俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

文字の大きさ
54 / 196
未熟な冒険者のコルト

そっちが勝手に被害受けたって思ってただけじゃん!

しおりを挟む
 とにかくこのままでは部屋を壊されかねない。
 特に壁を壊されたら外から丸見えになるから、日本のニュースの中心になっちまう。
 下手に抵抗できん。
 死にたくないって気持ちはあるが、自分が死んだらその死因はどうなるのか。
 それを考えたら、相手の気持ちを逆なでしないようにしないと、って言う気持ちも強くなるのも当然だろ?

「ま、魔王って……何のことだよっ! り、理由を教えろよ!」
「黙れっ! 甘言で我らをたぶらかそうと考えても無駄だ!」
「おい、こいつの言うことに耳を貸すな。……ハタナカ……いや、魔王っ。聞きたいことはあるだろうが、その前にこっちの話を聞け。質問や反論は許さん!」

 な、何なんだこいつら。
 クレーマー、神官、その次はこんなんが来た。
 祖母ちゃん、祖母ちゃんの時はこんな奴ら来てたのか?

「あ、あの……コウジさん、何かしでかしたんでしょうか?」

 お、おぉ、コルトっ。助けてくれっ!
 でも、何か「しでかした」って言い方は、何となく印象良くないぞ?
 悪いことをしたという前提みたいに聞こえるじゃないかっ!

「お嬢さん、ご安心を。それからここにいる皆さんも安心なさってください! 巨悪の根源は、今断ち切ります!」
「ま、待」
「黙れ! 貴様が何をしたか、それがどんな影響を及ぼしたか教えてやる」

 うん、まずその話は聞きたい。

「今から約一か月前。我らフォーバー王国の女王直属師団の、我らの上司であるバーナー師団長は一時期行方不明となった。魔族の王を倒すため、国軍の約半分をその討伐計画に投入したのだ!」

 そっちの世界の国名とか事情とか、本音を言えばすごくどうでもいいんだけどさ。
 それに目の前にちらついている刃物の切っ先が……。
 目に刺さりそうなんですがっ!
 こえぇよ!

「師団長の部隊は他の部隊と共に調査済みの地点まで問題なく進んだ。しかしそこから先の未知の区域は他の部隊と共に苦戦した。連携も崩れ、各自の判断で進軍、撤退していった」
「運悪く師団長の部隊は魔族の部隊から不意打ちを食らい壊滅。しかし師団長は難を逃れたのだそうだ!」

 そりゃ何より。
 けどそっちの事情なんざ知らねぇよ。
 俺がこんな目に遭わなきゃならない理由を言えっての!

「逃げた先が、救世主がどうのと冒険者の間で噂されていた場所。だがおそらくそこで魔術を食らったと思われる!」
「魔術?」

 ここで回復効果がある魔法や薬を冒険者同士でやり取りすることはあるが……。

「声を出すな! ……師団長がかかったのは、おそらく幻術魔法。健康状態は良好のまま帰還できたのは喜ばしいことだ。しかし……、しかしっっ……。……あれが心身共に健康と言えるかっっ!」
「……師団長は、行方不明になっていた間の報告、そしてその後の通常勤務は何の問題もないが……。勤務時間が終わると、とにかく酒場を放浪し始めたっ!」
「黄色いスープがどうの、辛味の香ばしい香りが漂う麺がどうのと……。聞けばここでそのような物を目にしたと言うではないか!」

 ……あ……。

 コルトー。
 この二人になんか言ってやってくれー……。

 あ……、おい……。
 視線逸らすな。
 おーーい。

「宮廷魔法師団の団長の話によれば、嗅覚に悪影響を及ぼす幻術を食らったに違いない、とのことだった! 師団長ほどの能力を持つ者を惑わす輩と言えば……」
「そこらにいる魔物なんぞ、師団長の敵ではないっ! 貴様があのダンジョンの支配者、魔王なのだろう!」

 ちょっと待て。
 思い当たることと言えば、カレーうどんと焼きそばをここで食ってただけだぞ?

 オイこらお前らっ!
 槍の柄を喉に押し付けんなっ!
 つーか、何が魔法だよ!
 お前らの世界にゃ、匂いのない食べ物しかないのかよ!

 おい、お前ら、こいつらに何とか言ってやってくれっ!
 って、その現場にいた奴は流石にいないか。

 おいっ!
 コルトっ!
 これ、流石にシャレにならんぞっ!

「えぇ……、そうですね……。あれは、ちょっと、流石に……」

 コルトーーーーッ!
 てめええぇぇぇ!

「……状況確認した。このまま捕縛して至急帰還するぞ!」
「うむ。囮部隊の救助も急がねばならんしな!」

 囮?
 何のダメージも負っていそうにないこいつらがここに来るってのは変だとは思ってたが、死にそうな奴と一緒に同行すれば、何のダメージもないままここに来れるってこと?

 おいおい、仲間をそんな目に遭わせてまでここに来るってこたぁ……。
 俺、どんだけお尋ね者のレベルになってんだよっ!

「コウジさん……」
「こ、コルト……てめぇ……」

「まだ、情状酌量の余地はあると思います」
「コルトーーーーッ!」

 俺は勢いよく屋根裏部屋の方に引っ張られた。
 いや、ちょっと待て。

 こいつらはそれでも扉をくぐってきたんだろ?
 でも俺はその扉が見えねぇんだぞ?
 俺、どうなっちまうんだ?!

 この二人が先に立って俺を強く引っ張っている。
 抵抗したくてもできゃしねぇ!

 そして二人は壁から姿が消えた。
 そして俺はっ……!

「痛ぇーっ!」

 壁に押し付けられた形になり、尻もちをついた。

 俺はそのまましばらく呆然として壁を見ていた。

「な……何なんだよ、一体……」

 つむじ風にしては、被害が甚大だった。
 主に俺の精神的に。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...