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いきなり初夜

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 お寿司を食べてから、一旦家に戻った。
 着替えを取りに行くために。

 冷静に考えたら、男女がホテルの個室に2人っきりってやばくないか…?と思ったけど、さすがにこんな田舎女に発情する様な人間じゃなさそうかなって思い直した。


 でも、いずれ子供を作ることになるかもしれない。

 そうなれば、私はどうなってしまうのだろう。
 私は、あんまりちゃんとした人間生活を送ってこなかった。
 だから、この抽選結婚のご時世にも独身なのは、人間関係が苦手であったからで、もちろん恋人がいたことはない。


 それなのに、いきなりセックスなんて事になったら、私は耐えられない。

 再び私のラパンでホテルに向かう。

 行きの車内で何を話せばいいか分からず、私は黙っていた。
 それに耐えかねたのか、私に質問してきた。

「今更なんですが、なんてお呼びすればいいですか?嫌じゃなければ、なつみさんって読んでもいいですか?」

 丁寧に尋ねられるので、私も何か返さなくてはと焦る。

「もちろん、大丈夫です。私はなんて呼んだらよろしいでしょうか…?」


「和馬って呼んでもらっていいですか?もちろん呼び捨てでいいんで。あと、敬語。辞めませんか?」

「いきなり呼び捨てはアレなんで。和馬さんで。そうですね。敬語禁止にしましょうか…。」

 そうか、もう夫婦になることは決定だしもっと仲良くならなくっちゃ。敬語で喋ってる場合じゃないよね…


「じゃあ、敬語禁止で!」

 信号待ち停止中。横を向くと、不意に目があった。にこりと微笑む笑顔に胸が何だかギュッとした。



 敬語じゃ無いだけで、かなり距離が縮まった気がする。


 ホテルに着いて、チェックインする。
 単なるビジホ。ツインを予約できた。
 何も無いはず。


 鍵を受け取り、エレベーターで予約している部屋がある10階に上がる。

 車の中で少しだけ仲を深めたから、距離が近い。でも、もう話す事がない…。和馬さんも口を開かなかった。

 3階を過ぎたところで、和馬さんが少し屈んで、私の右手をそっと握った。

 温かい手だった。

 どうしていいか、わからないけど、握り返したら、和馬さんがちょっぴり強くギュッと握ってくれた。


 ドキドキする…


 和馬さんの顔を見たくって、上を見上げる。

 端正な顔が、真正面を向いている。
 表情から感情が感じ取れない…。


 私の視線に気づいて、和馬さんも私の方を見た。
 口角をキュットあげて微笑んでくれた。

 私も思わず微笑み返した。





「10階です。開くドアにご注意ください。」

 無機質な機械の音声が流れると同時に、エレベーターのドアがゆっくり開く。

 不意に思った。

 こんなところ、誰かに見られたら大スキャンダルになってしまうんじゃ無いか。

 私の不安をよそに、予約していた1010号室に向かって和馬さんは歩みを進める。手を繋いだママなので、和馬さんの歩みに、私も一生懸命ついていく。
 履き慣れないヒールを履いてきてしまっているし鞄は重いし、和馬さんは背が高いからか歩幅が広くって、ちょっとだけ小走りになった。

 鍵は、和馬さんが持ってるのでドアをガチャガチャ開ける。外装は綺麗だが、やはり古いビジネスホテル。古さと田舎感は否めないな。


 ドアを閉めると、繋いでいた手をグッと引っ張られた。

 視界が暗くなる。

 一瞬何が起こったのわからなかった。

 私は、和馬さんに抱きしめてられていた。
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