146 / 196
シルフ族の療法司ショーア
ある冒険者の、冒険者生活の終焉とその後
しおりを挟む
「俺の知る限り、ここで握り飯の世話になった奴の中で、魔物にやられて死んだり、その時のけがや病気で冒険者引退した奴はいねぇんだよ」
ほう。
けどそれがどれほどの意味があるのかよく分からん。
「槍の奴、自宅の屋根の修理で油断したんだな。地面に落下して怪我をした」
ここらへんじゃ、雪が積もる時期に屋根の雪下ろしで落下事故なんか毎年目耳にするニュースだ。
不謹慎だが、珍しくはない。
危険な事ではあるがな。
「冒険者の引退理由は、そりゃ数えきれないほどあるさ。けど握り飯の世話になった奴の理由は、日常での事故とか病気だけ。殉職とか戦死とかはゼロなんだよ」
部屋のあちこちから「そう言えば」とか「言われてみれば」、「俺んとこでもそうだ」なんて声が上がる。
いわゆる数のマジックってやつじゃねぇのか?
「握り飯を食わんでも、普通に引退した奴もいるだろうに。それに冒険者人口がどれくらいいるか見当もつかん」
「まぁそうだろうな。確かに俺の言ったことは結果論だ。だがこれを否定できる根拠はどこにもない。お前らはどうだ?」
弓戦士とは違う世界にいる者達もかぶりを振っている。
こいつらの知る範囲では、弓戦士の言うことは正確と言えるだろうが、だからと言ってここに来るメリットは安全区域であること以外はっきりと言い切れるものはないぞ?
「そう言えば、コルトが所属してたパーティあっただろ? 『フロンティア』とか言ってたな」
男戦士、まだいたか。
コルト、そんなことを言ってたな。
だが名前までは覚えてねーよ。
「そいつら仕事中に魔物に襲われて、メンバーの二人くらいが引退したっつってたな」
周りはざわつくが、俺は「あ、そう」としか思えない。
「コウジさん……」
俺を見るショーアの目が、なぜか潤んでる。
「やっぱりコウジさんには、何か特別な力があるんですよ! でないとそんな効果が現れるわけがありません!」
おいこら。
何で妄想をいきなり暴走させてやがる。
体力回復ならブドウ糖だのアミノ酸だの栄養の補給で物理的理論的に証明できるだろうが、食った奴のその後の仕事ぶりにまで影響が出るわきゃねぇだろうが。
「でも、ずっとコウジさんのここでの仕事を観察してましたが、特別なことをしている様子はありませんでした! だからコウジさんご自身に何か特別な力が」
「あるわけねーだろうが!」
あー、何だろう。
こいつの顔面を、しゃもじでいい音を立てて叩きたくなるこの気分は。
「ちなみにあいつ、引退した後は防具屋をするんだと。鍛冶屋に弟子入りして、特に得意の槍を防ぐ防具の研究をしてみたいんだとさ」
いや、聞いてねぇし興味もねぇし。
「家族は寂しさ半分、うれしさ半分ってとこらしい。魔物に食われて死体も残らねぇ冒険者なんて数知れずだからな。それが引退した後も家族と一緒に暮らせるんだから、そりゃうれしいだろうよ」
「もう半分の寂しさはどこいった」
子供がいて、かっこいいお父さんの姿を見たかった、だとよ。
まぁそいつぁ笑い話になるだろうな。
冒険者生活の終わりとしちゃ、めでたしめでたしで終わりにできる話だし。
「ということでここはひとつ、祝杯……」
「だからここは酒場じゃねぇんだっつーの!」
この弓の男、何でキョトンとしてるんだ。
「コウジへの祝杯だぜ? あげるべきだろ」
「断定すんな。こっちからは酒を出せるわきゃねぇだろ」
何リットルありゃ足りるのか分かったもんじゃねぇし、それを買うのにいくらかかると思ってんだ。
そっちから酒を持ち込むにも、持ち込める状況なわきゃねぇだろうが。
「……それもそうか」
「持ち込めるにしろ、そいつがいつでもここに来れるとは限らねぇだろ。そいつにできることは俺にはできねぇ。おれにできねえことを期待して、ここに来てもらっても困るんだよ」
だから、握り飯作りの要領を掴んだショーアに手伝ってもらっても、握り飯を作る数を増やしたりはしない。
ただ、米を炊く前に水にしばらく浸すようにはできた。
ショーアが手伝ってくれるようになって、俺もその要領を新たに得ることができたからな。
ほう。
けどそれがどれほどの意味があるのかよく分からん。
「槍の奴、自宅の屋根の修理で油断したんだな。地面に落下して怪我をした」
ここらへんじゃ、雪が積もる時期に屋根の雪下ろしで落下事故なんか毎年目耳にするニュースだ。
不謹慎だが、珍しくはない。
危険な事ではあるがな。
「冒険者の引退理由は、そりゃ数えきれないほどあるさ。けど握り飯の世話になった奴の理由は、日常での事故とか病気だけ。殉職とか戦死とかはゼロなんだよ」
部屋のあちこちから「そう言えば」とか「言われてみれば」、「俺んとこでもそうだ」なんて声が上がる。
いわゆる数のマジックってやつじゃねぇのか?
「握り飯を食わんでも、普通に引退した奴もいるだろうに。それに冒険者人口がどれくらいいるか見当もつかん」
「まぁそうだろうな。確かに俺の言ったことは結果論だ。だがこれを否定できる根拠はどこにもない。お前らはどうだ?」
弓戦士とは違う世界にいる者達もかぶりを振っている。
こいつらの知る範囲では、弓戦士の言うことは正確と言えるだろうが、だからと言ってここに来るメリットは安全区域であること以外はっきりと言い切れるものはないぞ?
「そう言えば、コルトが所属してたパーティあっただろ? 『フロンティア』とか言ってたな」
男戦士、まだいたか。
コルト、そんなことを言ってたな。
だが名前までは覚えてねーよ。
「そいつら仕事中に魔物に襲われて、メンバーの二人くらいが引退したっつってたな」
周りはざわつくが、俺は「あ、そう」としか思えない。
「コウジさん……」
俺を見るショーアの目が、なぜか潤んでる。
「やっぱりコウジさんには、何か特別な力があるんですよ! でないとそんな効果が現れるわけがありません!」
おいこら。
何で妄想をいきなり暴走させてやがる。
体力回復ならブドウ糖だのアミノ酸だの栄養の補給で物理的理論的に証明できるだろうが、食った奴のその後の仕事ぶりにまで影響が出るわきゃねぇだろうが。
「でも、ずっとコウジさんのここでの仕事を観察してましたが、特別なことをしている様子はありませんでした! だからコウジさんご自身に何か特別な力が」
「あるわけねーだろうが!」
あー、何だろう。
こいつの顔面を、しゃもじでいい音を立てて叩きたくなるこの気分は。
「ちなみにあいつ、引退した後は防具屋をするんだと。鍛冶屋に弟子入りして、特に得意の槍を防ぐ防具の研究をしてみたいんだとさ」
いや、聞いてねぇし興味もねぇし。
「家族は寂しさ半分、うれしさ半分ってとこらしい。魔物に食われて死体も残らねぇ冒険者なんて数知れずだからな。それが引退した後も家族と一緒に暮らせるんだから、そりゃうれしいだろうよ」
「もう半分の寂しさはどこいった」
子供がいて、かっこいいお父さんの姿を見たかった、だとよ。
まぁそいつぁ笑い話になるだろうな。
冒険者生活の終わりとしちゃ、めでたしめでたしで終わりにできる話だし。
「ということでここはひとつ、祝杯……」
「だからここは酒場じゃねぇんだっつーの!」
この弓の男、何でキョトンとしてるんだ。
「コウジへの祝杯だぜ? あげるべきだろ」
「断定すんな。こっちからは酒を出せるわきゃねぇだろ」
何リットルありゃ足りるのか分かったもんじゃねぇし、それを買うのにいくらかかると思ってんだ。
そっちから酒を持ち込むにも、持ち込める状況なわきゃねぇだろうが。
「……それもそうか」
「持ち込めるにしろ、そいつがいつでもここに来れるとは限らねぇだろ。そいつにできることは俺にはできねぇ。おれにできねえことを期待して、ここに来てもらっても困るんだよ」
だから、握り飯作りの要領を掴んだショーアに手伝ってもらっても、握り飯を作る数を増やしたりはしない。
ただ、米を炊く前に水にしばらく浸すようにはできた。
ショーアが手伝ってくれるようになって、俺もその要領を新たに得ることができたからな。
0
あなたにおすすめの小説
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる