293 / 333
終わりへの旅
Ep.22 アシュリー(2)
しおりを挟む
メルは人が愛せないのだと、そう言った。
その自分が、人を愛するふりを命じられているのだと。
どんな理由かはわからないが、私を口説き落とす様に命じられたらしい。
おそらく…… サムが言っていた事が関係しているのだろう。
彼女の持っていた手帳には、この討伐隊の予定が色々と書かれていた。今までの事だけでなく、この先の事まで。そしてサムとメルの関係についてまで。
その予定通りに流れが進むように命じられているのだと、そしてメルもその駒の一つなのだと、サムは言っていた。
それならその命令通りに、私と恋人になればいい。
いいや、ふりだけすればいいんだ。お前がトラウマから自分の意思では女性を抱けない事は知っている。私もそんな事は望んではいない。
今日の様に、こうしてお前の部屋で飲んで、そのまま夜を明かせば周りにはそう思われるだろう。
穢れている私なんかがお前の相手でも構わないのならば。そんな私と噂になることを、お前が嫌と思わないのならば。
大丈夫だ。私には好意を向けている相手も、居ない。
なにより私には人に愛される資格はない。
上の命令に従っているふりをしてやればいい。もう教会の言う事を聞く必要はない。
お前が望む自由を手に入れる為なら、私はお前に協力しよう。
メルだけじゃあない。この一行は私の大事な仲間だ。
望まれて生まれる事ができずに居場所のなかった私に、初めて出来た家族同様の大切な仲間たち。
そんな皆の望みをかなえる為になら、私はこの身を尽くしたい。
それが、私の望みだ。
* * *
扉を開けたのは、ルイだった。
祭壇の宝箱を見つけたのはアレクだった。
メルが妙な魔力を感じると言った。
サムがアレクとルイに止まるように言ったが、遅かった。
罠だった。
部屋の中央に差し掛かった二人の足元に、見た事もないような大きな魔方陣が浮かびあがる。
それを見て彼女たちを助けようと駆け出したのはクリスだった。私はその後を追った。
先を走っていたクリスの手が、アレクを追っていたルイに届いた。
ルイの手を引いて、私の後ろから駆け込んできていたシアの元へ引き飛ばした。
動きを止めた二人の横を駆け抜けて、もう3歩先にいるアレクに手を伸ばす。
もう一歩、届かない。
アレクが足元の魔方陣に気付いて後ずさりすると、その手を掴むことができた。後方に居るクリスにむけて、彼女を引き戻す。
アレクをクリスが受け止めたのを見て、自分も身を戻そうと振り返る。
視界の中、アレクとクリスの向こうに、彼らの姿が見えた。
シアがルイを腕に抱き、大丈夫か?と、彼女の名を呼んでいる。
その姿に、何故か胸が痛んで足が止まった。
瞬間、足元から激しい衝撃を受けた。
「アッシュ!!」
メルの叫び声が聞こえた。
そのまま上に突き上げられ、ぐるんと世界が回った。
胸に激しい痛みを感じ、喉元に上がってきた何かを吐き出した。赤い血の色をしていた。
ようやく、自分が巨大な魔獣の顎に捕らえられた事を知った。
ああ、何をしていたんだ、私は。
ルイを守れと、シアに命じていたのは私自身だったのに。
彼女の名を呼ぶシアに、彼女を抱きとめるシアに、こんな時に私は何を思ってしまったのだろうか。
「くそっ!!」
自分自身への怒りの言葉と共に、己を捉える巨大な魔獣の顎に向けて、手にした剣を思いっきり突き刺した。
魔獣は不快そうにくぐもった声を上げたが、牙を緩める事はなかった。
それどころか、胸に食い込んでいた魔獣の牙がさらに深く刺さった。しかもどういう事か、剣は抜けなくなってしまった。
ああ、これではいけない。もうダメだ。
でもこの腕輪は守らないと。これがないと魔王が倒せない。
それなら……
自身の右腕を刃に当て、思い切り力を籠めた。
焼けるような痛みとともに腕が落ち、これで大丈夫だと、安堵の気持ちが沸く。それ以上抵抗する気は、もうなかった。
「アッシュ!!」
彼が私の名を呼んでくれる。
ああ…… 最後にそれが聞けて、良かった……
魔王を倒す事ができれば、クリスの望みは叶えられる。
もうアレクはクリスと真っすぐに向き合えるようになった。王都に帰れば幸せになれるだろう。
サムもお姉様に認めてもらえるだろう。彼女はいい神巫女になれる。
メルもこの旅が終わったら、教会を抜けて自由になると約束をした。
ようやくルイを故郷に帰してあげる事ができる。
シア…… すまない…… ずっと私がお前を縛り付けていた。
これでお前は自由になれるんだ。私に囚われる事は、もうない……
でも…… ああ、でも…… 本当は……
一緒に生きたかった……
* * *
ぽたぽたと水の音が聞こえた。
====================
(メモ)
(Ep.10)
(Ep.17)
(#23)
(Ep.5)
その自分が、人を愛するふりを命じられているのだと。
どんな理由かはわからないが、私を口説き落とす様に命じられたらしい。
おそらく…… サムが言っていた事が関係しているのだろう。
彼女の持っていた手帳には、この討伐隊の予定が色々と書かれていた。今までの事だけでなく、この先の事まで。そしてサムとメルの関係についてまで。
その予定通りに流れが進むように命じられているのだと、そしてメルもその駒の一つなのだと、サムは言っていた。
それならその命令通りに、私と恋人になればいい。
いいや、ふりだけすればいいんだ。お前がトラウマから自分の意思では女性を抱けない事は知っている。私もそんな事は望んではいない。
今日の様に、こうしてお前の部屋で飲んで、そのまま夜を明かせば周りにはそう思われるだろう。
穢れている私なんかがお前の相手でも構わないのならば。そんな私と噂になることを、お前が嫌と思わないのならば。
大丈夫だ。私には好意を向けている相手も、居ない。
なにより私には人に愛される資格はない。
上の命令に従っているふりをしてやればいい。もう教会の言う事を聞く必要はない。
お前が望む自由を手に入れる為なら、私はお前に協力しよう。
メルだけじゃあない。この一行は私の大事な仲間だ。
望まれて生まれる事ができずに居場所のなかった私に、初めて出来た家族同様の大切な仲間たち。
そんな皆の望みをかなえる為になら、私はこの身を尽くしたい。
それが、私の望みだ。
* * *
扉を開けたのは、ルイだった。
祭壇の宝箱を見つけたのはアレクだった。
メルが妙な魔力を感じると言った。
サムがアレクとルイに止まるように言ったが、遅かった。
罠だった。
部屋の中央に差し掛かった二人の足元に、見た事もないような大きな魔方陣が浮かびあがる。
それを見て彼女たちを助けようと駆け出したのはクリスだった。私はその後を追った。
先を走っていたクリスの手が、アレクを追っていたルイに届いた。
ルイの手を引いて、私の後ろから駆け込んできていたシアの元へ引き飛ばした。
動きを止めた二人の横を駆け抜けて、もう3歩先にいるアレクに手を伸ばす。
もう一歩、届かない。
アレクが足元の魔方陣に気付いて後ずさりすると、その手を掴むことができた。後方に居るクリスにむけて、彼女を引き戻す。
アレクをクリスが受け止めたのを見て、自分も身を戻そうと振り返る。
視界の中、アレクとクリスの向こうに、彼らの姿が見えた。
シアがルイを腕に抱き、大丈夫か?と、彼女の名を呼んでいる。
その姿に、何故か胸が痛んで足が止まった。
瞬間、足元から激しい衝撃を受けた。
「アッシュ!!」
メルの叫び声が聞こえた。
そのまま上に突き上げられ、ぐるんと世界が回った。
胸に激しい痛みを感じ、喉元に上がってきた何かを吐き出した。赤い血の色をしていた。
ようやく、自分が巨大な魔獣の顎に捕らえられた事を知った。
ああ、何をしていたんだ、私は。
ルイを守れと、シアに命じていたのは私自身だったのに。
彼女の名を呼ぶシアに、彼女を抱きとめるシアに、こんな時に私は何を思ってしまったのだろうか。
「くそっ!!」
自分自身への怒りの言葉と共に、己を捉える巨大な魔獣の顎に向けて、手にした剣を思いっきり突き刺した。
魔獣は不快そうにくぐもった声を上げたが、牙を緩める事はなかった。
それどころか、胸に食い込んでいた魔獣の牙がさらに深く刺さった。しかもどういう事か、剣は抜けなくなってしまった。
ああ、これではいけない。もうダメだ。
でもこの腕輪は守らないと。これがないと魔王が倒せない。
それなら……
自身の右腕を刃に当て、思い切り力を籠めた。
焼けるような痛みとともに腕が落ち、これで大丈夫だと、安堵の気持ちが沸く。それ以上抵抗する気は、もうなかった。
「アッシュ!!」
彼が私の名を呼んでくれる。
ああ…… 最後にそれが聞けて、良かった……
魔王を倒す事ができれば、クリスの望みは叶えられる。
もうアレクはクリスと真っすぐに向き合えるようになった。王都に帰れば幸せになれるだろう。
サムもお姉様に認めてもらえるだろう。彼女はいい神巫女になれる。
メルもこの旅が終わったら、教会を抜けて自由になると約束をした。
ようやくルイを故郷に帰してあげる事ができる。
シア…… すまない…… ずっと私がお前を縛り付けていた。
これでお前は自由になれるんだ。私に囚われる事は、もうない……
でも…… ああ、でも…… 本当は……
一緒に生きたかった……
* * *
ぽたぽたと水の音が聞こえた。
====================
(メモ)
(Ep.10)
(Ep.17)
(#23)
(Ep.5)
0
あなたにおすすめの小説
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる