勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
384 / 493
番外編 こんな魔物の集団戦 いかがです?

そう。商売は、客への誠意が大切なのです。それは集団戦の特訓でも同じなのです

しおりを挟む
 楽しい晩ご飯の時間がやってきた。
 互いに会話が弾んで、みんなが満腹になってごちそうさまでしたの挨拶を済ませて、しばらくのんびりの時間。
 食った後横になると牛になる、なんて言われはするが、妖精が、巨人が、天馬が、スライムが、エルフが、ドッペルゲンガーが、獣人が、龍が、巨大な虫が牛になるはずもなく。

 そんな時間に、これまでのクレームのことについて聞いてみた。

「……ってなことを言われてな。特訓中のお前らの態度とかは、俺からはどうこう言うつもりはねぇよ? 特訓を終えた冒険者達は、みんな疲れた顔はしてるけど、大怪我とかはないんだから」

 怪我させて本職に障りが出たら、それこそ本末転倒。
 疲れた顔をしている、ということは、特訓を受けた結果なんだろう。
 特訓を受けて、疲労以外の被害なく帰ってきたということは、程度に不満はあるかもしれんが、特訓での目的は達成してることには違いない。
 目的が達成してるなら、文句を言われる筋合いはないはずだしな。

「手加減されたって話は聞いた。が、お前らからだって、相手の力量を見計らってそれに合わせて特訓の相手してるって話は聞いた。まぁそれは当然だろ。手加減は必要だろうし。いずれ、俺はその様子を見てないから、はぁ、はぁ、としか返すしかなかったんだけどな」

 和やかな雰囲気がガラッと変わったのは分かった。
 楽し気に互いに会話してたみんなが、俺を見て、俺の話を聞いて、みんな黙りこくったから。

「力を込めるより緩める方が、相手の身の安全を図れるでしょ?」

 ご説ごもっとも。

「あたしの弓が手で払える? 当たり前じゃない。そうさせようとしてたんだから。本気出したら躱すことも逃げることもできないし」
「泥合戦? 上手い事言うやんか。なぁンーゴ」
「オレラダッテ、ツチノカタマリナゲトバシタラ、アイテ、ドウナルカワカラナイゾ?」
「あたしの羽根の風で飛ばされるってんなら、飛ばされないように工夫しなきゃダメじゃない」
「そもそもお、そうなった時点でえ、本番なら死んでんだぞお?」

 俺もそうは思ってた。
 けど俺は、あくまで素人的立場だ。
 いくら防具をつけてようがな。
 戦闘のノウハウなんか、知ってるわけがない。
 そんな俺が門外の訓練への文句に、言い返すような出しゃばった真似はできない。
 言い返すとするなら、せめてこいつらの意見を聞いてそれを取りまとめてから、だよな。

「で、何よ? そんな文句を言う人達って、誰からも言われてたの? それとも文句を言う人達って決まってるの?」

 同じ冒険者が何度も集団戦の特訓を受けられるほど、申し込み人数が少ないわけじゃない。
 むしろ、何度も受けられる方が難しい。

「一回の特訓で何度も文句を言う奴の方が多いな。もっともありもしないことを言ってくる奴らはいなかったが」

 要するに、口から出まかせ、あることないこと文句を言う、そんな奴らはいなかったってことだ。

「つまり、あたし達の手加減が、向こうにしてみりゃ手を抜いてる、って言いたいのかな?」
「へえ……。つまり、そういう奴らには本気出していいわけだ」
「それもお、面白そうだなあ」

 みんな、口だけ笑い始めた。
 目が全然笑ってないのが怖い。

「でも、中には分相応に、自分達に合わせてくださいって人もいるんですよね?」
「そりゃもちろん。そういう奴らにも手加減なしでやったらみんな泣くから、手加減してほしい奴らには今まで通りしっかり手加減してやれよ? 特に新人グループとかな」
「ワカッテルヨ。オレタチハ、ソコマデムセッソウジャナイ」

 そう言えば、特に新人チームはそうなんだが、特訓が終わって受付に戻ってきてすぐに出てくる言葉は

「ありがとうございました」
「お世話になりました」

 だな。

 もちろんベテラン連中からも、そんな言葉は真っ先に出るか二番目に出るか。
 いずれ、謝意の言葉は必ず出る。
 だが、あの連中は礼どころか、真っ先に文句を言ってきた。
 ありがたいと思えなかった特訓内容、とも言える。
 おそらく連中はみんなのことを、手抜きとか馬鹿にしてるとか、そんな風に思ってるんだろう。
 つまり、馬鹿にしなきゃいい。
 手抜きと思われなければいい。
 となればこいつらは、そう思われないような対応をしてもらえればいいだけのこと。
 こっちだって、客に対して誠実さを以て対応してる。
 だから未だにおにぎりが人気なのだ。
 幸いみんなもその気になってるし、その思いを素直に表に出してもらって、誠意を以て対応してもらおう。
 即ち、彼らの言う通り、真剣に、手を抜かず、全力でお相手する、ということだ。

 それに、俺だって言いたい事はある。
 それだけ文句が出るのなら、二度と利用しなければいい。
 なのにこっちに近寄ってくるってことは、手を抜いたことに対して対価を払え、みたいなことを言いたいのではなかろうか?

 そんな連中が次に特訓の日を迎えた時には、充実した時間を過ごしてもらおうか。
 多分みんな、俺と同じ心境だ。
 その日が来るのが、実に楽しみで仕方がない。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...