ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

都鳥

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獣人の国

23 行く先(2)

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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。
・イリス…リリアンの姉で、三つ子の真ん中。銀の髪と尾を持つ。
・バスク…5色に光る羽根をもつ鳳凰。壮年の逞しい男性の姿になっている。圧がすごいらしい。
・シュティス…バスクの妻。細身の赤毛の女性の姿になっている。
・ティルダ…鳳凰夫婦の一人娘

====================

「どうしたの? 今朝は珍しくお寝坊だね」
 目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
 さっきまで私の名を呼んでいたカイルが、やっぱり疲れてたのかもね、と言いながら窓を開ける。朝の光と共に、清々しい山の空気が入り込んで来た。

 上体を起こすと、目からつぅーと水がこぼれた。慌てて手の甲でぬぐって、そおっとカイルを見るとまだ背中を向けたままでいる。多分、見ないふりをしてくれている。

 何食わぬ風で「イリスは?」と聞くと、早起きして朝食準備を手伝っているそう。
 そのままカイルに見られぬように洗面所に向かい、顔を洗った。顔を拭いて鏡を見るといつもの「リリアン」がそこに居た。
 小声で私に語り掛ける。
「そっか、少し羨ましかったんだね……」


 昨晩はバスクさんの勧めで、鳳凰ほうおうの住処に泊めてもらう事になった。
「コニー君が帰ったばかりだし、3人まで帰っちゃうとティルダが寂しがるわ」
 そうシュティスさんも言ってくれたので、お言葉に甘えさせていただいた。

「今日はどうするのかね?」
「一族の集落に帰ります」
 なんだか昨日も聞いたような会話で、ちょっと可笑しくなった。
「他の皆の所にはもう行ったのかね? 仙狐せんこたちは特に君に会いたがっていたが」
「もうお伺いして大歓迎していただきました。今度町の方にも遊びに来てくれると。お爺様には最初怒られてしまいましたが」

 そう笑って答えると、バスクさんはやれやれといった様子で言った。
「あの爺さんは融通ゆうずうきかんからなぁ。わかっててもアレはやめらんのだろう」
 やっぱり。あれはわざとだったのね。

「もしよければ、私がお送りしよう」
 それを聞いてカイルが少し眉をひそめた。
「とても有り難いのですが…… 騒ぎにならないかなぁ?」
 鳳凰の姿は確かに目立っちゃうよねえ。
「いや、さすがにあの姿ではいかないし、離れた場所に下ろすから大丈夫だ。元の姿で飛ぶ時も目眩めくらましをかけている。人にでも知られたら厄介だからな」
 不安げなカイルと対照的に、イリスは今までにない経験ができそうねとやたらと嬉しそうだった。

 * * *

 我々地を走る獣が空から地上を見下ろす事はそうはない。ましてや、風を切って飛ぶような事など。
 巨大な鷲の姿になったバスクさんの背中は、私たち3人が乗るには十分な広さだった。カイルがちょっと強張った表情をしていたので、大丈夫?と聞いてみたが、真剣な顔でうなずいてみせたので、本人の建前を尊重する事にした。

「バスクさん、少し高く飛んでもらえませんか?」
「どうしたかね?」
「……少し、を見ておきたくて」
 そう言うと、バスクさんは黙って逆に向きを変え、高度を上げてくれた。

 『獣人の国』と呼ばれる地域の外れは深い峡谷でその向こう側と隔てられている。峡谷の先は、まだ昼間だと言うのに闇の世界だった。
「あっちはなんであんなに暗いのかしら?」
 イリスがぽつりと呟く。
「あちら側は魔族領だ。まだ魔族は眠っているので、あの様に闇に覆われている」
「こんなに近いのか……」
 察したらしいカイルが少し青ざめている。

「安心したまえ。基本的には魔族は『獣人の国』を襲わない。彼らの目指す先は人間の国だ。たまに『はぐれ』がこの峡谷を越える事もあるが、それは我々が対処している」
 そう言うと、バスクさんはまた方向を変え、今度は帰る方角に向かって高度を少し下げた。

「ありがとうございます。安心しました。一部の魔族が目覚めていると聞いたので、その時が近いのではないかと……」
「いや、あの様子だとまだ先だろう。その魔族の事だが、シアン殿からそれらしい話を聞いた事がある。さほど害はないので大丈夫だとは言っていた」
「シアに会ったんですか?」
「彼はあの後に2度来ている。すぐ後に挨拶に参られたのと、もう一度は2年ほど前だ。龍のが彼を気に入ったようで、その時は爺様の所にしばらく滞在していたらしい。かなりしごかれたと、うちに来た時にボヤいていたよ」
 はっはっはっとバスクさんが大きく笑うと、ちょっとその背が揺れ、カイルがびっくりしてバスクさんの背中の羽に強くしがみついた。

「彼はとても元気にしていたよ。会ってはいないのか?」
「こんな姿になって、わかる訳もないですし。それにどんな顔をしていいかわからないんです。でも良かった。シアが元気で居てくれて……」
 ほっとした半面。他の仲間の事を思い出して、少し悲しくなってしまった。

 バスクさんが大きく羽ばたいてスピードを上げた。この分だと昼過ぎには灰狼族の集落に帰れるだろう。「すごいね」とはしゃいで言うイリスの声に気付き、「うん」と笑顔で応えて見せた。
 空から見下ろすいつもと違う光景に、3での会話は盛り上がって、時間はあっという間に過ぎた。

 集落に着くまでは、カイルは頑張って耐えた。
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