拉致られて箱庭掃除をやらされてます。~きっと犯人は闇の組織に違いない

那珂川

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勇者女子組と豪矢の魔術師

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 ノックの音に坂下と陣野は確認してドアを開ける。

「何のお構いも出来ないけど」

 坂下は食堂の料理長に作って貰ったクッキーを、清潔な布の上に広げてエリーナを持て成した。

 飲み物は各自持参であるが、坂下と陣野はイズムから『水』の魔方陣が刻まれた温度調節が出来る水筒を渡されて持って来ている。魔石が消耗するまで中身は減らない。
 エリーナの水筒は、ライソン帝国からバルカン王国が輸入しているドワーフ製の水筒で、こちらは常温の水しか出ないが魔石の消耗が少なく値段も手頃なので、一般人から冒険者等に有り難がられている商品である。

 部屋にはベッドの他に小さな机と椅子一脚分しか備えられてないので、机をベッド側に寄せ、坂下と陣野はベッドに腰掛けエリーナは椅子に座らせて貰う。

「疲れてるのにお邪魔してごめんなさいね。どうしても聞きたいことがあって」

 エリーナの表情は言葉と違って厳しい。

「聞きたいことと言うより言いたいことじゃないの?」

 陣野は元ネットアイドルの経験があったので、視聴者に反感を持たれない話し方を他人にすることがあるが、坂下は敢えて空気を読まずに言いたいことを言うので、他人にはキツく聞こえる時がある。
 陣野は不安そうに坂下とエリーナを見るが、エリーナは気分を害していなさそうだ。

「うん、私が言いたいのは、貴女達は人を殺すって事を甘く見てるんじゃないかってことよ」

 坂下と陣野は返事をしない。
 取り敢えずエリーナの意図を探ろうと言う構えだ。

「今から私は貴女達の気に触ることを言うかもしれないけど、聞いて欲しいの」

 エリーナは一旦間を開けて話を続ける。

「貴女達はこちらの世界に来て1年。私はこの世界で18年生きてるわ。ダンジョンに行く時も少し話したけど、日本よりも死が身近にある世界よ。ライソン帝国ではどうか分からないけど、バルカン王国では平民の命なんて紙よりも軽いって歌われているぐらいだわ」

 エリーナの視線は坂下と陣野にずっと向けられている。

「私が初めて人を殺したのは13歳の時。8歳で冒険者登録をして順調にランクを上げている時だった。私も慣れてきて油断が出た頃だったわ。
 割と名の知れたパーティーに誘われてダンジョンに行った時だった。大抵のダンジョンにはセーフティーゾーンがあるの。そこで休憩と仮眠を交代で取る事になって、私が先に仮眠することになったのよ。
 胸騒ぎがして中々寝付けなかったのが幸いして、そのパーティーの中の一人にレイプされる前に気付けた」

 坂下と陣野は息を飲む。

「この話をしてるのは別に田代君達や騎士さん達を信用するなってことじゃないの。自分の身を守るのは前世も今世も一緒だから…。
 その時私は思わず風魔術を放った。弓で射なかったから加減が出来なかった。襲ってきた男は肩口から腹まで深く斬れていたわ」

「それでその人は死んだの?」

 陣野が質問するとエリーナは一呼吸置いた。

「パーティーの仲間が駆け付けてポーションを使ったから一命は取り留めたわ。その時はね。そしてパーティー全員から私が責められた」

「はぁ?何で?その男が悪いんじゃない!」

 坂下は憤る。

「私はパーティーの助っ人。仲間じゃないのよ。パーティーには私以外にも女性が居たんだけど、そういう行為はそのパーティーでは当たり前だったの。それを聞かされた時は唖然としたわ。この問題は冒険者ギルドを仲立ちにして公開決闘が行われることになった。パーティーメンバー四人対私でね」

 エリーナがここに居ると言うことは勝ったのだろうが、エリーナは公爵令嬢である。
 恐らく平民であろう、そのパーティー相手なら不敬罪に問われるはずだが。

「あ、勿論ギルマスぐらいしか私の素性知らないから」

「そのギルマスも胃が痛かったんじゃないかしら」

「立花ちゃんたら……」

「ふふ、そうね。胃薬送っておこうかしら」

「その決闘で殺したの?」

「私はダンジョンでは風矢しか使わないのだけれど、火属性も持っているの。相手はそれを知らなかったのか私を取り囲んで毒針を放ったわ。風属性で毒針を弾き飛ばせば周りの観客に向かってしまう。だから毒針自体を溶かしたの。その後相手は剣を抜いて向かって来た。さっきも言ったけど、弓を使わないと私は加減が出来ないの。四人は火達磨になって、ギルマス達が慌てて水を掛けたけれど、呼吸困難と火傷で死んだ。自分の身を守る為だもの。決闘を受けたことは後悔してないわ。
 でも皮膚や髪が焼ける臭いが、運ばれる時に黒焦げの肌の裂けた部分から体液が漏れたこととかも脳裏にこびり付いたままなの。私自身が手を掛けていなくても周りで人は簡単に死んで行く。乙女ゲームのヒロインの斬首刑だって、私は全く無関係ではないしね。人間の死に慣れたと思っていても時々夢見が悪い時がある。そんな時、私は心が疲弊していると自覚するの」

 エリーナは水筒を傾け自身の喉を潤す。

「18年ここで生きてる私がそうなの。1年前まで平和な日本で暮らして来た貴方達が心配なのよ。今日、魔物を切ってみてどうだった?魔物の血は青いけど、皮膚や肉、骨を切った時の感触は?坂下さん、人間を斬ったら貴女はきっとその感触が忘れられない。陣野さんだって、その光景を見て平気でいられるの?ライソン帝国はあなた達勇者が居ないとヴェズリー王国に勝てないの?」

 坂下と陣野は思う。
 この人はなんて人が良いんだろうか。
 幾ら日本人の記憶があっても、今日会ったばかりの人間なのだ。
 郷愁を感じているかもしれないが、思い出したくも無いであろう過去を話してでも自分達を止めようとしているのだから。

「エリーナさん、いえ、エリーナ、心配してくれてありがとう」

「大丈夫とは言えないけど、覚悟はとっくに決めてるんだよ。私は守りたい人が、大好きな人が居るの。その人を守る為なら何でもする」

「坂下さん、陣野さん……」

「立花と呼んで。私ね、前の世界で壊れ掛けてたの。家族と色々あって。高校であやめ達と出会ってから人形から少し人間に戻れたのよ。こっちに来てから生まれ変わった気がした。私の剣で人を守れることが私を完全に人間に戻してくれた。だから報いたい。
 報いたいの」

 坂下と陣野の瞳は揺らがなかった。

「それにね、陛下は戦争に出なくていいって言ってくれたの。平和な世界から来た、まだ子供な私達を心配してくれたのよ。逆に私達が戦争に使ってくれって陛下を説得したの」

「アンドリュース・ライソン皇帝陛下、よね?名君だとは聞いてたけど」

「陛下はね、凄く国民のこと考えてるんだよ!私が好きな人は狼の獣人なんだけど、他国で迫害されていたところを助けて貰ったんだって。それも一族全員!それに実力があれば上の役職にもつけるんだよ!」

「人種差別が無いって本当なのね。そう言う点でもライソン帝国に魅力を感じるわ。バルカン王国は奴隷制度は何十年も前に撤廃されたけど、まだ亜人や獣人差別は残っている地域があるもの」

「前の世界でも人間同士で差別はあったし、見た目が違うと余計に差別化したくなるんでしょ」

 エリーナの言葉に坂下は仕方なさそうに答える。

「だーかーら、それを仕方ないと思わないとこが帝国の良さだと思う。私はそんな帝国も守りたいの」

「立花、そしてあやめちゃん、で良いかしら?貴女達が覚悟は分かったわ。でもこれだけは言わせて。折角知り合えた縁だもの。心配だけはさせて欲しいわ。もう止めようとは思わないけど、怪我はして欲しくないし」

「そうね、エリーナが伝魔術を覚えたらお互い連絡が取れるわね」

「え?」

「うんうん、是非覚えて欲しいな~~」

 坂下と陣野が笑顔でエリーナに迫る。

「わ、私にアレをしろって言うの!?」

「直ぐに無詠唱で出来るようになるから(笑)」

「そうそう、二の腕の運動にも良いよ(笑)」

「誰が二の腕プヨプヨやねーん!」

 三人の話は遅くまで続き、次の日寝不足でダンジョンに向かうことになる。


―――――――――――――――――

腕はこう!

L('ω')┘三└('ω')」
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