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獣人の国
22 魔獣の住処/カイル(1)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。
・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。
・イリス…リリアンの姉で、三つ子の真ん中。銀の髪と尾を持つ。
====================
この旅で、最初に訪問した古龍の長の住処では、かなり手荒く出迎えられた。
だが、ギヴリスの名を出すと大人しくなり話を聞いてくれた。
古龍の噂は聞いた事があったが、実際に見るのは初めてだった。見上げる程のその大きさに圧倒されたが、話をする段になるとしゅるしゅると身が縮み、竜の翼と尾を持つ竜人の姿に変わった。
高位の魔獣は人語を話すとは知っていたが、まさか人型になれるとは思いもしなかった……
その姿でなら、獣人の中央都市や人間の町に行っても全くバレないそうだ。実際に町に住んでいる者もいるらしい。
人の姿になった古龍は先ほどの荒れっぷりからは想像できないような好々爺だった。リリアンの差し入れた古酒と豚の塩漬けを喜び、酒や料理の話を聞きたがった。
仙狐の長の住処に居たのはそれぞれ3本の尾を持つ2頭の狐だった。
古龍の時のような荒い出迎えを覚悟していたが、彼らはリリアンの匂いを嗅ぎ前世の名を聞くと、喜んでくるくると彼女にまとわりついてきた。
どうやら彼らともリリアンは前世で知っていたらしく、しかもただの知り合いという雰囲気ではなさそうだ。何やら訳ありそうだったので詳しくは訊かなかった。
彼らも人型になると狐の耳と尾を持つ狐獣人の姿で、僕らより五つ程年上に見える青年だった。リリアンは彼らの為に紅茶と焼き菓子を用意していて、人の町や流行の話で盛り上がった。
どちらの高位魔獣も、暮らしぶりは普通の獣人とさほど変わらなかった。
住処にはちゃんとした家が建っているし、家具も揃っている。出された食事も僕たちのものと変わらない。
そしてここでも僕らは普通に応接間に通され、お茶を頂いている。
今までと違うのは、彼女が最初から背中に翼を持つ鳥人の姿で現れた事だ。流石に3度目ともなれば危険を覚悟する事もなかったが、ここまで平和的な展開とも思わず、なんだか拍子抜けをした。
「ごめんなさいねぇ。せっかく来てくれたのに、主人が出掛けてて」
「さっきすれ違いましたよ。急いでる様子でしたけど、何かあったんですか?」
さっき……? リリアンの言葉を聞き、考えを巡らせる。
もしかして僕らの上を過ぎていったあの鳥か?
どうやら昨晩から娘さんが帰らないらしい。それで旦那さんが探し回っているそうだ。
「多分、目立つように大きめになって飛んでるんだと思うのだけど、あの人、ほら、圧がすごいから…… 下手に刺激するとあの子はますます出てこないと思うのよね」
はぁーと母親の顔をしてため息をついた。リリアンはうんうんと頷いて見せている。
えっと…… 今の話のどこの部分に頷いてるんだろう? リリアンは……
「私たちも探すの手伝いましょうか? 鼻ききますよ」
リリアンがニコニコして自分の鼻を指さした。
うん、困っているのなら手を貸すのはやぶさかではない。
イリスは危なっかしいので、鳥人の奥さん――シュティスさんと留守番する事になった。
「気を付けて行ってきてね~~」
ひらひらと手を振りながらそう言うイリスも、やけに順応が早い気がするよ。さっきはしっかりお茶のお代わりを頂いていたし。
旦那さんと娘さんに会った時に僕らの事がわかるように、シュティスさんのスカーフをお借りしてそれぞれの首に巻く。さらに娘さんの匂いを辿る為に、彼女のハンカチをお借りした。
* * *
来る時通って来た『門』の所から獣化した。匂いを辿るにはこの姿の方が都合が良い。
道を辿りながら匂いを探すと、そう時間をかけずにそれらしい跡を見つけることができた。が……
「あれ?」
リリアンも気づいた様だ。
「これ娘さんの匂いだけじゃない。誰か一緒にいるね」
そう話していると、来る時に聞いたあのざぁっという羽ばたく音が遠くから聞こえてきた。
「あ、バスクさんだ」
リリアンは獣化を解き、開けた所でシュティスさんのスカーフを持って大きく手を振った。
上空を巨大な鳥が羽ばたいて降りてくる。
来る時には影しか見なかったからどんな姿かわからなかったけど、今ならしっかりと見える。
「……あれが、鳳凰か……」
その5色に光る羽根を広げた姿は、本当に美しかった……
その鳳凰は僕らの目の前に降り立つと同時に、壮年の逞しい男性の姿に変わった。
その前の鳥の姿とはちょっと……いや、かなりギャップがある。
「お久しぶりです、バスクさん」
「……君は??」
リリアンが前世の名を名乗ると、バスクさんはああと言って軽く笑って見せた。
「成程。主から聞いた事がある…… 確かに匂いが同じだな」
「先ほどお宅にお伺いしました。それでシュティスさんから聞いたのですが娘さんが居なくなったそうで。私たちが探すのをお手伝いします。もう娘さんの匂いは見つけてあるので、辿るだけです」
リリアンが娘さんのハンカチを手にしてみせると、バスクさんは少しバツが悪そうな顔になった。
「いや…… 身内の事なのに、申し訳ない……」
「早く見つけて、お昼ご飯にしましょう」
リリアンはそう言ってニッコリ笑って見せた。
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。
・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。
・イリス…リリアンの姉で、三つ子の真ん中。銀の髪と尾を持つ。
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この旅で、最初に訪問した古龍の長の住処では、かなり手荒く出迎えられた。
だが、ギヴリスの名を出すと大人しくなり話を聞いてくれた。
古龍の噂は聞いた事があったが、実際に見るのは初めてだった。見上げる程のその大きさに圧倒されたが、話をする段になるとしゅるしゅると身が縮み、竜の翼と尾を持つ竜人の姿に変わった。
高位の魔獣は人語を話すとは知っていたが、まさか人型になれるとは思いもしなかった……
その姿でなら、獣人の中央都市や人間の町に行っても全くバレないそうだ。実際に町に住んでいる者もいるらしい。
人の姿になった古龍は先ほどの荒れっぷりからは想像できないような好々爺だった。リリアンの差し入れた古酒と豚の塩漬けを喜び、酒や料理の話を聞きたがった。
仙狐の長の住処に居たのはそれぞれ3本の尾を持つ2頭の狐だった。
古龍の時のような荒い出迎えを覚悟していたが、彼らはリリアンの匂いを嗅ぎ前世の名を聞くと、喜んでくるくると彼女にまとわりついてきた。
どうやら彼らともリリアンは前世で知っていたらしく、しかもただの知り合いという雰囲気ではなさそうだ。何やら訳ありそうだったので詳しくは訊かなかった。
彼らも人型になると狐の耳と尾を持つ狐獣人の姿で、僕らより五つ程年上に見える青年だった。リリアンは彼らの為に紅茶と焼き菓子を用意していて、人の町や流行の話で盛り上がった。
どちらの高位魔獣も、暮らしぶりは普通の獣人とさほど変わらなかった。
住処にはちゃんとした家が建っているし、家具も揃っている。出された食事も僕たちのものと変わらない。
そしてここでも僕らは普通に応接間に通され、お茶を頂いている。
今までと違うのは、彼女が最初から背中に翼を持つ鳥人の姿で現れた事だ。流石に3度目ともなれば危険を覚悟する事もなかったが、ここまで平和的な展開とも思わず、なんだか拍子抜けをした。
「ごめんなさいねぇ。せっかく来てくれたのに、主人が出掛けてて」
「さっきすれ違いましたよ。急いでる様子でしたけど、何かあったんですか?」
さっき……? リリアンの言葉を聞き、考えを巡らせる。
もしかして僕らの上を過ぎていったあの鳥か?
どうやら昨晩から娘さんが帰らないらしい。それで旦那さんが探し回っているそうだ。
「多分、目立つように大きめになって飛んでるんだと思うのだけど、あの人、ほら、圧がすごいから…… 下手に刺激するとあの子はますます出てこないと思うのよね」
はぁーと母親の顔をしてため息をついた。リリアンはうんうんと頷いて見せている。
えっと…… 今の話のどこの部分に頷いてるんだろう? リリアンは……
「私たちも探すの手伝いましょうか? 鼻ききますよ」
リリアンがニコニコして自分の鼻を指さした。
うん、困っているのなら手を貸すのはやぶさかではない。
イリスは危なっかしいので、鳥人の奥さん――シュティスさんと留守番する事になった。
「気を付けて行ってきてね~~」
ひらひらと手を振りながらそう言うイリスも、やけに順応が早い気がするよ。さっきはしっかりお茶のお代わりを頂いていたし。
旦那さんと娘さんに会った時に僕らの事がわかるように、シュティスさんのスカーフをお借りしてそれぞれの首に巻く。さらに娘さんの匂いを辿る為に、彼女のハンカチをお借りした。
* * *
来る時通って来た『門』の所から獣化した。匂いを辿るにはこの姿の方が都合が良い。
道を辿りながら匂いを探すと、そう時間をかけずにそれらしい跡を見つけることができた。が……
「あれ?」
リリアンも気づいた様だ。
「これ娘さんの匂いだけじゃない。誰か一緒にいるね」
そう話していると、来る時に聞いたあのざぁっという羽ばたく音が遠くから聞こえてきた。
「あ、バスクさんだ」
リリアンは獣化を解き、開けた所でシュティスさんのスカーフを持って大きく手を振った。
上空を巨大な鳥が羽ばたいて降りてくる。
来る時には影しか見なかったからどんな姿かわからなかったけど、今ならしっかりと見える。
「……あれが、鳳凰か……」
その5色に光る羽根を広げた姿は、本当に美しかった……
その鳳凰は僕らの目の前に降り立つと同時に、壮年の逞しい男性の姿に変わった。
その前の鳥の姿とはちょっと……いや、かなりギャップがある。
「お久しぶりです、バスクさん」
「……君は??」
リリアンが前世の名を名乗ると、バスクさんはああと言って軽く笑って見せた。
「成程。主から聞いた事がある…… 確かに匂いが同じだな」
「先ほどお宅にお伺いしました。それでシュティスさんから聞いたのですが娘さんが居なくなったそうで。私たちが探すのをお手伝いします。もう娘さんの匂いは見つけてあるので、辿るだけです」
リリアンが娘さんのハンカチを手にしてみせると、バスクさんは少しバツが悪そうな顔になった。
「いや…… 身内の事なのに、申し訳ない……」
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