俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

文字の大きさ
34 / 196
未熟な冒険者のコルト

瓢箪から駒 コルトの機転

しおりを挟む
 まぁ避難場所としてやって来るのは構わないんだけどさ。

「な、何か、俺の連れが済まないな」

 初めて来た奴に気を遣われてるぞ、オイ。

「気にするな。だが握り飯タイムには……まだ時間はありすぎるな」

 今は昼の十二時前。
 普通に一日三食のタイミングで出すにはいろんな都合上、無理がかかる。

「まぁゆっくり休んでいってくれ。ここではそれしかできることはないけどな」
「いや、それだけで十分だ。あ、けどアイテムと引き換えじゃなかったかな?」
「それは握り飯を受け取る時に、何か余分な物を持っていた場合の話だ。ただ休む分にはこっちに気を遣う必要はない」

 この男は……槍使いか?
 槍戦士か。何と言うか、礼儀を弁えてるって言うか、その様子がこっちには清々しいイメージを感じるな。
 だが槍のほかに何やら得体のしれない物を担いでいるようだが……。

「だが、体力回復までかなり時間がかかりそうだ。こいつから話は聞いたが、おそらく今日一日ずっと休ませてもらうことになるかもしれん。その……握り飯タイムって言うのか? その世話にもなるだろうから、それと引き換えに……」
「何だそりゃ?」

 槍の男は、その得体のしれない物を俺の前に置いた。

「……魔獣の毛皮、のように見えますが……」
「ご明察。でかい猪っぽい奴を仕留めてな。その肉は食用になるから途中でみんなと食ってたんだが、こいつは持ち帰らないとなってことでな」

 でかい、というには、それでもかさばらなさそうなくらいの面積。
 ピンチに陥っても手放すまでもなかったってことか。

「ま、アイテムが何もなかったとしても、疲労回復を促進できる必要最低限な分なら好きに持ってっていいけどな」
「だがそれではこちらの気が済まない。こいつはどうだかは分からんが、少なくとも俺はな」

 弓、言われてんぞ?
 だが信頼関係が厚そうな間柄だな。
 コルトにもそんな関係は存在することを分かってもらいたいが。

 それにしても、毛皮?
 防具にならんだろうし、店の商品にするにも……。
 絨毯っぽくしてみても、蚤とかいたらまずいし。

「コウジさん、これを使って、ここで使える物を作ってもいいですか?」

 商品にも防具にもなれず、何かの役に立てられる物に変わるなら、それはコルトの判断に任せる。
 にしても、何を作るってんだ?
 毛皮だぞ?
 武器に変わることはないだろ。

「えへへ。ナイショです」

 いたずらっぽく笑うコルトを見ると、どんな些細なことでも楽しくやろうって思いを持ってるように見える。
 窓を通して、という条件が付いてるが、日が当たる場所にいるのが、そんな思いを引き起こす。
 そんな風にも見える。
 もっともそんな表情をしているのはコルトだけじゃない。
 だからこそそう思える。

「ま、任せるさ。けど米炊きの手伝いも頼むぜ?」

 その代わり、米を一階から二階に運び込む作業が増えた。
 でも、一人で作業するより、一緒に作業してくれる人がいると、それだけで仕事は捗るもんだよな。

 ※※※※※ ※※※※※

 しかしなかなか芳しくない。
 何がって言うと、おにぎりの具のことだ。
 何日も新しい具材について考えてきたが、目新しい物が思い浮かばない。
 考え込んでいるうちに、握り飯を作る時間がいつの間にか近づいていた。

「今の種類で十分だよ」
「気にしすぎですよ、コウジさん」

 そんな声に慰められるが、つくづくお前ら、握り飯だけで体力回復できるよな。
 俺は、特別何かの力を持ってるわけじゃないぞ?

「コウジさん、出来ました」
「握り飯の具?」
「違いますよ。何言ってるんですか」

 コルトがタイミングよくそんなことを口にするからだろ。

「これですよ、これ」

 いつぞやの毛皮が……何だこれ?
 袋状になってるが……。

「着ぐるみか?」
「違いますよ」

 コルトが頬を膨らませる。
 その顔も悪くない。

「寝袋です」
「寝袋?」
「はい。話に聞けば、ここ、相当寒い時期があるそうですね。そんなときにこの中に入ったら、暖かくて眠りやすくなります。寒さで体力を奪われることはありません!」

 着ぐるみでも十分通用するぞ?
 枕に当たる部分がフードになって、しかも獣の耳までついてやがる。
 いや、そうなると店の商品に出来なくもないが……。

「体を震わせながら眠ってる人を放置するなんてできませんよ」

 考えてみりゃ、夜は俺は自分の部屋で寝るもんな。
 こいつらがどんな風になって寝てるかなんて、見に来ることは考えたこともなかった。
 修学旅行の引率教師じゃあるまいし。
 けど、着ぐるみ、じゃなかった。寝袋を使ってるところを見てみたいもんだが。

「どんな風に使うんだ?」
「どんな風って……ただ入るだけですよ」
「入れる? ジッパーとかついてないよな?」
「このまま入るだけですよ」
「靴とか履いたまま?」
「そんなわけないでしょ」

 コルトは靴を脱ぎ、着のみ着のままで寝袋に入る。

「こんな感じで」
「同じ材料でなきゃ同じ物は作れないか」

「材質が同じなら作れます。今まで引き取ったアイテムの中で、鳥類の毛皮とかありますから」
「ならいくつか同じ物が作れるよな。店の商品に」
「しません。屋根裏部屋の方、暖房効かなさそうじゃないですか。そっちで眠る人たちのために作ることを優先したいです」

 お?
 それは思ってもみなかった。
 解決できない問題だと思ってたしな。
 けどその前に。

「コルト」
「はい? なんです?」
「その格好、可愛いから動画で撮りたいんだが……」

 勝手に撮ってもいいだろうが一応、な。

「なんか変なこと考えてません? 大体コウジさんの店の売り物にはまだしませんよ」

 ちぇっ。
 可愛いのになー。
 ま、屋根裏部屋で眠る人数分完成させてもらってからでいいか。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...