51 / 58
そして終戦へ
しおりを挟む
ザクトとドンウォンが兵を率いて砦近郊にまで辿り着いた時には既に夥しい程のゴーレムが陣を展開していた。
王宮に潜んでいる魔族の影からの連絡もあったのだが、それよりも王国兵の規模を把握していた田代達が先に砦に帰って来たことが、一番の要因であった。
田代達は砦に着くなり、坂下の安否報告よりも王国兵に着いて詳しくフォーグとミスオに報告した。
そしてフォーグ達の対応策が落ち着いた頃に氷の精霊術師との話し合いについて報告することになった。
影からの報告を随時受けていたのだが、その件についてもフォーグ達の既知であった。
しかし素知らぬ顔でフォーグ達は田代の報告を聞いて、苦渋の決断を取った田代達を褒めたのだ。
「この件に関しては陛下の指示を仰がねばならん。耐えてくれるか?タシロ殿、キサラギ殿」
「帝国は本当に良くして下さっています。それに僕達は既に帝国兵の一員です。坂下は気丈な女性ですし、例え拷問されても此方の情報を渡したりしないでしょう」
自信を持って言う田代に、フォーグの片方の眉が僅かに動いた。
風壁で部屋を覆われて話し合いがなされた王国宰相のメモルラルと、氷の精霊術師であるキースの密談は影でも内容が出来ていなかったが、坂下が情報を既に渡したことはフォーグ達は知っている。
こういう時の為に、勇者達には重要な情報は渡していなかったのだが。
「分かった。報告御苦労だった。すまないが休む暇を与えられない状況でもある。早速王国兵を迎え打ってくれるか?」
「「はい!」」
田代は今の状況が当然の様に、如月はフォーグ達に怒られなかったことにホッとして部屋から出て行った。
「彼等の間には信頼が浮き沈みしていますね」
「この戦いで一皮剥ければ他に使い様もあるんだがな」
フォーグの言葉にミスオは苦笑いする。
「漸く帝国兵として自覚を持った若者と貴方を一緒にしては行けませんよ」
今でも語り草になっているフォーグの初陣は、義父のバイロス侯爵も一瞬呆けた顔をしてしまった程アッサリと終わったらしい。
陽動する側の部隊に居たフォーグは、十代にも関わらずその風貌と巨体から敵に隊長クラスだと勘違いされ、狙れるやいなや付近に居た敵を一蹴し撃破してしまう。
そのまま本陣に向かうことになり、敵将の首を取ってしまった(フォーグ本人は敵将だと知らなかった)。
困ったフォーグは部隊長に首を渡し、素知らぬ顔で一隊員に戻ろうとするが、実力主義の帝国軍の部隊長は大笑いしながらもバイロス侯爵へ事実を告げた。
報告を受けたバイロス侯爵は部隊長に「息子が済まんな」と謝罪するが、それは今でも笑い話である。
フォーグはミスオにそう言われ眉根を寄せた。今、非常に恐ろしい表情をしているが、実は戸惑っている表情であることをミスオは知っている。
そんなフォーグを可愛いと思っているのは内緒である。
戦は情報戦が要と言って良い。
「氷結の精霊術師で無ければ恐るるに足らず!全ゴーレムを前に出せ!」
ザクトとドンウォンがゴーレムの結界を破れなかったことは帝国軍に知れ渡っている。
そして今回の衝突に氷結の精霊術師は出陣しないことも把握しているので惜しみなくゴーレムを投入したのだ。
その数100体。
田代達が合流する頃には半分の王国兵が捕縛されていた。
ザクトはドンウォンが持っている魔術スクロールを破かせてキースに助けを求める様に言うが、ドンウォンは青い顔をしたまま「無い」と呟いた。
「ふ、ふざけるなッス!」
「ふざけてない!ちゃんと持ってたんだ!」
しかし何処を探っても見付からず、王国兵が騒乱の中、無力化され捕縛されているのを見るしか無かった。
そう、彼等の精霊は彼等の詠唱に答えなかったのだ。
そしてザクトの目の前には、あの時燃やしたはずの男が立っている。
「あ、あ、あ、ご、ごめんなさいッス!あれはキースが殺れって命令したんス!俺は悪くないッス!」
尻もちを付いたまま後退りするザクトに、如月の恐怖心はもう無かった。
それに自分を殺すと言い出したのは氷結の精霊術師では無く、この男だったことも覚えている。
如月の拳が魔力で青白く光りザクトの右頬に吸い込まれる。
避ける余裕も無くヒットした拳はザクトの頬骨を一瞬で変形させ、その身体は地面に土塊を作りながら5m程吹っ飛ばされた。
「ヒィグッ」
顔の右側が削られた様に凹んでいるザクトはマトモに言葉を発することが出来ず、只管涙を流して平伏するが、如月の拳は次も振り下ろされた。
「翔」
田代が如月に声を掛けた時には、ザクトの身体は殴られ続けた為に上半身程の大きさの肉塊に圧縮されていた。
「翔、自分の拳も大事にしなよ」
そう言われてポーションを渡される。
見ればガントレットは魔力と打撃に耐えきれず壊れており、自身の指が数本変な方向に折れ曲がっていた。
頭に血が上ってしまっていたことに反省する如月は
「次は上手くやるよ」
と、ポーションを飲んで田代にそう言った。
ドンウォンの方はと言えば、そうそうに降伏した為かすり傷程度で捕縛された。
ヴェズリー王国の王宮では、キースが自分の支配下に入った火の低級精霊と雷の低級精霊を確認していた。
(なるほど、死ななくても『分配』は解除されるんだな)
(スキルの検証は済んだし、王国側は精鋭である精霊術師を四人失った。王族を糾弾するネタは出来たな)
フォーグから精霊術師についての報告を受けた王国潜入中の影は宰相のメモルラルにも報告する。
戦後交渉に奴隷解放と氷結の精霊術師の保護を加えたメモルラルは帝国側の返事を待った。
帝国側がこれを了承し、勇者坂下のことは王国の王族の処刑を待ってから再び行われることになった。
いよいよ王族の断罪である。
王宮に潜んでいる魔族の影からの連絡もあったのだが、それよりも王国兵の規模を把握していた田代達が先に砦に帰って来たことが、一番の要因であった。
田代達は砦に着くなり、坂下の安否報告よりも王国兵に着いて詳しくフォーグとミスオに報告した。
そしてフォーグ達の対応策が落ち着いた頃に氷の精霊術師との話し合いについて報告することになった。
影からの報告を随時受けていたのだが、その件についてもフォーグ達の既知であった。
しかし素知らぬ顔でフォーグ達は田代の報告を聞いて、苦渋の決断を取った田代達を褒めたのだ。
「この件に関しては陛下の指示を仰がねばならん。耐えてくれるか?タシロ殿、キサラギ殿」
「帝国は本当に良くして下さっています。それに僕達は既に帝国兵の一員です。坂下は気丈な女性ですし、例え拷問されても此方の情報を渡したりしないでしょう」
自信を持って言う田代に、フォーグの片方の眉が僅かに動いた。
風壁で部屋を覆われて話し合いがなされた王国宰相のメモルラルと、氷の精霊術師であるキースの密談は影でも内容が出来ていなかったが、坂下が情報を既に渡したことはフォーグ達は知っている。
こういう時の為に、勇者達には重要な情報は渡していなかったのだが。
「分かった。報告御苦労だった。すまないが休む暇を与えられない状況でもある。早速王国兵を迎え打ってくれるか?」
「「はい!」」
田代は今の状況が当然の様に、如月はフォーグ達に怒られなかったことにホッとして部屋から出て行った。
「彼等の間には信頼が浮き沈みしていますね」
「この戦いで一皮剥ければ他に使い様もあるんだがな」
フォーグの言葉にミスオは苦笑いする。
「漸く帝国兵として自覚を持った若者と貴方を一緒にしては行けませんよ」
今でも語り草になっているフォーグの初陣は、義父のバイロス侯爵も一瞬呆けた顔をしてしまった程アッサリと終わったらしい。
陽動する側の部隊に居たフォーグは、十代にも関わらずその風貌と巨体から敵に隊長クラスだと勘違いされ、狙れるやいなや付近に居た敵を一蹴し撃破してしまう。
そのまま本陣に向かうことになり、敵将の首を取ってしまった(フォーグ本人は敵将だと知らなかった)。
困ったフォーグは部隊長に首を渡し、素知らぬ顔で一隊員に戻ろうとするが、実力主義の帝国軍の部隊長は大笑いしながらもバイロス侯爵へ事実を告げた。
報告を受けたバイロス侯爵は部隊長に「息子が済まんな」と謝罪するが、それは今でも笑い話である。
フォーグはミスオにそう言われ眉根を寄せた。今、非常に恐ろしい表情をしているが、実は戸惑っている表情であることをミスオは知っている。
そんなフォーグを可愛いと思っているのは内緒である。
戦は情報戦が要と言って良い。
「氷結の精霊術師で無ければ恐るるに足らず!全ゴーレムを前に出せ!」
ザクトとドンウォンがゴーレムの結界を破れなかったことは帝国軍に知れ渡っている。
そして今回の衝突に氷結の精霊術師は出陣しないことも把握しているので惜しみなくゴーレムを投入したのだ。
その数100体。
田代達が合流する頃には半分の王国兵が捕縛されていた。
ザクトはドンウォンが持っている魔術スクロールを破かせてキースに助けを求める様に言うが、ドンウォンは青い顔をしたまま「無い」と呟いた。
「ふ、ふざけるなッス!」
「ふざけてない!ちゃんと持ってたんだ!」
しかし何処を探っても見付からず、王国兵が騒乱の中、無力化され捕縛されているのを見るしか無かった。
そう、彼等の精霊は彼等の詠唱に答えなかったのだ。
そしてザクトの目の前には、あの時燃やしたはずの男が立っている。
「あ、あ、あ、ご、ごめんなさいッス!あれはキースが殺れって命令したんス!俺は悪くないッス!」
尻もちを付いたまま後退りするザクトに、如月の恐怖心はもう無かった。
それに自分を殺すと言い出したのは氷結の精霊術師では無く、この男だったことも覚えている。
如月の拳が魔力で青白く光りザクトの右頬に吸い込まれる。
避ける余裕も無くヒットした拳はザクトの頬骨を一瞬で変形させ、その身体は地面に土塊を作りながら5m程吹っ飛ばされた。
「ヒィグッ」
顔の右側が削られた様に凹んでいるザクトはマトモに言葉を発することが出来ず、只管涙を流して平伏するが、如月の拳は次も振り下ろされた。
「翔」
田代が如月に声を掛けた時には、ザクトの身体は殴られ続けた為に上半身程の大きさの肉塊に圧縮されていた。
「翔、自分の拳も大事にしなよ」
そう言われてポーションを渡される。
見ればガントレットは魔力と打撃に耐えきれず壊れており、自身の指が数本変な方向に折れ曲がっていた。
頭に血が上ってしまっていたことに反省する如月は
「次は上手くやるよ」
と、ポーションを飲んで田代にそう言った。
ドンウォンの方はと言えば、そうそうに降伏した為かすり傷程度で捕縛された。
ヴェズリー王国の王宮では、キースが自分の支配下に入った火の低級精霊と雷の低級精霊を確認していた。
(なるほど、死ななくても『分配』は解除されるんだな)
(スキルの検証は済んだし、王国側は精鋭である精霊術師を四人失った。王族を糾弾するネタは出来たな)
フォーグから精霊術師についての報告を受けた王国潜入中の影は宰相のメモルラルにも報告する。
戦後交渉に奴隷解放と氷結の精霊術師の保護を加えたメモルラルは帝国側の返事を待った。
帝国側がこれを了承し、勇者坂下のことは王国の王族の処刑を待ってから再び行われることになった。
いよいよ王族の断罪である。
0
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる