この僧侶、女子高生っぽい女神の助手 仕事は異世界派遣業

網野ホウ

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第三章 三件目 異世界への転移、転生希望者へ一言

そう言えば、こいつは人間やめてたんだった

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 前々回の龍退治の時は酒場に行った。
 こことは違う世界だが、一回でも経験を積むと慣れという感情は生まれる。
 つまりそういう場所に入ることに抵抗はない。
 ただそんな行動をとるにはネックが一つある。
 俺にこの世界の文字を読み取る知識がない。

 魔王志願の転移者である子供のそいつはお金があるのを確認し、食事する店は食堂を希望した。

 まぁ子供だから食事が楽しみという気持ちも分からんでもないのだが……。

「ふぅ……。一々文句を言うつもりはないがな」
「え? 好きなところを選べって」

 一つの体験で一つの情報を得るよりも、数多くの情報を得る方が時間の節約にもなるだろうに。

「じゃあ選んだ食堂の中にはどんなのがあると思う?」
「え? メニューとかでしょ?」
「ほかには?」
「ほかになにかあるの?」

 何と言うか……。
 個人的なものの考え方を伝えていいものだろうか?
 転移させて新たな人生を始められたななのおかげではあるだろう。
 だが彼女より俺への思いが強くなりゃしねぇか? どんだけつっけんどんに対応したとしてもだ。
 いや、魔法の言葉を先に出せば、期待の矛先はななの方に向けられるだろう。

「あー……な……じゃなくて、女神が言ってたんだが」
「あの女神様が? なんて?」

「『目的を持つ行動を手段にすれば、より多くの情報を手に入れられる』だとよ」
「……女神様……ありがとうございます……」

 両手を組んで宙を見上げ、感慨深げに目をつぶっている。
 その服装からして、まるで貧乏人が天からの恵みを期せずに受け取った、そんな図に見える。
 どのみち、こいつの感謝の情がななの方に向けることが出来た。これで俺は解放されやすくなるわけだ。

「で、何と言ってたの?」
「んー……。この場合に当てはめて言うなら、晩飯を食うことを理由にして、その場所での食事以外の情報を仕入れるってことだな」

 頭をかしげている。
 どういう意味か分かってないらしい。
 知恵や知識量も必要だろうが、頭の回転も良くないと、暗愚の魔王なんて呼ばれかねないぞ?
 まぁ腐っても鯛という言葉もあるわけだが。

「こんな世界だ。冒険者って職もあるだろう。彼らが仕事を探すときに利用する店もそこなら、どんな仕事の種類があるか、とか、どんな種族の者達がいるかとか、ただ飯を食うだけで終わる時間を過ごすよりよほど有意義だと思うが?」

 異世界とは言え、こんな子供が一人で酒場に入るのは流石に誰もが咎めるだろう。
 だがそばに俺みたいな大人がいれば、一人では得られない情報も入るってもんだ。

「じゃあもし野宿することにして、その辺りにいる動物とかを食料にしたら……」
「その場所にどんな生き物がいるかを知る手掛かりにはなるだろうな。地理を知り、地形を知る。土地勘も養われるだろうが今日は止めとけ。転移の初日だ。疲れもあるだろ」

 こいつは黙って頷いて、別の店を選んだ。
「『ターナール酒場』って書いてる。ここにする」

 助言を素直に聞き入れるのは、器が大きいと言われる要素の一つと思われる。
 その態度は悪くない。
 文字が読めるからといってこいつに先に入らせては、変に目立ってしまう。
 こいつが本格的に活動してからならいいだろうが、動かないうちはなるべく目立たない方がいいだろう。

 俺が先に入り、その後について来させる。
 予想通り、筋肉質の体つきの者達が多い。
 とは言え空席もまだ多い時間。
 適当に座り、適当にメニューを選び、飯にありつける。

 そう思ってた。

「ちょいと失礼するぜ? お宅ら、親子かい?」

 身も知らぬ冒険者らしい体格のでかい男が近づいて来た。
 見覚えはない。当り前だ。
 この世界に今日来たばかりだし、来てからこの時間まで、特別誰かの世話になったこともない。

「親子ってわけじゃないが面倒を見なきゃならん立場ではあるが……。失礼ですがどちら様?」

「うん、俺達がどこの誰か知らないままってのは大した問題じゃない。だがそのガキは、どこの誰かは分からなくても問題だ。魔族の子供だろ?」

 そう言えばこいつの種族を聞いてなかった。
 聞くつもりもないし知りたいとも思わなかったからな。
 そしてこいつの名前すら知らない。

「見たところ相当子供だ。ここで見逃して何年かしたら魔族の大物になるなんてことはなさそうだし街中で武器を振り回すのも保安上よくねぇ。黙ってこの街から出てくんなら目をつぶってやるが?」

 コンビを組んでいるのか、一緒に近づいて来たもう一人の男が警告してきた。

 考えてみりゃ魔王志望者だったっけ。人間が魔王になろうとしたって、せいぜい普通な国王になるのが精一杯。
 魔族関連の種族じゃなきゃなれるわけがない。
 これは俺の方が間抜けだった。

「んじゃ街から出るか。忠告、感謝する。ほら、行くぞ」

 俺はこいつの襟首をつかんで店から出た。
 いくら一般人でもこれくらいの子供を引きずり回せる腕力くらいはある。
 そのまま、適当に方向を決め、真っすぐ進む。

 その店が他の建物との区別がつかないくらい遠ざかる。
 やがて街の明かりも届かないくらい離れた。

 酒場での客の話がこいつの頭の中での展開を越えてしまってたようだ。
 何になりたいか。どうなりたいか。
 それも大事だが、その前に、自分は何者なのかってことくらい弁えとけっての。
 俺が人間のままだから、すっかり感化してたんだろうな。
 しょーもないやつだ。

「とりあえず、やっぱり野宿ってことになるんだろうな。……あんな仕打ち受けたからって落ち込んでる場合じゃねぇぞ? 今のお前はさっきも言った通り、とにかく情報を手に入れろ。学校みたいに誰かから教わる機会なんてほとんどないだろうからな」

 気が抜けたような顔をしている。

「とにかく、人の目に触れない場所に向かう方が安全策だ。あの店の中だからみんな理性がまだ強かった。ここであんな人間と出会ったら、問答無用で真っ二つにされかねん。周りから強制的にこの生を終わらせられるより、多少の危険があっても人目から離れるべきだな」

 たとえ一から十まで希望通りの生でなかったとしても、望んでもない生を受けるよりは遥かにましだろ。
 野生の獣から襲われる可能性はあるが、そいつだって生きるための本能でエサを探してるんだ。
 こいつの生を否定するためじゃない。
 だがこの世界での人間はすべて、こいつの生を否定するために襲い掛かる。
 どっちがマシかは分かるだろ。

「街の壁ってのはないんだな。こりゃ楽に逃亡できそうだ」

 こいつはすっかり言葉を失っちまったみたいだ。
 気力も萎えたか?
 人間からもあらゆる種族からも慕われる魔王なんて聞いたことないんだがな。
 転移前の妄想がてんこ盛り過ぎたんだろうな。

 建物の数が減っていき、民家の数も減っていく。
 その代わり雑草が伸び放題の土地の面積が増えていく。
 樹木の数が増えていき、その幹も太い本数も増えていく。

 そして日が沈み、周りはどんどん暗くなっていく。

 自然が豊かな土地に辿り着いたみたいじゃねぇか。
 湯川市よりも田舎も田舎、大田舎ってとこか?

 藪が深くなっていく。
 林から森になっていく。

「お前は何かこう……勘を働かせる、みたいな能力ないのか?」
「……ないよ、そんなの」

 こいつが持つ、生きるためのカードもないってことか。
 どうしようもねぇな。

「ん?」

 何か異変を感じる。
 俺には野生の勘みたいなのはないが……。

「あちこちに仕掛け作ってみるか」

 手当たり次第に、水たまりを作る。
 その表面には、絶対解けない薄い氷を張らせる。

「……おじさん、そんなことできるんだ……」
「おじさん言うな。近くばかりじゃない。ちょっと離れた場所でもこんなことは出来る。主の女神様から預かった力なんだよ」

 ちょっと中二病めいたことを言ってみる。
 この年でそんなことを言うのは恥ずかしいが、今はそれどころじゃない。
 まぁこの身が危なくなっても、ななの家に即退散すりゃ問題ないわけだが。

「何かいるかもしれねぇから、なるべく息を潜めてろ」

 無気力気味なそいつは、呼吸音すら出す力もないらしい。
 しばらくすると、パリン、と何かが割れる音。

 ビンゴだ!

 作った水たまりの氷が割れる音。
 それ以外にこんな森の中じゃそんな音はしないはず。

「……見ぃつけた」

 どこからか聞こえてくる低い女性の声。

 木々に囲まれ、藪の中にいる俺達だってこの身を隠しやすいそんな森の中だ。

 だが俺の考えは甘かった。失敗した。
 何かがいることを確認できる仕掛けだが、どこにいるかが分からない。
 どのように逃げたらいいか分からない。

 自分の身を隠して俺達に接近する奴らの考えることなんざ手に取るように分かる。

 そばにある樹木の一本が動く。
 いや、それは樹木ではなかった。

「で……でかい……」

 波打つその幹のようなものは、ヘビの体。
 その上、周りの樹木のてっぺん近くには女性の顔。
 上半身が裸、下半身は蛇。
 魔物以外の何物でもなかった。
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