勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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番外編 こんな魔物の集団戦 いかがです?

俺が見ることができなかったフィールドでのこと、そして、そのあとのこと。

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 フィールドから近づいてきたテンちゃんらの気配。
 飛んでくるもんだから、感じてからその姿が見えるまで、そしてここに到着。
 来た時との違いは、何と冒険者五人全員一糸まとわぬ姿のままで、鐙の形状のライムの上で、うつ伏せになって眠っていた。

 その五人の様子に全員びっくり。
 もちろん仲間も、そして俺もヨウミも。

「な……どうしたんだよ……。こいつらの防具とか衣服はどうしたよ?」
「えーっと……」

 テンちゃんが言い淀む。

「向こうに着いた時もお、本気でえ、全力でえ、かかってこいって言うからあ……」
「テヲヌイタラ、オマエラナニイワレルカワカラネェゾッテイウカラ……」

 そのあとをモーナーとライムが引き継いだ。

「ちょっと本気、出しちゃった」

 言ってる意味が分からない。
 三人は、フィールドで何があったかを話し始めた。

 ※※※※※ ※※※※※

「こっちゃあ金払ってんだ。しかもガキの小遣いなんてもんじゃねぇんだぜ? それでそっちが手を抜いたら、こっちだってそれなりの見返りはもらわねぇと割に合わねぇぞ?」
「噂に聞きゃあ、へらへら笑いながら不真面目な態度で、こっち側の真剣さを見下してるらしいじゃねぇか。そんなんじゃ、特訓を受けたこっち側にゃ、得るものが何もねぇんだよ」
「馬鹿にされた、見下された、そんな風にしか思えねぇっつーの」

 冒険者達五人から口々に文句が出るわ出るわ。
 そこでモーナーが口火を切った。

「んじゃあ、真剣にい、集団戦をお、すればいいんだなあ?」
「アラタからは、流石に大怪我させちゃ悪いからって言われてるのよ。相手の本業に障りがあるとだめだからって」
「ソコラヘンヲカンガエテ、エンリョナクヤッテモイイッテコト?」

 三人の顔から……顔のないライムは別だが、店の前で浮かべた邪悪な笑いすら消えた。
 真剣勝負そのもの。
 もちろん命のやり取りをするようなつもりは、両者にはない。
 が、本番さながらの、模擬戦ではあるが真剣勝負、ということである。

「でも、あたしらもそれなりに修羅場潜ってるし、訓練じゃないから、ちょっとこっちも打ち合わせの時間もらえる?」
「手ぇ抜く打ち合わせなら論外だぜ?」
「全力でえ、取り組むけどお、みんなをお、死なせないようにい、しないとお、いけないからねえ」

 冒険者の舌打ちが聞こえたのか聞こえなかったのか。
 三人は平然とした表情で簡単に打ち合わせを始めた。
 が、その時間は一分もかからなかった。

「おまたせー」
「コッチノヨウイハ、デキタヨ」
「そっちはあ、どうだあ?」

 それでも冒険者達は。

「長ったらしい話すんなよ」
「こっちはもう準備できてんだよ!」
「んじゃいくぜぇ!」

 短時間でも綿密に計画を立てた三人は、冒険者らの掛け声にすぐに反応した。
 冒険者五人を挟んで、モーナーとテンちゃんは向かい合うような位置に着いた。
 彼らにとっては、二人が離れた位置に移動したことでどっちをマークしていいか瞬間的に迷った。
 が、流石にある程度経験を積んでいたせいか、五人は全員背中合わせにして全方向を確認できるように、二人の間に陣取った。

「おい、もう一体はどうした?」
「あぁ? 知らねぇよ。とにかくそっちは天馬の方注意してろよ? おれはこいつを……あ?」
「どうし……あれ?」
「足が……動かねぇ?!」

 五人の注意がテンちゃんとモーナーに向けられてる間、ライムは地面にへばりつく形で五人の足元に移動。
 五人の足を同時に捕獲していた。

「まさか、スライムかよ!」
「くそがぁっ!」

 手にしている武器で、ライムに目いっぱいの力を込めて攻撃する。
 が、ほとんどダメージを与えられない。
 ライムは、まず五人の靴を溶かし始めた。

「う、うわっ! こ、こいつ……」
「や、やべぇ!」
「あ、足の防具も……」
「防具どころか、服まで……だと?!」

 ライムは五人の体を伝って、自分の体を上にせり上げていく。
 五人の防具と衣服すべて溶かしにかかるつもりだ。
 やがて五人の全身を包み、ライムの体の中で五人は素っ裸になった。
 ライムは何やら合図を出した。
 するとモーナーが……。

「うおおおおおっ!!」

 両腕を広げて、ライムごと五人を押し動かし、テンちゃんに近寄っていく。

「ンジャ、ソロソロイイカナ?」
「おぉ!」

 ライムは五人から離れる。
 五人は体が自由になるが、素っ裸。
 局部を隠そうとする五人は、モーナーの力に逆らえない。
 押されるがままになるしかない五人は、そのまま押され、いつの間にか横を向いていたテンちゃんの横っ腹に押し込まれた。

「テンちゃあん! いいぞお!」
「任せてっ! それっ!」

 横っ腹に五人を押し付けられたテンちゃんは、モーナーが離れると同時に羽根でホールドした。

「ググっ!」
「何、する、気だ!」

 身動きが取れない五人は、その後の三人の動きが読めない。
 それ以前に、素っ裸のままでは動きが取れない。
 戦闘どころじゃなくなった五人からは、当然戦闘意欲が消えてしまった。
 テンちゃんは、反対側の羽根でさらに五人の全身を覆う。

「ほらぁ……。恥ずかしい姿、これで誰からも見られないよぉ。安心してね……?」

 戦闘、模擬戦の最中とは思えないほどの優しい声で、テンちゃんは自分の体の中に埋もれている五人に話しかけた。

 ※※※※※ ※※※※※

 新たに得た睡魔の異名の面目躍如。
 寝付いた五人を背中に乗せて、こうして戻ってきた、というわけだ。

「水でもぶっかけようか」
「その前に、何か着る物、用意してあげたら?」

 確かにヨウミの言う通り。
 適当にヨウミに用意しに行ってもらった。
 とりあえず俺はこいつらのタオルをかけて、気付の水をぶっかけた。

「うわっ!」
「冷てっ!」
「ぐはっ! 何しやがんだ!」
「げほっ! ……あ? ここ……どこだ?」
「一体……何があった……? って、何でここに……?」

 目が覚めて上半身を起こした五人は、改めて自分の姿を見る。
 そしてフィールドでのことを思い出したようだ。

「そ、そう言えば!」
「こいつら……噂通り手ぇ抜きゃがったな?!」

 その怒鳴り声をテンちゃんは肯定した。

「そりゃそうだよ。手を抜かなかったら、眠ってる間にみんなの首、落としてたからねー」

 怖いことを平気で言うなぁ。
 確かに、特訓中に眠るってのはなぁ。

「ソノマエニ、ボウクトカフクジャナク、ミンナノカラダヲトカシテタヨ?」
「俺もお、勢いつけてえ、背骨折ってかもなあ。手ぇ抜いたからあ、こうしてえ、生きていられるんだぞお?」

 五人は何かに気付いたらしく、ビクッと体を震わした。

「お待たせ。大きさが合うかどうか分かんないけど、とりあえずこんなので……」

 ヨウミが底にちょうど駆け付け、五人の前に衣服を置いた。
 五人はがっつくように服を胸元に引き寄せた。

「フィールドにいる間どんなことになってたかの話は聞いたけどよ……。本番さながらの特訓で、眠らされてるってのはどうかなぁ」

 普通は、相手はどんな能力を持ってるか分からない時は警戒するもんじゃないか?
 眠らされるばかりじゃない。
 気付かずに足元に近寄らせたってのも問題だろうに。

「け、けど眠らせるってのはどういうことだよ!」

 言いがかりにもならないな。

「眠らせる魔法とか、特性を持つ魔物だっているんじゃないの? つか、今までそんな魔物と戦ったことはないのか? そんな本番のための特訓だろ? 舐めてかかってるのはそっちじゃないのか?」
「うるせぇ! 素人が好き勝手な事言ってんじゃねぇ!」
「眠らせてから殺すような魔物だっているだろうし、うるせえって言われてもさ、冒険者に依頼する人でもそれくらいのことには気付くと思うんだがなぁ」

 俺だって、誰かに仕事を依頼することが、将来出てくるかもしれない。
 そうなったらば、引き受けてくれる冒険者達には……。

「素人がどうのって言ってほしくないよな。素人が冒険者に求めることってば、なるべくミスはしないでほしいってこともその一つだと思うしよ」

 他の冒険者が、俺の言うことに同意してくれた。
 ますます五人の立場がなくなっていく。
 もろに死体蹴りってやつだな、これ。

「そ、そうだ。防具はどうしてくれんだよ! こいつに溶かされた防具!」
「服はこれで我慢してやるけどよ! 武器も溶かされたんだぜ?!」

 そんな事言われてもな。

「真剣勝負を望んでたんだろ? だったら、まず相手の無力化を考えるってことだろうに。溶かさなかったら、それこそ戦略の手を抜いたことになるだろ。そもそも、命を奪われるその代償が武器と防具と思ったらどうよ? その武器と防具が、失われるはずの命の身代わりになってくれたんだぜ?」
「貴重品、預けててよかったですね。それも一緒だったら、それこそ無一文でしたよ? はい、どうぞ」

 五人に刺したトドメの一撃が、まさかのヨウミだった。
 五人はすっかり力を落として、店の前から去っていった。

 ※※※※※ ※※※※※

 このあとは、ちょっとびびってたが新人らしきチームもベテランの方も満足が行く相手を選び、特訓を受けた後は疲労困憊ながらも、納得がいく特訓を受けることができたようだった。
 そして、ひょっとして……という希望を持ってやってきた、予定日が明日の冒険者チームも今日の予定に変更。
 彼らもまた大喜びだった。

 それから数日も経つと、根も葉もない噂話は聞くこともなくなった。
 俺が感じたことはただ一つだけ。

 身の程を知る

 これに尽きる。

「ねぇねぇ、アラタあ」
「何だよ、テンちゃん」
「アラタも特訓受けてみない?」

 するわきゃねぇだろ。
 まさに身の程を知れ、だ。
 防具があったって、冒険者としては素人同然だ。
 俺はおにぎりの店だけで十分だよ。
 あ、あと温泉もな。

「無理に決まってんだろ。そういう心得も全くねぇし」
「大丈夫っ。あたし、全力で、手を抜かずに特訓してあげられるよ?」

 羽根でお腹をポンポンしている。
 ……そういうことか。

「夜、寝床で特訓しようって? 俺にはそういう趣味はねぇんだ」
「ちょっとアラタ! ものの言い方!」

 俺、何か変な事言ったかな?

 ……そんなこんなで、平穏な毎日が続くようになりました、とさ。
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