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夜の港で
しおりを挟む昼間の喧騒が遠のく。風の音が頬を掠める。潮の香りが波の音と共にやってくる。
圭に言われた「盗賊が来るなら今夜」の一言に納得はいかないものの、胸のざわつきが抑えられなかった。要らん忠告をされて苛立っているのかもしれない。
蒼は、圭が気になりチラチラ背後を確認していた。
(攻めてくるならば、新月の明後日ではないか?今日はまだ月上がりで周囲が薄ら見渡せる。)
港は暗く、月明かりに照らされた穏やかな波が反射する。
時間は刻々と過ぎていく。
「オォーン。」
野犬の一声が穏やかな空を斬る。
その瞬間に、官給品の銃の「パーン、パーン」と2発乾いた音が鳴り響いた。南の方角だ。
蒼が振り向く前に「坊ちゃんはそこにいて下さい!」と野太い声が響いた。
圭が倉庫の2階から飛び降りる姿が見えた。圭の右手にはサーベルが光っていた。敵は南方より攻めてきたらしい。
そして、圭のものかどうか分からないが、鈍い叫び声ともうめき声ともわからない声が聞こえた。人が死に抗う為の抵抗の声であると、蒼は悟った。
(じっとしていられるものか!!)
「決して侵入を許すな!!」
警察署長の喝が入る。
屋根から下を覗くと既に2名の盗賊が斬られて倒れていた。
(あいつが殺ったのか?)
怒号と銃声が薄明かりの中で響き渡る。
蒼も圭に続こうと、倉庫の屋根から飛び降りた。飛び降りると同時に、携帯していた銃剣を抜いた。短い剣先が輝いた。
既に倉庫の前にはほとんどの盗賊が倒れており、先ほどとは異なる奇妙な静けさが待っていた。
火薬の匂いがツンと鼻につく。これが戦の匂いか。
圭の姿が見えた。
そしてその後ろに、倒れていた盗賊が明らかに圭を狙って拳銃で狙っている…!!
(危ない!!!)
声よりも先に体が動いた。
数メートル先の盗賊に向かって銃剣を槍の様に投げつける。
同時に圭も男の気配に気づいて、床を軋ませながら空に飛び跳ねて、サーベルで盗賊の身体を斬り裂く。一撃必殺。
(強い…。)
蒼の投げた銃剣は僅かに盗賊の服を切り裂いただけであった。
それに比べて、圭はしっかりと致命傷を負わせている。
「坊ちゃん!!怪我はないですか?」
「ない…。お前、強いんだな…。」
負け惜しみを伝えると「我々は戦地を生き抜いております故。」と返事されてしまい、その後の会話が続かなかった。
警察署長も飛び出して「御無事ですか?」と心配そうな顔で尋ねてくる。
警察署長は、誰の血かわからない程の返り血を浴びているのが暗闇の中でもわかった。盗賊達の死体の山がゴロゴロ転がっている。
(これが、西南の役の生き残りたちか。)
圧倒的な強さ。
25名の盗賊は、ものの10分ほどで長崎警察に制圧された。
「なんで今日だと思った?」
圭に尋ねた。
「大概の盗賊達は新月を狙います。それに今日は戦闘には絶好の月明かりなんです。」
「絶好とはなんだ?」
「理屈ではございません。でも、わかるんです。賊には賊の気持ちがね。」
かつて賊軍だった彼と蒼との違いが、今の蒼自身には分からなかった。
血の匂いに当てられて、蒼の頭はぼんやりしていた。
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