けてくれる気はさらさらないらしい。

 ここ『獣人の国』には、他の国にない薬草が生えているのだそうだ。セリオンさんの勧める通り、冒険者ギルドで薬草採集の依頼を受け、依頼用だけでなく自分用の薬草を山と摘んできた。つまり依頼を受けたのは、薬草を採集するための理由付けに過ぎない。

「私も一緒に行きたかったのにー」
 ぷぅと頬を膨らませながら言うアリアちゃん。彼女なりに怒ってるんだろうけど、今のアリアちゃんはそれ以上に可愛い。

「ごめんごめん。お土産にカリュスの実を採ってきたから、許してよ。後で皆で食べよう」
 そう言うと、途端に吊り上がっていた眉が元に戻り、今度は瞳がキラキラと輝いた。

 オレンジ色をした甘い果肉がぎゅっと詰まってるカリュスは、そのままかじっても美味しいし、種を抜いて干し果実にするのにも向いているし、ジャムにしても美味しい。
 そんなカリュスの実をたくさん見つけることができたのは偶然だけれども、持って帰ったらアリアちゃんが喜ぶだろうなと、僕は一番に思っていた。

 そんな僕の想いの通りに、アリアちゃんは嬉しそうな笑顔を見せてくれた。その笑顔を見ながら、ジャウマさんに言われたことを思い出す。

「アリアを悲しませないようにな」
 ジャウマさんはそう言った。
 その言葉の意味は、アリアちゃんを姫様として扱うなということだ。アリアちゃんは、皆と今まで通りの関係のままで居ることを望んでいる。

 以前の記憶を取り戻してしまった今、正直アリアちゃんと今までのように接していいのか、戸惑っていた。
 姫様は本当なら僕なんかより、ずっと身分が上の方だ。しかも今の彼女の姿は、以前の僕が仕えていた姫様の姿とほとんど変わらない。

 ジャウマさんたちと話をする前は、どう接していいのかわからなくて戸惑っていた。でもようやく吹っ切れた。
 ジャウマさんたちも、ずっと本当のことを知った上で、アリアちゃんに対してパパとして接しているんだ。彼女の望み通りに。
 アリアちゃんがジャウマさんたちに見せる笑顔も、僕に見せる笑顔も、本心からのものだとわかる。だから、このままでいい……いや、このままがいいんだ。そう思えている。

「デザートがあるのなら、今日の夕飯は屋台でなんか買って、宿で食おうか」
「そうだな、たまにはそれもいい」
「よっしゃ、俺は酒を買ってくる! そっちは頼んだぜー」
 僕らが返事をするのも待たずに、ヴィーさんはひらひらと手を振りながら、一人で通りの先へ行ってしまった。

 大きな羽根を背負ったヴィーさんの後姿を見送っていると、不意にアリアちゃんが僕の腕にしがみついて来た。
「ふふー。じゃあ、私たちは屋台街へ行こう!」
「クゥ!」
 月牙狼ルナファングのクーも、嬉しそうに僕らの足元にまとわりついてくる。

「何を買う?」
「ひとまず、肉だな。他はそれからだ」
 ジャウマさんとセリオンさんが、屋台街の方へ体を向けると、二人の尾がそれを追いかけるように揺れる。
 アリアちゃんに腕を引かれながら、二人の後を追いかけると、僕の狼の尾もまるで慌てているように揺れた。
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