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人面犬にあった話

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 20時過ぎに仕事を終えてから、某チェーン店のカレー屋さんに寄って、カレーを食べたり漫画を読んだりしていたので、気がつけば22時前になっていた。


 そこから、家に帰ると22時半くらいになる。

 22時半なら、まだこの街の辺りは結構車が走っているし、ウォーキングや飲み屋帰り、仕事帰りの人も歩いたりしている。

 でも、その日は珍しく、人も車もいなかった。



 でも、車と人の多い、金曜なんかならともかく今日は日曜日。1番人が少ないタイミングだ。

 日曜日の夜は意外と閑散としている。

 ちなみに俺は、土日休みではないので、日曜の今日は、いつも通り仕事に行っていた。




 それにしても、こんなに寂しい夜は初めてだと思った。


 珍しい事もあるもんだなぁ~、と思いつつ、俺は道路沿いのボロいアパートの前に無理くり設置された様な、マイナーな飲み物ばかり販売されている自販機で飲み物を買うことにした。

 500mlで、100円の激安サイダーを購入。


 ガタンっと音を立ててペットボトルが落ちてくる。


 普通に屈んで、取り出し口からペットボトルを取り出そうとした、その時。



 視界の隅っこに、犬が歩いているのが見えた。

 茶色の日本犬ってぽい犬だと思った。
 柴犬より少し大きくて、焦げ茶色の結構短い被毛。直感的に日本犬と洋犬の雑種だと思った。

 この辺に野犬はいないから、民家から逃げてきたのだろうと思った。

 俺は、無類の動物好き。

 自宅でも、野良猫だった死にかけの老猫 ろうびょうを保護して飼っているくらいだ。

 もちろん、迷子のわんこなんてほっとけるハズが無い。

 俺はペットボトルを瞬時に飛び出して、咄嗟に犬を追いかけた。


 犬は、俺から逃げる様に駆け足で走り出した。



 薄暗い街灯が犬を照らす。


 直感的に、言葉では言い表すことができない違和感を、その犬の見た目に覚えた。



 俺は、走っていた足を止めた。




 ぼーっと薄暗い街灯が、犬を照らした。




 ゆっくり、犬がこちらを振り向いた。


 ゆっくりゆっくり。

 それはまるで、ぜんまいで動くおもちゃの様に義こちのない動き。



 俺と、犬と目が合う。



 犬は、犬の顔ではなかった。




 その犬は、若い女の顔をしていた。
 人間の。


【ジンメンケン】


 そんな単語が、俺の頭の中を巡った。



 犬は、人間の口の両口角の端をニュッと持ち上げて微笑む。



「こっち、くる?」



 微笑んだままの口をパクパク動かしながら、犬は少し低めの女の子声で喋る。





 俺は恐怖で動けなくなった。


「イカナイ…」



 それだけ答えることができた。
 行く、なんて言えないと思った。




 足がすくんで動けない俺を無視して、人面犬は歩き出す。


 動きは、四つ脚の生き物で間違いない。


 俺は、人面犬が進んだ先と別の道路を使って今は帰った。



 それからしばらく経った今は、きっと幻覚だった、と思いつつ、本物で間違いない確信もある。



 これが、俺が人面犬を見た話。
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