俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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未熟な冒険者のコルト

コルトも噂になるほどに

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 コルトが押しかけて半年。
 自分の世界に居場所がないから、という理由だ。
 ごく普通の人間の俺から見た彼女の体型は、余分な脂肪がなく、筋肉は俺よりなさそうな細めの手足。
 やや痩せ気味の体。
 中学校の制服を着せても違和感がない顔つき。

 異世界と言ったら魔法がつきものだよな。
 彼女の持つ力はどれほどの物かは分からない。
 だから役に立つかどうか分からない。
 けどだからって、最初から中ボスみたいな力を持つ魔物相手に生贄にするかね。
 それを目的にパーティに引き入れたのだとしたら、随分気の長い計画なことで。

 だがここでの……コルトにとっては異世界の、魔物のいない世界ではかなりの力になっている。
 着ぐるみ……じゃなく、寝袋もそうだしガーデニンググローブを作るために必須な裁縫は、正確というか精密にできるし、防具の作製もできる。
 設計図とか必要なんじゃないのか?
 素材の種類や量を見ていきなり作り出して完成させるなんて、相当のセンスがなきゃできない芸当だ。
 その際に必要な金属の溶接も、ダンジョンに戻って魔法を使ってやるんだそうだ。
 ここでは魔法は使えないらしい。

 日本刀のように金属を丈夫にする技術は持ってないと言っていた。
 俺の世界では装備品を強化しても、特に必要に迫られてるわけじゃない。
 展示品、まぁ一部の人達は身につけたがったりするようだけど、いずれその技術は特に必要としないから、『畑中商店』では実に戦力になる。

 人を見る目がない奴って、どこの世界にもいるんだなぁ。

「待てよ? でもこれって、ここに置いといて、誰でも使えるようにしたいってことなんだよな?」
「はい。ここでは魔物に襲われることはなさそうなので、後は健康管理の一環、ということになりますね」
「誰が使ったか分からない物を他の人が使うのって……」

 物が寝袋なら、物の例えは宿泊施設の方が分かりやすいか。
 ホテルのベッドやシーツ。
 そこにあるコルト専用のユニットバスだって、みんなが使うようにすると、あっという間に汚れるぞ?
 コルト専用にしたからこそ、その管理はコルトに任せる。
 けど公共の物にするなら……。

「洗濯物が増えちまわねぇか? 誰がするんだ?」

 作業ばかりじゃなく、洗剤、柔軟剤、水、電気、かなり金がかかるはず。
 乾燥は、臭いを我慢すりゃ自然に乾かしてもいいが、屋外で干すわけにはいかんだろ。
 誰かに見られたら怪しまれる。

「浄化魔法で清潔さを保つことはできます。私達とか生命体をきれいにする効果はないですけどね」
「マジかっ?!」

「そりゃずいぶん便利な能力だな。我々のパーティに欲しいくらいだ」
「バカ言うな。俺達とは別世界のエルフだぞ? って言うか、俺達と同じ世界で生きてる奴らは……今はいないな。過去にはいるかも分からんが」

 弓と槍の戦士が会話に混ざって来た。
 ほんとに、酒場の常連がマスターと店員の会話に絡んできた並みの感覚だろ、こいつら。

「異世界の救世主にその使徒か。お目通りにかかり、恐悦至極。大げさでも何でもない。うちのリックルが何度も世話になったらしいし」
「その渾名いらねぇ!」

 ってか、使徒ってなんだよ。
 コルトのことか?
 まぁ半年もここで過ごしてたら、あっちこっちで噂にもなるか。

「し、使徒?」
「あぁ、お嬢さんのことなんだな。幾度も何人も、いろんな冒険者達の窮地を救ってくれたってな」
「いえ……そんな……」

 まぁコルトのここに来るまでの経緯を考えりゃ、そう呼ばれることこそ光栄なんだろうが……。
 でも待てよ?

「お前ら、そんなに長い期間、その……同じダンジョンの中に滞在してたのか? ここにくるみんな、そうなのか?」
「そういう奴もいるんじゃないか? 俺はここに来たのはこれで三回目か。一回目と二回目は同じ所から。今回は別のダンジョンから来れた。来れることを見越したわけじゃないけどな」
「ふーん。仕組みがよく分からんな。まぁ分からなくても出入り口をキープしてりゃ、俺も含めてみんな混乱はないわけだ」

 弓戦士の談だ。
 それはともかく……。

「その着ぐるみ、洗濯にかかる費用がなけりゃいくらでも作っても構わないだろ。収納ケースとか必要になるだろうがな」
「寝袋ですってば!」

 頬を赤くして膨らました顔も愛嬌がある。

 けどこいつにも異名が付けられるくらい噂になってるのだとしたら、こいつの元の仲間の耳にも入ってるんだろうな。
 ここに来たらばどんな修羅場になるのやら。

 けど今気にすべきことは……。

「コルト」
「はい?」
「炊飯器、用意な。そろそろ握り飯作る時間だ」
「はいっ! 任せてくださいっ!」

 いかんなー。
 頼りになりすぎて依存しそうだ。
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