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未熟な冒険者のコルト
異世界のプチ情報収集
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それにしても、とふと考える。
こいつらとこんなにいろんな会話したのって、初めてのような気がする。
こいつらがこの部屋に初めて来たときは、みんな誰もが苦痛に顔を歪ませてたり、この部屋に来るなりすぐに倒れてたりしてたから。
そいつらは、俺の世界じゃ見ることのない鎧とか防具とかつけている。
しかもその装備品は、どこか欠けていたり壊れていたり、何かの部品が外れていたり傷だらけになってたりしてる。
命からがらって言葉がぴったりな連中のその姿は、説明なんか聞かなくったって状況はすぐに分かる。
だからこんな風に具体的な話を聞くのは、考えてみりゃ初めてだったんだよな。
握り飯配り終わったらすぐに次の握り飯の準備にかからなきゃならなかったし。
しかもそんな苦しそうな顔よりも握り飯を手にして喜んでる顔の方が多いから、連中を心配することもなかったし。
何度もここに来る奴もいる。
ここに来る要領が分かれば、どんなヤバい危険が迫って来ても安心できる。
こいつらが言うには、ここに来る扉を見つけることができたら、次回からはもう見逃すことはないんだと。
「でもよ、コルトみたいに危険地帯のど真ん中からここに来れたんなら、誰だってコルトみたいにここに引きこもらないとまずいんじゃねぇの?」
その男戦士に尋ねながら、コルトの方をちらりと見やった。
コルトは悲し気な表情。
詳しい事情を知らないのに、知った風な口を利いたところで説得力も何もない。
「人それぞれだな。ここに来るまでにはいろんなケースがある」
男戦士はそのケースをあげていった。
実力の限界に挑んだ結果ここに来た者。
身の程を弁えず、討伐や勝利があり得ない敵と戦う羽目になりここに辿り着く奴。
難易度の高い仕事を依頼主からせがまれて頼まれ、情に流されて仕事に出た結果命を落としかけてきた冒険者。
いろんなケースをあげてから、男戦士もコルトを見た。
仲間と思っていた者達から捨て石にされて辿り着いた奴。
そして自分のことを待ちわびてる知り合いがいる。
逆に誰からも帰ってくることを期待されていない者も。
そしてここに辿り着いたそんな連中に、握り飯をもてなすコウジがいてくれる、とそいつは締めた。
自炊の経験はあるし、自分で食いたい物を料理するくらいはできる。
けど誰かのために料理をしたことはないし、これから作ることがあるとしても人の好みに合わせる腕もない。
それにここに辿り着いた者はコルトを除いてみんな、この部屋から出て行った。
確かにしんどい思いをしている最中に、ゆっくりできる場所があって、そこでゆっくり食料を口にできるのは有り難いと思うかもしれん。
けど何度も言うが、この部屋はこいつらの宿じゃない。
握り飯の配給も俺の気まぐれボランティアだ。
高級料理どころか、居酒屋のマスターだって売り物にするつもりもないような代物。
こいつらの行きつけの酒場の方がよほどうまい料理を出すだろうよ。
そこにまた辿り着くための力の補給場所が、この屋根裏部屋。
だからまた来てくれなんて思ったことは一度もない。
もっともそんなことを思う余裕がないほど毎日大勢の異世界冒険者がやって来るんだが。
なのにみんな、俺の握り飯をうまいうまいとおいしそうに頬張る。
具材ごとに形を変えたただの握り飯だ。
こいつらの体に力が漲るような細工もない。
異世界に繋がるこの部屋同様に、なんでそこまで効果があるのか。
こいつらの行きつけの酒場でこんな握り飯が出たら、最後まで手を伸ばすことはないだろう。
これを作ってるのはプロの料理人じゃなく、何の取り柄もない一般人だしな。
「だがな。俺達は、もう二度と食い物を口に出来ないと思うくらい苦しい思いをしてきた。そんなときに口に入る物がたくさん並んでるんだ。うまいと思わないはずがない。力が出ないはずがない」
「褒めるのと貶すの、一緒にやるなよ」
「はは。すまんすまん。だが、コウジのことを救世主と思う奴らの気持ちも分らんでもない。この子はスライムの強い奴だったか。俺が初めてここに来た時に戦った魔物はジャイアントスパイダーだったな。ほかには……」
出るわ出るわ、どこかで聞いたような魔物の名前。
他の冒険者達がその名前に釣られて会話に混ざって来る。
ゴブリン、オーク、オーガ、スラッグ、スコーピオン、サキュバスその他いろいろ。
共通して言えるのは、それらの上位クラスに襲われてここに来たってことだ。
そのままその場から逃げられず、後は命を失うだけしか考えられなかったそうだ。
そんな状況が一転し、その先にあった握り飯。
言われてみりゃ、救世主なんて言われるのは自然なんだろうか。
けど俺には、そんなつもりは一切ないんだよな。
まぁたしかにここにはそんな魔物はやってこないし、敵と言えば握り飯を横から奪われる同業者くらいなものか。
でも俺がそんな奴を来させないようにする力はねぇし、地球を救うヒーローとかなんかじゃねぇよ。
「気持ち悪りぃこと言ってんじゃねぇ。だからってわざわざ命の危険を晒してまで来るとこじゃねぇんだろ? それに……」
こんな奴もいる。
と、わざと口ごもらせながら、またコルトの方を見る。
コルトは握り飯二個をすでに食べ終わっている。
悲し気な表情はあまり変えず、休む間もなく握り飯のお代代わりに置かれたアイテムの選別をしていた。
いろんな世界が存在すれば、その世界それぞれに常識だの当たり前のことだのが存在する。
それらに干渉するつもりはない。
だからこそ、コルトをここにこのまま居させてもいいんだろうか、とも考える。
だがこいつがいなきゃ、ここに来る冒険者達とのこんな会話する余裕もなかったし、握り飯作りにも余裕があった。
けどこいつをここに閉じ込めて不自由させているような気もしてならない。
ただ、ここにいられることを本人は喜んでたし、そんな握り飯でも喜んで受け取って美味しそうに食べていた。
この部屋、どうにかしてコルトにだけは快適さを感じさせてもいいよな?
こいつらとこんなにいろんな会話したのって、初めてのような気がする。
こいつらがこの部屋に初めて来たときは、みんな誰もが苦痛に顔を歪ませてたり、この部屋に来るなりすぐに倒れてたりしてたから。
そいつらは、俺の世界じゃ見ることのない鎧とか防具とかつけている。
しかもその装備品は、どこか欠けていたり壊れていたり、何かの部品が外れていたり傷だらけになってたりしてる。
命からがらって言葉がぴったりな連中のその姿は、説明なんか聞かなくったって状況はすぐに分かる。
だからこんな風に具体的な話を聞くのは、考えてみりゃ初めてだったんだよな。
握り飯配り終わったらすぐに次の握り飯の準備にかからなきゃならなかったし。
しかもそんな苦しそうな顔よりも握り飯を手にして喜んでる顔の方が多いから、連中を心配することもなかったし。
何度もここに来る奴もいる。
ここに来る要領が分かれば、どんなヤバい危険が迫って来ても安心できる。
こいつらが言うには、ここに来る扉を見つけることができたら、次回からはもう見逃すことはないんだと。
「でもよ、コルトみたいに危険地帯のど真ん中からここに来れたんなら、誰だってコルトみたいにここに引きこもらないとまずいんじゃねぇの?」
その男戦士に尋ねながら、コルトの方をちらりと見やった。
コルトは悲し気な表情。
詳しい事情を知らないのに、知った風な口を利いたところで説得力も何もない。
「人それぞれだな。ここに来るまでにはいろんなケースがある」
男戦士はそのケースをあげていった。
実力の限界に挑んだ結果ここに来た者。
身の程を弁えず、討伐や勝利があり得ない敵と戦う羽目になりここに辿り着く奴。
難易度の高い仕事を依頼主からせがまれて頼まれ、情に流されて仕事に出た結果命を落としかけてきた冒険者。
いろんなケースをあげてから、男戦士もコルトを見た。
仲間と思っていた者達から捨て石にされて辿り着いた奴。
そして自分のことを待ちわびてる知り合いがいる。
逆に誰からも帰ってくることを期待されていない者も。
そしてここに辿り着いたそんな連中に、握り飯をもてなすコウジがいてくれる、とそいつは締めた。
自炊の経験はあるし、自分で食いたい物を料理するくらいはできる。
けど誰かのために料理をしたことはないし、これから作ることがあるとしても人の好みに合わせる腕もない。
それにここに辿り着いた者はコルトを除いてみんな、この部屋から出て行った。
確かにしんどい思いをしている最中に、ゆっくりできる場所があって、そこでゆっくり食料を口にできるのは有り難いと思うかもしれん。
けど何度も言うが、この部屋はこいつらの宿じゃない。
握り飯の配給も俺の気まぐれボランティアだ。
高級料理どころか、居酒屋のマスターだって売り物にするつもりもないような代物。
こいつらの行きつけの酒場の方がよほどうまい料理を出すだろうよ。
そこにまた辿り着くための力の補給場所が、この屋根裏部屋。
だからまた来てくれなんて思ったことは一度もない。
もっともそんなことを思う余裕がないほど毎日大勢の異世界冒険者がやって来るんだが。
なのにみんな、俺の握り飯をうまいうまいとおいしそうに頬張る。
具材ごとに形を変えたただの握り飯だ。
こいつらの体に力が漲るような細工もない。
異世界に繋がるこの部屋同様に、なんでそこまで効果があるのか。
こいつらの行きつけの酒場でこんな握り飯が出たら、最後まで手を伸ばすことはないだろう。
これを作ってるのはプロの料理人じゃなく、何の取り柄もない一般人だしな。
「だがな。俺達は、もう二度と食い物を口に出来ないと思うくらい苦しい思いをしてきた。そんなときに口に入る物がたくさん並んでるんだ。うまいと思わないはずがない。力が出ないはずがない」
「褒めるのと貶すの、一緒にやるなよ」
「はは。すまんすまん。だが、コウジのことを救世主と思う奴らの気持ちも分らんでもない。この子はスライムの強い奴だったか。俺が初めてここに来た時に戦った魔物はジャイアントスパイダーだったな。ほかには……」
出るわ出るわ、どこかで聞いたような魔物の名前。
他の冒険者達がその名前に釣られて会話に混ざって来る。
ゴブリン、オーク、オーガ、スラッグ、スコーピオン、サキュバスその他いろいろ。
共通して言えるのは、それらの上位クラスに襲われてここに来たってことだ。
そのままその場から逃げられず、後は命を失うだけしか考えられなかったそうだ。
そんな状況が一転し、その先にあった握り飯。
言われてみりゃ、救世主なんて言われるのは自然なんだろうか。
けど俺には、そんなつもりは一切ないんだよな。
まぁたしかにここにはそんな魔物はやってこないし、敵と言えば握り飯を横から奪われる同業者くらいなものか。
でも俺がそんな奴を来させないようにする力はねぇし、地球を救うヒーローとかなんかじゃねぇよ。
「気持ち悪りぃこと言ってんじゃねぇ。だからってわざわざ命の危険を晒してまで来るとこじゃねぇんだろ? それに……」
こんな奴もいる。
と、わざと口ごもらせながら、またコルトの方を見る。
コルトは握り飯二個をすでに食べ終わっている。
悲し気な表情はあまり変えず、休む間もなく握り飯のお代代わりに置かれたアイテムの選別をしていた。
いろんな世界が存在すれば、その世界それぞれに常識だの当たり前のことだのが存在する。
それらに干渉するつもりはない。
だからこそ、コルトをここにこのまま居させてもいいんだろうか、とも考える。
だがこいつがいなきゃ、ここに来る冒険者達とのこんな会話する余裕もなかったし、握り飯作りにも余裕があった。
けどこいつをここに閉じ込めて不自由させているような気もしてならない。
ただ、ここにいられることを本人は喜んでたし、そんな握り飯でも喜んで受け取って美味しそうに食べていた。
この部屋、どうにかしてコルトにだけは快適さを感じさせてもいいよな?
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