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店の日常編

千里を走るのは、悪事だけじゃない その20

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 それにしてもな。
 エージ達から話は聞いたが、それだけでコーティがここまで赤面するか?

「コーティ、お前熱でもあんのか? 恥ずかしいだけじゃそんなに」
「うっさい! バカッ!」

 ……いつも皮肉とか毒を吐くのが中心だった。
 こいつから悪態つかれたのは初めてじゃないか?
 何かあったんか?

「おい、エージ。お前ら、コーティに何かしたのか?」
「え? あ、まだあったんだっけ」

 まだ何かあんのかよ。
 もう勘弁してくれよ。

「アラタさんの仲間一人一人名前をあげて、俺の大切な仲間達に、自分勝手な理由で傷一つでもつけてみろ、みたいな見得を切ってたな」
「しかも臆面もなく、ね」

 全員名指しで……衆人環視の元……。
 で、でもあれだ、こ、恋の告白とかじゃねぇからな、うん。

「アラタさんがうろたえてるの、初めて見たような気がする」
「俺達がピンチに陥った時は……」
「あれはうろたえるとは言わないでしょ」

 大人をからかってんじゃねぇぞテメェら!

 ※※※※※ ※※※※※

 俺自身は何の戦力にもならないが、とてつもない魔力をこもった球をいくつも持っているということから、待機組に無理やり参加させられた。
 だが結局出番はなし。
 討伐組の連中で何とか仕留められたようだ。
 まぁドラゴンの怒号とかファイヤブレス? あるいは打撃の衝撃が襲ってきて、いくら気配を感じ取れるっつってもビビらずにはいられなかった。
 遠く離れていても、そいつらの一歩がどんだけの幅なのか。
 一瞬にして接近されることを考えると、とても落ち着いてられなかった。
 野良ドラゴンの数は、俺の察知通り三体。
 討伐組からは怪我人は出たものの、軽傷者のみ。
 重傷、重体、死者がゼロってのは流石プロ。
 無論仲間達も無傷。
 冒険者達からも感謝されるほどの働きぶりだったようだが、詳しい話をされてもよく分からんかった。
 分からないのも当然だろう?
 こっちゃ、魔物討伐のノウハウも戦闘の仕方もよく分からん一般人だしな。
 で、よく分からんうちに夕方になって……。

「魔物が近寄らない原因のハーブ群については、村長はじめ村の人々には初耳だったようだ」
「繁殖力が高いから、またすぐに元に戻ると思うよ?」
「村の方には範囲を伸ばさないのは、多分土の質が合わないからだと思う。村への侵食は心配無用ね」

 その他の報告やその後の報告をするために、俺の店の前に、ドラゴン討伐に参加した何人かの冒険者達がやってきた。
 まぁそういう場所を選んだわけじゃなく、魔物が来ることが少ない場所に人が住み着いてその範囲を広げ、村になったんだろう。
 村ができてから、周囲の環境がそうなったわけじゃないだろうからなぁ。
 そういうこともあるか。

「それにしてもなぁ。まさか、あんなでかい獲物を、しかも三体仕留めて処理して、その日の夕方に酒宴できるたぁ思わなかった。」
「獲物の処理がスムーズにできて何よりだったな。まぁこれだけ大人数でやるなんてこと、ほとんどなかったからなぁ。……あ、そうだ。あのならず者達の処分なんだけどよ」

 討伐したドラゴンの処分の話の跡でそんな話されると、あいつらも一緒にまとめて何かの素材にしたように聞こえるぞ。

「村を壊滅させるため、なんてことじゃなかったらしいから動機は自分勝手な些細なもんだが」
「でも引き起こした事態はそう言うことに繋がってくからね」
「未然に防いだことができたから、あいつらにどうこう言えるけどさぁ。被害が起きたら……処刑一択だよなぁ」
「ま、そんな議論は上の連中に任せるさ」

 上?
 上ってば、こいつ等の上司みたいな立場の人達ってことか?

「お偉いさんでもいるのか? お前らの所属してる組織か何か?」
「違う違う。保安官の連中に任せるってことさ。俺らよりもあいつらへの説得力はあるだろうし、俺らの判断だけであいつらをどうこうするようなことがあったら、怒りの感情に任せてどうのこうのって言い出す連中もいないだろうしさ」

 俺がここからいなくなっても痛くも痒くもない、と思ってる連中には、俺だってそいつらがここからいなくなっても何とも思わないから、こいつらがあいつらに何しようとも何とも思わないんだがな。
 ま、それでこいつらが夢見悪い思いをするんなら、彼らの思いを尊重するさ。

「ところで、祝勝会っつーか、討伐の打ち上げの宴を開くんだよ、俺達」
「へぇ。いいんじゃない? でも……こんな大人数、ドーセンとこに入る? 入らない……んじゃない? ねぇ、アラタ」
「……無理だろ。一目瞭然だ」

 討伐計画の話し合いだって、フィールドじゃなきゃ冒険者全員参加できなかった程だったんだからな。

「……アラタさん? 物は相談なんですが……」

 それはいいんだが、最後に俺に話しかけてきた奴!
 気味悪ぃんだよ!
 いかつい体に野太い声で猫なで声ってのはよ!

「何だよ! フィールドで酒かっ食らいてぇってんなら一晩限りだ! お開きでそのまま雑魚寝するならまだ許してやる。帰る時ゃ綺麗に掃除して帰れ!」
「そんな意地悪言わないで……って……え? 貸してくれるの? マジで?」

 厳密にいえば、俺らのもんじゃねぇんだけどな。
 広くて、俺らがいつもみんな揃って朝飯晩飯食える場所だから使ってるだけなんだが。

「ただし条件がある」
「条件?」
「いいよいいよお。使わせてくれるんなら、どんな条件だってのんじゃうっ」

 調子いい奴がいるな。
 まぁいいけどよ。

「俺は宴に混ざらんぞ。獅子奮迅の活躍をしたのはお前らと、俺とヨウミ以外の俺達の仲間だ。だから俺とヨウミは混ざらん」
「いや、けどよ……」
「別に俺が混ざらなくてもいいだろ。討伐に参加した仲間達も参加させねぇってんじゃねぇんだから。そいつらには、逆に声をかけねぇ方が問題だろ」
「そりゃまぁ、そうだけどよ……」
「汗流して疲労した甲斐があった連中のお祝いの集会だ。俺は何もしてねぇよ。逆に俺が居心地悪ぃわ」

 ……仲間同士で顔を見合わせて何相談することあるってんだ。

「で、でもアラタ、あの時は……」

 一人の冒険者が、何か言いかけた冒険者の肩を叩いて止めた。
 あの時。
 ならず者達の前での大立ち回りのことか?
 勘弁してくれよ。
 それこそ触れてほしくねぇよ。
 黒歴史、とまでは言わねぇけどよ。

「……有り難く使わせてもらいますよ、アラタさん。……今日は、いや、今日までいろいろと面倒見てもらって有り難うございました」

 よせやい。
 首がむず痒いっての。
 あまり夜遅くまで騒いでくれるなよ? ミアーノとンーゴのねぐらが近い場所だしな。
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