38 / 333
獣人の国
24 ランチタイム/ニール(1)
しおりを挟む
◆登場人物紹介(既出のみ)
・ニール…冒険者見習いとして活動している、貴族の少年
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。王都を離れ故郷に帰省中。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者
====================
リリアンが旅にでてから二十日が過ぎた。
一度、国境の町についたと手紙が来たが、それきり何の音沙汰もない。便りがないのは元気な証拠でしょう、とアランは言っていたが、やっぱりちょっと気にはなっていた。
俺はといえば、ここしばらく先輩方のクエストの手伝いに同行させてもらう事が多く、大分経験値も貯まってきた。
あと半年ほどすれば俺も15歳になる。そうすりゃ、すぐにリリアンにも追いつくんじゃないか?
今日は珍しく冒険者ギルドには行かなかった。アランも用事があると言って出掛けてしまったし、そう言えばそろそろ新しい装備を見てみようかと思っていたし。
北地区の職人街で武器や防具を物色し、ついでにちょっと町をぶらつこうと思った。中央の公園近くに差し掛かった時に、ミリアさんが歩いているのを見かけた。
どうやらミリアさんも買い物の途中だったらしい。声を掛けたところ、公園脇のカフェで一緒に昼食をとる事になった。
こんな可愛い女の子と二人でランチとか、余程の獣人嫌いとかでなければ喜ばない男はまず居ないだろう。今日を買い物の日に決めた自分を、全力で褒めてやりたいと思った。
木漏れ日がかかるカフェのテラス席で、やたらと綺麗に盛り付けてあるお洒落なランチプレートを、がっつかないように気にしてゆっくり食べる。ミリアさんと今日の買い物の事とか、クエストの体験談とか、他愛もない話をして楽しい時間を過ごした。
たまに通りかかる男どもが羨ましそうに見ていたり、あの娘可愛いなとか言ってたりするもんだから、なんだか気分が良い。
そういえば、とミリアさんが俺に切り出したのは、食後の氷菓子が届いて、一口目を食べた頃だった。
「デニスさんを見かけませんでしたか?」
ここ数日『樫の木亭』にも現れていないらしい。そういや俺も、冒険者ギルドでも見かけていない。
「さっきデニスさんの家に行ってみたんだけどね、やっぱり居ないのよ」
その言葉に、匙を持つ手が一瞬止まった。
「うん? ニールくん、どうしたの?」
こういう時、ミリアさんは妙に察しが良くなる。下手に誤魔化そうとするとボロが出そうで、すぐに諦めた。
「いや…… デニスさん、彼女居るって言ってたから。 ……ミリアさんが家に行っても大丈夫なのかな、と……」
言ったらまずい事だったかとも思ったが、ここでミリアさんに嘘を吐けるほど俺は器用じゃない。
気まずくて逸らせていた視線をそっと戻すと、ミリアさんはちょっと呆れたような顔をしていた。
「ニールくん、その彼女居るって聞いたのって、いつ頃の話?」
「ああ…… 十日くらい前かな?」
「……なるほどね」
そう言ってミリアさんは深いため息をついた。
「多分、それフラれたわね」
「へ??」
「デニスさんに彼女が出来ても、長続きするわけないもの。もって十日だわ。でもって、フラれると毎回の様に家出するのよ」
じゃあ、しばらくすれば帰ってくるわね。諦め顔でそう言うミリアさんは、俺と三つしか違わないはずなのに、なんだか大人っぽく見えた。
って、ミリアさんとデニスさんって、どんな関係なんだろう? 恋人でもなくて、でもただの友達にしては親しいというか。いや、そういうのとも何か違う気がする。
多分俺はその時、余程阿呆な面をしていたんだろう。ミリアさんは俺の顔を見て、ああと気付いたように呟いてから、にっこり笑って言った。
「デニスさんは私のお兄ちゃんなんです」
『樫の木亭』に通うようになって、店主のトムさんや奥さん、ミリアさんとも大分親しくなった。
店の料理も勿論美味いけど、あの店に通うのはそれだけが理由じゃない。他の冒険者たちの体験談、魔獣の噂、先輩方の助言や伝。あの店に行くことで得られるそんな事が、冒険者にとって大切で有難い事だというのが、今ならわかる。
そして自惚れてもいいのなら、一応は常連と言われるくらいには『樫の木亭』にも皆にも馴染んだつもりだ。
でも今の今まで、ミリアさんがデニスさんを兄と呼んでいる所を見た事もないし、似ていると思った事もない。それ以前に、デニスさんは人間だし、ミリアさんは狐獣人だ。種族が違う。
……いや、人間と獣人が両親なら有り得るか?
そんな考えを見透かすように、ミリアさんが笑った。
「やあね、ニールくん。勿論、血は繋がってはいないのよ」
二人は同じ孤児院の出身だそうだ。
孤児にはまれに後見人が付く場合がある。後見人は教会であったり、学者や先生であったり。あとは大きな声では言えないが、大店の娼館であったりする事が多いらしい。
将来有望と見初められた孤児たちは、後見人の援助で教育などを受け、相応の年齢になると引き取られていく。
さらに僅かな例として、ただ援助をするだけの後見人が付く場合がある。
その場合にもやはり後見人の援助でしっかりした教育を受けられ、成人後にはちゃんと生活の基盤が作れる資金を持って独り立ちできる。
そうではない多くの孤児たちは、住み込みの働き先が見つかるならまだ良い方で。少しの持ち金を元に冒険者になって生計を立てるか、女性なら夜の町に身を落とすか……
「私にも娼館からのお誘いはあったのよ。でも後見人付きだから身を売らずに済んだの」
後見人はその子を育てる為の援助金を孤児院に渡す、もう一人の育ての親のような存在なのだと。
====================
(メモ)
デニスの彼女(#16)
・ニール…冒険者見習いとして活動している、貴族の少年
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。王都を離れ故郷に帰省中。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者
====================
リリアンが旅にでてから二十日が過ぎた。
一度、国境の町についたと手紙が来たが、それきり何の音沙汰もない。便りがないのは元気な証拠でしょう、とアランは言っていたが、やっぱりちょっと気にはなっていた。
俺はといえば、ここしばらく先輩方のクエストの手伝いに同行させてもらう事が多く、大分経験値も貯まってきた。
あと半年ほどすれば俺も15歳になる。そうすりゃ、すぐにリリアンにも追いつくんじゃないか?
今日は珍しく冒険者ギルドには行かなかった。アランも用事があると言って出掛けてしまったし、そう言えばそろそろ新しい装備を見てみようかと思っていたし。
北地区の職人街で武器や防具を物色し、ついでにちょっと町をぶらつこうと思った。中央の公園近くに差し掛かった時に、ミリアさんが歩いているのを見かけた。
どうやらミリアさんも買い物の途中だったらしい。声を掛けたところ、公園脇のカフェで一緒に昼食をとる事になった。
こんな可愛い女の子と二人でランチとか、余程の獣人嫌いとかでなければ喜ばない男はまず居ないだろう。今日を買い物の日に決めた自分を、全力で褒めてやりたいと思った。
木漏れ日がかかるカフェのテラス席で、やたらと綺麗に盛り付けてあるお洒落なランチプレートを、がっつかないように気にしてゆっくり食べる。ミリアさんと今日の買い物の事とか、クエストの体験談とか、他愛もない話をして楽しい時間を過ごした。
たまに通りかかる男どもが羨ましそうに見ていたり、あの娘可愛いなとか言ってたりするもんだから、なんだか気分が良い。
そういえば、とミリアさんが俺に切り出したのは、食後の氷菓子が届いて、一口目を食べた頃だった。
「デニスさんを見かけませんでしたか?」
ここ数日『樫の木亭』にも現れていないらしい。そういや俺も、冒険者ギルドでも見かけていない。
「さっきデニスさんの家に行ってみたんだけどね、やっぱり居ないのよ」
その言葉に、匙を持つ手が一瞬止まった。
「うん? ニールくん、どうしたの?」
こういう時、ミリアさんは妙に察しが良くなる。下手に誤魔化そうとするとボロが出そうで、すぐに諦めた。
「いや…… デニスさん、彼女居るって言ってたから。 ……ミリアさんが家に行っても大丈夫なのかな、と……」
言ったらまずい事だったかとも思ったが、ここでミリアさんに嘘を吐けるほど俺は器用じゃない。
気まずくて逸らせていた視線をそっと戻すと、ミリアさんはちょっと呆れたような顔をしていた。
「ニールくん、その彼女居るって聞いたのって、いつ頃の話?」
「ああ…… 十日くらい前かな?」
「……なるほどね」
そう言ってミリアさんは深いため息をついた。
「多分、それフラれたわね」
「へ??」
「デニスさんに彼女が出来ても、長続きするわけないもの。もって十日だわ。でもって、フラれると毎回の様に家出するのよ」
じゃあ、しばらくすれば帰ってくるわね。諦め顔でそう言うミリアさんは、俺と三つしか違わないはずなのに、なんだか大人っぽく見えた。
って、ミリアさんとデニスさんって、どんな関係なんだろう? 恋人でもなくて、でもただの友達にしては親しいというか。いや、そういうのとも何か違う気がする。
多分俺はその時、余程阿呆な面をしていたんだろう。ミリアさんは俺の顔を見て、ああと気付いたように呟いてから、にっこり笑って言った。
「デニスさんは私のお兄ちゃんなんです」
『樫の木亭』に通うようになって、店主のトムさんや奥さん、ミリアさんとも大分親しくなった。
店の料理も勿論美味いけど、あの店に通うのはそれだけが理由じゃない。他の冒険者たちの体験談、魔獣の噂、先輩方の助言や伝。あの店に行くことで得られるそんな事が、冒険者にとって大切で有難い事だというのが、今ならわかる。
そして自惚れてもいいのなら、一応は常連と言われるくらいには『樫の木亭』にも皆にも馴染んだつもりだ。
でも今の今まで、ミリアさんがデニスさんを兄と呼んでいる所を見た事もないし、似ていると思った事もない。それ以前に、デニスさんは人間だし、ミリアさんは狐獣人だ。種族が違う。
……いや、人間と獣人が両親なら有り得るか?
そんな考えを見透かすように、ミリアさんが笑った。
「やあね、ニールくん。勿論、血は繋がってはいないのよ」
二人は同じ孤児院の出身だそうだ。
孤児にはまれに後見人が付く場合がある。後見人は教会であったり、学者や先生であったり。あとは大きな声では言えないが、大店の娼館であったりする事が多いらしい。
将来有望と見初められた孤児たちは、後見人の援助で教育などを受け、相応の年齢になると引き取られていく。
さらに僅かな例として、ただ援助をするだけの後見人が付く場合がある。
その場合にもやはり後見人の援助でしっかりした教育を受けられ、成人後にはちゃんと生活の基盤が作れる資金を持って独り立ちできる。
そうではない多くの孤児たちは、住み込みの働き先が見つかるならまだ良い方で。少しの持ち金を元に冒険者になって生計を立てるか、女性なら夜の町に身を落とすか……
「私にも娼館からのお誘いはあったのよ。でも後見人付きだから身を売らずに済んだの」
後見人はその子を育てる為の援助金を孤児院に渡す、もう一人の育ての親のような存在なのだと。
====================
(メモ)
デニスの彼女(#16)
0
あなたにおすすめの小説
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
主人公はあまり戦ったりはしません。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!
カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地!
恋に仕事に事件に忙しい!
カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる