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記憶の中の炎
しおりを挟む「火事だぁぁぁ!!!!!!」
あちこちで火事を知らせる叫びと避難を促す叫びが響く。
その声に民衆は逃げ惑う。
カンカンカンカン…。
火の見櫓の警笛が近い。
夜中に街の一角で、大きな火事が発生した。
警察官の片山圭も職務を全うすべく出動していた。
圭は、住民達の避難を誘導する。
示現流で鍛えた猿叫の要領で声を上げ、混乱の中で速やかに人々を誘導していった。声を上げながらも人々の中に、山神の坊ちゃんの姿を探した。
かろうじて山神家の屋敷には、まだ火が届いていない。最も、庭が広いから母屋は燃え残るのではないか、と思ったりした。無意識に山神家の坊ちゃんの綺麗な顔を思い浮かべた。そんな自分に喝を入れる様に、自身の頬を思いっきり両手で叩いた。
嫌にざわつく心を平常心で押さえ込む。
火の熱で口の水分がカラカラに乾く。熱さが目の奥にまで染みる。
先の内戦に出征して、戦った時も大砲の火が芝生や木々を燃料にあちこちが燃えた。炎の中に敵が味方か分からない人間が燃えていた。もちろん生きたまま燃えた人間も居ただろう。嫌な記憶を思い出した…。
幸いにも火事の炎は高く上がったものの、火は速やかに消化された。
明日、日が上り明るくなってから火元を調べる事になった。
圭は、出動していた同僚達と別れて家路に付かず人気のない路地の隅に寝っ転がった。嫌なことを思い出してしまったから、すぐに寝て忘れようと思ったのだ。今までもそうしてきた様に、寝て、意識を無くして仕舞えば嫌な記憶もしばしば忘れる事が可能だ。
焦げの香りに包まれつつも、心身ともに疲れていたから、すぐに眠りについた。
しかし浅い夢の中で、戦場で出会ったあの青年が語りかけてくる。「大砲の火が熱かった。助けて欲しかったのに…。」と。「申し訳ない」といくら許しを乞うても、許してもらえなかった。
夢の中で「マッポさーん。」と、微かに呼ぶ声が聞こえた気がした。
「あ?目覚めましたか?」
薄ら目を開けると、そこには山神家の坊ちゃんが立っていた。
「酷くうなされていましたけど。」
心配そうに綺麗な顔が覗き込んでくる。
「いや、なんでもない。」
「なんでも無い訳がないでしょうに。」
「本当に何もないのだ。」
山神の坊ちゃんが、珍しく心配そうな顔をしている。骨が軋む音を立てながらひとまず起き上がろうとするが、体が上手く動かない。
「手を貸しますよ。」
伸ばされた手を思わず「無用です。」とはたき返してしまった。
山神の坊ちゃんは唖然としていた。
とんでもないことをしてしまったのだと、気づいた時には遅かった。
「あ、、申し訳ない…。」
謝ったが、「いえ。私も悪かったですね。武士に手出しは無用でしたね。」と言われた。口調は穏やかだが、目の奥の奥まで冷たくて、怒りを感じた。
すぐに山神の坊ちゃんは立ち去った。
冷や汗が目に染みた。
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