俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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四人目の相棒は許嫁

ミュウワの手記:里帰りの目的 その3

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 この村で宿を借り、言われた通り午前十時頃に牧場についた。

「ジャイム、おはよう」

 ジャイムは、草地でのんびりしているその動物達の毛並みを整えている。
 ジャイムの世話に身を預けている動物達は、みな安心しきってる。

「……昨日の話の続き、コルトさんのことだったよね」
「うん」

 その右手は止まり、遠い目をした。

「そうだな……。不思議な人だったな」
「不思議?」
「ふ。ふえぇとか、頼りなさそうな泣き声出して、こっちがいつも心配して世話してやんなきゃって思っちゃうくらいなのに、歌うときは、ほんと、安心感に包まれたっけな」
「この動物達みたいに?」
「あはは。うん、そんな感じだな。寝る時間とか休む時間に聞かされると、うとうとしていつの間にか眠っちゃってたな」

 呪文とかなら分かるけど、歌で眠らせる……って……。

「まるで子守歌ね、それ」
「あぁ、言い得て妙だな」

 コルトさんの、歌を歌う前のことを聞いてみた。
 けど、ジャイムがあの部屋に入った時には、歌うことが既に彼女の役目になってたから分からないらしい。

「あ……ごめん。今日はこの毛集めて布団作りするんだった。明日……もこんな感じだな。今日みたいに取れる時間は長くないけど……明日また来てほしいな」

 ひょっとしたら、予想外の話を聞けるかもしれない。
 三日くらいとは言っておいたけど、ラノウにも、さらに延びるかもしれない旨の伝言は頼んだ。
 ゆっくりするわけにはいかないが、気持ちの整理は必要だし。
 それに、ジャイムにきちんとお詫びしないといけないだろうし。

 ※※※※※ ※※※※※

「コルトさんも、そんな大それたことをするつもりで歌を始めたんじゃないと思うな。でなきゃ『ふえぇ』なんて情けない泣き声出さないよ」

 どこかで聞いたフレーズ。
 大きなことをやり遂げようという気は全くない。
 そんな人は……あぁ、コウジさんがそうだったな。

「自分のできる事しかしない。その中で、一番効率のいい、効果の大きいことをする。そんな感じじゃないかな」

 コルトさんが歌を始める前のことは、ジャイムもそうだし、私だって当然知らない。
 けれど、気持ちの面では、極端に変わった自分の行動に追いついてないように感じる。
 私はどうだろう?
 なぜそんなことを思ったか。
 それは……。
 幼心に好きになったジャイムが冒険者になる、と夢を語った時からだった。
 じゃあ私もなる! とついていく女の子がたくさんいて、それを男子が羨ましがって……。
 今思い返すと、かわいい年代だったな。
 なのに、まず私が振り落とされた。
 学問で何とかなるかもしれない、と思い、学力の成績は跳ね上がる程努力した。
 けれど気付けば、ジャイムは冒険者としての道を歩み始めた。
 それについていこうとした女の子達は、私同様に振り落とされた子は多かったけど、冒険者になれた子もそれなりにいた。
 けど今は、その子達どころか、男の子も彼のそばにいない。
 それはおそらく……。

「ところで今更だけど……」
「ん?」
「その左手は……どうしたの?」
「ほんとに今更だな」

 ジャイムは乾いた笑い声をあげた。

「屋根裏部屋から出て、無事に帰還した後だったな。あの時よりも力の差が大きい魔物相手に戦って、左手をと引き換えに命を取り留めた。屋根裏部屋の扉が俺の前に現われたのは、あの時一回きりだった」

 体の欠損のハンディを背負ってでも冒険者を続ける者もいる。
 けれどもジャイムは、冒険者業を続けることを諦めた。

「あのときは、屋根裏部屋のことを思い出したよ。特にコルトさん。歌に力があるだなんて、本人だって想像できなかったんじゃないか? だってそんな仕事があるなんて思いもしなかったし、本人もそんなこと喋ってたもんな」
「ないはずのものがあるだなんて、誰だって信じられないわよ」
「うん……つまり、この左手もそういうことが当てはまった」
「そういうこと?」

 左手を失った。
 失ったことで、できない事がたくさん増えた。
 その増えたできない事を、左手なしにできるようになる、ということも当てはまる。
 けれど、やはりそんなことがあるだなんて信じられなかった。
 信じられないことが、できない事であると認識してしまった。
 可能性がわずかながらでもあったかもしれない。
 けどそれさえも否定した。

「可能性全てを否定したら……もう引退するしか考えられなかった。あのノートに書いたことも、もうすでに過去のことだ。みんなが好意を持っていた俺は、今はもういない」

 何も言ってあげられなかった。
 私にだって、こうして誰にも言えないことはある。
 ジャイムはもっと前から、誰にも言えず苦しんで、そして何とかして結論を出したんだ。

「俺の話を聞いて心配してやってくる奴はたくさんいた。でも当たり障りのない言葉をかけて、それっきりさ。それでもこうして、今の俺にもできる仕事がある。ていうか、元々家業は継ぐつもりだったけどね」

 恐る恐るジャイムの顔を見た。
 決して楽しい話題じゃない。
 けど、その顔は晴れ晴れとしてる。

「冒険者になるって決心した時、、実は適当な気持ちしか持ってなかった気がする。誰も見向きもしない今の俺がやってるこの仕事さ、今まで感じたことのない誇りを持ってるんだよな」
「え?」
「こいつらには好かれるし、気持ちよく仕事をしてできた布団は評判良いんだよな。逆に不満ばかり持ちながら作り上げる布団は、客の期待を裏切ってる。不思議なもんだよな」

 コルトさんもそんな気持ちだったんだろうか。
 コウジさんは……。

「できないってのにあがいてもがいて、その結果できるようになって、それがたくさんの人を喜ばせてる人もいる。できないからすぐに諦めて、できることしかやらずにいて、それでも喜んでくれるお客さんがたくさんいる。人生ってなぁ面白いもんだよな。……ミュウワは、コウジさんのお手伝い、続けるのか?」
「う……うん……」
「そっか。じゃあ餞別用意するわ。敷布団と掛布団と枕。シーツもセットでな。うちの牧場自慢の一品だぜ?」
「え……えっと……」

 まさかそんなものを用意してもらってるなんて夢にも思わなかった。
 私は自分勝手にジャイムの気持ちをかき乱して……。

「今の俺がまともかどうかは分からんが、今の俺から見て、幼馴染みの中で一番まともに相手してくれたのはお前だけだからな。それくらいの礼はさせてくれ。コウジさんによろしくな」
「……ううん。……私こそ……ごめん……なさい……」
「はは、謝ることなんかないさ。……不思議な縁を語ってくれて、聞かせてくれてありがとう。楽しかったよ」

 私には、うん、と返すのが精一杯だった。

 ※※※※※ ※※※※※

 ここに戻る前、コウジさんはこう言ってた。
 自分で決断しろ、と。
 そして私とコウジさん、私とコウジさんの仕事の関連について考えてみた。
 いろんな世界の人達を救うコウジさん。そしてその仕事。
 決してコウジさんに負担をかけさせてはいけないから、コウジさんの手伝いをすることにした。
 などという思いは、おそらくコウジさんが言う自分の決断とは違う。
 決断する理由を、自分の決意以外の何かに託しているんだ。
 コウジさんが言いたかったことはきっと、そんな決め方じゃなく、自分がどうしたいかを決めろ、ということだと思う。
 今はまだ、自分で決断するにはいろいろ足りないと思う。
 人生経験が主かな。
 でも今は、コウジさんの手伝いしか考えられない。
 多くの人のために活動しているコウジさんの手伝いを。
 コルトさんばかりじゃなく、手伝いをしてきた他の人達も、自分のできる事をと思ってたに違いない。
 まずは、その事に専念してみよう。
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