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獣人の国
24 ランチタイム/ニール(2)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・ニール…冒険者見習いとして活動している、貴族の少年
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者
====================
昔、ミリアさんがまだ幼く、獣人の集落で本当の家族と暮らしていた頃。ちょっとした事故で、ミリアさんは大きな怪我をした。
それは死に至る怪我ではなかったけど、足を折って速く走る事ができなくなったそうだ。
狩猟生活を行う種族にとって、全力で駆けられないというのは致命的だ。しかも狐獣人は特にプライドが高い種族らしい。もう狩りができないとなると、そこに生きる場所はない。
こういう場合は、殺されるか、売られるのが「普通」なんだそうだ。
……そんなのが普通って…… なんだよ、それ……
でもミリアさんの親はそうはせずに、「生きたまま捨てる」という選択をした。
ミリアさんが言うには、両親は「残酷」なんだって。
足を折った幼子が、森で一人で生きていられる訳がない。でもミリアさんの親は、ただ森に捨てていった。
「そのままで居たら、私は生きながらにして夜の獣にこの身を食われていたでしょう」
優しい親はわが子を殺して森に葬る。そうすれば、それ以上苦しむことはない。だから生かしておく親の方が残酷なのだ……
それを聞いて、静かに息を呑んだ……
俺にとっては想像もできない事だった。
森の下草は霧で湿っていて冷たかった。昼でさえ薄暗い森は、時間と共に徐々にその闇を重ねて行く。森を当てもなく彷徨ったが、折れたままの足では長くはもたなかった。
多分、そこで気を失うかしていたのだろう。人の声に気が付くと、冒険者らしい人たちに囲まれていたそうだ。
ミリアさんはそうして死にかけてるところを拾われた。
しかしその人は旅の途中で、ミリアさんを自ら育てる事は出来なかった。なので孤児院に援助金と共に託したそうだ。
そしてまだ幼いデニスさんと縁があり、孤児院に多額の寄付をしたのも同じ冒険者だった。院長はその寄付からデニスさんの分の援助金を取り分けたのだと。
「私たちがこうして一人でも身をたてられるのは、その人のおかげ。私たちを育ててくれた、親のようなものなの」
だから、二人は同じ育ての親を持つ兄妹のようなものなのだと。
後見人が居ることは、本来なら本人にしか伝えられない。でもデニスさんはミリアさんの事を何かで知ったのだろう。
「私の事、まるで本当の妹みたいに可愛がってくれるし、守ってくれるの。と言っても、本当の兄はどんな人だったのか、もう覚えてもいないんだけどね」
デザートの氷菓子はすっかり溶けて、ただの果汁になっていた。
それに気付いたミリアさんが、「話し込んじゃってごめんね」と言って、給仕に新しい氷菓子を頼んでくれた。
俺は…… ミリアさんが自身の生い立ちを語るのを黙って聞いているしかできなかった。あの時、デニスさんが言ってたのはこういう事だったのか、とようやく理解した。
「ごめん…… ミリアさん…… 嫌な事を話させて……」
俯いたままで謝る。
「やっぱり。デニスさんになんか言われてた?」
「うん…… 昔の事は訊くなって……」
ミリアさんはそこまでわかってたようだ。
「大丈夫よ。今、私はとても幸せだもの。確かに過去の事は良い事ではなかったけど、その過去があったから、今の私がいるんだもの」
顔を上げると、ミリアさんは本当にニコニコと笑っていた。その笑顔が、ミリアさんの言葉が本心だと訴えていて、ほっとした。
でも、
「全く、デニスさんは過保護よね。今でもまだ、私のお兄ちゃんをしてるんだから」
そう言った時には、ちょっとだけ寂しそうな顔が見えた。
もしかしたら…… ミリアさんはデニスさんの事が好きなんじゃないだろうか。
聞かない方が良いかもしれないと、一瞬は思った。でも、なんだか自分を止められなかった。
「馬鹿ね。いいのよ、私は。かっこいい王子様にきゃーきゃー言ってる妹で居られれば、デニスさんを困らせずに済むんだから」
ミリアさんはちょっと困ったような顔で、でも俺に笑顔を作って見せた。
給仕が新しい氷菓子を持ってきた。
「さ、今度は溶けないうちに食べちゃおう」
ミリアさんが自分の氷菓子に先に匙を入れるのを見て、俺は「うん」とだけしか言えずに同じように匙を持った。
口に入れた冷たい氷菓子は、喉を落ちると詰まった胸にじんわりと染みて広がっていった。
====================
(メモ)
あの時(#16)
(#16には色々なものが練り込んであります)
・ニール…冒険者見習いとして活動している、貴族の少年
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者
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昔、ミリアさんがまだ幼く、獣人の集落で本当の家族と暮らしていた頃。ちょっとした事故で、ミリアさんは大きな怪我をした。
それは死に至る怪我ではなかったけど、足を折って速く走る事ができなくなったそうだ。
狩猟生活を行う種族にとって、全力で駆けられないというのは致命的だ。しかも狐獣人は特にプライドが高い種族らしい。もう狩りができないとなると、そこに生きる場所はない。
こういう場合は、殺されるか、売られるのが「普通」なんだそうだ。
……そんなのが普通って…… なんだよ、それ……
でもミリアさんの親はそうはせずに、「生きたまま捨てる」という選択をした。
ミリアさんが言うには、両親は「残酷」なんだって。
足を折った幼子が、森で一人で生きていられる訳がない。でもミリアさんの親は、ただ森に捨てていった。
「そのままで居たら、私は生きながらにして夜の獣にこの身を食われていたでしょう」
優しい親はわが子を殺して森に葬る。そうすれば、それ以上苦しむことはない。だから生かしておく親の方が残酷なのだ……
それを聞いて、静かに息を呑んだ……
俺にとっては想像もできない事だった。
森の下草は霧で湿っていて冷たかった。昼でさえ薄暗い森は、時間と共に徐々にその闇を重ねて行く。森を当てもなく彷徨ったが、折れたままの足では長くはもたなかった。
多分、そこで気を失うかしていたのだろう。人の声に気が付くと、冒険者らしい人たちに囲まれていたそうだ。
ミリアさんはそうして死にかけてるところを拾われた。
しかしその人は旅の途中で、ミリアさんを自ら育てる事は出来なかった。なので孤児院に援助金と共に託したそうだ。
そしてまだ幼いデニスさんと縁があり、孤児院に多額の寄付をしたのも同じ冒険者だった。院長はその寄付からデニスさんの分の援助金を取り分けたのだと。
「私たちがこうして一人でも身をたてられるのは、その人のおかげ。私たちを育ててくれた、親のようなものなの」
だから、二人は同じ育ての親を持つ兄妹のようなものなのだと。
後見人が居ることは、本来なら本人にしか伝えられない。でもデニスさんはミリアさんの事を何かで知ったのだろう。
「私の事、まるで本当の妹みたいに可愛がってくれるし、守ってくれるの。と言っても、本当の兄はどんな人だったのか、もう覚えてもいないんだけどね」
デザートの氷菓子はすっかり溶けて、ただの果汁になっていた。
それに気付いたミリアさんが、「話し込んじゃってごめんね」と言って、給仕に新しい氷菓子を頼んでくれた。
俺は…… ミリアさんが自身の生い立ちを語るのを黙って聞いているしかできなかった。あの時、デニスさんが言ってたのはこういう事だったのか、とようやく理解した。
「ごめん…… ミリアさん…… 嫌な事を話させて……」
俯いたままで謝る。
「やっぱり。デニスさんになんか言われてた?」
「うん…… 昔の事は訊くなって……」
ミリアさんはそこまでわかってたようだ。
「大丈夫よ。今、私はとても幸せだもの。確かに過去の事は良い事ではなかったけど、その過去があったから、今の私がいるんだもの」
顔を上げると、ミリアさんは本当にニコニコと笑っていた。その笑顔が、ミリアさんの言葉が本心だと訴えていて、ほっとした。
でも、
「全く、デニスさんは過保護よね。今でもまだ、私のお兄ちゃんをしてるんだから」
そう言った時には、ちょっとだけ寂しそうな顔が見えた。
もしかしたら…… ミリアさんはデニスさんの事が好きなんじゃないだろうか。
聞かない方が良いかもしれないと、一瞬は思った。でも、なんだか自分を止められなかった。
「馬鹿ね。いいのよ、私は。かっこいい王子様にきゃーきゃー言ってる妹で居られれば、デニスさんを困らせずに済むんだから」
ミリアさんはちょっと困ったような顔で、でも俺に笑顔を作って見せた。
給仕が新しい氷菓子を持ってきた。
「さ、今度は溶けないうちに食べちゃおう」
ミリアさんが自分の氷菓子に先に匙を入れるのを見て、俺は「うん」とだけしか言えずに同じように匙を持った。
口に入れた冷たい氷菓子は、喉を落ちると詰まった胸にじんわりと染みて広がっていった。
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(メモ)
あの時(#16)
(#16には色々なものが練り込んであります)
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