俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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未熟な冒険者のコルト

部屋に込められた気遣い

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 新しくできた部屋に炊事場も作ったので、米を焚いたりお湯を沸かしたりもできるようになった。
 コルト専用の洗面所と風呂場も作ったので、清潔を保ったまま炊事の仕事も手伝ってもらえるようになるだろう。
 店の経済的負担までは楽にはならないが、間接的に楽になっていくと思う。

 が、作る握り飯は多くする必要があるかもしれない。
 ここに来る異世界の冒険者達の収容人数も増えたってことだからな。
 おそらく倍の人数になると思う。
 その人数での入れ代わり立ち代わりになるだろうから、下の台所も使って……まぁただ湯掻いて汁に突っ込んで終わりにすりゃ手間はかからないだろ。
 俺にはそれよりも大事な仕事がある。
 なんせうどんの時間は夜だ。
 その時間に合わせての最後の作業。

「うどんはお湯に晒して、濃縮汁を適当に薄めて食えよー。使う器はその白いやつだ。コルトはおかわり自由で具はお前だけのものだからお前に預ける。みんなはとりあえず一人一杯な」
「え? コウジさんは?」
「俺は一仕事あるんでな。楽しみにしとけ」
「は……はい……」

 そう言い残して、俺はプレハブの部屋から、みんなには見えない出入口を通過して廊下に出る。
 ついでにつけてもらった非常口からプレハブに据え付けてある梯子を上り、屋上にあがった。
 そこには予想通り、天井にはめ込んだガラス板と同じくらいの面積の板が置かれている。
 もちろん、ガラス板を押し上げたことで、浮き上がった天井の一部だ。

「今日は満月か。中からも見えるだろうな。さて……」

 板を横にずらす。
 ここは雪国の田舎。
 冬になれば当然積る。
 ガラス板の上に積もれば、いくら丈夫に作ってもらっていても割れる恐れもある。
 その防止用にもなってくれるはずだ。
 だから、今は無用の長物でも大事に扱わなきゃな。

「よい……しょっと。これでよし。さて、戻るか」

 来た道を逆に進み、プレハブに戻る。
 思った通り、みんな天井を見てる。

「コルト。どうだ? 外の風景は」

 うどんの器を持った連中は、持ったまま固まって天井を見てる。
 まだ受け取ってない奴らも同じなんだが、何か不気味な図だな。

「は……はい……。ありがとう……ござい……ます……」

 コルトも天井のガラス板を通して、夜空の満月を見上げている。
 その目尻から、涙が流れてる。

 何日、いや、何か月ぶりだろうな。
 異世界とは言え、空を見ることができたのは。
 ずっとダンジョンと部屋の中だった。
 外に出たくてたまらなかったんじゃないかな。
 だが俺はこいつらを外に出すわけにはいかない。
 だから、俺に出来ることと言えばこれくらいのことしかできない。

 それでも、涙を流すほどうれしい……んだよな?
 泣きたくなるほど嫌がってはないよな?

 でも、コルトじゃなくても、外の風景はみんな恋しかったんだろうな。
 みんな、ガラス板の方を見上げている。

「コウジさん……」
「ん?」
「私のために部屋とかお風呂とかトイレとかつけてくれて、おまけに外まで見えるようにしてもらって……」
「湿っぽいのは面倒だから、言うなら礼だけでいいよ。それにお前がここに居る間は、俺もお前の世話になるんだしな。道具作り、よろしくな」
「はい……。任せてください……」

 外に見惚れてもいいんだけどさ。
 うどん、延びちまうぞ?
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