俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

文字の大きさ
105 / 196
王女シェイラ=ミラージュ

シェイラはもう少しおしとやかになるほうが

しおりを挟む
「とりあえず、噂と違っていい人っぽくて安心したよ」
「……知ってるか? いい人って言うほんとの意味は、『どうでも』いい人っていう痛っ!」

 今度は背中に鈍痛。

「コウジ、いい加減にしなさいよ。人の好意は素直に受け取りなさい」

 年下の、しかもじゃじゃ馬箱入りお嬢サマから拳骨と説教食らうと思わなかった。

「お前も言ってることと態度違うよな。こいつらからの感謝、うざったそうにしてたじゃねぇか」
「当たり前でしょ? 感謝されたくてやってるんじゃないしっ。役に立てそうなことをやって、その通りにするつもりでしてるだけなんだから。相手の感謝はどうでもいいのっ」

 面倒な性格変わんねぇなぁ。

「良いも悪いも、別の世界の人からの評価なんか気になるかよ。俺と関係ねぇとこで褒めらたり貶されたりしたって、こっちの世界にゃ何も響かねぇしな」

 作った握り飯を無駄にしなきゃそれでいい。

「私はそうはいかないんだってば!」

 あ、こいつとこれ以上会話したくなくなった。
 気にしてるのか気にしてないのかどっちなんだよ。

「私の力が役に立ってるかどうか分からないじゃない! 無駄にしてほしくないのは当然だけど、体力回復したのを見届けないと、私がいてもいなくても変わらないのと同じじゃ……」

 シェイラは黙った。
 ピーチクパーチクとうるさいじゃじゃ馬が静かになってくれると俺も助かるんだが。

「……それだ。私がほしいの、それよ!」

 もう、誰かこいつのいろんな暴走止めてくれよ。
 脳内で何が起きたか知らんし、こいつが求めてるのが何なのかも興味ないけどさ。

「……まぁ、確かにこっちの方でのここでの評判は、こっちだけの話なんだが……。異世界……って言ったな? 他にも別の世界があるのか?」

 この戦士もこの部屋のことは知らねぇのか。
 何度同じ説明をしたんだろうなぁ。

「……なるほど。よく分かった。しかし他の者が騒がないということは……。この噂は俺の世界だけにしか流れてないってことか」
「そういうことっぽいな。ま、俺はそれを何とかしたいとは思ってないけどな」
「私はそうはいかないわよ! 手柄とか功績が欲しいんじゃなくて、みんなに私が何をしたのかを分かってもらいたいのっ! 他の誰かが術をかけたおにぎりって言われたら、私がここにいることを誰も理解してくれないじゃない!」

 火のないところに煙は立たない。
 だが煙で暖かくなることはないし、煙が辺りを明るくする力はないんだがな。
 火よりも役に立つ煙なんて聞いたことがない。
 こいつの価値を一番分かってくれる連中は、こいつが嫌がる感謝の言葉を口にする奴らなんだがな。

 ま、そこまで言う義理もないか。

「じゃあとりあえず、俺はその容疑者と思われる連中が来るのを監視してるか。恩人に冤罪を押し付けるような輩がいると知った以上、見逃す手はない」
「私もっ! ……べ、別にあんたのために懲らしめてやるわけじゃないんだからねっ!」

 何だその典型的なツンデレは。
 本音だけで十分だっつーの。

 ※※※※※ ※※※※※

 つくづくテンシュさんが出入りしてくれるようになって助かった。
 シェイラも少しくらいは物作り……例えば手編みとか、そんなことくらいはできると思ってた。
 壊滅的だった。
 不器用にも程がある。
 お前の指先、不器用でもあり、武器用でもあるんだな。
 米研ぎすらできなかった。
 勢いが強すぎて、水のしぶきと一緒に米粒も飛ばすし、洗った後の粒の数が倍以上。ただし大きさは半分以下。
 すごいな、こいつ。

「い、いいじゃないっ! できないことを相手がしてくれるのっ! で、互いに助け合うのが一番なのっ!」
「そんなお婿さん、見つかるように祈ってるよ……ってえっ! 何しやがる!」
「フンッ!」

 ……なんで脛を蹴飛ばした。
 ちと骨に痛みが来てるぞ。
 骨折なんてシャレにならんからな?!

「……骨が折れて入院ってことになったら……」
「大丈夫。心を込めて光を浴びせたおにぎりが待ってるから平気でしょ?」

 やな知恵つけてきたぞこいつ。
 誰だよそんな悪知恵与えた奴は!

「握り飯、試しに作らせてみたが壊滅的だったじゃねぇか! 何圧縮させてんだよお前っ」

 そう。
 一通りやらせてみたのだが、握りつぶされた握り飯って、ほんとに無残なんだな。具のない塩おにぎりだったのがせめてもの……。
 まぁあれもあれである種の事件ではあるのだが。

「仲いいな、二人とも」
「女神様を妻に、だなんて羨ましすぎるぞ、コウジ」

 他に話題がないこいつらのいい餌食にもなってるよ、俺は。やれやれだぜ。
 握り飯タイムには、順番まだかと後ろの方が急かす。
 俺とシェイラの会話を楽しみたいんだとさ。

「コウジさんっ! 来たっ!」

 俺はそうは思ってないが、こいつらが感じている和やかさをぶち破る声が響いた。
 双剣の男の声だ。

 俺が顔を向けたと同時に、表情を一瞬で変えたシェイラがショーケースの上を飛び越えて、双剣の男の元に行く。
 鉄拳制裁はやめろよ?
 まずは事実確認が先だからな?
 と、思ってたんだが。

「コウジっ! おにぎり一つ持ってきて!」

 はい?

 成敗するんじゃないのか?
 何が起きた?
 シェイラの叫ぶ声で間違いない。
 心境が一転したか?

「コウジっ、一個持ってくぜ!」
「お、おぉ……」

 行列の先頭が、シェイラの呼びかけに反応した。

 状況を誰も説明してくれない。
 まぁ説明してもらわなくてもいいんだが……なんか鉄の…‥。
 いや、血の臭い。

 重傷者がこの部屋に来る時はいつもそんな臭いもやってくる。
 だが、シェイラの様子もおかしいしなー。

 そんなことを考えてたら、シェイラが重傷者を抱えてやって来た。
 足取りはおぼつかないが……十四才の女の子が、大の大人、男性をお姫様抱っこってどうなんだ?
 そんな力持ちに、今日、三度も脛を蹴られた俺は……。
 傷害保険、おりるわけもなし……。

 そんな俺の思いを全く知らないシェイラは「ここに寝かすぞ」と言いながら壁際に男を下ろした。
 どこでもいいよそんなもん。

「扉が開いてこの男がなだれ込んできた。ということは、この男も守銭奴の噂を聞いた奴かもしれないと思ってな」

 俺にはその男は初めて見るような気がしたが、記憶力が頼りない。

「この人は違うね。でもかなりの刀傷だよ。魔獣の爪とかじゃないね」
「あぁ。獣の毛とかはついてないしな。……考えたくはないがおそらく……」

 魔獣か何かとやり合うなんて修羅場、俺だって考えたくはないよ。
 魔獣の類がここに来ることなく、よくこんな仕事してるもんだな、俺も。

「こ……ここは……?」
「安心なさい。ここは安全地帯だから」

 シェイラが優しい声を出してる。
 気持ち悪いっ!
 けどそういうことなら、そいつにはこういうのが一番のはずだ。

「そう。守銭奴が部屋の主をしてる場所だからな」
「「おい」」

 安心させるには、ユーモアの心も大切だぜ?
 ……って、その男、なんで急に怯えた顔になるんだよ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...