勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
362 / 493
アラタとヨウミの補強計画編

何するにせよ、必要なのは時間と力 その3

しおりを挟む
 何もない所からは、何かが生まれることはない。
 この世界が長年苦悩させられている、魔物の泉現象、雪崩現象もそうだろう。多分。
 もちろん電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも。
 ……電信柱はないな。郵便ポストっぽいのはあるな。赤くはないけど。
 そして。

「物の鑑定なら、本職にする気はないがやろうと思えばやれるし正確に判断できる。人にその判断結果を正確に伝えられるかどうかはともかくな」
「うん、それで?」
「で、鑑定結果で出した額で買い取ってほしい、と。そして、これは俺が使ってもいい、と」
「その通りだ」

 まずここんとこだ。
 買い取った後、俺が誰かにくれてやろうが、燃えないゴミの日にゴミとして出そうが俺の自由だ。シアンがあれこれ指図したって、こっちはその通りにする必要はない。
 まぁそれは、言葉尻を責めるか責めないかっつー、こっちの選択肢次第で生まれる問題だから、スルーしてもいいがな。
 問題はこっちだ。

「……わざわざ俺のために作った代物、と言ってるようなもんじゃねぇか?」

 俺のために、忙しい毎日の合間を縫って、普通じゃない防具を手間暇かけて作って、だ。
 タダより怖い物はねぇ。
 こんなもん高くて値はつけられねぇ、っつって突っ返す手もあるな。

「うん、そうだよ? これは、アラタ、君のために作った」

 ……おい。
 受け取れ。その代わり〇〇をしてくれ、なんてとんでもねぇ依頼してくる気じゃねぇだろうな?
 いや、ちょい待った。

「これ『は』っつったな?」
「うん。これは君のため。そして同じ物をいくつか作ってあるが、それはこっちで使うからね」

 どういうことだ。
 目の前にあるこれは、俺のために作った。あ、ヨウミもだが。
 けど同じ物を数多く作っている。
 てことは?

「……アラタ。君の世界には魔法は存在しないそうだね。この世界には魔法は存在する。だが、だからといってみな魔力を持ってたり、魔法を使えたりするわけじゃない。できない者達は、努力して魔力を持つことはできるし魔法を使うこともできる。が、誰もがそうなるわけじゃない」
「……どんなに努力しても、俺みたいなままってことだな?」
「国に、王族に尽くしたいという崇高な思いを持つ者が軍などに仕官を願う、そんな者達も数多い。もちろん魔法攻撃を物理防御で防ぐことはできるが、効率が悪い。魔法防御が適しているが、それができない者の方が多い。この開発は、ある意味国が抱える課題でもあり、世界の課題でもある」

 ……兵達の装備を新しく開発できた。
 そのついでに俺にも、ということか。

「それに、君らだってある意味危険な立場に立っている。そうさせたのは我々が原因だ。その責任を果たす目的もある」
「はぁ? いや、お前が近づいて来なきゃ、俺らの生活も安泰なんだが?」
「バカを言うな。……ということは、ここがこの村の中では危険地帯の一部ということを分かってないのか?」
「危険地帯だぁ?」
「……分かってないのか? まぁ、それも我々の責任だ。君の好き嫌い関係なく、話を聞いてもらうぞ?」

 何だよこいつ。
 普段からそうだが、今日はいつになく押しが強すぎねぇか?

「まず……時間が時間だ。昼食の用意をしよう。もちろん仲間達にも話を聞いてもらう。いいね? あぁ、昼食代は心配ない。こっちで受け持つから」
「あ、じゃあこれ、仲間のリクエスト。これを注文して来てくれるとありがたいんだけど」

 おい、ヨウミ……。

「うん、分かった。君ら二人の分もあるね。我々は今日のお勧めにしようか、と言っても、支払いはこっちだから何を注文しても問題ないな……。クリット、レーカ、グリプス。行ってくれないか?」

 なんか、また面倒な……いや、ややこしい話か?
 そんなことになりそうな……。

 ※※※※※ ※※※※※

「なぁなぁ、あんちゃんよお。あたしの干し草が食えねぇってのかい?」
「か、勘弁してください、天馬さん……」

 ……何この茶番劇。
 テンちゃんよぉ……。自分の食事をネタにしてんじゃねぇ。

「くだらねぇことはもういいよ。それより昼前までしてた話の続き、どうする気だ?」

 あれはあれで止めてもこっちは気にせんが……。

「うむ。もうちょっとじゃれ合いたかったが、それよりその話の方が大事だからな」
「あたしはじゃれついてもらいたいなー」
「テンちゃん。どんなに親しくなっても、あなたは多分王妃にはなれないわよ?」
「マジで?! クリマー!」

 目がちょっとだけ本気なのが怖い。
 つか、話が進まねぇじゃねぇか。
 何だこのシリアスブレイカーは。

「テンちゃんのことはひとまず置いといて。まずアラタ、話を少し戻すが、私達は君の面倒をみる義務がある、ということだ。これは私達の責務を果たすということでもある」

 あ?
 さっきは俺の店の場所が危険だって話じゃなかったか?
 戻すにしても、随分前に戻った気がすんぞ?

「勇者……旗手を異世界から召喚し、その全員が集められた直後、国王や司祭は、召喚された経緯やこの世界での生活などの説明をする。それを理解してもらわないと、現象から現れる魔物達の討伐の話自体できないままだからな。だがアラタ、君の場合は……」

 その説明が、炊き出しの飯よりも手間が省かれた飯だった。
 それと借りた一万円。
 プラス手配書。
 まぁあの一万円がなきゃ今の俺はなかったが、他はあってもなくてもどうでもいいな。
 だから特に思うところはないんだが。

「我々は生まれながらにしてこの世界の住人。だから毎日生活していくにつれ、その知恵も自ずと増える。だが召喚された者達はそうじゃない。そして、知恵を持ちそれを使うだけでは乗り越えきれない壁もある」
「それがあの防具で、ってことか?」
「うむ。防具や武器、魔術の旗手として召喚された者は、その力は生まれながらの物として身についている。だがそれ以外の力はほとんどない。だからその面倒は、召喚した者が見るべきなのは道理」

 その理屈は分かる。
 そして追放ってことがなきゃ、俺がこの世界に来て教会に辿り着いた後、あいつらと一緒に別室に移動してたはずだ。
 そこで行われたのが、そのミーティング……オリエンテーションだろうからな。

「だから、それぞれに見合った装備が彼らに配られた。振り返ってアラタ。君は何も受け取れる状況じゃなかった」
「けどもう、その現象が起きたらそこに出向く義務はねぇし、平々凡々な毎日を」
「できなかったんじゃないか?」
「あ?」

 何頭ごなしに否定してんだこの野郎。
 俺の体験したことを、同じように実感してたわけじゃなかろうに。

「旗手としての務めとは無縁だから、一般人として生活してきた。そういうつもりだろうが、その能力自体はなくならない。だから生活の中でその力を使う使わないは自由だ。そしてアラタはその力を使うこともあったろう。だからこそ、普通の人なら近づくことはない危険な場所に近づくことができた。その力の使い方次第では、少しくらいの危険が潜む場所でも平気で足を踏み入れられただろうからな」

 ……まぁそれは否定しない。
 生活基盤がなかった俺には、それを得るためには多少なりとも危ない橋を渡ることは必要だったからな。

「仮に、本来の旗手の待遇を受けていたなら普通に生活できていた。だが今のアラタは、今もなお危険な場所や環境に身を置いている」

 いや、ここもだし店もだが、危険な場所じゃねぇんだが。
 危険が比較的近い場所にあることには違いねぇがな。
 それでも、こっちから近づくことがない限り、向こうからやってくるこたぁねぇんだがなぁ。

「未然に防いでることを心掛けてる限り危険はないだろう。だが、思いもかけずに危険な場所に足を踏み入れたり、そんな状態を招くこともある」

 それは……まぁ否定はしねぇけどよ。

「アラタが関わった件の事後、報告を聞くたびに強い後悔と安堵を交互に感じてる。いつもな」
「気にし過ぎじゃね? あ、いつぞやの捕物の時は、来てくれて助かった。けどそれ以外は、俺はほとんどお前を意識したこたぁねぇし」

 ……なんかこう……空気、重くなってきたな。
 茶化す気はねぇが、こいつも深刻になり過ぎなんだよ。

「……先代がアラタにした仕打ちのことはすべて把握している。そしてアラタは、その償い云々は気にしなくていいと言ってくれた」
「あぁ。もうその話は落としどころってのはもう考えつかねえから、俺の方からどうでもいいって投げちまった方が……」
「あの防具は、それとは別の話なんだ。今言ったように、召喚した側の、召喚された者への責務の一つ。我々が果たすべき責任の一つ。アラタに使用し続けてもらうことで、その責務を果たすことになる、と思ってる」

 シアンよぉ……。
 お前、考えすぎだぜ、ホント。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...