勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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店の日常編

仲間達の新たな活動 8

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「仲間が十人で三人……あ……ひょっとして親……シアンの……ですか?」
「分ってもらえるまでちょっと時間かかったかな? アラタさんにヨウミさんね? そうよ。一応リーダーしてるの。ルミーラよ。よろしく」

 ……馬鹿王子の親衛隊だったか。
 にしても、面倒なタイミングで来てくれたな。
 こんな大勢の冒険者達の前でなら、馬鹿王子も皇太子も親衛隊も禁句になっちまうじゃねぇか。

「えーと……ルーミラさん? あの……その兜は……」
「えっと、意外と顔が広く知られてるから、ばれないようにいつもこの兜被ってるの。外せなくてごめんなさいね」

 目の辺りは格子状になってて、その隙間からは素顔は覗き込めるが、そこまで執着する気はない。
 それに、例の刻印が鎧の脇の下に刻まれている。
 こいつの所属を知るには、それだけで十分だ。
 それにだ。

「七日後から三日間つってたな。ベテランだろうから一人につき三万な。あ、誤解してもらっちゃ困るが、そっちの十人かける三じゃねぇぞ? 相手をするこっちの延べ人数×三万で、日数分倍増するからな?」
「確かそっちは九人だったな。つまり一日で最高額で二十七万ってこと?」
「そういうこと」
「その三倍だから……八十一万?!」
「……九人全員集団戦に参加させるとしたらな? 一日を午前と午後に分けて五人ずつなら一万五千円かける延べ人数十人になるから」

 こっちの九人を一度に相手にするってば、相当の手練れか大人数でなきゃ難しいぞ?
 一日で八十一万の収入って、流石にねぇしよ。
 だが訓練に付き合うのは一人だけってのもない。
 新人の相手を午前午後に分けて、こっちは三人で相手にすることが多い。
 丸一日なら一万円だが半日だと五千円。
 延べ人数六人だから、こっちの一日の収入は三万円ってことになる。
 これくらいならおにぎりの店の一日の売り上げとほぼ同じ。
 申請者の腕前のグレードが上がれば、料金もそれなりに上がるから……店よりもこっちに力を入れた方が懐は温かくなること間違いなし。
 なんだが、堅実な仕事をするならおにぎりの店に力を入れる方がいいんだよな。
 いくらあいつらが魔物だっつっても、疲れて動けなくなることもありえなくはないしな。
 そうなれば収入はゼロになるし。
 休日を設けてるから、その日の収入は当然ゼロだしな。
 今日で六日目。
 一日目はそんな料金じゃなかったが、二日目以降はそんな料金で受け付けている。

「これでよし。予定表にも書き入れたし、あとは七日後に来てくれ。日帰りか野宿かはそっちで決めることだし、その用意も各々やっとくように」
「え? 申し込みはそれだけでいいの? 料金はいつ払えばいいの?」
「支払いは訓練直前によろしく。特訓の計画は、当然そっちで考えるだろ? その計画に合わせて、依頼するこっちの人員もそっちで考えなきゃならんだろうし。こっちの人材の特徴は一覧表にあるから。表が書かれてるそのチラシ持ってっていいから。はい、次の方―」

 客はこの鎧の女性ばかりじゃない。
 そして集団戦の受け付けばかりが仕事じゃない。
 それにしても、客の列がおにぎりの店だけの頃と比べて、人数が倍くらいになってる気がする。
 おにぎりの店は、これは仕方がない。
 俺にはそれしかできなかったからな。
 けど集団戦の訓練の金銭システムは……ある意味、自業自得なんだよな……。
 つくづく我ながら、お人好しにも程がある。

 ※※※※※ ※※※※※

 魔物相手の集団戦の訓練は、冒険者なら誰でもしたがってるらしい。
 が、たくさんの魔物を管理している団体などはなかなかないらしい。
 相談を持ち掛けられた時の相手は新人四人組だったが、連れて来た引率冒険者達も魔物との集団戦を望んで、新人の相手が終わった後で申し込まれた。
 で、彼らの訓練が終わってからそんな話を聞いた。。
 申し込みは間違いなく殺到するだろうからその点は気を付けろ、と言われたが、まさかここまでとは……。

「三日に一度の休日は、むしろ俺が欲しい……」
「気持ちは分かるけど、もう店開く時間だよ? ルミーラさん達が来る日だし」
「あぁ、分かってるよ。……知った顔がなきゃ追い返そうかな?」
「そういうこと言わないっ。まあ親衛隊の人達の中には、まだ会ったことがない人はいるわよね」
「え? なになに? 親衛隊ってシアンの? 顔見知りのベテランの申し込みって、今回で初めてなんじゃない?」

 そりゃまだ七日目だしな。
 噂を聞いてすぐに来れる人って、なかなかいねぇんじゃねぇかなあ。

「いよーお、久しぶりだな、アラタ。みんな」
「とか言ってるうちに来ましたよっと。て、アークスか。えーとそっちは……」
「グリプスですよ。お久しぶりです、アラタ殿」

 あぁ、そうだった。
 親衛隊の中で一番の若手、だったかな?

「顔見知りなだけあって気さくだな、アークス。……アラタ殿、今日から三日間よろしく頼む」

 そして三人目は鎧の女のルミーラ。
 親衛隊リーダーってのは本当みたいだな。

「で、今日から三日間の訓練の相手なんだが……」

 親衛隊相手に、どんだけ実になる訓練の相手が務まるか。
 不安半分期待半分ってとこだな。
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