拉致られて箱庭掃除をやらされてます。~きっと犯人は闇の組織に違いない

那珂川

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開戦5

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 砦から伝令が来てから五日後、宰相のメモルラルから金剛精霊術師団へ、砦へ向かうように指示が出された。
 それは侵略者への措置では無く、通常勤務として出された為、金剛精霊術師団から闇の精霊術師サリカニールと土の精霊術師のモックの二人が向かうことになった。

 そういう訳で現在彼等は馬車で砦まで向かっている。

「あ~~もう、何で私達が行かなきゃならないのかしらね?一般魔術師が居るんでしょ?」

「まーたその話かよ。いい加減諦めろ。どうせ見回りみたいなもんだし、直ぐに王都に帰れっから」

「その間にキース様に女が出来たらどうするのよ」

 サリカニールは氷結の精霊術師キースの信者である。彼の為に自ら純潔を捧げ、それからキースの子供を孕もうと月に一度はキースに慈悲を乞うている。
 代わってモックは表向きはキースの腰巾着であるが、尊敬も信用もしていない。
 日々の生活が楽であればいいタイプで、キースからスキルのおこぼれを貰い、金剛精霊術師団に入ってからは更に自由に行動した。
 精霊術が強ければ強い程誰も文句は言わない国で、モックは強者である。
 給料を全額ギャンブルや酒に注ぎ込もうが、周りの貴族達が喜んで彼に金を渡した。
 貴族達はどうにかして自分の手元にモックを引き込もうとしていたのだ。
 キースに心酔していないモックは貴族にとっても都合が良かったし、モックにしても金を融通してくれる貴族は都合のいい相手だった。
 いつしかモックはその貴族達達とは反対勢力の貴族をこっそりと暗殺して行くことになる。
 人間を殺すのはとても簡単だった。
 一人目を殺した時はその呆気なさに死体を見ても自分が殺したのか実感が無かった。
 その事で少し悶々としたが、ある時サリカニールがアナスタシア王妃を暗殺したことを知ると、「何だ、別に気にすることないんだな」と思う様になり、それからは貴族達に金を貰いながら次々と暗殺という仕事をして行った。
 その頃にはもう彼にとって簡単な作業になっていた。

「団長ねぇ、あの人、昔に比べて何か壊れてきた気がすんな」

「……」

「まさか、お前、何かしてないよな?」

「キース様には通じないもの」

 ブスくれたサリカニールにモックの背筋が震える。

 闇の精霊術は精神系は勿論、隠密に特化しいる。
 幾らモックが土の精霊術師としてレベルが高かろうが、常に土壁で自身を覆うことは出来ない。
 出来なければサリカニールの精神系魔術の餌食であるのだが、それをキースは跳ね返していると言うことになる。

(常に風壁を纏っているってことか?なんつー魔力量だよ)

 改めてキースの化け物ぶりにモックの鳥肌が立ったまんまだった。

 それから会話も無く一時間程経った頃だった。

「て、敵襲!!ギャ!」

 御者をしていた騎士の声と共に馬車がグラリと傾いて行く。

「痛っ!何なのよ!」

 サリカニールとモックが横倒しになる馬車から飛び出し道に転がり込むと、一体のゴーレムが御者であった騎士の胸倉を掴み持ち上げているところだった。

「術師モックが命ずる!石の槍ストーンニードルで貫け!」

 地面に魔方陣が浮かび、幾本もの鋭い突起物が現れゴーレムを貫こうとするが、その場から既にゴーレムは移動していた。

「は!?どういうことだ!?石の槍ストーンニードルよ!」

 モックの周りに浮かんだ魔方陣から再び石の槍が現れゴーレムに向かう。

 ガガガガガガガッ!

 モックは笑みを浮かべるが、全弾命中したはずの石の槍は全て弾かれていた。

「な、何で!?嘘だろ!」

 モックが今まで破壊したゴーレムは数しれない。
 学生時代に行事でダンジョンに潜った時も、モックの攻撃でストーンゴーレムすらボロボロと崩れ去っていた。

「モック!呆けてないで攻撃を続けなさいよ!術師サリカニールが命ずる!敵を把握しなさい!索敵サーチ!」

 サリカニールから放射線状に黒い帯が地面を走り、目的のものを探そうとするが、それを把握した瞬間、サリカニールは青褪めた。

 黒い帯は幾つもの目の前に居るゴーレムと同じ反応を示し、その近くに強い魔力も三つ示したのだ。

「嘘、何これ」

「術師モックが命ずる!鉄の槍アイアンニードルよ!貫け!」

 モックは一段階精霊術を上げるが、その槍もゴーレムはバインっと弾ませるように弾いてしまった。

「モックの攻撃が効かないなんて……」

 サリカニールの精霊術ではゴーレムを攻撃出来ない。
 つまり、頼みの綱はモックの精霊術しか無いのだ。

 そのゴーレムが二体、三体と増え、十体を越えたところで、モックの魔力は切れた。

「やっぱり僕達の出番ないねぇ」

「全くだわ」

 年若い男女の声がする。

 へたりこんでいたサリカニールはその男女の声に向かって精霊術を発する。

「術師サリカニールが命ずる。闇の縄ブラックロープよ、あの声の主を縛れ!」

 サリカニールから細めのグリャリとした黒い帯が地面を這って行くが、何故か手応えが無かった。

「詠唱を聞くと伝魔鳥を覚えた時を思い出して恥ずかしくなるな」

「確かに、あれは黒歴史だわ」

「僕はもうあんなの二度としないからね!」

 サリカニールの術は間違い無く向かって行ったにも関わらず、男女は普通に世間話を続けている。

「何で??」

 サリカニールは初めて恐怖を覚えた。
 足に力が入らず、上手く立ち上がれない。

 キースとほぼ同じぐらいの魔力を持った人間が三人も自分に近付いて来る。
 しかも魔力切れのモックは苦しそうに膝をついている状況だ。

「えーっと、こいつがサリカニールって奴だな。ほんでこっちがモック」

 三人の内の一人が何やら紙と自分達を交互に見て確認している。

「これ描いた人、似顔絵上手過ぎだろ」

 クスクスと笑いながら、その一人は他の二人に話し掛けている。

(私達の情報が流れている?)

「私達の情報が流れている、と思ってる?」

 長い黒髪の女がサリカニールに話し掛ける。

「まぁ、そういうこともあるわ」

 剣の柄で女にコメカミを殴られたサリカニールの意識はそこで無くなった。


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