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三波新、定住編
閑話休題:サミー、双子、モーナー
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洞窟に戻る途中で気配を感じた。
誰かが洞窟に近づいている。
村の中から接近するから、間違いなく魔物じゃない。
だからといって安心していいとは限らない。
日はすっかり沈んだ。
泥棒の類の可能性は高い。
「え? でも夜の魔物討伐にチャレンジしようっていう冒険者……ってのは」
「大概パーティ組むだろ。二人とか三人程度じゃ来るわけがない。敵は魔物ばかりじゃないからな」
「でもお、何を盗みに来たんだろおなあ?」
泥棒に入られるほど価値の高い物ってないけどな。
金銀財宝は、こっちの店には縁がない。
もしもあったら、ドーセンとこですべて金に換えるしな。
つか、俺らの店に入るよりも、ダンジョンに潜った方がよほど濡れ手に粟状態だぞ?
「ライムの飲み物でも狙ってるんですかね?」
「ナクナッテモ、ヘイキ。スグ、タクサン、ツクレルヨ」
「だよねぇ」
「ハヤイ、ヤスイ、ウマ」
「おいばかやめろ」
いくら効果が高くても、数多く生産できるから盗む対象になるとは思えない。
余程貧乏ならともかく。
いや、ならダンジョンの入り口あたりに落ちてる鉱物一つでも持ち去る方が、人生踏み外すリスクなんて負わなくていいし、やはりそっちの方が高値で売れる。
「まぁ泥棒ならあたし達で何とかできるよね。あたしは力になれないけど」
戦闘能力で言えば、たしかに俺もヨウミも役に立たない。
まだ赤ちゃんっぽいサミーはマスコット的存在だから例外。
だがそれ以外はみなタフで戦闘力は高い。
重量と硬度と姿形を変えられるライム。
突進力抜群、何人か乗せても飛行能力があるテンちゃん。
死角が多く、多少の暗闇でも命中率が高い弓の射手のマッキー。
動きは鈍いながらも、油断することなく守りに入れば完璧に防壁になるモーナー。
見た物手にした物体感した物なら、体の大きさの分限定ながら完璧にコピーできるクリマー。
よくよく考えると……何だよこの戦闘集団。
モロ武闘派じゃないか? これ。
おまけに今、ここにいない、地中では無敵を誇るンーゴに、同じく地中と光が少ない場所でも平然と行動できるミアーノの二人は、戦闘能力が低くても、くらいつけば何でも自分の栄養にしてしまう。
内情を知れば、誰も盗みに入る気は起きるまい。
こいつらみんな、俺の仲間になるだのと言うもんだから、そんな俺も一体何者だっていう。
何も知らない者が見たら、間違いなく曲者だよな。
何を言いたいかというと。
「泥棒なら泥棒でいいんじゃね? 無傷で無力化できるだろ」
「まぁね」
これである。
鍵をかけて慢心に陥るよりも安全な防犯対策があるとは思わなかった。
が、全員揃ったそんな警戒感は無用だった。
「反応……二人……あ、ひょっとして……」
「え? 何か分かったの?」
近づくほど、その気配の詳細が分かる。
二人。
子供。
思い当たるのは一つしかない。
「サミーを泣かした双子だ」
「こんな時間に?!」
驚くマッキーの言う通り、あんな子供にとって今の時間は夜だ。
宵の口、なんて言ってる場合じゃない。
そんな夜の時間に子供が出歩くか?
つか、子供は寝る時間だろ?
起きてること自体、不規則な生活をしているとしか思えない。
「ミ、ミィ~……」
それと、俺の言葉が分かったんだろうな、肩に乗ってたサミーが震え出した。
トラウマになっちまったか。
「まぁ……言ってみりゃ分かる。あの親みたいに諍いを起こす気はないみたいだ」
「でも……魔物は来ないだろうけど、でも……」
あの双子がここに来る理由は、やはりサミー絡みだな。
「ま、行ってみりゃ分かる」
「ミィィ……」
帰りたくなさそうなサミーだが、帰らないわけにはいかない。
奥に隠れてもらうから、それで勘弁してくれ。
※※※※※ ※※※※※
「サミーにあやまりにきました……」
「ごめんなさい……」
洞窟に先についたのは俺達だった。
暗くなった気分の俺達の前に現れた双子は、真っ先にこう言った。
俺達の気持ちが普通だったらどう反応しただろうか。
まず、サミーは奥の俺の部屋に即座に駆け込んで布団の中に潜り込んでしまい、そこから出てこなかったこと。
そして、この問題を複雑にしたのは、モーナーの事情だった。
気配を察知する能力を発動させなくても分かることがある。
すぐそばにいる気のしれた奴の感情だ。
そう言えば、さっきまで全員揃ってたフィールドでも、モーナーは沈み気味だった。
確か、双子の家の名前を聞いてからだった。
リラース家、だったか。
そのことを思い出して、戻る途中で聞いてみた。
最初は頑なに答えを拒否していた。
明らかに、俺がその事情を知っても自分の感情は変わらない、といったニュアンスを持った表情だった。
「お前、俺のことをいい奴だっつってたよな。その俺は、答えないなら聞かないですって言う気にならん。お前のいういい奴ってのは、そこで何も聞こうとしない奴のことか? それとも何が何でも聞き出そうとする奴か? 大体それが今回の件に繋がってるかもしれんし、言いたくないことでも言える相手でなきゃならんと思ってるしな」
滑稽な話だと思わんか?
面倒な仕事を押し付けられた時には、拒否したくてもそれを許されなかったし許してくれなかった。
けど、自分から面倒事に首突っ込んでんじゃねぇか。
「……子供の頃のことだあ」
モーナーは静かに語り始めた。
※
モーナーは元々、ドーセンの宿の向かいにある農業の会社役員の生まれだったらしい。
隔世遺伝……いや、先祖がえりを起こしてこんな巨体に育ってしまった。
だが両親は普通の人間だったようだが、どちらかが巨人族の血を引いてたと思われる。
でなきゃその息子のモーナーはこんな巨体にはならない。
モーナーの家族は、人間の食料を作る会社と現場に亜人がいるのはどんなものなのか? と追及されたことがあったんだと。
それだけなら聞き流し、笑って済ませる程度の問題だったんだそうだ。
亜人になっても家族愛の方が優ってたってことだろう。
いい話じゃないか。
だがいい話はそこまでだった。
モーナーを、いや、モーナーの家族を会社から、村から追い出せ、という声が上がり始め、それは要望となり、要求へと変わっていった。
家族は会社を辞めようとしていた。
だが、大人ではなかったとはいえ、子供時代は過ぎていたモーナーがそれを止めた。
自分一人が出ていけばいいから、と。
モーナーには弟妹がいた。
だから長男の自分じゃなく、誰かが家の後を継げばいい。
自分は、家の前に置き去りにされた捨て子ってことにすればいい。
そう言い出したモーナーを両親は叱ったが、泣きたいのを我慢して仏頂面を押し通した。
そりゃそうだろう。
実の子なら、母親がお腹を痛めて産んだ子だ。
それをないことにしろ、とその息子から言われりゃ、親を馬鹿にしてんのかとか言うんじゃないだろうか。
だが、これまでの生活が激変することは間違いない。
それで家族の間柄が崩れ、その中に居続けるのは地獄としか言いようがない。
なんせそうなったのは自分のせいに他ならないから。
そんな事態になるよりも、自分一人を切り捨ててもらった方がどれだけ楽か。
長男が欠けた生活は寂しいだろう。
けど家族が憎しみ合うそんな地獄よりははるかにましなはずだ。
弟妹に不自由な生活とはどんなものかを説いていった。
けれども日に日に激しくなる追放運動。
しかし、それまでの仏頂面を壊し、笑顔で言った言葉が決め手になった。
「俺え、人より力あるからあ、一人で生活できるよお」
だが一人暮らしはできるかもしれないが、自分の住処を作れるほど技量はない。
結局新たに家を作ることはせず、村人が全く利用しないドーセンの宿屋を住処とし、会社の建物がある反対方向の端の方で穴掘りの依頼を受け、俺と出会うまでそんな生活を続けていた。
その追放運動が要望程度のものだった頃からその声を上げ続けていた者達の一人が、リラース家の双子の、あの母親だったんだそうだ。
当時はまだ独身だったそうだが。
※
話を聞いて腹を立てるヨウミ達を宥めながら帰宅。
そして予想通り、こんな夜遅い時間にやってきた双子の第一声を聞かされた、というわけだ。
双子はおそらく、ダークエルフだの灰色の天馬だの、この世界の人間にとっては珍しい魔物達を一度に見たのは初めてだろう。
もっともギョリュウの子供は布団の中。
二度目の対面は果たせなかった。
それでもこいつらに怯えたり見惚れることなく、謝罪の言葉を口にした。
もっとも俺には、その言葉は心の底から出たものか、上っ面なものかは簡単に判断することができる。
二人の思いはその言葉とは……。
「悪いことをしたらごめんなさい、か」
モーナーが時々口にする言葉を、誰にも聞かれないような小さい声で出してみた。
誰かが洞窟に近づいている。
村の中から接近するから、間違いなく魔物じゃない。
だからといって安心していいとは限らない。
日はすっかり沈んだ。
泥棒の類の可能性は高い。
「え? でも夜の魔物討伐にチャレンジしようっていう冒険者……ってのは」
「大概パーティ組むだろ。二人とか三人程度じゃ来るわけがない。敵は魔物ばかりじゃないからな」
「でもお、何を盗みに来たんだろおなあ?」
泥棒に入られるほど価値の高い物ってないけどな。
金銀財宝は、こっちの店には縁がない。
もしもあったら、ドーセンとこですべて金に換えるしな。
つか、俺らの店に入るよりも、ダンジョンに潜った方がよほど濡れ手に粟状態だぞ?
「ライムの飲み物でも狙ってるんですかね?」
「ナクナッテモ、ヘイキ。スグ、タクサン、ツクレルヨ」
「だよねぇ」
「ハヤイ、ヤスイ、ウマ」
「おいばかやめろ」
いくら効果が高くても、数多く生産できるから盗む対象になるとは思えない。
余程貧乏ならともかく。
いや、ならダンジョンの入り口あたりに落ちてる鉱物一つでも持ち去る方が、人生踏み外すリスクなんて負わなくていいし、やはりそっちの方が高値で売れる。
「まぁ泥棒ならあたし達で何とかできるよね。あたしは力になれないけど」
戦闘能力で言えば、たしかに俺もヨウミも役に立たない。
まだ赤ちゃんっぽいサミーはマスコット的存在だから例外。
だがそれ以外はみなタフで戦闘力は高い。
重量と硬度と姿形を変えられるライム。
突進力抜群、何人か乗せても飛行能力があるテンちゃん。
死角が多く、多少の暗闇でも命中率が高い弓の射手のマッキー。
動きは鈍いながらも、油断することなく守りに入れば完璧に防壁になるモーナー。
見た物手にした物体感した物なら、体の大きさの分限定ながら完璧にコピーできるクリマー。
よくよく考えると……何だよこの戦闘集団。
モロ武闘派じゃないか? これ。
おまけに今、ここにいない、地中では無敵を誇るンーゴに、同じく地中と光が少ない場所でも平然と行動できるミアーノの二人は、戦闘能力が低くても、くらいつけば何でも自分の栄養にしてしまう。
内情を知れば、誰も盗みに入る気は起きるまい。
こいつらみんな、俺の仲間になるだのと言うもんだから、そんな俺も一体何者だっていう。
何も知らない者が見たら、間違いなく曲者だよな。
何を言いたいかというと。
「泥棒なら泥棒でいいんじゃね? 無傷で無力化できるだろ」
「まぁね」
これである。
鍵をかけて慢心に陥るよりも安全な防犯対策があるとは思わなかった。
が、全員揃ったそんな警戒感は無用だった。
「反応……二人……あ、ひょっとして……」
「え? 何か分かったの?」
近づくほど、その気配の詳細が分かる。
二人。
子供。
思い当たるのは一つしかない。
「サミーを泣かした双子だ」
「こんな時間に?!」
驚くマッキーの言う通り、あんな子供にとって今の時間は夜だ。
宵の口、なんて言ってる場合じゃない。
そんな夜の時間に子供が出歩くか?
つか、子供は寝る時間だろ?
起きてること自体、不規則な生活をしているとしか思えない。
「ミ、ミィ~……」
それと、俺の言葉が分かったんだろうな、肩に乗ってたサミーが震え出した。
トラウマになっちまったか。
「まぁ……言ってみりゃ分かる。あの親みたいに諍いを起こす気はないみたいだ」
「でも……魔物は来ないだろうけど、でも……」
あの双子がここに来る理由は、やはりサミー絡みだな。
「ま、行ってみりゃ分かる」
「ミィィ……」
帰りたくなさそうなサミーだが、帰らないわけにはいかない。
奥に隠れてもらうから、それで勘弁してくれ。
※※※※※ ※※※※※
「サミーにあやまりにきました……」
「ごめんなさい……」
洞窟に先についたのは俺達だった。
暗くなった気分の俺達の前に現れた双子は、真っ先にこう言った。
俺達の気持ちが普通だったらどう反応しただろうか。
まず、サミーは奥の俺の部屋に即座に駆け込んで布団の中に潜り込んでしまい、そこから出てこなかったこと。
そして、この問題を複雑にしたのは、モーナーの事情だった。
気配を察知する能力を発動させなくても分かることがある。
すぐそばにいる気のしれた奴の感情だ。
そう言えば、さっきまで全員揃ってたフィールドでも、モーナーは沈み気味だった。
確か、双子の家の名前を聞いてからだった。
リラース家、だったか。
そのことを思い出して、戻る途中で聞いてみた。
最初は頑なに答えを拒否していた。
明らかに、俺がその事情を知っても自分の感情は変わらない、といったニュアンスを持った表情だった。
「お前、俺のことをいい奴だっつってたよな。その俺は、答えないなら聞かないですって言う気にならん。お前のいういい奴ってのは、そこで何も聞こうとしない奴のことか? それとも何が何でも聞き出そうとする奴か? 大体それが今回の件に繋がってるかもしれんし、言いたくないことでも言える相手でなきゃならんと思ってるしな」
滑稽な話だと思わんか?
面倒な仕事を押し付けられた時には、拒否したくてもそれを許されなかったし許してくれなかった。
けど、自分から面倒事に首突っ込んでんじゃねぇか。
「……子供の頃のことだあ」
モーナーは静かに語り始めた。
※
モーナーは元々、ドーセンの宿の向かいにある農業の会社役員の生まれだったらしい。
隔世遺伝……いや、先祖がえりを起こしてこんな巨体に育ってしまった。
だが両親は普通の人間だったようだが、どちらかが巨人族の血を引いてたと思われる。
でなきゃその息子のモーナーはこんな巨体にはならない。
モーナーの家族は、人間の食料を作る会社と現場に亜人がいるのはどんなものなのか? と追及されたことがあったんだと。
それだけなら聞き流し、笑って済ませる程度の問題だったんだそうだ。
亜人になっても家族愛の方が優ってたってことだろう。
いい話じゃないか。
だがいい話はそこまでだった。
モーナーを、いや、モーナーの家族を会社から、村から追い出せ、という声が上がり始め、それは要望となり、要求へと変わっていった。
家族は会社を辞めようとしていた。
だが、大人ではなかったとはいえ、子供時代は過ぎていたモーナーがそれを止めた。
自分一人が出ていけばいいから、と。
モーナーには弟妹がいた。
だから長男の自分じゃなく、誰かが家の後を継げばいい。
自分は、家の前に置き去りにされた捨て子ってことにすればいい。
そう言い出したモーナーを両親は叱ったが、泣きたいのを我慢して仏頂面を押し通した。
そりゃそうだろう。
実の子なら、母親がお腹を痛めて産んだ子だ。
それをないことにしろ、とその息子から言われりゃ、親を馬鹿にしてんのかとか言うんじゃないだろうか。
だが、これまでの生活が激変することは間違いない。
それで家族の間柄が崩れ、その中に居続けるのは地獄としか言いようがない。
なんせそうなったのは自分のせいに他ならないから。
そんな事態になるよりも、自分一人を切り捨ててもらった方がどれだけ楽か。
長男が欠けた生活は寂しいだろう。
けど家族が憎しみ合うそんな地獄よりははるかにましなはずだ。
弟妹に不自由な生活とはどんなものかを説いていった。
けれども日に日に激しくなる追放運動。
しかし、それまでの仏頂面を壊し、笑顔で言った言葉が決め手になった。
「俺え、人より力あるからあ、一人で生活できるよお」
だが一人暮らしはできるかもしれないが、自分の住処を作れるほど技量はない。
結局新たに家を作ることはせず、村人が全く利用しないドーセンの宿屋を住処とし、会社の建物がある反対方向の端の方で穴掘りの依頼を受け、俺と出会うまでそんな生活を続けていた。
その追放運動が要望程度のものだった頃からその声を上げ続けていた者達の一人が、リラース家の双子の、あの母親だったんだそうだ。
当時はまだ独身だったそうだが。
※
話を聞いて腹を立てるヨウミ達を宥めながら帰宅。
そして予想通り、こんな夜遅い時間にやってきた双子の第一声を聞かされた、というわけだ。
双子はおそらく、ダークエルフだの灰色の天馬だの、この世界の人間にとっては珍しい魔物達を一度に見たのは初めてだろう。
もっともギョリュウの子供は布団の中。
二度目の対面は果たせなかった。
それでもこいつらに怯えたり見惚れることなく、謝罪の言葉を口にした。
もっとも俺には、その言葉は心の底から出たものか、上っ面なものかは簡単に判断することができる。
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○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
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この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
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