勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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邪なるモノか聖なるモノか

呪いの行く末 その1

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 で、なんだかんだあって、何とか戻ってきた。

「ただいまー。……というわけで、連れてきた」

「お帰り―。結構時間かかっ……って、誰?!」

 全員が、俺の後ろにいる者を見て驚いた。
 言わずと知れた親衛隊二人なんだが?

「誰って……アークスとレーカだろ? 迎えに来たんだから、送ってやるって言われて付いて来てもらった。客の顔と名前を忘れる俺に何だかんだと言える立場かよ、それ」

「いや、二人のことは知ってるよ! そーじゃなくて! その後ろにいるの、誰?!」

 もう一人、というか、もう一つ……でいいのか?
 もう一つの物体……でいいのか?
 それを見て驚いたのだ。
 それは、女性用のフルアーマー。
 いきなり出現したのではなく、アークスとレーカ同様、俺についてきただけのこと。
 だが、装備している人が中にいるのではない。
 いわゆる、中の人などいない、ということだ。
 これを説明するのがなぁ。
 すげぇめんどくせえ。

 ※※※※※ ※※※※※

 時は、俺が防具を持って退廷した後に戻る。

「……アークス……」
「どうした?」

 法廷では丁寧な言葉遣いだったが、退廷した途端口調が不断に戻りやがった。
 なんつー猫かぶりだよ。

「こいつを俺に預からせて、どういうつもりなんだよ」
「接触できたんだろ?」
「何?」

 ニヤリと笑うアークスの顔が、何かむかつく。
 ドヤ顔をマジか見せつけられて、平常心でいられるわけがない。
 ましてや、あいつと俺の間で、どんなコミュニケーションをとったのか知らねぇだろ。
 知らねぇことなのに、分かったような口を利かれて腹が立たない奴がいるか?
 ましてやあいつは、あいつなりに……。

「こっち側の究明班の上層部ですら、呪いの品と誤認してたんだ。そんな奴らにそれを預けたら、お前の言うそいつが可哀想だろ」
「む……」

 言われてみれば……。
 って、預かるのは俺が適任ってのは、そりゃ言われりゃもっともな話だ。
 だが、預かって厄介な思いをする役目を押し付けている、とも言えなくはねぇんじゃねぇのか?

「けど、四六時中こいつを抱えてなきゃならんのは面倒すぎる。こいつが勝手に俺についてくるようであるなら考えんでもないが……」

 胸当てを常に抱えて米の選別、なんて、どんだけ非効率になると思うよ?

「だったら全身装備の鎧に引っ越してもらったらどうだ?」

 何を勝手なことを。
 当事者じゃねぇ奴は気楽でいいなおい。

「んなこと、本人すら分かんねえだろ。できなきゃどうすんだよ」
「……アラタが装備してみたらどうだ? 呪いにかからなかった奴もいたって話してなかったか?」

 ったくこいつは……。
 ほんとに他人事だな。

「確かに言ってたよ。だがだからといって、俺がこれを装備しなきゃならん理由にはならんだろ。そもそも……」
「二人とも、お待たせ。話、つけてきたから行ってみましょうか」

 レーカがやってくるなりそんなわけのわからんことを言ってきた。

「話をつけてきた? どこに行くってんだ」

 行くとこなんざ、俺の店ぐれぇしかねぇだろ。
 つまり、あとは帰るだけ、のはずだ。

「ま、何においても裏表ってのはあるのよね。人ばかりじゃなくこの国にも」

 何だその意味ありげなウィンクは。
 気味悪ぃ。

 …… …… ……

 どのみちこの二人についていくしか、俺には打開策はねぇ。
 仕方なくついて行ったその先は……。

「……町外れ、とは言え、外壁の内側だから……」
「そ。まだ王都の中よ。田舎みたいに見えるでしょ? でも、賑やかな町にもこんな閑静な場所もあるのよ」

 物は言いようだな。
 だだっ広い草っ原のなかに、朽ち果てつつある家屋がまばらに立っている。
 密集してたらスラム街ってやつなんじゃねぇの?
 ただ、自然が豊かな印象はある。
 で、今にも崩れ落ちそうな一軒のボロ屋の中に連れてかれた。

「ミサおばあちゃん、いる?」

 その入り口は扉じゃなく、シート……暖簾?
 強い雨風にさらされたら、間違いなく屋内にまで入ってくんぞ?
 アークスからも入るように促されたから、入るしかないんだが……。

「……いない時は死んだときくらいだわな。どうした? レイコ」

 レイコ?
 レーカじゃねぇの?
 いや、その前に、誰と話してるんだ?
 明るいところから薄暗がりに入ると周りが見えづらい。
 しわがれた声からすると、相当な年を取った老婆って感じだ。
 さらに暗そうな奥から聞こえるから、声の主の姿は見えづらい。
 何かがいる……っつか、人の気配があるのは確かなんだが。

「なんじゃ、アックスもおるんか。……新顔だな。ここ、広められても困るんだがの」

 アックス?
 アークスだろ?
 で、新顔ってのはおそらく俺のことらしい。

「ううん。今回は、これを何とかしてほしいだけ」
「これ?」

 レーカは俺が持っていた胸当てを手にすると、その薄暗がりの中にその手を伸ばした。
 これでようやく、胸当てから解放されるってことか。
 んじゃあとは……て、それをどうするんだ?
 レーカを見ると、伸ばした手は前方のやや下の方向。
 そこには……。

「うわっ!」
「え? どうしたの?」

 そりゃ驚くさ。
 なんかちびっこい何かがそこに……。

「あ、えっと……そいつは……」
「初対面なのにそいつ呼ばわりか。それも小僧から。随分と礼儀知らずじゃの」

 身長百三十センチもあるか?
 なんか、茶色っぽいローブを頭から覆った婆さんがそこにいた。

「い、いや、暗くてよく見えなかったから、まさかそこにいるなんて思わなかったからよ……」
「ごめんね、ミサおばあちゃん。おばあちゃん、ほら、あまり人に知られたくないっていつも言ってたからさ。何も伝えずに連れてきたの」

 レーカの話を聞いて、その老婆は「ふん」と鼻息一つで終わらせた。
 そりゃそうだ。
 俺には非がない。
 端からそういう人物がいるところに行く、と知らされてりゃ挨拶もできるだろうさ。
 それが、この暗がりの中でどこにいるか分かんねぇんだから、まずは驚くのが普通の人の反応だろう。
 いくら気配で存在が分かるからって、見えてない姿を見た時は、普通はそんなリアクションをしちまうのはしょうがなかろうに。

「あ、あぁ。えっと……」

 まずは名前の自己紹介だよな。
 でもレーカはレイコと呼ばれてた。
 アークスはアックスと呼ばれてた。
 訛りなのか何なのか。

「紹介するわ。この人はナミア。よろし……」
「どうでもいいわ。名前なんぞ」

 なんかいろいろ情報量が多すぎる。
 まず、まるで俺のお株を奪うような接客態度。
 もし接点があったなら、真似をしてると言われかねん。
 そして、今、ここ、店って言わなかったか?
 品物が陳列……。
 目を凝らして中を見ると、ガラクタが陳列されてるって感じがする。
 しかも、四つ五つ程度の……なんつーか……ここ、物置?
 それと、名前。
 レーカは俺をナミアと紹介した。
 ミナミアラタ。
 その両端を取っ払ったのか。
 ということは、レイコもアックスも老婆の訛りによる発音じゃなく、偽名を使ってるってことか。

「で……そいつは……胸当てか」
「そ。それで」
「……呪いの装備、だの」

 うむ。
 やはりそう鑑定されたか。
 つか、一目見て普通の物体じゃないと見破っただけ、優れた鑑定力を持ってる婆さん、とは言える。

「ううん。ちょっと違うらしいの。呪いの効果がある、じゃなくて、何者かが装備した人に何かをしてる、ていう物らしいのよ」
「ほう?」

 老婆がレーカから胸当てを受け取ると、方向を細かく変えながらまじまじと見つめている。
 果たして俺の判定に近づけられるか?

「……なるほど……。で、こいつを買い取れと?」
「いえ。その何者かを、他の物に移動させられるかどうか。できるならそうしてほしくて」
「ふむ」

 そう言えば、他の物に移動させるって、何に移動させるんだよ。
 秘密主義にも程があるだろ。

「ミサばあちゃん、そこにあるのなんてどう? そいつに憑りついた奴がこっちに移動したら、一人で歩けるんじゃね?」
「動かせるならな。動かせなきゃ意味なかろうが」
「それは大丈夫。ということでア……じゃなくてナミア、説得してみてくんね?」

 ……俺のこの能力、便利な何かにしか思ってねぇだろ、こいつら……。
 まぁ一々抱っこしなきゃなにもできねぇよりはましか?
 やれやれだ。
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