17 / 28
一周忌の法要の後と翌月の命日 こんな坊主は我ながら変
しおりを挟む
「さっきはごめんね? 何人か、磯田くんち……菩提寺に、あたしと一緒に謝りに行きたいっていう人もいたんだけど……」
池田が、頂き損ねた料理の折り詰めを持ってきてくれた。
「わざわざご丁寧に、どうも」
「で……」
「美香さんの様子は?」
「あ、えっと、周りにバレないような身振り手振りで、何とか落ち着かせた」
この二人の間の誤解を解いてて何よりだった。
「ところで、杉本君が変な事言い出してごめんなさいね。気分悪くしたでしょ」
「別に? ネットじゃ生臭坊主を叩く材料を口にしてただけの事。あれがうちにも当てはまるとは限らないからな」
それに、檀家でない者が好き勝手な妄想をして文句を言い出したって、こっちには痛くも何ともない。
ただ、高校生活は、成績の悪さから黒歴史みたいに思ってるから、それはちょっと痛いかな。
自業自得だからしょうがない……のか?
「ネットでの悪口?」
「高給外車乗り回してるだの、葬儀の戒名料が百万円だのなんだのと。ならお布施がそれに加わるんだよな。まさに羨ましい限り。うちは御覧の通り、隙間風が入ってくる、築百年の庫裏だからなぁ。壁がないからエアコンも付けられない。だから、夏は熱く、冬は寒い冷暖房完備」
「え? いいじゃない。夏は熱く冬は寒い……って、それ、当たり前じゃないの!」
「天然の冷暖房。羨ましいだろ。お勧めするよ」
「かなり遠慮したいわね」
何でだよ。
文句言うなよ。
地球に向かって文句言う気か?
何様だよ。
「ぶっちゃけ、葬儀の時の収入は一件につき、最大五十五万だな。三か月に二件あるかどうか」
「でもそれ、個人じゃなくて法人の収入よね? 給料はそこから出されるんでしょ?」
なんか、また同じ話しさせられそうな気がする
「法事の後にお斎があれば、晩飯代は浮くこともある」
「何と言うか、悲しく思えるからちょっとその話題は……」
「外食気分の晩ご飯」
「いや、もういいから。何か侘しく感じる……」
もう一撃、とどめを刺そうか?
「うちにポルシェとフェラーリはあるけどな」
「え? 外車?」
「……お前は、もしペットを飼ったら、犬に犬という名前をつける気か? 猫に猫という名前を付けて楽しいか? そして、自転車に自転車という愛称を付けて楽しいか?」
「もう分かったから止めてくれない? ちょっと悲しくなっちゃうから」
ペットの話を聞いて悲しくなる、ということは……死なれたのかな?
まあいいけど。
「ちなみに今日履いてた下駄の愛称はエアマッ……」
「もういいから」
カットされちまった。
「何と言うか……。とりあえず、杉本の奴が無礼な事言って、ホントごめんなさい。美香ちゃんのお母さんも恐縮してた」
「いや、そこまで気にしなくていいと思うよ?」
「え?」
「一家団欒の場で、菩提寺が話題に上がることってほとんどないだろ? 将来どんな仕事になりたいかっていう子供の夢にも僧侶ってのがベスト五にも上がらないしさ。見ているテレビの特集とかニュースに出たときくらいだろ。でなきゃ放置される墓なんてあるわけがない」
日常の中では忘れられがちな類だ。
だから同業者の中には、あの手この手を考えて、多くの人の気を惹こうとしてる。
それも悪くはないとは思うが、そのあの手この手をよく思わない人も多くいる。
けどその人達もまた、普段はあまりこちら側に関心がなかったりするんだな。
けど、無関心な人達からの言葉に一喜一憂するようじゃ、それこそ諸行無常の世の中にどっぷり漬かってると言えないか?
それが苦しみの大元かもしれないし。
だから、そんな言葉に振り回されず、動じずにいる方が、僧侶の振る舞いみたいな感じはする。
だから、あんな風に言われても、こんな風に謝られても、気持ちはあまり動かない。
心が死んだ奴もそんな感じになるかも分からんが……いや、ひょっとして死んでるのかな?
「ま、気にするなっつっても来週にはすっかり忘れてるだろうから言わなくてもいいかもしれない」
「シニカルね……」
本音なんだがな。
「それと、美香ちゃんのお母さんから、月命日の一週間くらい前に確認の電話しますって言ってた」
一周忌過ぎても月命日のお勤めを依頼するのか。
まぁ三回忌まではお願いしますって檀家も割といるしな。
三回忌まで続けるのかもしれんな。
「了解。で、池田さんはこのまま帰るんだっけ?」
「ホテルに一泊して、明日の朝帰る予定。……夜とか時間空かない?」
「夜は、子供は寝る時間」
「磯田君……あなたね……」
何か変な事言ったか?
「夜に会ってまで話すこともないだろ。俺には幽霊なら美香さんしか見えないから、池田さんの仕事の手伝いなんかできそうにないし、幽霊の存在は認めることはできても、だからといって池田さんの良き理解者とも言い切ることはできないし」
「そりゃそうだけど……まぁいいわ。また連絡するから」
実の娘の月命日を、一周忌が過ぎても執り行うってのは、親子の情ってのがあるだろうからまぁ分かる。
が、ただの友人なのに、高い交通費を払ってまで来るってのは……何かの絆があるってことかな。
まぁそれに口出しするようなことはしないが。
※※※※※ ※※※※※
その翌月。
前日に池田から連絡が来て、いつものように迎えに来てもらった。
「杉本君は、今月は来れないみたい」
「毎回来る奴は……あれ? 池田さんくらいか? あとは飛び飛びで来てるっぽいな。人数は減ってるけどさ」
「そうなの? ……って、そうじゃなくて」
そうじゃないなら何なのだ?
「直接お詫びするって言ってたんだけどな」
「だから言っただろ。日常会話に、友人の家の菩提寺なんか話題に出ないって」
「そりゃそうだけど……」
ついでに言えば、誰にでも、何かをしたいことがたくさんあった時には優先順位が付けられる。
一番したい事としなきゃいけないことが合致したら、間違いなくそれが最初に取り掛からなければならない仕事。
じゃあ二番目は? 三番目は?
そうやって順番を付けていけば、友人へのお参りもその番号が付けられる。
ただ、早いか遅いかの違い。
そしておそらく、誰もが遅い方につけられることだろう。
だが、早い方に付けられた仕事や作業が後回しにしても問題なかった場合、ようやくお参りの出番になるってことだ。
お参り、そして俺への詫びは、さほど重要ではない、と解釈していい。
そんなもんだ。
そして、それも仕方がないことだと思うし、それは許されることとも思う。
それに、俺にはその事ばかり気にかけてる場合じゃない。
他の檀家の年回忌はもちろんの事、七日日の予定も入ってる。
枕経はいつ連絡が来るか分からないのは相変わらず。
そして……美香はいつまでこの世に留まっているものか。
本人の意思とは無関係らしいのがやっかいだ。
ま、俺の挙動が、他の人におかしく見えてなければ構わないところではある。
「あ、着いたよ」
美香の現状に関する情報は、新しいものがない。
故に、池田との会話も減っていく。
池田から何かを言い出すことがない限り、美香の異変に警戒する必要はないだろう。
といっても異変が起きたとしても打つ手はないのは分かり切ってるのだが。
「おはようございますー」
「はーい」
パタパタと足音が近づいて……。
「今月も来てくれてありがとうございます」
という挨拶から
(おはよー。来てくれてありがとうございます)
までの一連の流れにも、何の変哲もない。
そして読経中に話しかけてくる美香も、いつもの様子に変化なし。
いつものことだ。
そして読経が終わる。
「終わりました」
「お疲れさまでした」
正座でのお辞儀から姿勢を戻す。
そこで初めておかしいことに気付く。
「……あの」
「何でしょう?」
そんなこと、するかな?
いや、ないはずだ。
「えっと……お化粧、変えました?」
「え? やだ、普段通りですよ?」
美香の母親は笑っちゃいるが……。
なんか、今までの肌色っぽさが薄らいでいる。
つまり、何というんだ?
白っぽさが強く、影が目立つって感じだが……。
「照明のせいかな?」
「ひょっとして、冬が近づいてるのかも」
まだ十月。
そう言うには……ちょっと気が早いかな?
「ひょっとして、老眼かもしれないっ」
「まだ二十代でしょうに」
朗らかに笑う様子も、いつもと変わらない。
……眼鏡をかけなきゃ何も見えないほど視力は悪いから……あとで眼科に行ってみるかな。
「あー、磯田。先月は杉本の奴が済まん」
「ん? あ、いや、別に何とも」
(あ、そうだ。先月、あいつ変な事言ったみたいよね。気を悪くさせてごめんね?)
周りが謝っても意味のないことだが。
奴が周囲の人間にもあんな対応したりするなら、俺に謝るじゃなくてあいつを窘める方が先だと思うんだが。
(お前が謝ることじゃなかろうに)
(でも……)
(いいからお前は、この家にいる限り、黙って俺に拝まれてろ)
(……ぷっ。変な言い方)
幽霊を笑わせる坊主って……ありか?
まぁいいけど。
(けどお前の場合は、そんなことよりも極楽浄土に行けそうな方法とか場所とか探すべきだと思うんだが?)
(それが全く心当たりなくてね……。お母さんの肩もみだって、お母さんいろいろ忙しそうにして外に出てるから……)
(元気なのはいいことだ)
(ほんとに元気なのよね。……そう言えばさっきお化粧のこと聞いてたよね?)
(ん? あぁ)
(あたしも……お化粧変わったとは思えないんだけど。って言うか、おかしいところなんかないと思うんだけど)
思わせぶりなことを言うと思ったら、何もなしかい。
ま、何もなけりゃ、こっちが気にしすぎってとこか。
「……それにしても磯……和尚さんは、全く膝崩さないのね」
「ん? あ、楽にしていいですよ? と言っても法要中も楽な姿勢でいても構いませんがね」
「崩したいのはやまやまだけど、他人の家だしスカートだし……」
(池田のスカートの中、見えるかもよ?)
(な、何言ってんのよっ!)
美香の奴、顔を真っ赤にして両手を握りこぶしにして頭をポカポカ叩いてくる。
もちろん痛くも何ともない。
が、池田は目を丸くする。
「おい、その顔、他の奴らに見せんじゃねぇぞ」
「え……え? あ、うん」
池田にしか聞こえない声で注意した。
挙動不審に注意、は池田の方がかなり危ない。
というか……幽霊に握りこぶしで殴られる坊主ってのも、俺くらいなもんだよな。
「お待たせしました。お茶とお茶菓子、どうぞ」
……美香が顔を赤っぽくしていきなり止まる。
幽霊の方が可愛い気がするのは……うん、考えるのも感じるのも止めよう。
アブナい世界に入り込んでしまいそうだ。
池田が、頂き損ねた料理の折り詰めを持ってきてくれた。
「わざわざご丁寧に、どうも」
「で……」
「美香さんの様子は?」
「あ、えっと、周りにバレないような身振り手振りで、何とか落ち着かせた」
この二人の間の誤解を解いてて何よりだった。
「ところで、杉本君が変な事言い出してごめんなさいね。気分悪くしたでしょ」
「別に? ネットじゃ生臭坊主を叩く材料を口にしてただけの事。あれがうちにも当てはまるとは限らないからな」
それに、檀家でない者が好き勝手な妄想をして文句を言い出したって、こっちには痛くも何ともない。
ただ、高校生活は、成績の悪さから黒歴史みたいに思ってるから、それはちょっと痛いかな。
自業自得だからしょうがない……のか?
「ネットでの悪口?」
「高給外車乗り回してるだの、葬儀の戒名料が百万円だのなんだのと。ならお布施がそれに加わるんだよな。まさに羨ましい限り。うちは御覧の通り、隙間風が入ってくる、築百年の庫裏だからなぁ。壁がないからエアコンも付けられない。だから、夏は熱く、冬は寒い冷暖房完備」
「え? いいじゃない。夏は熱く冬は寒い……って、それ、当たり前じゃないの!」
「天然の冷暖房。羨ましいだろ。お勧めするよ」
「かなり遠慮したいわね」
何でだよ。
文句言うなよ。
地球に向かって文句言う気か?
何様だよ。
「ぶっちゃけ、葬儀の時の収入は一件につき、最大五十五万だな。三か月に二件あるかどうか」
「でもそれ、個人じゃなくて法人の収入よね? 給料はそこから出されるんでしょ?」
なんか、また同じ話しさせられそうな気がする
「法事の後にお斎があれば、晩飯代は浮くこともある」
「何と言うか、悲しく思えるからちょっとその話題は……」
「外食気分の晩ご飯」
「いや、もういいから。何か侘しく感じる……」
もう一撃、とどめを刺そうか?
「うちにポルシェとフェラーリはあるけどな」
「え? 外車?」
「……お前は、もしペットを飼ったら、犬に犬という名前をつける気か? 猫に猫という名前を付けて楽しいか? そして、自転車に自転車という愛称を付けて楽しいか?」
「もう分かったから止めてくれない? ちょっと悲しくなっちゃうから」
ペットの話を聞いて悲しくなる、ということは……死なれたのかな?
まあいいけど。
「ちなみに今日履いてた下駄の愛称はエアマッ……」
「もういいから」
カットされちまった。
「何と言うか……。とりあえず、杉本の奴が無礼な事言って、ホントごめんなさい。美香ちゃんのお母さんも恐縮してた」
「いや、そこまで気にしなくていいと思うよ?」
「え?」
「一家団欒の場で、菩提寺が話題に上がることってほとんどないだろ? 将来どんな仕事になりたいかっていう子供の夢にも僧侶ってのがベスト五にも上がらないしさ。見ているテレビの特集とかニュースに出たときくらいだろ。でなきゃ放置される墓なんてあるわけがない」
日常の中では忘れられがちな類だ。
だから同業者の中には、あの手この手を考えて、多くの人の気を惹こうとしてる。
それも悪くはないとは思うが、そのあの手この手をよく思わない人も多くいる。
けどその人達もまた、普段はあまりこちら側に関心がなかったりするんだな。
けど、無関心な人達からの言葉に一喜一憂するようじゃ、それこそ諸行無常の世の中にどっぷり漬かってると言えないか?
それが苦しみの大元かもしれないし。
だから、そんな言葉に振り回されず、動じずにいる方が、僧侶の振る舞いみたいな感じはする。
だから、あんな風に言われても、こんな風に謝られても、気持ちはあまり動かない。
心が死んだ奴もそんな感じになるかも分からんが……いや、ひょっとして死んでるのかな?
「ま、気にするなっつっても来週にはすっかり忘れてるだろうから言わなくてもいいかもしれない」
「シニカルね……」
本音なんだがな。
「それと、美香ちゃんのお母さんから、月命日の一週間くらい前に確認の電話しますって言ってた」
一周忌過ぎても月命日のお勤めを依頼するのか。
まぁ三回忌まではお願いしますって檀家も割といるしな。
三回忌まで続けるのかもしれんな。
「了解。で、池田さんはこのまま帰るんだっけ?」
「ホテルに一泊して、明日の朝帰る予定。……夜とか時間空かない?」
「夜は、子供は寝る時間」
「磯田君……あなたね……」
何か変な事言ったか?
「夜に会ってまで話すこともないだろ。俺には幽霊なら美香さんしか見えないから、池田さんの仕事の手伝いなんかできそうにないし、幽霊の存在は認めることはできても、だからといって池田さんの良き理解者とも言い切ることはできないし」
「そりゃそうだけど……まぁいいわ。また連絡するから」
実の娘の月命日を、一周忌が過ぎても執り行うってのは、親子の情ってのがあるだろうからまぁ分かる。
が、ただの友人なのに、高い交通費を払ってまで来るってのは……何かの絆があるってことかな。
まぁそれに口出しするようなことはしないが。
※※※※※ ※※※※※
その翌月。
前日に池田から連絡が来て、いつものように迎えに来てもらった。
「杉本君は、今月は来れないみたい」
「毎回来る奴は……あれ? 池田さんくらいか? あとは飛び飛びで来てるっぽいな。人数は減ってるけどさ」
「そうなの? ……って、そうじゃなくて」
そうじゃないなら何なのだ?
「直接お詫びするって言ってたんだけどな」
「だから言っただろ。日常会話に、友人の家の菩提寺なんか話題に出ないって」
「そりゃそうだけど……」
ついでに言えば、誰にでも、何かをしたいことがたくさんあった時には優先順位が付けられる。
一番したい事としなきゃいけないことが合致したら、間違いなくそれが最初に取り掛からなければならない仕事。
じゃあ二番目は? 三番目は?
そうやって順番を付けていけば、友人へのお参りもその番号が付けられる。
ただ、早いか遅いかの違い。
そしておそらく、誰もが遅い方につけられることだろう。
だが、早い方に付けられた仕事や作業が後回しにしても問題なかった場合、ようやくお参りの出番になるってことだ。
お参り、そして俺への詫びは、さほど重要ではない、と解釈していい。
そんなもんだ。
そして、それも仕方がないことだと思うし、それは許されることとも思う。
それに、俺にはその事ばかり気にかけてる場合じゃない。
他の檀家の年回忌はもちろんの事、七日日の予定も入ってる。
枕経はいつ連絡が来るか分からないのは相変わらず。
そして……美香はいつまでこの世に留まっているものか。
本人の意思とは無関係らしいのがやっかいだ。
ま、俺の挙動が、他の人におかしく見えてなければ構わないところではある。
「あ、着いたよ」
美香の現状に関する情報は、新しいものがない。
故に、池田との会話も減っていく。
池田から何かを言い出すことがない限り、美香の異変に警戒する必要はないだろう。
といっても異変が起きたとしても打つ手はないのは分かり切ってるのだが。
「おはようございますー」
「はーい」
パタパタと足音が近づいて……。
「今月も来てくれてありがとうございます」
という挨拶から
(おはよー。来てくれてありがとうございます)
までの一連の流れにも、何の変哲もない。
そして読経中に話しかけてくる美香も、いつもの様子に変化なし。
いつものことだ。
そして読経が終わる。
「終わりました」
「お疲れさまでした」
正座でのお辞儀から姿勢を戻す。
そこで初めておかしいことに気付く。
「……あの」
「何でしょう?」
そんなこと、するかな?
いや、ないはずだ。
「えっと……お化粧、変えました?」
「え? やだ、普段通りですよ?」
美香の母親は笑っちゃいるが……。
なんか、今までの肌色っぽさが薄らいでいる。
つまり、何というんだ?
白っぽさが強く、影が目立つって感じだが……。
「照明のせいかな?」
「ひょっとして、冬が近づいてるのかも」
まだ十月。
そう言うには……ちょっと気が早いかな?
「ひょっとして、老眼かもしれないっ」
「まだ二十代でしょうに」
朗らかに笑う様子も、いつもと変わらない。
……眼鏡をかけなきゃ何も見えないほど視力は悪いから……あとで眼科に行ってみるかな。
「あー、磯田。先月は杉本の奴が済まん」
「ん? あ、いや、別に何とも」
(あ、そうだ。先月、あいつ変な事言ったみたいよね。気を悪くさせてごめんね?)
周りが謝っても意味のないことだが。
奴が周囲の人間にもあんな対応したりするなら、俺に謝るじゃなくてあいつを窘める方が先だと思うんだが。
(お前が謝ることじゃなかろうに)
(でも……)
(いいからお前は、この家にいる限り、黙って俺に拝まれてろ)
(……ぷっ。変な言い方)
幽霊を笑わせる坊主って……ありか?
まぁいいけど。
(けどお前の場合は、そんなことよりも極楽浄土に行けそうな方法とか場所とか探すべきだと思うんだが?)
(それが全く心当たりなくてね……。お母さんの肩もみだって、お母さんいろいろ忙しそうにして外に出てるから……)
(元気なのはいいことだ)
(ほんとに元気なのよね。……そう言えばさっきお化粧のこと聞いてたよね?)
(ん? あぁ)
(あたしも……お化粧変わったとは思えないんだけど。って言うか、おかしいところなんかないと思うんだけど)
思わせぶりなことを言うと思ったら、何もなしかい。
ま、何もなけりゃ、こっちが気にしすぎってとこか。
「……それにしても磯……和尚さんは、全く膝崩さないのね」
「ん? あ、楽にしていいですよ? と言っても法要中も楽な姿勢でいても構いませんがね」
「崩したいのはやまやまだけど、他人の家だしスカートだし……」
(池田のスカートの中、見えるかもよ?)
(な、何言ってんのよっ!)
美香の奴、顔を真っ赤にして両手を握りこぶしにして頭をポカポカ叩いてくる。
もちろん痛くも何ともない。
が、池田は目を丸くする。
「おい、その顔、他の奴らに見せんじゃねぇぞ」
「え……え? あ、うん」
池田にしか聞こえない声で注意した。
挙動不審に注意、は池田の方がかなり危ない。
というか……幽霊に握りこぶしで殴られる坊主ってのも、俺くらいなもんだよな。
「お待たせしました。お茶とお茶菓子、どうぞ」
……美香が顔を赤っぽくしていきなり止まる。
幽霊の方が可愛い気がするのは……うん、考えるのも感じるのも止めよう。
アブナい世界に入り込んでしまいそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?
無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。
どっちが稼げるのだろう?
いろんな方の想いがあるのかと・・・。
2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。
あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる