俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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未熟な冒険者のコルト

異世界からやってきた日本人

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 俺にとっては、以前の握り飯作りの生活に戻ることになるんだが。
 それが当たり前なんだが。

 いや、異世界人の出入りが多いということ自体当たり前じゃないんだが。
 それを前提とした話なんだが。

 それは、コルトの歌声の効果が切れた頃にやってきた。

「あ……」
「床掃除したいが、こいつらがなかなか……。ん? どうした?」
「ううん、扉が開いたの」

 コルトには見える、屋根裏部屋の異世界への扉が開いた。
 ということは、コルトの住んでいた世界から誰かがやってきた、ということだ。
 前にもそんなことがあったな。
 えーと……。

 ……一々覚えてられるかっ。

 気持ち良く目覚めた冒険者達は起きるなり、コルトに感謝の言葉をかける。
 握り飯をいつも作る俺にも声をかける奴は大勢いるが、片っ端から聞き流してる。
 そりゃそうだ。
 あいつらの世界に行き来できないし、冒険者なんて職業のない世界に住んでるわけだし。
 魔法や魔物も存在しない。
 だから、共通する話題がほとんどない。
 そんな相手にどうやって会話が盛り上がるのか。

 コルトも、彼らの世界と行き来できないのは同じだが、ここに来る前は冒険者だったし魔法も使える。
 その力を使う、新たな職種に就くことができた。
 冗談で救声主なんて言葉作ってコルトをそう紹介したりするが、いずれ正式な職名がつくんじゃないか?

 話はずれたが、彼らとの共通点は俺よりもある。
 似たような経験も重ねてきている。
 だからコルトは、そんな彼らと普通に会話ができる。

 けど、まさか俺がそうなるとは思わなかったな。

「おいっ! ここは日本なのか?!」

 コルトが見える扉が開いて入って来た男は、焦ったような、驚いたような、そんな感情を露わにして大きな声を出した。

 びっくりしたのはこっちだぜ。
 異世界から来た奴の口から、この国の名前が出てくるなんて夢にも思わなかった。

 厳密にいえば二人。
 その男に付き添っている女エルフと。
 その二人が一緒に入ってきたらしい。

「ちょっと! そんなに興奮しないで!」

 などと後ろから抑えようとする彼女を振り切って俺の所にやって来る。

「……よくここが日本と分かりましたね」
「そこのノートに、自由にお書きくださいって日本語で、しかも漢字も混ぜて書かれてるのを見たら、知ってる奴はみんなそう言う……って言うか、ここは日本でいいのか?!」
「って言うか、そこから出てきた人が日本人ってことに、こっちがびっくりなんですが」

 見た目……俺より十才くらい年上か?
 装備は他の冒険者と比べて軽装備って感じだ。
 皮の胸当てとかブーツとか。
 金属製の装備はなさそうだ。

 待てよ?
 ってことは、俺の後ろにある、プレハブと家の中の出入り口をこの人には……。

「ひょっとして、そこから先が日本ってことか?」

 見えてた。

「え? どこにあるの? それ」

 後ろの女エルフには見えないらしい。
 コルトと違って随分大人びてる感じがするな。
 お似合いって感じだ。

「あぁ、やはりそちらの方には見えないんですね」
「え?」
「え?」

 え?

 何だよ、え? って。

「わ……私のこと、見えるの?」
「いや、そりゃ見えますが?」

 何かおかしいか?
 二人で顔を見合わせている。
 そう言えば、体が何か重い感じがする、なんて言ってる。

 んで二人してハグしてたりするが、俺には話についていけん。
 まぁなんか感動してるっぽいがそれはともかく。

 後ろの戸が見えるってことは、間違いなく日本人か。
 異世界から来た異世界人が日本人だった。

 けど、ようやく日本に帰れるっていううれしさとかじゃないよな、この二人の感動って。

 いや、ちょっと待て。

「コルトー」
「なぁに?」
「今扉が開いたって言ったよな?」
「うん。で、この二人が入って来たの」

 その二人がコルトの言葉に驚いた。

「こ……ここ……日本、だよな?」
「日本ですよ? さっきも言ったでしょ?」
「……日本の……死後の世界じゃないよな?」

 おいこら。
 年上だからって容赦しねぇぞ。
 俺を勝手に殺すな。

「普通に日本ですよ。俺だって腹が減れば眠くもなる。おまけにトイレにも行きたくなります」

「わ……私……」
「ま、まさか……、セレナ……」

 何か、たとえていうなら感動の再会って雰囲気を醸してるな。
 けど頼むから、コルトはともかく、俺を巻き込むな。
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