俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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四人目の相棒は許嫁

ミュウワの手記:里帰りの目的 その2

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「そ、その腕……どうしたの?」

 ジャイムは、え? という顔をして自分の左腕を見た。
 そして照れくさそうな笑顔を私に向けた。

「久しぶりなのにいきなりそれか。まぁびっくりするだろうね」
「あ……ごめんなさい。私……、ううん。久しぶり……」

 言葉に詰まった。

「こいつ、厩舎に連れてくから、そのあとでもいい?」
「え? あ、うん……」

 ※※※※※ ※※※※※

 待つ間が長かった。
 どう切り出そうか悩む時間にしては十分だったけど。
 でも、正直に言う以外にないよね。
 そう結論を出した。
 牧場のベンチで隣に座った。

「……久しぶりだね……。どうしたの?」
「うん、えっと……。例えば、思いがけないことってあるよね。今みたいな」
「あ、あぁ。突然昔の知り合いがやって来るなんて思いもしなかったな」
「でも、これって一方的だよね。こっちの都合を無理やり通して……」
「いや、そんなに時間に厳しくないから気にしないけど……でもこの状況、よく理解できないんだけど……」

 ここからが本番。
 嫌われるかもしれないけど、私が悪いから。

「他のことでもそう。それで、悪ふざけや悪意とかは全くなくて、それでも人の秘密に触れてしまって……」
「人の……って、俺のこと? て言うか、話がよく見えないんだけど……。挨拶や昔話もそこそこに、曖昧な話を続けるのって……」

 そう。
 昔話ができる程、子供の頃はほぼ毎日一緒に遊んだ幼馴染み。
 思い出話なら山ほどある。
 けれど今はそれどころじゃない。

「久しぶりに会う人みんな、俺の左手のことを聞いてくる。こんなことって滅多にないからな。でもミュウワは全く触れないね。気の毒に思ってたりする?」
「……多分それは、あの後じゃない? だって、あの文字は綺麗だったもの。利き腕じゃない手で押さえなきゃ、文字は綺麗に書けないものね」
「何のこと?」
「……カウラお婆様のこと覚えてる?」
「あ、あぁ。覚えてるよ。元気らしいね。時々こっちにも来るよ」
「お婆様の家族ね、私達だけじゃなかったの」
「えーと……その告白、俺にする意味あるの?」
「うん。私達もつい最近知ったの。そっちの家族では、お婆様の子供も孫も曾孫も亡くなったんだけど、玄孫って人が一人いて」
「ふーん」

 気のない返事。
 けどこの告白から間違いなく彼の気持ちは激しく動く。

「その人の名前、ハタナカ・コウジって言うの。知ってる、よね」
「ハタナカ・コウジねぇ……え?」
「屋根裏部屋のおにぎりの、って言えば、分かる?」
「嘘……だろ……」

 ジャイムの顔が一瞬で青ざめた。
 そしてその顔色はすぐに赤に変わる。

「あ、あの部屋の?! って言うか、ほんとかそれ! なんでお前が知ってんの?!」
「……今、あの人のお手伝いしてるの」

 私は彼に何か責められるような気がして、彼の顔を見れなかった。

「歌で癒してくれるお手伝いさん、いたでしょ?」
「……コルトさんのことも、知ってるのか……。あ……」

 彼は固まった。
 おそらくノートのことを思い出したに違いない。
 この話を切り出してからの、私がここに来た理由がそれ以外にないから。
 そしてジャイムもそれに気付いたに違いない。

「私はね、たくさんの人を喜ばせたいって夢があったの。冒険者になって、世界を渡り歩いて、いろんな人達を助けて、喜ぶ顔を見たいって」

 ジャイムは顔を赤くしてうつむいたまま。
 私の話を聞いてくれてるかどうか分からない。
 けど。

「でも冒険者には不向きだって言われた。危険だし止めときなさいって。だから冒険者になってって言う夢は諦めた。でもそれ以外でもたくさんの人を助けることができるってことを知った。屋根裏部屋の……」
「……コウジさんのことか。確かにあの人、不満言いながらもたくさんの人救ってたからな」
「でもコウジさんみたいにはなれない。だって、私もおにぎり作ってみたけどあんな風にはなれなかったから」
「あのノート、見たのか」
「……コルトさんのこと知りたいと思って」

 ジャイムからの返事はなかった。
 私は……ひどい女かもしれない。
 でも……。

「コルトさんも、何の力もないって嘆いてたらしかった。でも歌の力に目覚めてから、励まされた人達は数えきれないくらい……」
「今日は、帰ってくれ」

 傷つけてしまった。
 おそらく誰からも、特に私に見られたくない物を見られた。
 もう二度と見たくない、と。

「……長くなったら帰りが遅くなるだろ。放牧の仕事が終わってからなら時間はある。今からだと、多分時間的に無理だ」
「……ありがとう」

 ごめんなさい、とも言いたかった。
 けど、それは、今は言うべきじゃないとも思った。
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