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28 閑話 ギルバードside
しおりを挟む兄上の周りにはいつも人が集まっていた。
兄上は気が弱くて平和主義だ。
相手に強く出られると委縮して何も抵抗出来なくなる。
だから父上の理不尽な押し付けにも抵抗出来ず、いつも言いなりだった。
父上は公務の殆どを兄上にやらせていた。
例えばゼノス国の視察など。
プライドが高い父上は自分の代理で行く兄上に失敗を許さない。
全てを完璧にこなし、馬鹿にされるな。そして舐められるな。
自分には出来ないようなことを兄上に求め、失敗すれば徹底的に責め立てた。
兄上はいつでも最善を尽くした。
父上の顔色を伺いながら、必死になって。
馬鹿馬鹿しい。
ゼノス国に舐められたから何だっていうんだ。
国力の差が明らかに上の我が国に対して何が出来るっていうんだ。
そんな国の機嫌なんて取る必要もないのに。
そうやって一蹴することが兄上には出来ないのだ。
僕だったらもっと上手くやる。
その想いは時を重ねるごとに徐々に大きくなっていった。
婚約者を怒らせた?
あんな生意気な婚約者の機嫌を必死に取る必要がどこにある。
もっと強く出てわからせてやればいい。
ベリア公爵令息が側近に?
あの偉そうな顔をした宰相や婚約者から受けた鬱憤をそいつにぶつけろ。
散々甚振ってやれ。
騎士団長の息子が護衛につく?
じゃあもう剣の腕を磨く必要はないだろ。
何故未だに鍛錬を続けているんだ?
イライラする。
絶対に僕の方が優れた判断力を持っているのに、兄上の周りには何故か優秀な人材が集まった。
例えばカラス伯爵の次男。
カラスに主として選ばれるなんて。
何故僕じゃなくて兄上なんだ。
…王太子じゃないから?
ふと気づいてしまった。
兄上と僕の小さな差。
王太子だから皆、兄上を選ぶ。
兄上の周りに集う。
兄上は何故王太子なんだっけ?
それはベリア公爵令嬢ソフィーナの婚約者だから。
それだけ?
じゃあそれ、僕でも良くないか?
僕は兄上を蹴落とすゲームを始めた。
兄上は予想以上に簡単に誘導され、見捨てられた辺境の地に飛ばされた。
いい気分だった。
王太子の地位も婚約者も側近も、兄上のモノを奪ってやった。
ベリア公爵がまだ大きな顔をしていて癇に障るので、父上を唆してアイツも失脚させてやろうかと思う。
兄上は魔物の発生する地ですぐに死ぬだろうと思っていたのに、いつまで経っても訃報が届かない。
Sランクの冒険者チームがいるらしいとのことだから、護ってもらっているのかもしれない。
運の良いことだ。
ソフィーナがパーティの招待状を兄上にも送っても良いかと訊ねてきた。
自分の所為で辺境送りにしたのにソフィーナがどういうつもりなのか、僕にはわからなかった。
見せつけたいのか。勝ち誇りたいのか。
送ったところで来れるわけがないだろうと思ったが、好きにすればいいと思った。
当日、兄上は何食わぬ顔で平然とパーティに出席していた。
当たり前のように身なりを整えて、何故かベリア公爵とも親し気に話していて。
意味がわからない。
Sランクの護衛を雇い続けていたら父上から貰った金なんてすぐに底をつくだろうに。
一年経っても何故のうのうと生きているのか。
それどころかアベルの地は徐々に復興しつつあるという。
そうだ、僕は甘かったんだ。
どうせ自滅するだろうと思って傍観していた。
気に食わないなら徹底的に叩き潰せば良かったのに。
丁度ベリア公爵を排除できてスッキリしたところだ。
そろそろアベル領を攻めてやろうか。
そうだ、ベリア領の聖王石を回収されたくなかったらアベル領を潰せと命令するのはどうだろうか。
王都騎士団ほどではないが、ベリア領にだってそれなりの実力者が揃った騎士団がある。
それとも最近大人しくなったガノル国を唆してみようか。
「婚約がなくなったら、ソフィーナはもう王宮に来なくなるのかしら」
最近めっきり口数が少なくなった母上が、独り言のように呟く。
「用事もないのに来ないでしょうね」
「わたくしが呼んだら来てくれるかしら」
「さあ?」
母上のことは別に嫌いではないが、影が薄い存在だ。
何しろ、何の貴族教育も受けてこなかった平民の女が急に王妃にされてしまったのだから。
公務なども出来るわけなく、王宮で誰にも相手にされることなくひっそりと息をひそめて生きている。
ソフィーナがたまに訪ねてきてくれるのが唯一の楽しみだったようだが、ベリア領が大変なことになれば呼んだって来なくなるだろう。
「母上が行ったらいいんじゃないですか。ベリア領でもアベル領でも」
別にいなくなっても困らない、と何の悪気もなく提案する。
僕は、それがきっかけで母上が本当にいなくなるとは夢にも思わなかったんだ。
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