俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

文字の大きさ
30 / 196
未熟な冒険者のコルト

新しい部屋、完成

しおりを挟む
 俺の予測通り、プレハブ増築の工事は半月で終わった。
 ただしいろいろと仕掛けがしてある。
 その仕掛けがなければ、屋根裏部屋のふすまと同様、ここに来る者達の目に見えない物だらけ、ということになる。

 その仕掛けを活かすには、屋根裏部屋からの作業が必要になるはずだ。
 この部屋にショーケースを持ち込んだのは俺。
 この部屋が出来た後に持ち込んだり設置したりする物は連中には見えるようだ。

 だからここからは俺の腕の見せ所。
 と言っても、素人がやることだからな。

 この部屋に入って左側の壁に向かう。
 プレハブはこの壁の向こうにある。
 屋根の庇も弄って、部屋とプレハブの壁を密着させた。
 本来であれば、プレハブのその壁の一部に出入り口が付けられる。
 けれどもドアなどはつけられていない。言ってみればただのでかい穴。

 その穴の位置と大きさは計測済み。
 それに合わせて屋根裏部屋の内側から穴をあける作業を始める。
 いよいよ俺の増築計画の開始ってわけだ。

「壁の欠片とかくずとかは……捨てるのよね?」
「何かの役に立てられるのか?」
「ううん。どこかにまとめる?」
「頼む」

 これだけ長く顔を合わせてれば、しばらくよそよそしい言葉遣いだったコルトも慣れてくる。
 ま、そんな話し方の方がこっちも肩ひじ張らずに済んで楽なんだよな。

 余計な傷をつけないように、錐で何カ所か穴を空ける
 カッターでプレハブの出入り口の穴と同じ大きさくらいになるように傷をつける。
 そしてのこぎりで切ると……。

「こんなとこか? ゆっくり力を加えて押す。ひびが広がりそうなところにはさらにカッターで切り込んで……。っしょおっ!」
「穴が開い……わぁ……」

 コルトが貫通した穴を覗いて感動している。
 ま、部屋が広くなったってことだけだろうけどな。
 だがここからが問題。
 部屋の中に起きっぱなしのいろんな基材は組み立てるだけでいい。
 コルトと有志の冒険者達に手伝ってもらう。

「蛇口とシャワーはみんな見えるよな?」
「シャワーって言うと……ここから水が出るの? で、これは……何だろ?」

 蛇口も見えるらしい。
 そしてただ置かれているユニットバスも見えてるようだ。

「こっから出ているホースを排水溝に繋げて、この台の先のホースも合流させる」

 電気の配線などは既に終えている。
 洗面台も設置して、後は……。

「業者が印をつけてくれてる。そこにこの板を持ってきて……」
「壁にするのか」
「そ。それで風呂場の出来上がり」

 壁を支えてくれてる奴が聞いてくる。

「俺達が使えるのか?」
「お前らみんなして、この娘のために何かしてやれよってずっと言ってたじゃねぇか」

 面子が変わっても、コルトへの気遣いの言葉は変わらない。
 その言葉が聞こえるたびに、コルトはいつも恐縮するような顔をする。
 俺も、コルトに何もしてやれなかった心苦しさから解放されてる感じがする。

「その隣にお前の作業部屋兼個室を作る。そこにあるのはベッドだ。見えるよな?」

 一々確認するのが煩わしい。
 でも見えない物も存在するからしょうがない。
 コルトの目は次第にキラキラしてくる。
 間違いなく喜んでるよな、これ。

 一人じゃ、しかも人間じゃ無理な力仕事も、連中に手伝ってもらうとどんどん捗って有り難い。
 取り分ける器は使い捨てにしたとしても、やっぱ後片付けはしんどい。
 けれど、手伝ってもらったり応援してもらったり、時間短縮のやり方を教えてくれたみんなのために……。

「一回だけだぞ? 一回だけだからな?!」
「何が?」
「何かするのか?」
「みんなに素うどんふるまう。ただしコルトだけ具を入れる」

 その直後、俺は耳をふさがずにいられなかった。
 連中の歓声の声がうるせぇうるせぇ。

「まだもう一仕事あるんだよ! 静かにしろぃ!」

 木の枠にはめ込まれたガラス板。
 部屋に置かれた、俺が注文したパーツはその二枚。

「目印はっと……。ここだな」

 壁にあてがってそのまま押し込む。
 すると押し込まれた壁は外に押し出され落下。
 ガラスがはめ込まれた。
 それより大きいガラス板は、脚立を使って天井に押し当て、同じように押し込む。
 ガラス板が落下しない細工をして、一応の完成。

「このガラスには触るなよ? 割れたらとんでもないことが起きる……が、見えるよな?」

 最大最後の問題はこれだ。
 見えなかったら意味がない。
 が、その心配は無用だったみたいだ。

「……コウジさん……」
「何だよ」
「久しぶりに、空を、見ました……」

「そりゃ何より」

 窓の方向は道路のない山側。
 行きかう人がいない方向。
 だから、外から誰かが覗くということはない。
 誰かからプレハブの中を見られることはない。
 見えたとしても、部屋の中全てが見えるわけじゃない。

 いずれ、コルトばかりではなく全員が、見える外の風景に釘づけだ。

「じゃ、うどん作りの準備するから大人しくしてろよ」
「……うん……」

 だが家の廊下に出る出入り口は見えてないようだ。
 こいつらを入れてから内装を整えるという計画は、我ながらうまくいった。

 だが俺にはもう一仕事残っていた。
 それが終わってからうどん作りの準備だが、ま、朝飯前の仕事だ。

 ……朝飯はとっくに済ませたけどな!
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...