ストーカー【完結】

本野汐梨 Honno Siori

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 俺は、自分には全く縁の無い地方の企業に就職した。


 実家は、かなり遠いし通っていた大学からも遠い。
 どちらも飛行機で行き来しなければならないくらいの距離になった。


 わざわざそんな場所に就職したのは、親と仲悪かったから離れたかったのと、あの女とも離れたかったから。


 地方の不動産屋で営業の小さな店舗で仕事をしていた。
 

 営業と言っても、店に来たり、問い合わせてきた人達に物件の案内をする係って感じだった。
 地方といっても、色々あると思うが、まあまあな田舎で人口は一万人くらいの市で、結構高齢化も進んでいる。

 

 入社して、半年ほど経った頃、メールである物件への問い合わせが入った。

 その物件は、俺も住んでいるアパートだった。
 ワンルームで立地はいいが、古いので不人気の物件だったので、珍しいなぁ、なんて思っていた。

 田舎の土地なので、アパートやマンションの物件が少なく、人気の物件は一部に限られているのだ。

 ひとまず、俺はそのメールを開いた。
 

 そうやら、他県に在住中の女性からの問い合わせだった。

 内容は、そのうちこちらに仕事の関係で引っ越すことになりそうだから、物件を探している。アパートの敷地内に駐輪場はないのか、それと最寄りのバス停までは徒歩何分かかるのか、という内容だった。


 俺は、素直にその内容に返信した。
 ついでに、物件とその近隣の店やバス停などの詳細な情報を書き記しておいた。

 また、すぐに問い合わせをしていた女性からメールが届いた。

 『親切に対応ありがとうございます。江藤さんは、とっても親切なかたなんですね!』というお礼のメールだった。顔も合わせたことのない相手でも、親切な人なんて言われてちょっと嬉しかった。
 俺は、このメールにとりあえず、とても良い物件なのでぜひ検討お願いします、と返信した。

 すると、その日のうちにメールが来た。『直近に引っ越すつもりはなかったんですけど、江藤さんが親切な方なので早めに引っ越したいと思います。江藤さんは、営業さんなんですか』という内容だった。それに対して、俺は「仕事の関係で引っ越してくるって事じゃなかったけ?」と思ったけれど、なんの仕事をしているのかもわからないし、引っ越しが早まる予定かもしれないという事なのか。

 ちょっと、面倒な客だな、と思いつつ、〇〇不動産の〇〇店にいるから物件を借りるときは訪ねてきてくれ、と返信した。

 
 これで、メールは途切れるかと思ったが今度は、私的な内容のメールが送られてきるようになった。

 例えば、江藤さんは何歳ですか、趣味はなんですか、休みの日は何してるんですか、出身はどこですかといったような内容のものが続けて送られてきた。

 こういう、メールには答えられません、とあしらっていいと、上司に言われたので俺は冷たい事務的な返信であしらっていた。

 なんとなく、俺は、田中絢音のことを思い出していた。


 このメールが、田中絢音本人からの物だなんて、その時は考えもつかなかったから…


 
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