2 / 28
声なしで会話できる仲
しおりを挟む
俺の目の前に現れた彼女は、肉体はなかった。
ここはどこ? あなたは誰? 何してるの? 状態。
死んだら生前の記憶が亡くなるんだろうか?
いくら寺の僧侶でも、死んだ経験は流石にないから分からない。
ただ、彼女は自分の名前は知ってるんだろうか?
高校時代の同級ではあるが、俺の名前を知らなくても不思議じゃない。
俺だって知らなかったんだから。
けど、聞かれたことをそのまま答えていいんだろうか。
ひょっとして、死んだことを知らされてショックを受けて、こっちに何かやらかすんじゃなかろうか。
やらかすにしても、読経を止めるような真似はしてほしくない。
(自分の名前は言えるか?)
(え? 三島美香、です。って、初対面の人からいきなりそんな物の言い方されたくないんだけど?)
自分の名前は憶えてたか。
けどものの言い方は互い様のような……いや、そうでもないか?
(俺の後ろに人が並んでるのは見えるよな? 知ってる顔はあるか? そいつの名前知ってるか?)
(え、えっと、お母さん。それにお兄ちゃん。あとは……えっちゃん、さとちゃん、ゆうま君、りっくに……。何でみんな泣いてるの?)
(オーケー分かった。あー……話の続きはもうちょっと待っててくれるか?)
(え? どうして? って、あなた、誰? それとあたしのこと格好……)
質問攻めはいいけども、その答えを聞かされてパニックを起こされたらこっちが困るんだよ。
(もう十分もしたら相手してやるから)
(相手? 何の?)
(いいから、少し待ってろ)
心の中で何を思っても読経は続けられる。
けどあれこれ考える余裕はない。
それより、俺が何をしてるか彼女には理解できないみたいだった。
死んだ後どうなるか分からない。
だからこの経験は貴重とは思うが……もしも彼女の幽霊なら、他の幽霊は見えないのはなぜだろう?
というか、霊感はゼロなんだが。
「では、出棺の時間まで少々時間がありますので、それまではゆっくりしててください。すいません、お願いします」
読経が終わった後から霊柩車に棺を乗せるまでの作業は葬儀社スタッフの役目。
その間は俺もしばし休息をとれる。
が、今回は違った。
(待たせたな、美香さん。俺はお前んちの菩提寺から来た磯田昭司。俺は忘れてたんだが、高校三年の時同級生だったらしい。で……俺のやってることは理解できるか?)
同級生といっても親しい間柄じゃなかった。
いくら相手が幽霊っぽくても、呼び捨てで名前を呼ぶのは、あまりいい気分じゃないだろう。
それに、お前が死んだからお勤めをしてる、だなんてことをいきなり言って、混乱させるのもまずかろう。
(ボダイジ? って何? って、高校三年の同級生のイソダショウジ君? ……あぁ、昭司君ね? 覚えてるよ? でも……あぁ、髪の毛伸ばすと……髪の毛以外ほとんど変わってないんじゃない? 久しぶりだね。って確か磯田君って……あぁ、家がお寺なんだっけ。で、えっと……手を合わせて何かしてたわよね。でもなんでこっちに向かってその格好で手を合わせてたの?)
まさか覚えていたとは。
嫌な覚え方してほしくはないんだが……。
でも俺んちが寺ってこと、親しい奴以外には話してないんだが。
いつ知ったんだろう?
(それに昭司君の後ろ、家族も同級生たちも近所の人達も揃って、結構人が結構いるんだけど……しかもみんな黒い服着て、なんか気味悪い。昭司君も……って、その格好で手を合わせてるのって……)
あなたは既に死んでます。
なんて言えない。
病院の先生とかだって、家族には宣告することは合っても、本人に言ったことがある人っていないはず。
俺が言っていいことなのか?
(それに、なんかみんなの会話がよく聞こえないんだけど。昭司君の声しか聞こえないって感じ。みんな、何であたしに話しかけてくれないの? 何でみんな、あたしの足元の方を見てるの?)
いや、俺、喋ってないし。
て言うか……死んでますよ、と教えることができる人って……俺しかいないのか?!
だって、法要が終わって緊張感がやや解けたこの人達の話声が聞こえないってんだから。
ちなみに俺は今、棺のほぼ真横の、その部屋の壁際にいる。
棺の傍では甲斐甲斐しく葬儀スタッフが動きまわり、その邪魔にならないように参列者達が棺の前にいて、棺の中の彼女に話しかけたり互いに会話してたりする。
俺みたいに遠くにいれば、その会話の言葉は確かに聞こえづらい。
だが彼女は、不安そうな顔をして俺の方を向いていてはいるが、その会話をしている人の傍にいる。
お勤めをしている最中に姿を現した棺の上で、ずっと正座のまま。
会話の内容も聞こえないはずがない。
なのに、その会話を理解することができない。
そして、遠くにいる俺の、心の中で思う言葉は聞こえてる。
心で通じ合う、なんて冗談は流石にこの場では不謹慎か。
(ねぇ、ちょっと、昭司君っ。あたし、一体どうなっちゃってるの? この格好の説明、まだ聞いてないよ?)
(どうなる、と言われても……。この後火葬場に行って、荼毘式をして火葬。二時間くらい経ってから葬儀、なんだけど……)
(え? 火葬? 誰が?)
ひょっとして、自分が死んだこと理解できてないのか?
やっぱ、伝えなきゃダメだろうなぁ……。
(えっと、俺は今日、美香さんのお母さんに呼ばれてきたんだ。その……美香さんが亡くなったって報せを受けてな)
(え? あたし?! あたし、死んじゃったの?!)
(話を聞いたんだが、病気で入院してたらしいな)
いわゆる業病ってやつだ。
治る見込みはなかったらしい。
(……うん、そうだ、病気になったんだよね。入院して、どうしようもなくて……それで……。そっか、それでこんな格好になってるのか。……死んじゃったってことは……みんなと、もう、会話できなくなったんだね……。でもどうして昭司君とは会話できてるの?)
俺が知りたい。
つか、なんでほとんど面識のなかった彼女の姿が見えるんだ?
(霊体験なんてしたことないし、それは分からん。ちなみにこれから火葬、そして葬儀の順で)
(あたし、火葬されるの?! 嫌っ! やだっ!)
(火葬場の釜に入るのはその棺。俺が会話してるお前は入らなくていいんじゃないか?)
(え? えっと……どういう……こと?)
(どうもこうも、火葬されるのは肉体。今の美香さんは、いわゆる幽霊みたいな感じ、かな。だからあなたは、肉体に付き従って一緒に釜に入る必要はないんじゃないかな……)
(え?)
いや、え? じゃないし。
ていうか、ずっと座りっぱなし?
移動できないの?
(言われてみればそうね……。キャッ!)
「うおっ!」
いきなり悲鳴を聞かされると驚くもので。
その驚きが声に出てしまった。
「磯田、どうした」
傍にいた同期に声をかけられた。
高校の一、二年の時の同級の河合で、会話は何度かしたことがある。
「あ、いや。何でも……」
「そか。まぁお勤めお疲れ。しかし……いつ死ぬか、なんて分かんないもんなんだな」
「……仲良かったのか?」
「良かったっつーより、同期で知らない奴はほとんどいないだろ」
すいません、知りませんでした。
(ちょっと、昭司君!)
美香が何か話しかけてくるが、俺に話しかけてくる奴との会話を優先しないとまずいだろ。
「磯田、お前、葬式も出るのか?」
「いや、親父……住職がやることになってる。俺じゃ荷が重い。まだ下積みしな」
(ねぇ、昭司君ってばっ!)
「そうか……。お前と普通に話しできるのって、俺と……三輪と高梨くらいか?」
三輪と高梨は三年の時の、俺の同級。
普通に話ができる、というのは、俺は高校三年間、テストは毎回赤点だったから。
成績は常に最下位争いしてた。
ようするに、普通以上の成績の奴らからは見下されてたって感じだ。
そんな奴とまともに会話する気はない、ということなんだろう。
(えっと、確か河合君だっけ? ちょっとどいてくれる? ねぇ、昭司くーん?)
「でもまぁお疲れ」
「おう。……彼女と最後の対面してきな」
「うん、見てくるよ。また後で」
(昭司君ってば!)
美香は、河合との会話の間中、俺の視界に入ってその会話に割って入ろうとしてた。
不機嫌な顔が、何となくかわいい。
でも顔色が青白く変化しつつある。
ちょっと怖い。
(……浮いてるな)
(そうなのよ。ふわふわ浮いてるの。歩こうと思えば歩けるけど、浮いてる方が早く移動できるし、便利)
幽霊ライフ、なんて言葉が脳内に浮かぶ。
使い道が全くない言葉だな。
(でも、お前はみんなに挨拶しなくていいのか? みんな、棺の中のお前の顔を見に行ってるぞ?)
(でも、あたしの声、みんなに聞こえてないみたいだし……)
(俺だって、まさか亡くなった人とこんな風に会話できる何と思いもしなかったよ!)
(そうなの? 仕事柄、しょっちゅうあるんじゃないの?)
あってたまるか。
(幽霊を見るだけじゃなく、会話ができるなんて生まれて初めての体験だよ。周りにそんなことしてると思われないようにするのがかなり大変だわ)
(気にしすぎじゃないの?)
(誰もいない空間に向かって独り言する人って、不気味に見えない?)
(それもそうね……。って、あたし、幽霊状態?)
それ以外の、彼女の状態の呼称を知らない。
それよりも。
(……俺、お前の事知らなかったんだよな。なのに今になって、俺はお前に一方的に話しかけられて……なんかヘンな気分だ)
(知らなかったの? ちょっと失礼過ぎない?)
クラスの人気者。
成績はいい方のはず。
俺とは正反対だからな。
(自己紹介から始めないと気持ちが落ち着かない)
(必要ないでしょ。……あたしのことを拝みに来れるようになった元同級生。それだけで十分よ)
必要ないことは知らなくてもいい、ということか。
まぁ別にそれでもいいけど。
でも。
(こうして見送りに来てくれる同級生たちは、互いにもっとよく知ってるんだろ?)
(それはそうだけど……今会話してくれる相手、昭司君しかいないもの)
まるで高校時代の俺だな。
友達と呼べる相手が少なかった。
けど、人数が多けりゃ、俺みたいに会話できる相手も現れるんじゃないか?
(火葬場ならもっと人が集まってくる。俺以外に相手してくれる奴、いると思うぞ? 霊を見たことがある、なんてこと言いそうな奴もいるんじゃないか?)
(霊を見ることができるかどうか、なんかじゃなく、あたしとお話しできる相手がいるかどうかよ。実際昭司君は、今まで幽霊を見たことがなかったんでしょ?)
ごもっとも。
まぁ火葬場、そして葬儀の時間にならんと、いるかどうかは言えんな。
「では出棺になります。貴重品などはお持ちください」
(だそうだ。んじゃ行くか)
(えっと、あたしはどうすればいいの?)
(どう……って……)
霊柩車に乘る……っていっても変な話だし。
来客たちは、葬儀社が用意した送迎用のバスで移動するはず。
あ、俺は……。
「あ、和尚さんは、ご遺族の親類の方が送り迎えしてくださるようですから、そちらへどうぞ」
「あ、はい、ありがとうございます」
(……あたしは?)
と申されましてもな。
(……ついてくるか? もっとも俺はお勤めが終わった後、棺が釜に入ったらすぐ寺に帰る。今日はそれでお役御免だ)
(え?! 聞いてないんだけど! あたしはどうなるの?!)
……そっちの世界のリアルについては……よく分からんから何とも言えん。
どうしよう?
とりあえず……。
(火葬が終わったら、みんな、バスで式場に向かうんじゃね? それについて行ったらいいと思うよ?)
(……なんか、すごく退屈になりそう……)
話し相手が現れることを祈ってるよ。
ここはどこ? あなたは誰? 何してるの? 状態。
死んだら生前の記憶が亡くなるんだろうか?
いくら寺の僧侶でも、死んだ経験は流石にないから分からない。
ただ、彼女は自分の名前は知ってるんだろうか?
高校時代の同級ではあるが、俺の名前を知らなくても不思議じゃない。
俺だって知らなかったんだから。
けど、聞かれたことをそのまま答えていいんだろうか。
ひょっとして、死んだことを知らされてショックを受けて、こっちに何かやらかすんじゃなかろうか。
やらかすにしても、読経を止めるような真似はしてほしくない。
(自分の名前は言えるか?)
(え? 三島美香、です。って、初対面の人からいきなりそんな物の言い方されたくないんだけど?)
自分の名前は憶えてたか。
けどものの言い方は互い様のような……いや、そうでもないか?
(俺の後ろに人が並んでるのは見えるよな? 知ってる顔はあるか? そいつの名前知ってるか?)
(え、えっと、お母さん。それにお兄ちゃん。あとは……えっちゃん、さとちゃん、ゆうま君、りっくに……。何でみんな泣いてるの?)
(オーケー分かった。あー……話の続きはもうちょっと待っててくれるか?)
(え? どうして? って、あなた、誰? それとあたしのこと格好……)
質問攻めはいいけども、その答えを聞かされてパニックを起こされたらこっちが困るんだよ。
(もう十分もしたら相手してやるから)
(相手? 何の?)
(いいから、少し待ってろ)
心の中で何を思っても読経は続けられる。
けどあれこれ考える余裕はない。
それより、俺が何をしてるか彼女には理解できないみたいだった。
死んだ後どうなるか分からない。
だからこの経験は貴重とは思うが……もしも彼女の幽霊なら、他の幽霊は見えないのはなぜだろう?
というか、霊感はゼロなんだが。
「では、出棺の時間まで少々時間がありますので、それまではゆっくりしててください。すいません、お願いします」
読経が終わった後から霊柩車に棺を乗せるまでの作業は葬儀社スタッフの役目。
その間は俺もしばし休息をとれる。
が、今回は違った。
(待たせたな、美香さん。俺はお前んちの菩提寺から来た磯田昭司。俺は忘れてたんだが、高校三年の時同級生だったらしい。で……俺のやってることは理解できるか?)
同級生といっても親しい間柄じゃなかった。
いくら相手が幽霊っぽくても、呼び捨てで名前を呼ぶのは、あまりいい気分じゃないだろう。
それに、お前が死んだからお勤めをしてる、だなんてことをいきなり言って、混乱させるのもまずかろう。
(ボダイジ? って何? って、高校三年の同級生のイソダショウジ君? ……あぁ、昭司君ね? 覚えてるよ? でも……あぁ、髪の毛伸ばすと……髪の毛以外ほとんど変わってないんじゃない? 久しぶりだね。って確か磯田君って……あぁ、家がお寺なんだっけ。で、えっと……手を合わせて何かしてたわよね。でもなんでこっちに向かってその格好で手を合わせてたの?)
まさか覚えていたとは。
嫌な覚え方してほしくはないんだが……。
でも俺んちが寺ってこと、親しい奴以外には話してないんだが。
いつ知ったんだろう?
(それに昭司君の後ろ、家族も同級生たちも近所の人達も揃って、結構人が結構いるんだけど……しかもみんな黒い服着て、なんか気味悪い。昭司君も……って、その格好で手を合わせてるのって……)
あなたは既に死んでます。
なんて言えない。
病院の先生とかだって、家族には宣告することは合っても、本人に言ったことがある人っていないはず。
俺が言っていいことなのか?
(それに、なんかみんなの会話がよく聞こえないんだけど。昭司君の声しか聞こえないって感じ。みんな、何であたしに話しかけてくれないの? 何でみんな、あたしの足元の方を見てるの?)
いや、俺、喋ってないし。
て言うか……死んでますよ、と教えることができる人って……俺しかいないのか?!
だって、法要が終わって緊張感がやや解けたこの人達の話声が聞こえないってんだから。
ちなみに俺は今、棺のほぼ真横の、その部屋の壁際にいる。
棺の傍では甲斐甲斐しく葬儀スタッフが動きまわり、その邪魔にならないように参列者達が棺の前にいて、棺の中の彼女に話しかけたり互いに会話してたりする。
俺みたいに遠くにいれば、その会話の言葉は確かに聞こえづらい。
だが彼女は、不安そうな顔をして俺の方を向いていてはいるが、その会話をしている人の傍にいる。
お勤めをしている最中に姿を現した棺の上で、ずっと正座のまま。
会話の内容も聞こえないはずがない。
なのに、その会話を理解することができない。
そして、遠くにいる俺の、心の中で思う言葉は聞こえてる。
心で通じ合う、なんて冗談は流石にこの場では不謹慎か。
(ねぇ、ちょっと、昭司君っ。あたし、一体どうなっちゃってるの? この格好の説明、まだ聞いてないよ?)
(どうなる、と言われても……。この後火葬場に行って、荼毘式をして火葬。二時間くらい経ってから葬儀、なんだけど……)
(え? 火葬? 誰が?)
ひょっとして、自分が死んだこと理解できてないのか?
やっぱ、伝えなきゃダメだろうなぁ……。
(えっと、俺は今日、美香さんのお母さんに呼ばれてきたんだ。その……美香さんが亡くなったって報せを受けてな)
(え? あたし?! あたし、死んじゃったの?!)
(話を聞いたんだが、病気で入院してたらしいな)
いわゆる業病ってやつだ。
治る見込みはなかったらしい。
(……うん、そうだ、病気になったんだよね。入院して、どうしようもなくて……それで……。そっか、それでこんな格好になってるのか。……死んじゃったってことは……みんなと、もう、会話できなくなったんだね……。でもどうして昭司君とは会話できてるの?)
俺が知りたい。
つか、なんでほとんど面識のなかった彼女の姿が見えるんだ?
(霊体験なんてしたことないし、それは分からん。ちなみにこれから火葬、そして葬儀の順で)
(あたし、火葬されるの?! 嫌っ! やだっ!)
(火葬場の釜に入るのはその棺。俺が会話してるお前は入らなくていいんじゃないか?)
(え? えっと……どういう……こと?)
(どうもこうも、火葬されるのは肉体。今の美香さんは、いわゆる幽霊みたいな感じ、かな。だからあなたは、肉体に付き従って一緒に釜に入る必要はないんじゃないかな……)
(え?)
いや、え? じゃないし。
ていうか、ずっと座りっぱなし?
移動できないの?
(言われてみればそうね……。キャッ!)
「うおっ!」
いきなり悲鳴を聞かされると驚くもので。
その驚きが声に出てしまった。
「磯田、どうした」
傍にいた同期に声をかけられた。
高校の一、二年の時の同級の河合で、会話は何度かしたことがある。
「あ、いや。何でも……」
「そか。まぁお勤めお疲れ。しかし……いつ死ぬか、なんて分かんないもんなんだな」
「……仲良かったのか?」
「良かったっつーより、同期で知らない奴はほとんどいないだろ」
すいません、知りませんでした。
(ちょっと、昭司君!)
美香が何か話しかけてくるが、俺に話しかけてくる奴との会話を優先しないとまずいだろ。
「磯田、お前、葬式も出るのか?」
「いや、親父……住職がやることになってる。俺じゃ荷が重い。まだ下積みしな」
(ねぇ、昭司君ってばっ!)
「そうか……。お前と普通に話しできるのって、俺と……三輪と高梨くらいか?」
三輪と高梨は三年の時の、俺の同級。
普通に話ができる、というのは、俺は高校三年間、テストは毎回赤点だったから。
成績は常に最下位争いしてた。
ようするに、普通以上の成績の奴らからは見下されてたって感じだ。
そんな奴とまともに会話する気はない、ということなんだろう。
(えっと、確か河合君だっけ? ちょっとどいてくれる? ねぇ、昭司くーん?)
「でもまぁお疲れ」
「おう。……彼女と最後の対面してきな」
「うん、見てくるよ。また後で」
(昭司君ってば!)
美香は、河合との会話の間中、俺の視界に入ってその会話に割って入ろうとしてた。
不機嫌な顔が、何となくかわいい。
でも顔色が青白く変化しつつある。
ちょっと怖い。
(……浮いてるな)
(そうなのよ。ふわふわ浮いてるの。歩こうと思えば歩けるけど、浮いてる方が早く移動できるし、便利)
幽霊ライフ、なんて言葉が脳内に浮かぶ。
使い道が全くない言葉だな。
(でも、お前はみんなに挨拶しなくていいのか? みんな、棺の中のお前の顔を見に行ってるぞ?)
(でも、あたしの声、みんなに聞こえてないみたいだし……)
(俺だって、まさか亡くなった人とこんな風に会話できる何と思いもしなかったよ!)
(そうなの? 仕事柄、しょっちゅうあるんじゃないの?)
あってたまるか。
(幽霊を見るだけじゃなく、会話ができるなんて生まれて初めての体験だよ。周りにそんなことしてると思われないようにするのがかなり大変だわ)
(気にしすぎじゃないの?)
(誰もいない空間に向かって独り言する人って、不気味に見えない?)
(それもそうね……。って、あたし、幽霊状態?)
それ以外の、彼女の状態の呼称を知らない。
それよりも。
(……俺、お前の事知らなかったんだよな。なのに今になって、俺はお前に一方的に話しかけられて……なんかヘンな気分だ)
(知らなかったの? ちょっと失礼過ぎない?)
クラスの人気者。
成績はいい方のはず。
俺とは正反対だからな。
(自己紹介から始めないと気持ちが落ち着かない)
(必要ないでしょ。……あたしのことを拝みに来れるようになった元同級生。それだけで十分よ)
必要ないことは知らなくてもいい、ということか。
まぁ別にそれでもいいけど。
でも。
(こうして見送りに来てくれる同級生たちは、互いにもっとよく知ってるんだろ?)
(それはそうだけど……今会話してくれる相手、昭司君しかいないもの)
まるで高校時代の俺だな。
友達と呼べる相手が少なかった。
けど、人数が多けりゃ、俺みたいに会話できる相手も現れるんじゃないか?
(火葬場ならもっと人が集まってくる。俺以外に相手してくれる奴、いると思うぞ? 霊を見たことがある、なんてこと言いそうな奴もいるんじゃないか?)
(霊を見ることができるかどうか、なんかじゃなく、あたしとお話しできる相手がいるかどうかよ。実際昭司君は、今まで幽霊を見たことがなかったんでしょ?)
ごもっとも。
まぁ火葬場、そして葬儀の時間にならんと、いるかどうかは言えんな。
「では出棺になります。貴重品などはお持ちください」
(だそうだ。んじゃ行くか)
(えっと、あたしはどうすればいいの?)
(どう……って……)
霊柩車に乘る……っていっても変な話だし。
来客たちは、葬儀社が用意した送迎用のバスで移動するはず。
あ、俺は……。
「あ、和尚さんは、ご遺族の親類の方が送り迎えしてくださるようですから、そちらへどうぞ」
「あ、はい、ありがとうございます」
(……あたしは?)
と申されましてもな。
(……ついてくるか? もっとも俺はお勤めが終わった後、棺が釜に入ったらすぐ寺に帰る。今日はそれでお役御免だ)
(え?! 聞いてないんだけど! あたしはどうなるの?!)
……そっちの世界のリアルについては……よく分からんから何とも言えん。
どうしよう?
とりあえず……。
(火葬が終わったら、みんな、バスで式場に向かうんじゃね? それについて行ったらいいと思うよ?)
(……なんか、すごく退屈になりそう……)
話し相手が現れることを祈ってるよ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?
無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。
どっちが稼げるのだろう?
いろんな方の想いがあるのかと・・・。
2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。
あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる