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未熟な冒険者のコルト
俺の身に起きた異変
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夜の握り飯の時間も終わり、みんながそろそろ寝ようというところ。
弱々しいハミングが聞こえてきた。
もちろん、おれのそばにいるコルトの歌声だ。
彼女のそばにいる者、十人くらいしか聞こえない。
だがそのメロディは子守歌とはちとかけ離れてるような気がする。
緩やかな感じだが、名画の類の映画で流れるような感じに似てる。
力のないハミングが眠気を誘う。
俺まで釣られて眠りそうになるが、握り飯の後片付けの立ち仕事がもう少し続く。
だが脱力する時の膝カックンでその眠気が打ち消された。
「ぅおっと。……いろいろあって疲れたのかな……。俺の健康維持も欠かせないし、もう休むか」
だがこのまま寝室に行くのも無責任というものだ。
眠気を堪えながら、コルトのハミングの区切りを待つ。
コルトはまるで恥ずかしさを堪えているように、閉じた瞼に力を入れている。
顔もうつむき気味だし、バツの意味はあるように見える。
時間は夜の十時を回る。
しかし、なんか違和感がある。
冒険者達の会話も次第に静まる時間帯。
それはいつものことで何の問題もないのだが。
そういえば日中やってきた兵士はあれっきり姿を見せない。
もっとも入れ替わりで別の冒険者も避難してきたから、定員で入って来れないという理由はあるんだろうが、その後も出ていく冒険者達は多くいた。
誰かの厳命で俺を捕まえに来るというなら、この時間帯だって入ってきてもおかしくはない。
この夜の時間でも出ていく奴はいるしな。
まぁ誰もがこの部屋から店の方に入ることができる奴はいないから、寝室で襲われるということはないから安心なんだが。
それはともかく。
「……おい、コルト。俺はもう休むから」
メロディが途切れたところで、小声でコルトに呼びかけた。
振り向いて俺を見る顔が真っ赤になっている。
どんだけ恥ずかしがってたんだよ。
大体お前の方を見てる奴は……屋根裏部屋の方に二、三人いる程度。
後はみんな眠ったり、小さい声で雑談して、お前の方は見てねぇよ。
「お前ももう休め。おれもちょっと疲れが溜まってる。お前だって普段の健康管理はしっかりやっとかねえとこっちも困るんだからな」
「……はい……。あの……、明日も……」
「うん、やれ。バツだからな」
あいつの「あぅぅ」「ふえぇ」は聞き飽きた。
こっちの後片付けもすべて終わった。
さて、こっちもゆっくり休むとするか。
※※※※※ ※※※※※
体に異変を感じたのは次の日の午前五時。
異変と言っても、具合が悪いということではない。
いつも夜十一時以降に寝て朝六時から六時半の間に起きる。
心地よい目覚めで起きた時間は、普段より一時間早い。
雪が降る朝だから寒いことには違いないのだが。
快調。
快調なのが残念だ。
寝室の暖房が効くまで布団の中でぬくぬくできる幸せを、今朝は感じることができない。
寒いけど、体を動かさずにはいられない。
だって、奴らへの米炊きとかがあるからな。
それに早く仕事を始めれば、その分早く仕事を終えることができる。
プレハブに入ると、みんなはまだ眠っている。
コルトは米研ぎをしていた。
「……早いな。おはよう」
「あ、おはようございます。昨日は……」
「うん、昨日はご苦労さん。今日もやれ」
「ふえ……」
「ふえぇは禁止な」
また金魚の口のパクパクをしている。
さて、今日も……。
そう思ったところで、またもや俺の体に異変を感じた。
「……この部屋、臭うよな」
「え? えぇ、まぁ……。これだけ人がいたら……」
違う。そうじゃない。
俺がコルトに言いたかったことは、そこじゃない。
今まで俺は、この部屋に対して無関心だったのか、不感症だったのか。
「店に消臭剤があったな。それ、使うか」
いつもの朝とはちょっと違う。
何がどう違うのかは、上手く説明できない。
昨日のトラブルの影響なんだろうか。
何、今後あんなことがあったら、すぐに家の中に逃げ込めばいい。
誰もふすまとかが見えないとか言ってるしな。
順調に時間通りに仕事が進む。
冒険者達も目を覚ます。
「お……おはよう……ん?」
「ふあぁ……。お、おぉ?」
「コウジ。なんかいい匂いがするな」
そんなことを言われたのは初めてのような気がする。
「あぁ。さっき消臭剤振りまいたからな」
使った消臭剤はスプレー式。
あっという間に不快な臭いはすぐ消えた。
「いや、そうじゃない。……その……米? 炊いてる匂いだな。旨そうじゃないか」
「よし、お前には具のない握り飯くれてやる」
「いや、それは勘弁してくれ」
俺に話しかけてきた一人の冒険者に軽口を叩きながら、朝の握り飯タイムに備える。
炊飯器を持ち込んだのはプレハブの使用ができたと同時だ。
だからご飯の出来立ての香りが漂うのは今日が初めてじゃない。
もっともここに来る者達のほとんどは、この部屋に初めて来た者だから、そう感じるのは当たり前なんだろうが。
消臭剤の力、おそるべし!
「あ、あの……今日もバツ、やるんですか?」
握り飯を握る俺に、コルトが恐る恐る声をかけてきた。
できればやりたくはない。
そんな気持ちがありありと分かる。
「おう。あ、お前には分からなかったろ。お前を見てる奴、ほとんどいなかったぞ?」
「そ、そうですか?」
やや表情が明るくなる。
安心した、という顔だ。
そんな表情を表に出すようなら、バツにはならない。
「ということで、今日は昼飯食べた後にしよう。時間の長さは昨日と同じくらいで」
一気に表情が暗くなる。
そうそう。
罰を受ける者はそんな顔をしなくてはな。
あ、そう言えば。
「昨日の歌、子守歌っぽくなかったな」
「え? ……えぇ……。よく覚えてなかったので……。酒場で耳にした曲の一部です……」
暗い顔をしたのは嫌なことをさせられるからじゃなく、嫌なことを思い出したからか。
ま、子供のころの記憶をたどれば、ほとんど覚えていなくても思い出せるんじゃないか?
それは本人の努力次第だな。
弱々しいハミングが聞こえてきた。
もちろん、おれのそばにいるコルトの歌声だ。
彼女のそばにいる者、十人くらいしか聞こえない。
だがそのメロディは子守歌とはちとかけ離れてるような気がする。
緩やかな感じだが、名画の類の映画で流れるような感じに似てる。
力のないハミングが眠気を誘う。
俺まで釣られて眠りそうになるが、握り飯の後片付けの立ち仕事がもう少し続く。
だが脱力する時の膝カックンでその眠気が打ち消された。
「ぅおっと。……いろいろあって疲れたのかな……。俺の健康維持も欠かせないし、もう休むか」
だがこのまま寝室に行くのも無責任というものだ。
眠気を堪えながら、コルトのハミングの区切りを待つ。
コルトはまるで恥ずかしさを堪えているように、閉じた瞼に力を入れている。
顔もうつむき気味だし、バツの意味はあるように見える。
時間は夜の十時を回る。
しかし、なんか違和感がある。
冒険者達の会話も次第に静まる時間帯。
それはいつものことで何の問題もないのだが。
そういえば日中やってきた兵士はあれっきり姿を見せない。
もっとも入れ替わりで別の冒険者も避難してきたから、定員で入って来れないという理由はあるんだろうが、その後も出ていく冒険者達は多くいた。
誰かの厳命で俺を捕まえに来るというなら、この時間帯だって入ってきてもおかしくはない。
この夜の時間でも出ていく奴はいるしな。
まぁ誰もがこの部屋から店の方に入ることができる奴はいないから、寝室で襲われるということはないから安心なんだが。
それはともかく。
「……おい、コルト。俺はもう休むから」
メロディが途切れたところで、小声でコルトに呼びかけた。
振り向いて俺を見る顔が真っ赤になっている。
どんだけ恥ずかしがってたんだよ。
大体お前の方を見てる奴は……屋根裏部屋の方に二、三人いる程度。
後はみんな眠ったり、小さい声で雑談して、お前の方は見てねぇよ。
「お前ももう休め。おれもちょっと疲れが溜まってる。お前だって普段の健康管理はしっかりやっとかねえとこっちも困るんだからな」
「……はい……。あの……、明日も……」
「うん、やれ。バツだからな」
あいつの「あぅぅ」「ふえぇ」は聞き飽きた。
こっちの後片付けもすべて終わった。
さて、こっちもゆっくり休むとするか。
※※※※※ ※※※※※
体に異変を感じたのは次の日の午前五時。
異変と言っても、具合が悪いということではない。
いつも夜十一時以降に寝て朝六時から六時半の間に起きる。
心地よい目覚めで起きた時間は、普段より一時間早い。
雪が降る朝だから寒いことには違いないのだが。
快調。
快調なのが残念だ。
寝室の暖房が効くまで布団の中でぬくぬくできる幸せを、今朝は感じることができない。
寒いけど、体を動かさずにはいられない。
だって、奴らへの米炊きとかがあるからな。
それに早く仕事を始めれば、その分早く仕事を終えることができる。
プレハブに入ると、みんなはまだ眠っている。
コルトは米研ぎをしていた。
「……早いな。おはよう」
「あ、おはようございます。昨日は……」
「うん、昨日はご苦労さん。今日もやれ」
「ふえ……」
「ふえぇは禁止な」
また金魚の口のパクパクをしている。
さて、今日も……。
そう思ったところで、またもや俺の体に異変を感じた。
「……この部屋、臭うよな」
「え? えぇ、まぁ……。これだけ人がいたら……」
違う。そうじゃない。
俺がコルトに言いたかったことは、そこじゃない。
今まで俺は、この部屋に対して無関心だったのか、不感症だったのか。
「店に消臭剤があったな。それ、使うか」
いつもの朝とはちょっと違う。
何がどう違うのかは、上手く説明できない。
昨日のトラブルの影響なんだろうか。
何、今後あんなことがあったら、すぐに家の中に逃げ込めばいい。
誰もふすまとかが見えないとか言ってるしな。
順調に時間通りに仕事が進む。
冒険者達も目を覚ます。
「お……おはよう……ん?」
「ふあぁ……。お、おぉ?」
「コウジ。なんかいい匂いがするな」
そんなことを言われたのは初めてのような気がする。
「あぁ。さっき消臭剤振りまいたからな」
使った消臭剤はスプレー式。
あっという間に不快な臭いはすぐ消えた。
「いや、そうじゃない。……その……米? 炊いてる匂いだな。旨そうじゃないか」
「よし、お前には具のない握り飯くれてやる」
「いや、それは勘弁してくれ」
俺に話しかけてきた一人の冒険者に軽口を叩きながら、朝の握り飯タイムに備える。
炊飯器を持ち込んだのはプレハブの使用ができたと同時だ。
だからご飯の出来立ての香りが漂うのは今日が初めてじゃない。
もっともここに来る者達のほとんどは、この部屋に初めて来た者だから、そう感じるのは当たり前なんだろうが。
消臭剤の力、おそるべし!
「あ、あの……今日もバツ、やるんですか?」
握り飯を握る俺に、コルトが恐る恐る声をかけてきた。
できればやりたくはない。
そんな気持ちがありありと分かる。
「おう。あ、お前には分からなかったろ。お前を見てる奴、ほとんどいなかったぞ?」
「そ、そうですか?」
やや表情が明るくなる。
安心した、という顔だ。
そんな表情を表に出すようなら、バツにはならない。
「ということで、今日は昼飯食べた後にしよう。時間の長さは昨日と同じくらいで」
一気に表情が暗くなる。
そうそう。
罰を受ける者はそんな顔をしなくてはな。
あ、そう言えば。
「昨日の歌、子守歌っぽくなかったな」
「え? ……えぇ……。よく覚えてなかったので……。酒場で耳にした曲の一部です……」
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