勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
446 / 493
シアンの婚約者編

フレイミーの本性 その1

しおりを挟む
 昼食が終わってシアン達は帰っていった。
 そして午後の仕事が始まり、終わり、晩飯時。

 俺たちはフレイミーの話題で盛り上がった。

「会話がね、ありきたりじゃなかったのよ」
「陰口を叩くような感じで、こういうことを言うのはあまり気が進まないんですが……。初めて会う人との会話って、決まってるんですよね。珍しい種族だから、ということでしょうか、どこで生まれたのか、家族はどうしてるのか、アラタさんと一緒になる前はどこで生活しているのか、とか……。何か、探りを入れられてるような気がするんですよ」
「アト、ドンナモノデモトカスノカ、トカ、ドンナモノニモ、カタチヲカエルコトガデキルノカ、トカ……」
「得意な魔法とか聞かれたりね」
「けどお、フレイミーって人はあ、集団戦の戦い方とかあ、コツとかあ、聞かれたりい」
「シアンの話とかも聞かせてくれたりねー」
「ソレニ、オレヲミテ、ゼンゼンコワガラレナカッタノ、ハジメテ」
「ミッ」

 お、おう……。
 そりゃ珍しい奴だな。

「だどもよぉ、何たぁなく、アラタに嫉妬してんじゃねぇか? おりゃあそんな気がしたで?」

 そう言えばシアンの奴は、俺らに紹介しに来た、とは言っていた。
 だから、彼女の目的は果たしていることには違いないだろうが、みんなからそんな不信感を抱かれたら、ちょっと不本意なんじゃねえか、とは思う。

「ま、いずれにせよ、彼女一人でここに来るなんてこたぁねぇだろうから、気にするこたぁねぇんじゃねぇの?」
「まぁそれもそうね」

 この場では、このコーティの一言でその話題は終わったのだが……。

 ※※※※※ ※※※※※

 ところがどっこい、その嵐が二日後にやってきた。
 しかも開店前で、客も子供な冒険者達も、そしてバイト達もまだ来ない時間帯。
 気配で何となく分かってたが、何人かと一緒に来たのだが、シアン側の人間はいない。
 そして店に到着して第一声がこれ。

「あら、今日はみんなお店にいるのね。で、ミナミ・アラタはいるかしら?」

 彼女の言う通り、ンーゴ以外は店の前で雪遊び。
 寒くないんかな?

 で、店の奥から外の彼女の様子を伺うと、まぁ彼女はこないだと同じ格好なんだが、彼女以外の人は物騒な格好。
 いわゆる兵士か何かなお仕事、といった風貌。

 打って変わったのは、その御一行様の様子ばかりじゃない。

 何という高慢ち……もとい、高飛車な物言いが、これまたちょいと驚きだ。
 シアンの前だから猫被ってたのか。
 ということは、あいつはこいつの本性を知らないってことか?
 これは……。
 結婚式の時にこいつの本性を暴く、という楽しいイベントが待ち構えている?

 ……いや、流石にそれは悪趣味か。

「えっと、フレイミー……こないだとはえらく様子が違うみたいだけど……。あ、アラタなら中じゃない?」
「どうしたんだあ? そんな大勢でえ。物々しい感じがするぞお?」
「っつーよりよ、なんか偉そうな言い方すんじゃねぇかよ。どしたんよ?」

 気配ばかりじゃなく、見た目でも……そりゃ違うか。

「ミアーノさん。あなた達にとってはとてもいいお話を持ってきましたの。是非受け入れてもらいたいわ。そのほかに、ミナミ・アラタにもお話しがありまして。彼はいるかしら?」

 ここは居留守の一手!

「いるよ。呼んでくるね」

 おいヨウミ!
 店番を怠けて俺を呼びに来るとは何事だ!

「アラター。こないだの、シアンの婚約者が来たわよー」

 来たわよー、じゃねぇよ。
 またなんか厄介事に引っ張り込む、神様か何かの手先になってんじゃねぇよ!

「俺、今、忙しい」
「忙しいって……受映機見てるだけじゃない」

「その通り! 受映機の番組を見て情報収集をしているところだ! 邪魔するな!」
「情報収集って……横になってくつろいで、それで情報収集?」

 悪いかよ。
 どんな格好しようが、俺の勝手だろ!

「で、何の番組見てるのよ」

 知れたこと!

「『国王陛下の一日』だ。これを見るのは、国民の義務だろ!」

 直後、俺の頭から、パンッ、と乾いた音が鳴り響いた。

「いてっ!」
「馬鹿言ってないで! ほら、その陛下の婚約者候補のフレイミーさんが用事だってさ!」

 こいつ……いつぞやのハリセンをいつの間にっ!

 ※※※※※ ※※※※※

 結局、開店前の店に引っ張り出されてしまった。
 一体何なんだ。
 しかもこんな寒い気温の中でよお。

「おはよう、ミナミアラタ。今日はあなたに大切な用件を持ってきたの」
「フルネームで呼ばれるのって……意外と珍しい体験だな」

 いてっ!
 まさかのハリセン二連発!

「真面目に人の話聞きなさいよ!」

 ヨウミさぁ……。
 何機嫌悪くしてんだよ。

「……何です? それは。珍しい形状ですね」
「え? あ、えっと、これはハリセンといって、長方形の紙を山折り谷折りと交互に折っていって……」
「ふむふむ」

 ……ハリセンで話が盛り上がり始めたぞ?
 なんだこいつら。

「いえ、こんなことで時間を割いてる場合ではありませんね」

 急に我に返るフレイミーだが……

「こんなこととは何だ! 力いっぱい叩いても、相手に何のダメージも与えない珍しい武器をこんなこと呼ばわりするとはいてっ!」

 三連発。
 ひどくない?
 ねぇ、ヨウミ。
 今朝のお前、ちょっとひどくない?

「真面目に人の話を聞かんか! 話が進まんだろーが!」

 ……へい……。

 ……仲間も、フレイミーの連れたちも、若干呆れてるような……。

 ……俺、何も悪いことしてないのに……。

「コホン。単刀直入に申します。あなたの仲間達……希少種の魔物達を引き取らせていただきます」

 って、はあぁ?!
 何、藪から棒にっ。

「そして、このお店も、私達が引き継がせていただきます」

 おいこら。ちょっと待て。
 ……ひょっとして、何でもかんでも、この世の中のすべてのことは、妾の思い通りに事が進むようにできている、とか考えるタイプか?
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...