灯影、そして君の面影

本野汐梨 Honno Siori

文字の大きさ
3 / 11

記憶の中の炎

しおりを挟む

「火事だぁぁぁ!!!!!!」

 あちこちで火事を知らせる叫びと避難を促す叫びが響く。
 その声に民衆は逃げ惑う。


 カンカンカンカン…。
 火の見櫓の警笛が近い。


 夜中に街の一角で、大きな火事が発生した。
 警察官の片山圭も職務を全うすべく出動していた。

 圭は、住民達の避難を誘導する。
 示現流で鍛えた猿叫の要領で声を上げ、混乱の中で速やかに人々を誘導していった。声を上げながらも人々の中に、山神の坊ちゃんの姿を探した。

 かろうじて山神家の屋敷には、まだ火が届いていない。最も、庭が広いから母屋は燃え残るのではないか、と思ったりした。無意識に山神家の坊ちゃんの綺麗な顔を思い浮かべた。そんな自分に喝を入れる様に、自身の頬を思いっきり両手で叩いた。

 嫌にざわつく心を平常心で押さえ込む。

 火の熱で口の水分がカラカラに乾く。熱さが目の奥にまで染みる。

 先の内戦に出征して、戦った時も大砲の火が芝生や木々を燃料にあちこちが燃えた。炎の中に敵が味方か分からない人間が燃えていた。もちろん生きたまま燃えた人間も居ただろう。嫌な記憶を思い出した…。

 幸いにも火事の炎は高く上がったものの、火は速やかに消化された。

 明日、日が上り明るくなってから火元を調べる事になった。
 圭は、出動していた同僚達と別れて家路に付かず人気のない路地の隅に寝っ転がった。嫌なことを思い出してしまったから、すぐに寝て忘れようと思ったのだ。今までもそうしてきた様に、寝て、意識を無くして仕舞えば嫌な記憶もしばしば忘れる事が可能だ。

 焦げの香りに包まれつつも、心身ともに疲れていたから、すぐに眠りについた。

 しかし浅い夢の中で、戦場で出会ったあの青年が語りかけてくる。「大砲の火が熱かった。助けて欲しかったのに…。」と。「申し訳ない」といくら許しを乞うても、許してもらえなかった。

 夢の中で「マッポさーん。」と、微かに呼ぶ声が聞こえた気がした。

「あ?目覚めましたか?」

 薄ら目を開けると、そこには山神家の坊ちゃんが立っていた。

「酷くうなされていましたけど。」

 心配そうに綺麗な顔が覗き込んでくる。

「いや、なんでもない。」

「なんでも無い訳がないでしょうに。」

「本当に何もないのだ。」

 山神の坊ちゃんが、珍しく心配そうな顔をしている。骨が軋む音を立てながらひとまず起き上がろうとするが、体が上手く動かない。

「手を貸しますよ。」

 伸ばされた手を思わず「無用です。」とはたき返してしまった。

 山神の坊ちゃんは唖然としていた。
 とんでもないことをしてしまったのだと、気づいた時には遅かった。


「あ、、申し訳ない…。」

 謝ったが、「いえ。私も悪かったですね。武士に手出しは無用でしたね。」と言われた。口調は穏やかだが、目の奥の奥まで冷たくて、怒りを感じた。

 すぐに山神の坊ちゃんは立ち去った。

 冷や汗が目に染みた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の婚約者は小さな王子さま?!

大和 柊霞
BL
「私のの婚約者になってくれますか?」 そう言い放ったのはこの国の王子さま?! 同性婚の認められるパミュロン王国で次期国王候補の第1王子アルミスから婚約を求められたのは、公爵家三男のカイルア。公爵家でありながら、長男のように頭脳明晰でもなければ次男のように多才でもないカイルは自由気ままに生きてかれこれ22年。 今の暮らしは性に合っているし、何不自由ない!人生は穏やかに過ごすべきだ!と思っていたのに、まさか10歳の王子に婚約を申し込まれてしまったのだ。 「年の差12歳なんてありえない!」 初めはそんな事を考えていたカイルアだったがアルミス王子と過ごすうちに少しづつ考えが変わっていき……。 頑張り屋のアルミス王子と、諦め系自由人のカイルアが織り成す救済BL

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

暮色蒼然

珊瑚
BL
「まだ書いているのか」 「君も書いてみたら良いじゃないですか。案外好きかもしれませんよ」 「じっとしているのは俺の性に合わん」 「でしょうね」 間髪入れずに言い放った春壱に、奏介はカチンとし彼を小突いた。彼はまるで猫の戯れだと言わんばかりにさっと躱し、執筆を続けた。 「君は単調ですねぇ。これで遊んでいてくださいね」  そう言って、春壱は奏介に万華鏡を投げて渡した。奏介は万華鏡を素直に覗いたりもしたが、すぐに飽きて適当な本を開いた。  しばらくの間、お互いのことをして過ごしていたが、ふと春壱が口を開いた。 「君、私のこと好きでしょう?」 「⋯⋯? いや」 「はて、私の勘違いか。随分私に執着しているように感じましてね。いや良いんです。違うのなら」 「何が言いたい」 「私も同じ気持ちだなぁって思っただけですよ」   俺はこの頃をどんなに切望したって、時はやり直させてはくれない。 だから、だからこそ春壱のことを見捨ててはいけなかった。 --------- 数年前に書いたもので、今見ると気恥ずかしさがありますが、 初めてきちんと最後まで書ききった思い出の作品です。 こういう二人が癖なんだな~と思って読んでいただけると嬉しいです。 ※他のところにも掲載予定です。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

手紙

ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。 そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。

『定時後の偶然が多すぎる』

こさ
BL
定時後に残業をするたび、 なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。 仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。 必要以上に踏み込まず、距離を保つ人―― それが、彼の上司だった。 ただの偶然。 そう思っていたはずなのに、 声をかけられる回数が増え、 視線が重なる時間が長くなっていく。 「無理はするな」 それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、 彼自身はまだ知らない。 これは、 気づかないふりをする上司と、 勘違いだと思い込もうとする部下が、 少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。 静かで、逃げ場のない溺愛が、 定時後から始まる。

処理中です...